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「火事場以外の解決法」~2023.6.18 Jリーグ YBCルヴァンカップ グループステージ 第6節 湘南ベルマーレ×川崎フロンターレ レビュー

目次

レビュー

不釣り合いな中盤の仕事量

 ホセ・カンテのミドルによって逆転負けを喫した前節の浦和戦によって、川崎の首位通過は消滅。勝って複雑で多重な条件に身を委ねるしかない状況である。

 最終節の相手は湘南。Bグループの他会場の成績次第では1位抜けの可能性を残しているし、2位に回った際でも他グループとの競争は川崎よりは戦える状況である。

 試合の序盤は明らかに湘南ペース。ボール保持から川崎を完全に振り回していた。1分も経たないうちに湘南は右サイドからタリクが決定機を迎えていたし、それ以降も自由にバイタルへの侵入を許し続ける。そして、6分には大橋に川崎の右サイド側から先制点を奪われる。

 広島戦で大島の守備がよかったのは外側のスペースに追い込んでから選択肢を限定し、彼らのセオリーであるハーフスペースの抜け出しに狙いを絞ってからボールハントができていたからである。この試合ではそもそも前線のプレスでサイドでの守備がどこにボールを誘導しないのが不明瞭であった上に、大島とシミッチがサイドでフォローに行くため、バイタルが簡単にスカスカになるという問題点があった。

 中盤に求められた守備のタスクは大きく分けて2つ。1つ目は高い位置でプレスをかける3トップの後方支援。もう1つは自陣の深い位置でサイドにボールが出た時に、サイドに厳しくスライドをかけること。逆サイドのIHはボールサイド側に大きく横のスライドをして、同サイドから脱出させないことである。3分手前の脇坂がボールを奪ったシーンは1つの成功例だろう。ちなみにシミッチは最終ラインを埋めるようにカバーすることもしばしばだった。

 だが、成功例ですらぎりぎりだったことを考えると、鬼木監督が中盤に託した守備は破綻しているといえるだろう。繰り返しになるが、広島戦で中盤の守備がうまくいったのは「狭いスペースに追い込んでから次のプレーを予測しやすい方向に相手の攻撃を誘導した」から。

この試合で川崎の中盤が託されたのは前線のハイプレスのフォローと横スライドが苦手な最終ラインのカバーである。ハイプレス時には自軍を前に押し上げる手伝いをし、ブロックを組む時には最終ラインのカバーをする。さらにはボールサイドでのスライドもマスト。

前も後ろも助け、スライドもさぼらないというこの量のタスクとなると脇坂はともかく、大島とシミッチに託す役割としては明らかに過多だろう。田中-旗手-守田の中盤ならこれでも成り立つかもしれないが、大島はただでさえフルタイムをプレーする大変さを述べている。運動量に不安がある彼を使えば、ハイプレスとローブロックの両睨みを中盤が支える構造にはさすがに無理がある。

 失点シーンは大島が宮代を追い越して右のCBの高橋までプレスにいったところから。降りてくる小野瀬への縦パスでシミッチがつり出されると、右サイドでフォローをかけた石原からボールを持ち上がる。シミッチは敵陣まで出てっているのでDF前のスペースは使い放題。こうして自在にサイドを変えさせた川崎は大橋にあっさりとゴールを献上する。

 シミッチが奥野までプレスに出ていくシーンは大島が無理にプレスに出ていかなくても発生していたし、そうなればシミッチより後方にいる選手へのはさみ込みは難しい。マンツー気味になる中盤に対して、湘南は奥にパスコースを作る動きを2トップとWBが行っていたので、川崎としては苦しい状況が失点後も続くこととなった。

 こうした自在なポゼッションを許すのはいかにも最近の湘南戦の流れといえるだろう。無理にハイプレスに行った結果、薄いサイドから縦に進まれることと中央を簡単に横断されることを交互に許し、失点という流れである。

個人に負荷をかける前進の要因

 逆に川崎の保持は相手を動かすことができなかった。湘南戦ではたまに見られる悪癖なのだが、CBが足に根が生えたように持ち場から動けなくなる。山根がインサイドに絞るなどCBが横幅を取りやすい工夫をしていたが、車屋も高井もこれに連動することはなし。結局は最終ラインの増員で解決することになる。

 川崎の手打ちは登里かシミッチが最終ラインに落ちる動きをすること。だが、特にセットした状況では湘南のプレス隊は川崎の降りる選手を無視していたので、最終ライン付近は2CB+GKにもう1人が相手の2トップに監視される状況になる。

こうなると当然後ろに重たい状況が続くことになってしまう。その結果、川崎の前進の手段は時間とボールをそろえてボールを送るよりも、ライン間に立つ選手への縦ベクトルの強いパスや大外への一気のサイドチェンジといったものが多くなった。

 よって依存する先は相手の最終ラインを背負いながらのポストで前を向く選手を作ることができるダミアンだった。右の大外の担当は家長も同様に高い位置をとる手助けを。大外で我慢のポジションをとり続け、高い位置でのボールを預けどころになり続けた。

 右の大外からの鉄板の形は大外の家長がボールを持ち、ニアサイドのややマイナスに味方をおとりにする。で、おとりに食いついてきた杉岡の背後を狙うのはダミアンだった。

この試合でのダミアンはクロスのターゲットとしても湘南を上から殴れる貴重な存在。中央でのポスト、右サイドの家長のタメからのオフザボールの仕掛け、そして空中戦。組み立てからフィニッシュまで彼に依存する場面が大きかった。

 右サイドでは家長がポイントになっていたし、エリア付近ではダミアン不在ではチャンスを作ることは難しかった川崎。後ろ重心でビルドアップを機能させるということはこのように特定の誰かに負荷をかけるということでもある。

 構造を崩しながらゴールに迫っていく湘南と、個人のスキルで何とかチャンスを作り出す川崎。苦しいのが後者なのは今の川崎のスカッドであれば自明ではあるが、ある意味川崎は川崎らしいやり方で湘南のゴールに向かうための方策を探っていたとはいえる。

 個人で何とかする方向性の川崎にとってブレーキだったのはフリーで前を向いたはずの大島のプレーが精彩を欠いていたことでもある。この辺りはこの試合だけの不調というよりも、ここ数年スパンでの不調だろう。

瞬間的にフリーになったときに素早く縦にボールをつけられない。ミドルシュートや速度のあるパスを蹴ることができない。単純に少ないタッチで速いスピードのボールを蹴ることができなくなってしまっているのではないか?という疑念がなかなか解消されないのである。個人主義による川崎のこの日の前進は大島が「できなくなったこと」にフォーカスが当たりやすい展開でもあった。

リスク度外視で輝く途中出場組

 後半の川崎は悪くない立ち上がりだったといえるだろう。ピッチを横断するようにサイドチェンジを行い、薄くなったスペースからクロスを上げてファーサイドのダミアンに長いボールを送る。前半よりは個人にかかる負荷を下がっていたし、敵陣に押しこんでの攻撃にも手ごたえが出る展開でもあった。

 しかし、得点を決めたのは湘南。右サイドからクロスに高井が処理を誤り、再び大橋にゴールを許してしまう。

 この場面で指摘したいのは両CBの動きの意味合いである。小野瀬への縦パスでまず車屋がDFラインから飛び出す対応を余儀なくされる。これで最終ラインは全体的に車屋のサイドにスライドすることとなる。

 車屋は小野瀬に簡単にポストで叩くことを許している。車屋の課題はやはりこのようにDFラインから飛び出した際のプレーがリスクと見合っていないことだろう。このシーンでも2トップではない小野瀬にチェックに行くのだから、奪い取るまではいかなくとも自分が出ていくことで攻撃を最低限遅らせる必要がある。それができないのであれば、自陣に過度な負荷を強いるだけになる。

2失点目のシーンで言えばその「過度な負荷」は高井がPA内の持ち場に戻りながらの対応を強いられたという形で可視化されている。車屋自身が試合後のインタビューで指摘しているが、高井が負荷の高い処理をすることになったのはそこに至る過程に問題があるから。

川崎のバックラインは負荷が高いプレーを日常的にする必要があるのは確かだが、プレーがうまくいったときのうま味と背中合わせになっていなければ意味がない。2失点目のシーンではババをひいた格好になった高井だが、最近は自身がほかの選手に不要な負荷をかける側に回ることも多い。この辺りは成長を促したい部分だ。

 2点というビハインドを抱えた川崎は3枚交代を敢行する。その中でもよかったのは交代で入った瀬古だろう。この日の川崎の中盤の守備は何よりも物量重視なところがある。さらにビハインドになれば物量重視の傾向がさらに強まるのが今の川崎だ。大島よりも単純に動ける瀬古の投入は運動量の分、純粋にプラスになる。

 湘南が一本調子なのも川崎にとっては手助けになった。中盤が前から捕まえに行くメカニズムは2点のリードを奪ってからも続けてはいたが、瀬古や小塚が交代で入ったことで、中盤のパワーバランスは川崎に傾くように。そこで試合を落ち着かせるようなスキルが湘南側にはなかった。ターンでマークを外すことができるようになった中盤で川崎は自由にサイドに振ることができるようになる。

 左サイドでは瀬川のフリーランで深さを作れるようになった川崎。押し込みながらサイドを使えるようになったことで、川崎は前半の湘南のようにバイタルで時間が作れるようになる。その恩恵を生かしたのが瀬古。細かいステップで対面の奥野を外すと、ミドルで追撃弾を決めて1点差に迫る。

 勢いに乗る川崎は登里→山田へのスイッチでファイヤーフォーメーションでの3-4-3にシフト。リスク度外視で人数をかけたプランで湘南を追い立てる。勝てば自力突破が現実味を帯びていた湘南は川崎の圧力に正面から立ち向かい、ハイラインで強気で迎え撃つことで対抗するように。

 リスク上等のプランをとる川崎にとって、終盤に助かったのは高井の競り合いの強みである。これを踏まえると前半やここ数試合で見られた高井の不調はフィジカル的なものよりも、判断が悪く相手にアプローチをかけられないところに起因しているように見受けられる。

終盤は大橋に狙いを定めることで迷いが消えたように思える。判断に迷いがなくなれば、不調を脱する兆しがあるということだろう。

 やることがシンプルだったことがプラスに働いたもう1人の選手が山田。対面の高橋に真っ向から馬力勝負を挑むと、そこから一気に置き去りにして豪快な同点弾をゲットする。途中出場らしいエネルギッシュなプレーで試合を振り出しに戻す。

 そして、仕上げは遠野。左足を振ったシュートは相手に跳ね返った不規則な弾道を描き、ゴールにすっぽりと入る。土壇場で決めた逆転ゴールは湘南の突破の可能性をつぶす大きな1点に。

今季初めての2点差の逆転に成功した川崎。大会自体は敗退となったが、チームの雰囲気が上向く劇的な勝利を手にした。

あとがき

 間違いなくチームが盛り上がる勝利だったし、現地にいた観客の心を掴むパフォーマンスだったといえるだろう。敗退してもチームの調子が上向くのであればもちろん価値がある1勝だ。

 だが、内容面からは明るい部分は見つけにくい試合でもある。途中出場で得点を決めた3人にはもちろんこの試合では高い評価を与えたいが、やはりリスク度外視で投入された局面での活躍ということは考慮する必要がある。

 山田はより整った盤面での攻略においては課題が残る出来であることが多く、この試合ではその部分は不問とされた感がある。遠野の3点目のシュートは結果こそゴールだったものの、オープンな場面で相手にシュートを当ててしまったととらえることもできる。要は「カウンター時の判断が悪い」という積年の課題と紙一重のゴールだったといえるだろう。

 劇的な展開は確かに燃える。火事場の馬鹿力が出せる選手は自分も好きだ。だが、ここはルヴァンカップのグループステージが火事場になるというのは寂しいところがあるし、火事場にしか力を出せない試合を繰り返してきたことが苦しい突破条件につながってしまったのも否めない。火事場になる前に解決する力をつけなくては、リーグ後半戦も厳しい戦いが続くことになってしまうだろう。

試合結果

2023.6.18
ルヴァンカップ グループステージ 第6節
湘南ベルマーレ 2-3 川崎フロンターレ
レモンガススタジアム平塚
【得点者】
湘南:6′ 59′ 大橋祐紀
川崎:73′ 瀬古樹, 88′ 山田新, 90+4′ 遠野大弥
主審:小屋幸栄

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