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「救いと成長の両立」~2023.8.12 J1 第23節 川崎フロンターレ×ヴィッセル神戸 レビュー

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レビュー

シミッチ不在のプラン構築

 首位・神戸との2節ぶりの再戦はどちらも負ければリーグ戦連敗となってしまう厳しい状況。前節は敗れ、その前は引き分けと勝ちから遠ざかっている中での再戦になる。

 この試合のメンバーで目を引いたのは川崎。基本的には山田、瀬川といった直近の試合で目につくパフォーマンスを見せた選手を抜擢しているのだろうけども、特に外される理由もなく、こと大迫対策で考えれば高さの面で必要不可欠なシミッチがいないことは疑問符がつく内容だった。今回は試合当日の深夜に鼻骨骨折という情報が出てきたため、序列ダウンではないことがわかったが、こういう冷や汗をかくような内容はこのようにきっちりと情報をリリースしてもらえた方がありがたい。

 ということで後出しの情報を組み合わせれば、この日の川崎のテーマはシミッチ抜きでどのように神戸と対峙するかということになるだろう。シミッチ不在の中盤は予想通りだが、並びは4-2-3-1。瀬古と橘田がフラットに並ぶ形で迎え撃つ。

 基本的には非保持で強みを押し出す形でプランを組んだのだろうと思う。高い位置からプレスには出ていく川崎だが、マンツーで片っ端から捕まえにいくのではなく、ある程度狙いをつけてから追い込んでいくスタンス。より具体的にはトップの山田をベースに同サイドに追い込み、SHがスイッチを入れてプレスの圧力を高めていく。

 4-2-3-1を採用した理由はトップ下の脇坂がボールサイドに寄せれば無理なくMFの2人を同サイドに制限しながら追い込むことができるから。瀬古と橘田はボールサイドに大きく寄せることでサイドに思いっきり圧縮することに貢献。運動量を生かして神戸のパスワークを自陣側に押し下げる。

 判断の部分で特に効いていたのは瀬川。無闇にプレスにいくのではなく、後方の陣形が整ったと判断できれば、一気に圧力をかけていく。これにより、後方のSBに負荷がかかりにくい構造になっていたのは評価できるポイントである。

 プレスが失敗となった場面は2分半の大迫のシュートのように、同サイドに激しくスライドする川崎の中盤の逆側を取られる(下図)か、9分過ぎのように登里のところをいなされて、武藤に裏を取られるかのどちらか。ただし、頻度としては限定的で神戸の攻撃はあまり機能していたとは言えないだろう。

 むしろ、プレッシングは川崎の攻撃へのきっかけとして流れていた印象だ。神戸側の無理に中央に引っ掛けるパスワークは川崎が回収。カウンターにそのまま出ていくこともしばしば。この日の川崎はフレッシュな前線で非保持からリズムを作っていく展開になる。

 神戸の保持に対しては川崎は落ち着いて跳ね返す。大迫のポストは強力ではあるが、山村と大南は粘り強く対応。神戸側は前節の横浜FC戦もそうだが、やや大迫にボールを放り込む頻度は減らしているようにも見えた。

大迫→パトリックラインで戦況をひっくり返す

 敵陣に追い込んだ後はG大阪戦と同じく、左サイドに偏重する川崎。前節は動き出しの部分で相手を置いていくことができるマルシーニョがいたが、今節は彼がいない状況で似たようなプランにトライしていた。

 左サイドの崩しに関しては人数をかけているというエクスキューズはあれど、それなりに精度は高まっていると言えるだろう。特に大外の選手を流動的に入れ替えながら最終ラインに対して、斜めのランを繰り出す形がよくできている。下の画像は前節の使い回しである。

 左サイドには1on1でサイドを制圧できる選手はいないが、オフザボールの動きが非常に活発。入れ替わり立ち替わりポジションをとりながら、相手の右サイドに開くのか?絞るのか?を強いてくる。クロスを上げる前の段階においては大外を直線的に加速した状態で受けたり、あるいは先に述べたような斜め方向のランで相手のラインを下げる状況を作る。

 インサイドにダミアンのような高さでアドバンテージが取れる相手がいるなら別だが、そうでない場合はこのようにクロスを上げる前に相手のラインを下げる方向に揺さぶる動きを入れたいところ。特にこの日のように家長や脇坂など中央より右寄りの選手を左サイドに置いているのであれば、このクロスを入れる際の原則は最低限クリアすべき点。

 そうでなければ左右のバランスが歪な形で相手のカウンターを受けてしまったり、あるいは右サイドで山根が孤立しているという状況に対してペイできないからである。そういう意味では左サイドは一定の基準には達しているクオリティだったと言えるだろう。

 またビルドアップの安定感を担保できていたのは、自陣からの前進もそれなりに機能していたこともある。後方のショートパスにおけるやり直しをきっちり行うことができたことと、ショートパスからの組み立てが苦手なソンリョンにとって長いキックのターゲットとなる山田が前線にボールを収めていたことが大きい。

 前進が不安定な神戸とファイナルサードまで辿り着いていた川崎。やや川崎優勢のこの状況を一発でひっくり返したのはもちろん大南の退場劇である。CKのカウンターから神戸のロングカウンターが炸裂。大迫の収めるアクション、そしてパトリッキの抜け出しというコンビネーションは見事。定点攻撃において優位な汰木ではなく、ワンチャンスで当たりを引けるかどうか?というパトリッキを先発に起用した吉田監督の賭けがこのシーンでは的中したと言えるだろう。

 それにしても大迫は相変わらず恐ろしい。序盤は大南と山村が体を寄せて押さえ込んでいたのだが、この場面ではあえて遠目から加速しながらボールにアプローチすることで大南と山村の2人をまとめて置き去りにすることに成功した。

 では川崎はどのように対応すれば良かったのか。退場に近いところから踏まえればもちろん大南はファウルを犯さず1on1を許容した方が理想ではあった。今回のような真後ろを取られている状況であればGKに任せてしまうのも手である。川崎の公式サイトからゲーム記録をチェックすると「S5(手以外の決定機阻止)」が退場事由であったためエリアの内外でカードの色が変わったようだが、あれだけ完全に後ろに回ってしまうと、ボールにアプローチができていないという理由でエリアの内外に関わらず退場となってもおかしくはない。

 では、それ以前のフェーズの各選手の判断はどうだったか。大南は先に述べたように大迫に対しては技術的な部分で後手を踏んでしまっている形なので、大迫へのアプローチの部分は判断だけではどうにもならないように思う。

 選手の動きとして気になったのは山根と瀬古。この2人は大迫にボールが入る前の段階でそれぞれのサイドの神戸の選手よりも前にいた。

 しかしながら、これが大迫が大南を置き去りにし、パトリッキにパスを出した段階ではそれぞれパトリックと佐々木が山根と瀬古の前に立つ形に変化している。

 彼ら2人はまず直線的に降りてくるべきだっただろう。一見、ボールに関与しなかった佐々木のサイドにいた瀬古は無関係のようにも思えるが、仮に彼が佐々木よりも自陣側に立つことができたのであれば、山村が大南を後方でカバーすることができる。そうなれば、仮に大南が同じようにパトリッキにファウルを犯したとしてもカードの色は違ったはずだ。山根がパトリッキに対して純粋な速度で勝てるかどうかわからないことを踏まえれば、プレスバックを怠った影響はむしろ逆サイドの瀬古の方が大きいと言えるかもしれない。

 今年に限らず川崎のCBは負荷が大きいのは確かだが、このようなところで余計な負荷がかかってしまうのは避けたい。瀬古のような予防的なアクションを怠ることでバックラインに無理な負荷をかけることは避けていかなければ、退場のスパイラルは減ることがないだろう。

大崎の登場で勝利を仕上げる神戸

 前節の横浜FC戦を見る限り、神戸相手に10人になったとしても0-0であれば悪くはないかな?と思っていた。しかしながら、大迫が直接FKを決めたため、神戸は前半のうちに先制点を手中におさめる。

 失点からハーフタイムの笛を聴くまではやや戸惑いがあったように見えた川崎だが、後半はそれなりに覚悟を持って組み合うことができていたように思う。「10人でも悪くないかも?」というのはブロック守備+ロングカウンターで割り切れるのではないか?というところだったのだが、川崎は違う形で神戸に対抗したと言える。

 高い位置からボールを追いかけ回す神戸に対して川崎はショートパスで前進。特に獅子奮迅していたのは中盤の瀬古と脇坂、そしてCFの山田。人に強くついてくる神戸に対して背負いながらボールを受けるケースが多かったのだが、ターンとタッチで相手を剥がしながら前進。神戸のプレスは積極的だが機能的ではなく、歪な偏在からドリブル突破で簡単に穴を開けるという負のスパイラルに。もちろん、高井のように不用意なドリブルから簡単に網にかかる選手もいたので、神戸のプレスが無意味だったとは思わないが。

 川崎がボールを前に運ぶことができてからはライン間にボールを差し込みながら、真ん中から押し下げて、セカンドボールを拾ってサイドに展開してクロスを入れていく形でチャンスを作る。スタジアム全員が頭を抱えたであろう脇坂の決定機のところがもちろん代表的な例になる。

 もちろん、神戸にもチャンスがなかったわけではない。川崎のCHは非保持においては同サイドのスライドを積極的に行っていた分、バイタルにぽっかり穴が開くことがある。特に神戸の右サイド側に寄せられたにも関わらず抜けてしまう場面が多かった。56分の酒井のカットインはその一例である。

 できれば神戸にはシュートを打てたり、ラストパスを送り出せる人が右サイドからカットインして欲しかったところ。単純にそういう選手がいないのはあるにせよ、前線の動き出しが極端に少ないので川崎からすると助かった部分はある。神戸はフリーになったことで作り出した時間を前に送るようなアクションが少ないことがここから先の優勝争いで足枷になるかもしれない。大迫という無理が効く選手がいなくなってもなおこうした部分ができなかったことは事実としては重たい。

 神戸は大崎を4-4-2のCHに入れることで守備を強化。川崎が制圧していたライン間に君臨しつつ、ボックス内にボールが入った時は5人目のDFとして働くなど少ない時間ながら最終ライン前の門番として貢献をしたと言えるだろう。

 逆に川崎は選手交代でボールを運ぶ選手が少なくなってしまった感がある。残された脇坂は孤軍奮闘をするが周りのサポートが皆無。おそらく緊急登板であろう佐々木はともかくとして、遠野にはこうしたところのサポートを抜かりなくやってほしい。

 終盤にはマルシーニョがチャンスを迎えた川崎だが、神戸の体を張った守備の前にシャットアウト。連敗を回避したのは神戸。またしても10人になった川崎を尻目に大事な勝ち点3を手にした。

あとがき

 前節の高井然り、今節の大南然りバックラインの決定的なミスからの失点が続いているのが気がかり。Twitterでも言及したが、どちらの場面もおそらくそのシーンにおける最適解は「繋がず捨てる」とか「手をかけず諦める」というものである。

 だが、基本的には高井には繋いでほしいし、大南にはガンガンストッパーとしてチャレンジしてほしい。それであれば周りもそのようなチャレンジを肯定できるようなサポートを行う必要はある。基本的には苦しい場面でも繋ぐスキルや、大迫にだって打ち勝つ強度が求められることになる。けども、彼らにそれを求めることと周りがサポートを欠かせないことは十分に両立できるだろう。

 できることからやっていく、細部に勝敗が宿る。接戦が多いJリーグの中でこうした部分を怠ったことで勝ち点を落としていることは残念でならない。反省を次に活かそうにももうトップ3との対戦は残されていないのだ。

試合結果

2023.8.12
J1 第23節
川崎フロンターレ 0-1 ヴィッセル神戸
等々力陸上競技場
【得点者】
神戸:39′ 大迫勇也
主審:西村雄一

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