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「3つの課題改善に兆しあり」~2023.5.28 J1 第15節 川崎フロンターレ×柏レイソル レビュー

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レビュー

後方の枚数制限でサイド攻撃の枚数を担保

 グループステージの突破が風前の灯火となったルヴァンカップも含めて公式戦は3連敗中。そして、マルシーニョの3か月の負傷離脱という状況も重なり、川崎は苦しいリーグ中盤戦を迎えている。

 そんな苦しい状況を受けてか、リーグ戦のメンバーはマイナーチェンジ。遠野、瀬古といったここ数試合で主力組だった選手を外し、小林や大島を登用。最終ラインには脳震盪から復帰した大南がCBとして起用された。ダミアンのスカッド復帰など負傷者の状況に合わせて少しメンバーの序列が変わっていることが示唆された18人だったといえるだろう。

 この日の川崎のテーマは枚数調整をかけながらビルドアップを行うこととハイプレスの再構築だろう。

まずは前者から。川崎は後方のビルドアップの枚数を制限することで前方に枚数を回すことを大事にする試合だった。具体的にはSBが低い位置でボールを受ける回数を制限したことが大きかった。

 特に顕著だったのは左SBの登里のポジショニング。低い位置でのパスワークは基本的には車屋に任せて、自らは高い位置を取る。

 この形が成功するかどうかは後方だけで柏のプレスをいなせるかがポイントになる。柏の守備は2トップがアンカーを受け渡しながらケアしつつ、交互にCBにプレスをかけていくスタンス。よって、川崎のバックラインは基本的にはGKを含めて2枚近く余る寸法だった。

 川崎はこの賭けに成功したといえるだろう。バックラインは個人のミスは見られたが、基本的には柏のプレスを回避。危なくなったら素直に前に蹴れたのも大きい。前線では小林と宮代の2枚がバックラインと駆け引きが可能。いつもよりも的の枚数が多い状態だった。

 右サイドの山根は登里に比べれば低い位置を取ったり、あるいは絞るアクションをして見せたが、時間の経過と共に後方はCBとGKの3枚で十分と判断したのだろう。徐々に後方を任せる形にシフトする。同様の理由で序盤は降りるアクションが多かった家長や大島も高い位置にとどまることが多くなった。

 ミドルゾーンから先の攻略はスムーズだった。その理由の1つはSBが低い位置でのアクションを減らして高い位置で寄与できる頻度が増えたからである。特に右サイドの家長-脇坂-山根のタンデムが機能したのは非常に久しぶり。

大外の家長はインサイドをフリーランする山根と脇坂に加えて、後方からボールを供給する大南がいたことが大きかった。これまであまり見られなかった右のCBから右のWGへの同サイドの奥を取るパスが見られるようになったのは右サイドの復興に一役買ったといえるだろう。

 右サイドは大外の家長を基準にハーフスペースの突撃とハーフスペースで似た高さからのサポート体制構築を行っていた。柏はこのサイドの守備の封鎖に苦戦していた様子。特にハーフスペースに抜ける選手と並行サポートを取る選手の両方を抑えるのが難しい。

 柏は主にハーフスペースの封鎖に挑んでいたのは高嶺。しかしながら彼一人しか動かないのであれば、カバーは難しい。構図としてはWG横のところから裏に離れていく選手と、このスペースに入り込んでくる選手を同時にケアするという形になってしまう。

 川崎からすれば高嶺が選ばなかった方を選べばいいだけの話。後出しじゃんけんで裏に出ていく選手か、平行にサポートする選手から脱出を試みる。この試合、右サイド発のサイド攻撃が多かったのはおそらく宮代と小林がエリアに入っていく疑似2トップの形は右サイドからのクロスと相性が良かった。

奥をとってもうまみがない場合はシミッチを使って薄いサイドに展開。横浜FC戦の反省を生かし、同サイドでの崩しに固執しなかったことは好材料。

 逆サイドの攻めは登里と宮代が非常によくやっていた。登里は先に述べたようにこの試合では高い位置での攻撃参加に専念。前方の宮代のサポートに徹していた。

 WG起用は宮代の万能性が光るものだった。ゴール方向へ向かう斜めの裏へのラン、そしてプレスに出ていく柏のCHの背後につなぎとして縦パスの受け手にもなった。もちろんボックス内でのストライカーのタスクも背負うことになる。

 こうしたプレーの優先度の取捨選択を間違えずに宮代は淡々とプレー。初先発の登里との連携面でも不安はなく、手堅いプレーを見せた。

ハイプレス時の「最低限」

 もう1つ、川崎が整理に着手したのはハイプレスである。プレビューでは今の川崎の現状ではハイプレスが機能させるのが難しいのでは?と述べた。というのもCHが広い守備範囲を守る際に入れ替わられてしまったり、あるいはCBがハイラインを支えきれなかったりするケースが多発していたからである。

 川崎が着手したのはCFを小林にして、プレッシングを整理すること。小林をリーダーとしてスイッチの入れどころを見極めながら中盤やWGと連動することでプレッシングの機能性を高めた。横浜FC戦では特にWGとCFの守備意識のギャップからハイプレスが機能していなかったため、この整理はとても効いていた。

 高い位置からのプレスから川崎は先制。川崎相手にいい思い出がない立田のロストから小林がボールをかっさらい、そのまま先制点を決めて見せた。横浜FC戦からの改善が目に見えて結果に出たといえるゴールだろう。

 もっとも柏にはチャンスがないわけではなかった。川崎の外切りハイプレスを回避できれば敵陣には広大なスペースがある。特に家長のサイドはもろさが残る。

この部分をカバーしたのが大南と上福元。広いスペースでのスピード勝負にも耐えることができる大南と、ハイラインへの飛び出しの予測が冴えてきた上福元で川崎はピンチを未然に防ぐ。

 また、シミッチや脇坂など中盤のハイプレスのカバーもよかった。ここ数試合で失点のきっかけになっていた「逆サイドからわざわざIHが出てくるプレー」は25分の脇坂のように最低限後方に戻させるプレーを選ばせないといけない。後方に迂回させることができれば、仮に穴を開けてもポジションを戻す時間を得ることができる。

 柏がチャンスを生かせないでいるうちに、川崎は左右のサイドからのクロスを中心に多くの決定機を生み出していく。「1-0で折り返せれば上出来」という柏側の思いを打ち砕いたのは登里。右足でのミドルは意外性のあるものだったが、その場所にきっちりいたという点ではこの日のSBの攻め上がりのバランスの長所をうまく活かせたゴールだったといえるだろう。

柏の後半の修正は部分的な改善にとどまる

 先にも述べたが、柏にはチャンスがないわけではない。ハイプレスをかいくぐりさえすれば十分にチャンスは迎えられそうな状況である。

改善するには少なすぎる攻撃の機会をどうにかしなければいけない。そのためには川崎がハイプレスを効かせている状況を変えなければいけないし、相手がアタッキングサードに枚数をかけて攻撃ができている状況を防ぐ必要がある。

 要はボールを運ぶ手段をサヴィオなしで考えたうえで、川崎がビルドアップに枚数を割かないで済まないように高い位置からのプレスに出ていかなければならない。

 ハーフタイムを挟んだ柏の選択はフロートと武藤の投入だった。とりわけフロートの投入は盤面を変えるための色が濃いものだったといえるだろう。ロングボールで逃げられるポジションを作ることで、川崎の前線をひっくり返す算段だ。

 よって、後半の柏はロングボールでの陣地回復を軸に川崎のハイプレスを回避していく。2点のリードにもかかわらず、川崎は強気のプレッシングに来ていたので、柏からすればありがたい姿勢だっただろう。フロートのポストを積極的に使うことで、柏は徐々に敵陣内に入り込んでいくように。

 しかしながら、柏側がこの機会をうまく攻撃で活用できていたかは怪しい。フロートは安定したポストワークでボールを収めることができていたが、そのポストの先が見えてこなかった。

 理想はおそらくフロートにマークが集まる分、その周辺のフリーランする細谷が生きるというイメージなのだろうが、とにかくこの二人の連携がいまいち。細谷は右サイドに流れるばかりで2トップの相棒との明確な関係性を構築することができなかった。

 あるいはロングボールが機能したのに乗じて、自陣からのショートパスのつなぎも軌道に乗れば話が違っただろう。53分に高嶺が反転してフリーになったように、きっかけとなるシーンはあった。だが、その直後にパスミスをしてしまうなど、流れに乗りきることができない。ここが機能すれば、川崎はボールを取り返すのにかなりのエネルギーを使うことになったはずだ。

 川崎が完全に柏にペースを渡し切らなかったのは、川崎側が保持のターンになったときにボールを大事にしていたからという側面もある。アップテンポになる場面もあるが、きっちりとしたスピードダウンを基調にポゼッションをすることを念頭においていた。

 柏は戸嶋が列を上げながらプレスをしてくるが、川崎はプレスの枚数が増えても後方のフリーの選手に縦パスを差し込むことでロストを回避。縦パスを差し込んだ後、左右にじっくりボールを動かしながら柏の守備を撤退させる。

 柏は後半に戸嶋と高嶺のサイドを入れ替えていた。川崎の攻撃の主戦場の右のハーフスペースに封鎖には高嶺より戸嶋という考え方があったのかもしれない。中盤のスライドで同サイドにきっちり圧縮するスタンスを見せた柏に対して、川崎は右サイドから斜めに中央のパスを差し込み、ポストプレーを駆使しながら大島の決定機を演出。柏の狙いを外して見せる。

 総じて、柏の後半のプランは川崎のハイプレス回避には役立ったが、自分たちがボールを奪うという部分での機会創出には至らなかったという印象。部分改善は見せたが、全体的に改善したかというと微妙という感じだろうか。

 川崎は大島に代えて小塚を投入し、終盤にかけても引き続きボール保持時の散らしやキーパスを大事していた。今季の傾向からするとやや意外である。小塚は相手のプレスの力量を見切れるときは絶大な効果を発揮するが、この日の柏のプレスも彼の良さを発揮するのに十分な強度だったといえるだろう。

 思うように決定機が増えない柏は終盤にドウグラスを投入し、パワーで振り切った形のフォーメーションに移行する。だが、これは選手ごとのタスクが整理できずに逆効果。ロングボールの後に敵陣にボールを持っていくフェーズで不具合を起こしてしまい、ボールを前に進める局面でエラーを引き起こしてしまった。

 結局、試合はそのまま終了。柏を仕留める3点目を掴むことができなかった川崎だったが、ホームでのクリーンシートで連敗を食い止めることに成功した。

あとがき

 相手のプレスの強度に合わせたビルドアップの枚数設定、ハイプレスの整理、マルシーニョ不在時に左WGに宮代を配置するオプションなど、苦戦しそうだった3つの課題に有用な変化が多く見られたという意味で川崎にとっては大きな試合だったといえるだろう。

 横浜FC戦で見られた非保持における強度の低さも大きく改善。大南、脇坂、シミッチといった前節不在組の復帰は大きな後押しとなった。

試合結果

2023.5.28
J1 第15節
川崎フロンターレ 1-0 柏レイソル
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:21′ 小林悠, 45+1′ 小林悠
主審:中村太

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