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「宮代が重用される理由は?」~2023.7.1 J1 第19節 名古屋グランパス×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

ままならない中盤の加速

 両チームともベースとなるフォーメーションにわずかに手を加えたメンバー構成となった。名古屋は出場停止の米本と前節に負傷交代した野上を入れ替え、河面と内田を先発に起用する。川崎はCBの入れ替え。大南に代えて高井を先発に戻す措置を講じた。

 立ち上がりはミドルゾーンで組み合うスタート。名古屋も川崎も中盤を中心にボールを奪い合いながらの序盤戦となった。

 ボールの奪い合いという意味で主導権を握ったのは川崎。やはり、この日の名古屋のように3バック+2トップ+トップ下の形だと、低い位置でボールを受けるSBが浮きやすい分、川崎の方がボールを落ち着ける手段があった印象である。

 当たり前の話ではあるが、こと川崎×名古屋という対戦カードにおいて、「ボールを持つ主導権を川崎が手にする」ということと「試合を川崎が支配して進めた」ということは全くの別の話である。ボールを持つだけでは本当の主導権は握ることはできず、どのように前進させていたか?について触れながらこの試合の流れがどちらの手中にあったかを判断する必要がある。

 川崎が名古屋相手にアドバンテージを取れそうなところとしてプレビューで述べたのは前からのプレッシングの回避である。名古屋は積極的に前からのプレスを仕掛けてきたが、やはり米本の不在は感じる部分ではあった。2トップ+トップ下+WBという前がかりな形を作ることはできてはいたが、川崎のベースである4-2-3-1をはめ切るのであれば、CHが縦方向にスライドする必要がある。

 この部分で名古屋は縦方向へのスライドを追従することができず。川崎は自陣に名古屋のハイプレスを引き込みながら、CHをフリーにするボールの動かし方ができていた。

 しかしながら、中盤中央にできた時間とスペースを前に送るフェーズで川崎は難が発生する。この部分で気になったのはプレビューでこの試合のキーマンに挙げた大島である。中盤が遅れて後方のスペースを空けて出てくるようなこの日の名古屋のようなスタンスは本来であれば大好物な相手なはずではあるが、やはり少ないタッチで鋭いボールを縦につけるという部分には大きく不満がある。

 直近では「復調気配」と表現されることも多い大島だが、浦和戦やこの試合のような出来を突きつけられると厳しいものがあるように思う。パスがズレるとか足元にボールがつかないということは確かに減った。だが、パスがズレるわけでもなくボールをコントロールできていないわけでもなく、ただただパススピードが足りない場面があまりにも目についてしまう。となると、どこまでフィジカル的な要素が戻るのかな?という部分は気掛かりである。

 CHは代役に説得力があるパフォーマンスができている選手がいないので、コンディションが戻りきらない大島を起用するのは仕方ないかもしれない。運動量には制限があるが非保持における貢献が十分であることは述べておきたい。この日もユンカーの速攻に飛び込まずにディレイさせるという判断を講じることができていたのはとても良かった。

 だが、中盤で加速ができないことにより、自陣に引き寄せて相手を剥がすという名古屋に対してアドバンテージが取れた効果は半減していたのも事実。この部分はシミッチや降りてくる宮代の方が加速に貢献できていた。

主導権を左右する局面は?

 名古屋は徐々にプレスがかからないことに気づくことになる。前線の交代選手に実績がある選手はおらず、そもそも先発メンバーも運動量が豊富なタイプではない。それであれば、かからないプレスをかかるまで!というよりはひとまず撤退しましょう!という判断になるのは自然な流れと言えるだろう。幸い、川崎は中盤での加速ができなかったため、プレスの空転も特に致命傷になることはなかった。

 加速できない川崎はブロックを崩すためのアプローチを組むことになる。立ち上がりにとりあえず右の家長に預ける!というプランは浦和戦にそっくりであった。

 そして、ブロック守備崩しにおいて従来に見られた課題もここ数試合と同じ。右サイドではそれなりにトライアングルは機能するが、左サイドでは機能しない。

 左サイドの機能不全はハード面とソフト面の両面での要因がある印象だ。遠野、登里は内と外のレーンをきっかり分けることが多いし、サイドのフォローに入りたい大島のラインを上げる動きに間に合わないケースが多い。そうした状況においては大外での登里に1on1の機能性とか、狭いスペースにおける遠野のボールコントロールとか、大島の運動量の側面は障壁になるだろう。

 と同時に大島に関しては単純に託すタスクが低い位置で求められていることが多い。中盤中央でフリーになること、非保持ではサイドのカバーに入れるようにシミッチと同じ高さまで下がることが今の大島には求められている。身体能力的なハンデを除いたとしても重労働なのは確か。攻撃時のサイドのサポートが遅れるのはそもそも設計的な要素も含んでいるように思える。

 常々議論になる家長への自由な裁量は直近では突っ込みにくい事案になっているのは、一度スローダウンしてしまえば、彼がいないエリアからは攻撃を加速させることが難しいから。左サイドの攻撃を成立させるのであれば、左サイドに彼が流れる必要がある。

 それでも全肯定しにくいのは、被カウンター時の陣形のゆがみもさることながらやはり右サイドで連携を組むのが最もしっくりくるからだろう。マルシーニョ、ダミアン、小林がいない中で現状右サイドの家長ー脇坂-山根のトライアングルは命綱ともいえるところである。

 前半終了間際の右サイドから上がったクロスは宮代を囮に大島か遠野がボールの転がったコースに飛び込めれば面白かった。インサイドはクロスに飛び込む形を整備することで、右サイドからの攻撃を仕上げる意識を持つというのは今の川崎の保持における進むべき道なのかもしれない。

 大島からスピードアップできない点、サイド攻撃の構築時の不具合やクロスへの飛び込み設計の不十分さなどはある意味うまくいかないことが想定できる部分でもあった。その中で思ったよりも通用した部分もあった。それがハイプレス。

 家長、宮代、遠野の3トップは割と直線的にホルダーにプレスをかけていったが、それなりに相手の時間を奪うことで名古屋の保持を苦しめることができた。WBはボールを受けに行くと、そこには川崎のSBがスライドをする。このメカニズムが成り立っているときに川崎は主導権を持って保持を制限することができた。

 もちろん、名古屋にはユンカーというロングボールの逃げ場がある。ただ、最終ラインにプレスがかかっているとそもそも彼の頭を目がけてのロングボールが出てこない。シミッチに跳ね返されてしまうことも多く、川崎はロスト後もハイプレスが効けばセカンドボールを回収することができていた。

 逆に川崎の前線が高い位置に出ていっても距離が詰められなかったり、SBのスライドが間に合わなかったりなどの不具合が起きた場合は名古屋にチャンス。ユンカーへのロングボールや左右どちらのサイドにも顔を出すマテウスの裏抜けから名古屋は攻撃の形を作ることができていた。立ち上がりのユンカーの決定機を含め、前線にボールを逃がすことができれば、名古屋はたちまちゴールに迫る力を持っているチームである。

 よって、前半の展開の中で最も両チームの間でワンプレーの成否が主導権を引き寄せるか否かを決定づけているのは川崎のハイプレスの局面である。試合の流れとしてはここの綱引きをしている最中に上福元のボール処理にミスが出てしまい、名古屋が先制するという流れ。放送でも解説から指摘があったが、こぼれたボールに対するユンカーのリアクションはまさに研ぎ澄まされたストライカーという感じの素晴らしいものだった。

懸念されるシュートの目的化

 綱引きを名古屋が制したことは試合に大きな影響を与えたといえるだろう。名古屋は攻撃の狙いをより明確化。自陣に相手を引き寄せながらカウンターを狙うスタンスで攻撃を構築していた。

 サイドからの攻撃を成立させることが難しかった川崎は前半から中央密集で細かいスペースを作り出すためのパス交換で名古屋の壁に挑んでいく。遠野、宮代、脇坂、大島、家長といった面々が絞りながらもワンツーを利用し、裏にフリーで抜け出すアクションを探っていく。

 人数をかけた狭いスペースを少ないタッチ数で崩すというのは強引な突破に数えていいだろう。川崎の密集打開はたまに1本キーパスがつながっては惜しく見えるシーンがあるが、2本キーパスがつながることはまずなく名古屋に跳ね返されてしまう。

 1本のキーパスで相手をズラすというのは非常に難易度が高い。相手の逆をとるアクションが入ればいいのだが、そういう有効な釣りの動きはあまり見られることはなかった。となると純粋に速いボールかスピードで相手を置き去りにするかしかない。

 遠野がいくつかシュートの機会を迎えたが、特に2本目はノーチャンスだった。たまたまあらゆる角度からリプレイがあったのでよくわかったが、目の前には2人のCBがいて、間のコースはランゲラクが立ちはだかる。そして、遠野が実際に放ったシュートよりも少しでも内側のコースを狙えば、目の前のDFにボールがぶつかってしまう。

 流れの中から見ると決定機に見えたシーンであったが、そもそもあまり惜しくないシーンなのである。ルヴァンカップ湘南戦の3点目のゴールのように、目の前の選手に当ててでもなんとかゴールにボールが収まることもあるが、基本的にはそうしたケースは稀である。

 この試合の川崎はシュートがやや目的化していた節がある。瀬川と遠野は特にその傾向が強くタフな位置(例えばニアに走りこみながら角度のないところから狙う形)からシュートを打つ羽目になることが多かった。遠野は最近大外をとる機会が減ったこともあり、シュートを打つことに腹をくくっている感じがあるので、選択肢の選び方としてはそれでもいいのかもしれないが、それだとシュートを決めなければ評価するのは難しくなってしまう。

 中央のフリックに固執する形を選択したのはそもそもメンバー的に疑問の余地があった。高井を最後方に起用するのであれば、車屋と合わせて対角のパスや同サイドの奥のパス、あるいはキャリーなどの保持における相手の陣形を広げる工夫を軸に組み立ててほしかった。

 成功率がそもそも低いことが分かり切っている密集打開を行うのであれば、大南をスターターとしてカウンター対応に舵を切ってもよかっただろうし、逆に高井をスターターで使うのであれば、とにかく中央でパス交換に固執するアプローチは避けてほしかったところ。高井自身も先に挙げたプレーには何度かトライはしていたが、自身のプレーの精度も含め、起用されるバリューを提示できたか?と言われると難しいところがある。

 名古屋が決めた2点目は試合の行方を決定づけたこと以外に、川崎が苦戦したサイド攻撃で活路を見出していたことにもなかなか川崎にダメージを与えるものだった。

 和泉の鋭いドリブル突破という前提はあるが、永井の引いて受けるポストで高井を連れ出すアクションは非常に大事なもの。この試合の川崎であまり見られなかったエリア内への味方の侵入を助ける動きである。

 和泉の役目はないものねだり(期待するとしたら佐々木旭になるだろうか)としても、この永井の動きのように相手(=高井)に矢印を出させて、和泉が入り込むスペースを作り出すことはもっとしてほしい。そういう意味でも川崎にとってこの2失点目は示唆に富むものだったといえるだろう。

あとがき

 シュート数では上回ったとか、ランゲラクにシュートを止められたというのは事実であるが、そこにフォーカスが行くのは個人的には少し違和感がある。この試合で気になったのはやはりシュートが目的化しているところだろう。前線に入った選手はタフな状況を正面から蹴破ろうとするアプローチが多かった。

 それでもシュートを決める!という突き抜けがあればそれでもいいのかもしれないが、DFが複数枚自分に集中しているということは周りが空いているわけで、そういうところを利用する動きからシューターに時間を与えるアプローチがほしい。

 シュートを決めきれなかったり、1トップで収める役割は不得手だったりなどの懸念があっても、今の宮代を先発から外しづらいなと思うのは、こうしたズレの初手を作る動きができるのは現状の前線では宮代くらいだからある。山田の方が勢いはあると思うが、単独で突き抜けられる相手でないのだとしたら、宮代をスターターで山田を途中交代という今の流れは納得感がある。

 実際にこの夏に補強があるかないかはわからないが、選手を獲得してもウィンドウの登録期間はまだ先になるし、ダミアンは全治のよくわからない怪我をしている。上位との対戦が控える7月の試合で今の前線にテコ入れが入ることはあり得ないのである。

 そういう意味ではこの形でできることをやる部分で腹をくくる必要はある。具体的には右サイドからのクロスの入り方の整備。どのチームが相手でも家長を軸に山根や脇坂のフリーランで抜け出すシーンは作れてはいる。

 目の前が空いている状態で上げるクロスならば、高さという手元にないファクターはやや軽減される。前半終了間際の宮代の背後に飛び込む選手を作れるような連携を組み、今のチームが持っている一番大きな武器を生かす方策を模索してほしい。

試合結果

2023.7.1
J1 第19節
名古屋グランパス 2-0 川崎フロンターレ
豊田スタジアム
【得点者】
名古屋:41′ キャスパー・ユンカー, 64′ 和泉竜司
主審:木村博之

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