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「修羅の道で花開く根性」~2023.7.15 J1 第21節 横浜F・マリノス×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

圧巻の山根が横浜FMの計算を狂わせる

 数人のメンバーを天皇杯から引き継ぎ、中2日の日産に乗り込む川崎。数人の怪我人により計画を変えざるを得なかったことは明らかだろう。逆に横浜FMは事前に想定されていた怪我人以外は予想通りのメンバー。数人を怪我で欠いてもこのメンバーを揃えられることは層の厚さを感じられる。

 立ち上がりは互いに仕掛け合うスタート。横浜FMはキックオフから藤田が攻め上がりを見せる形で暗躍。川崎もダイレクトな縦パスでこれに応戦。やや強引な仕掛けで横浜FMの中盤を突破し、一気にゴール前まで迫っていく。ビッグマッチ的な固さは皆無で、積極的に相手を脅かすスタイルで入ったことが印象的だった。

 そうした中で先にチャンスを見出したのは横浜FM。川崎は基本的には後方はマンツーマン。横浜FMは縦方向に選手の位置を動かすことで積極的にチャンスを作っていく。3分のようにヤン・マテウスの降りるアクションから後方支援した渡辺が裏にパスを出したり、10分手前のエウベルの抜け出しのシーンのようにマルコスの降りるアクションを後方から永戸がフォローして裏にパスを出したり、降りる選手×後方からの攻め上がりによるフォローという構造を作りながら攻撃を押し上げる。

 この降りる選手と後方からの攻め上がりの関係性をどの組み合わせも作ることができるのが横浜FMの強み。特に川崎は中盤の攻め上がりのケアには苦労した印象で、ここを逃してしまうことで相手に攻め込むことを許してしまうことが多かった。

 ただし、サイドの守備に関してはそれなりに腹を括っている感があった。登里は裏抜けでのスピード勝負で後手を踏んだり自らのパスミスでピンチを招いたなどのミスも目についたが、前を向かせる前に決着をつけるという大まかな方針はスピードでもパワーでも劣っているヤン・マテウスに対しては妥当だったように思える。

 登里のサイドで身体能力で後手を踏む分、宮代が外切りのハイプレスを仕掛けることで同サイドの縦への進撃を阻止。瀬古もこの動きに追従し、ヤン・マテウスにボールを入る頻度自体を制限するアクションを見せていた。

 右の山根は圧巻のハイパフォーマンスだった。横浜FMの基本線は右サイドで押し下げつつ、左サイドに展開し、エウベルのアイソレーションで勝負する形が多かったが、山根がここに立ちはだかったことは横浜FMの計算外だったはず。登里同様、ボールが入る前に潰すことを徹底。その上で登里以上にきっちりストッパーとしての役割を果たす。エウベルを自由にせず、アイソレーションでの勝機を削る働きを見せる。この日の動きを続けて見せれば、代表への返り咲きも十分に視野に入る活躍だったと言える。

 川崎のCBコンビはややついていきすぎつつもポストを許す場面もあったが、この辺りは落としを受けた横浜FMの選手がやや縦パスの精度が低かったり、抜け出した後のエウベルとヤン・マテウスのプレーの質のところで決定機を掴むことができず。マンツーを動かした穴を利用しきれない。川崎は危険なシーンが多かった序盤だが、上福元やシミッチを軸とした後方の選手たちのカウンター対応でなんとか凌ぎ切ることができた。

プレス空転→ブロック守備の脆さで主導権を明け渡す

 川崎の前進は後方でのボール回しで横浜FMのプレスを引き寄せることから始まる。CBが大きく距離を取りつつ、GKを挟み後方でボールを回す頻度を増やす。車屋-高井-上福元というユニットを生かした形だった。横浜FMはマルコスとロペスでアンカーを受け渡しつつ、ワイドに開いたCBにWGがプレスをかけることでハイプレスを起動する。

 川崎の脱出ルートは基本的には2つ。1つはロングボール。横浜FC戦でも見せたWGとCFの縦関係を使った形である。CFの山田が深さをとり、WGの宮代がライン間に入る。

 ただし、横浜FCと異なりマンツーでついてくる覚悟があった横浜FMに対してはこの形で明確なアドバンテージを握ることはできず。川崎側も逆に宮代の背後に流れる山田に長いボールを出すなど、ロングボールの構造を変えて仕掛ける工夫を見せることをしながら抵抗していく。

 もう1つは右の大外に開く家長を使った形。徹底して大外に立ち起点になることを重視していた。横浜FMの保持において、もっとも立ち位置的な動きが大きいのは左のSBの永戸。ボールを奪った後、右の大外に立つ家長を目掛けてボールを出すことを川崎はかなり意識していた。

 川崎は中盤での混戦から相手を外し、右の大外に立つ家長に対角パスを送るというパターンでの前進もこの日は多く見られた。中盤で相手を外すターンで違いを見せるというのは近年の川崎の中盤で1人前になるための登竜門といった感じがあるが、瀬古がこの部分で横浜FM相手に存在感を見せたのはよかったポイント。キャンセルとターンで時間を作り、逆サイドの家長という預けどころにボールを届けて、高い位置の起点を作ることに成功する。

 トランジッションと中盤の個人スキル。この2つを生かしつつ家長にボールを届けるという形で川崎は反撃に打って出る。

 互いに違う路線で組み合っていた両チームだが、時間の経過とともに横浜FMは再び主導権を握っていく。違いを見せたのはプレス回避である。川崎のプレッシングはCFの山田がCB2人を監視しつつ、時折WGがCBに外切りで出ていきハイプレスをサポートする形で成り立っていく。

 だが、WGの外切りのハイプレスは当然背後を使われるリスクも大きい。特に家長のいる右サイドでは出ていっても外されるケースが多い。横浜FMのパスワークを前に20分をすぎると川崎はハイプレスを封印。山田がマークしない方のCBはフリーで浮かせる4-5-1フラットの陣形で守ることが増えていく。

 となると、横浜FMの浮いたCBがボール配球の観点で仕事ができるかどうかが重要なポイントになる。川崎がハイプレスに難色を示し出したのは20分。それに対して、エドゥアルドがヤン・マテウスに中盤を切り裂く形で鋭い楔を打ったのは22分。横浜FMは早々に脱ハイプレスの川崎にダメージを与えるパスワークに成功する。

 このパス以降、川崎の中盤のプレスラインはよりスペースを消すために下がる傾向に。ハイプレスの空振りに、フリーにしたCBに仕事を許すとなればあとはスペースを消すことしかできなくなってしまいジリ貧の流れになっていく。川崎はブロック守備で対抗することを余儀なくされる。

 ブロック守備においてもエラーが出てしまうあたり、シンプルに川崎にとっては押し込まれる展開は苦しい時間帯だった。例えば、23:30の宮代と登里の間をヤン・マテウスにやられてしまったシーン。この場面はもちろん、挟んだのに間を通された宮代と登里の責任が大きい。だが、少し時間を巻き戻せばその前に渡辺をフリーにしてしまったことも失態だろう。

 気になるのは藤田がボールを持った時のIHのポジショニング。藤田のマーカーは本来脇坂であるが、インサイドに入り込む永戸が気になり、藤田にチェックをかけることができない。その脇坂の意識と裏腹にこの場面では藤田に対して瀬古が距離を詰めるアクションを見せている。

 この動きは個人的には不要である。自分のマーカーをすっ飛ばして人のマーカーにチェイシングに行くのであれば、それなりに根拠が欲しい。例えば、藤田からボールを刈り取れる公算か最低限でも動きを止める確信は必要だろう。それか、瀬古が斜めのパスコースを消すことで縦方向のマルコスのところでボールを奪い取れる計算が立てばこの寄せは機能していると言えるだろう。

 だが、この場面は瀬古は藤田に対して距離が近いとは言えないし、シミッチがマルコスに寄せてボールを刈り取る準備もできていない。よって、瀬古の寄せはマークを捨てた渡辺からの前進を促すだけになってしまう。

 強気のプレスをやめたというこの時間の川崎の守備の基準と照らし合わせても、脇坂が出ていかないのであれば、この場面はマーカーへの注意を続けつつ、ラインの高さを維持する方が適切な場面だった。瀬古は攻撃面では密集脱出やアタッキングサードでも攻撃参加などで向上が見えてくるが、1試合を通して見るとこの場面のような結構大きめな守備の突っ込み所があるのは課題と言える部分だ。

 川崎は押し込まれてしまう上に前進でも苦労。横浜FMの最終ラインの駆け引きによりオフサイドの網に絡め取られてしまい、ロングカウンターから手軽に反撃をすることができなかった。

 横浜FMは右サイドでは多角形の破壊と再構築、左サイドではエウベルに対してレーンを変えながら絡んでいく永戸で川崎を追い込んでいく。それでもなんとか食らいついて行く川崎。エウベルを挟み込んだり、オーバーラップする永戸についていく押し込まれてからの家長の守備はこの試合のガチ感を表すものだった。

 試合は0-0のまま前半が終了。中盤から押され続けていた川崎にとってハーフタイムのホイッスルは救いのゴングと似た意味を持つものになった。

交代で明暗が分かれる終盤戦

 後半、川崎は前半の焼き直しと言わんばかりにプレッシングを仕掛けていく。後半頭はロペスが車屋に対して入れ替わられたシーンから川崎はピンチを迎えるが、逆サイドへの展開を永戸に食らいついた脇坂がカットすることでなんとかことなきを得る。

 脇坂はこうした危機察知能力がビッグマッチにおいて研ぎ澄まされる感がある。この日の山根もそうだけど、超えた死線の数が他の選手とは違うのだろう。圧倒的な存在感をこの日も放っていたシミッチの負荷を下げる意味でも脇坂や山根が時間経過とともに自由に動く永戸に対応できたことは川崎にとって大きかった。

 横浜FMはハイプレスでサイドを封鎖するタイミングを早めて非保持でも川崎を仕留めにかかる。この時間帯は川崎のバックラインの構成が生きた時間帯だったと言えるだろう。上福元を絡めつつ、後方のパスワークで横浜FMのプレッシングをいなし続けて前線の圧力をまともに受けない。

 脱出口は前線へのロングボール。特に左のワイドに張る宮代をターゲットにしたものが多かった。自陣でのパスワークで横浜FMのプレス隊を引き寄せた分、川崎のロングボールは前進の精度が高まっていた。

 川崎が即座にロングボールに逃げず、ポゼッションの時間を確保したのはゲームコーディネートの部分でも意義がある。前半から足を使った上に前線など控え選手に不安がある川崎にとっては保持の時間を増やすことは終盤勝負において重要な意味を持つ。そういうところでもこの日のバックラインは素晴らしい働きをしたと言えるだろう。

 敵陣に侵入すると、前半はやや不安が先だった登里が躍動。左サイドの抜け出しからチャンスを作ったり、マテウスへの対応の精度がワンランク上がったりなど、攻守に一段上のパフォーマンスを見せる。登里の出来が前半と同じ水準であれば、1回目の交代で佐々木が登場してもおかしくはなかった。

 左サイドから作るチャンスを川崎が仕留め損ねると、今度は横浜FMがテンポを握りなおしていく。キーになったのは中盤に入った喜田。縦志向の強い藤田に代わって、左右への配球のバランスが取れている喜田が中盤でタクトを振ることで、宮市とエウベルの両WGを軸とした攻撃にシフト。再び川崎を押し込む。

 川崎は持たれるなりに遠野、瀬川といった縦への鋭さを持つメンバーを投入する。押し込む横浜FM、ロングカウンター特化の川崎という構図は60分以降、明確になった。この構図から決定的な得点の機会を得たのは川崎。中盤の混戦からボールをキープした瀬川から背後の遠野へのスルーパスが通る。このプレーが一森のファウルを呼びPKを獲得する。

 だが、このPKは家長のキックを一森がセーブ。やや甘いコースになった家長のキックを一森が咎めた。

 PKストップは一般的に試合の流れが大きく変わる事象。この潮目で優位を引き寄せたのはPKを止められた川崎の方だった。崩し切った自信からか横浜FMに押し込まれ続けるパワーバランスは徐々に変化し、川崎は横浜FMとフラットにボールを握り合いながら渡り合うことになる。

 さらに80分過ぎの川崎の3バックへの移行は非常に効果的だった。5レーンを埋めたことで横浜FMのハーフスペースアタックにもナチュラルに守れるように。エウベルが下がったことで唯一個人での突破で怖さが残る宮市も大南と山根という2人で盤石の対応ができるように。交代のたびに前線の機能性が下がる横浜FMに対して徐々に無理なく守れる機会が増えてくる。

 保持においてはWBに幅を取る役割を一任したことで家長、瀬川、遠野がエリア周辺の動きに専念できるように。レーン分けを整理することで川崎はそれぞれの役割を明確にすることができた。

 横浜FMにとって辛かったのは脳震盪の松原に続いて永戸が負傷交代で下がってしまい、SB不足に陥ったこと。SBに入った喜田は危機察知能力や対人守備では流石の面も見せたが、繰り返される上下動に振り回されてしまう形で後手を踏んでしまう。CHに植中が入ったことも川崎のパスワークの手助けになってしまった。

 決勝点のシーンを振り返ると交代策の明暗がくっきり別れたことがよくわかる。遠野→瀬川→大南と交代選手が素晴らしい繋ぎを見せた川崎に対して、遠野に振り切られた植中と大南を逃してしまった喜田には悔いが残る対応となっただろう。

 決め切った車屋もさることながら、この試合においては瀬川の活躍には触れておきたいところ。後方の形こそ異なるが、CFに瀬川が入る形は天皇杯の水戸戦でテストした布陣。その試合のCFの瀬川の長所はプレスバックでの守備と、相手を背負ってのプレーのレパートリー。遠野のPK奪取では前者が、車屋の決勝点では後者が際立つ形に。2つの決定的な得点機会に関与した瀬川が重要な働きを見せたことは勝利に向けた大きなファクターだった。

あとがき

 看板に偽り無しの充実したパフォーマンスを見せた両チームによる見応えのある試合だった。おそらく、中立のファンも大いに楽しめる内容だったのではないか。

 勝敗の話をすれば、先にどちらがチャンスを決め切るかのところでともに苦労していた試合だったと言えるだろう。家長のPK失敗ばかりが際立つかもしれないが、横浜FMは流れの中からより多くの決定的な機会を逃しており、終盤まで前線が試合を決められなかった展開。その中で粘り続けた川崎のDF陣がご褒美をもらった形だろう。CBが試合を勝たせる往年の川崎の強さを感じた試合だった。

 終盤で横浜FMが劣勢に回ったのは本職ではないポジションがいくつかあったことを言い訳にできるとは思うが、逆に打開した川崎側が本職でない瀬川のCFから勝ち点3への道を切り拓いたことは大いに胸を張ることができる。終わってみれば天皇杯で瀬川のCFをテストしたことと、家長を完全温存したことは鬼木監督のファインプレーだった。

 川崎はこれで今季ようやく上位勢に一泡を吹かせることに初めて成功したことになる。ローカルライバルを首位から引きずり落としたことはチームが勢いに乗る契機になる可能性もあるが、これまでの19試合でなかなかこの日に比肩するパフォーマンスに見せられなかったことを1試合で忘れるわけにはいかない。

 10人で逆転勝利を掴んだ鹿島戦しかり、試合終盤までこのような競り合いになれば川崎はいまだに他チームにとって厄介なチームである。その一方で今季は試合終盤を迎える前に勝敗が見えてしまうようなあっさりとした敗戦が多すぎる。多すぎる退場者や名古屋との2試合はその代表例と言えるだろう。粘りや根性は重要であるが、それは試合の大半を互角に渡り合って初めて問えるもの。複数点リードをつけられたり、1人退場者が出ている終盤戦ではそうしたものは後回しになってしまう。

 2022年の川崎のアイデンティティはビッグマッチにおいて見ている側の心臓に悪いハラハラドキドキする展開を引き寄せることができることだと個人的には考えている。2023年のようやくその形を見せることができた。見ていてヒリヒリするような修羅の道に根性を咲かせることこそ、今の川崎が勝ち点3を掴むために辿らなければいけないルート。もちろん、来週の神戸でもこの部分が問われる90分になることは間違いないだろう。

試合結果

2023.7.15
J1 第21節
横浜F・マリノス 0-1 川崎フロンターレ
日産スタジアム
【得点者】
川崎:90+4′ 車屋紳太郎
主審:カミス・モハメド・アルマッリ

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