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「楽しむだけでいい」~2023.3.12 プレミアリーグ 第27節 フラム×アーセナル レビュー

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レビュー

後方の枚数確保が最優先される理由

 ここまでアウェイのロンドンダービーでは無類の強さを見せているアーセナル。5連勝&5試合連続のクリーンシートというプレミア史上初の記録達成に向けてクレイブン・コテージに乗り込む。スカッド的にも負傷者が数多く復帰。長期離脱組だったジェズスはもとより、鼠径部を負傷していたトロサールや体調不良だったウーデゴールやティアニーもメンバー復帰。久しぶりに充実したスカッドになった。

 アーセナルのボール保持は一言でいえば「慎重」だったといえるだろう。後方は3-2ブロックを形成し、明確にジンチェンコはインサイドのレーンに入り込むことが多かった。

 単にジンチェンコが絞るだけであれば、いつも通りにジンチェンコに裁量を与えて、周りはそれに合わせて動くというお決まりパターンのようにも思える。しかし、この日のアーセナルはジンチェンコがこの位置を取らなくても、この形をキープするように動くことが多かった。特に、後方の枚数を多めに用意することは遵守されており、トーマスを落としてでも人数を確保していた印象だ。

 アーセナルの動きとしては3-2ブロックを維持したスポルティング戦と同じ。この試合においては3-2-5を形成した理由を「ストッパー性能が未知数のキヴィオルを後方に置いたため」と推論したが、この日はバックラインはいつものセット。であるならば、ほかに後方の枚数をきっちり用意したくなる理由があるとするのが自然だろう。

 個人的に推したい見解は「フラムのミドルプレス対策」である。つまり、キヴィオルの起用のような自分たちの事情ではなく、相手との噛み合わせの事情である。

 今季のフラムの肝はミドルゾーンでのプレッシングである。ポイントはフラムの守備のマンツー色がそこまで強くないこと。枚数を合わせながらのプレッシングはそこまで行ってこない。立ち上がりは様子見も兼ねてプレスをかけてきたが、あくまで基本線は2トップがアンカーを受け渡しながら守る4-4-2である。

 枚数が足りない中でもプレスが機能するというのは多くの場合は前線のプレスによって、保持側のボールの進む方向が規定されていることが多い。前線が横とバックパスを切れば、保持は縦にパスを付けなければいけない状況を強要されることがある。

 横を制限された保持側が縦パスを選択せざるを得ないのは、横パスやバックパスに比べて失敗した時のリスクが少ない状況だからである。よって、方向が規定出来た時のフラムは相手に縦にパスを入れる状況を選択せざるを得ない状況を作り、中盤でそこを刈り取るといった流れでボールを奪う。

 保持側がこれを回避するにはトップの守備にコースを規定させなければいい。後方で3-2を形成することはフラムのプレス隊の外で確実にボールを受ける手助けになる。トーマスのように放っておきにくい選手がそこに入ればなお確実にフラムのプレス隊は1枚彼に引っ張られることになる。

 アーセナルのプランは2トップの外でプレーの方向を規定されないフリーマンをきっちりと作り、ボールが多少外循環になったり、あるいは後方に重くなったとしてもフラムのミドルプレスを回避することだった。だから、アーセナルのボール保持は慎重だったのである。

 これはアーセナルが成長したからこそ採用できるプランだ。昔であればアーセナルはトーマスが立ち位置を守らなければボールが前に進まないチームだった。トーマスに前を向いてボールを持ってもらい、そこから左右の大きなパスの展開もしくは縦パスを刺してもらうことが前進の王道パターンである。トーマスが列落ちしてしまうと、それだけでボール保持のためのボール保持になってしまう。それがこれまでのアーセナルだった。

 しかし、ジンチェンコの加入やバックラインの足元のスキル向上により、トーマスに前進経路を依存する必要性は前よりも明らかに下がっている。列落ちは悪とされがちではあるが、アーセナルからすればトーマスが我慢しなくても他に確実な前進のルートがあるならば問題はない。むしろ、多くの供給元がある方が相手のプレスを仕留めやすい。この日の左サイドは十分にそれに応える配球をして見せた。

 個人的にはアーセナルが後方に枚数をかけてでもフラムのミドルプレスを回避したのは意外だった。フラムにはパリ―ニャが出場停止でおらず、中盤で刈り取る部分の威力は明らかに弱まっている。よって、素直に網の間を刺しこむ縦パスで勝負するようなプランを選択するかな?と思ったからである。

 だが、個人的には期待以上だ。相手のプレスをきっちりと外すことと機能的に前進することを両立させたアーセナルには確実に成長の跡が見える。後方の枚数の確保や、トーマスの列落ちは成長したからこそ見られるチームとしての幅といえるだろう。

前線の枚数不足を補うのは

 3-2-5で後方がボールを受けた時に問題になるのは前方の崩しの頭数が足りなくなりやすいということである。アーセナルのサイドの崩しは左がジンチェンコ+マルティネッリ+ジャカ、右がホワイト+サカ+ウーデゴールという3人での崩しをベースとして行われている。

 だが、3-2-5の座組では5の大外レーンに立つ選手をカジュアルにフォローできるのはインサイドに立つ選手だけだ。2の選手が入ると中盤ががら空きになるし、バックラインの選手は物理的に遠くなる。

 先制点未遂となったシーンはオフサイドで実際に得点を記録されることはなかったが、大きな励みになった。このシーンは左サイドでジャカとマルティネッリの2人で大外から相手を外してエリア内に侵入して見せたからである。2人の関係性できっちり崩せてしまうのもまた、アーセナルが後方を重くするプランを採用する後押しになったといえるだろう。

 CFに復帰したトロサールの存在も大きい。マルティネッリとのポジション交換は人数が足りない状態で相手を外すための手助けになっており、ジンチェンコの後方支援が得られにくい左サイドを見事にサポートする。

 アタッキングサードではジャカの存在感も際立った。特にこの日のポジショニングは凄みがあった。エリア内に無理なく入っていく動きはとても華麗。35分の決定機のようにあえてパスに対して自分の延長線上にいる選手を活用して、リターンパスを貰う動きなどは彼の今季の成長が詰まったようなプレーだったといえるだろう。

 そういうわけでこの日のアーセナルの崩しはたとえ後方の枚数が多少多くても問題なく機能していたといえる。押し込みながら順調に攻撃を続けるアーセナルはセットプレーから先制。左サイドから立て続けに蹴られたトロサールのCKは3回目で結実。ガブリエウのヘディングでレノの守るゴールを打ち抜き、前半のうちにリードを奪う。

 ミドルプレスではろくにボールを奪えないことを悟ったフラムは、先制点を受けてより強気のプレッシングを行うことに。先行されたチームとしては非常に自然な流れである。よって、ハイプレスをかわすところから仕留めたアーセナルの2得点目は非常に大きかった。

 バックラインからのフィードを引き取ったジャカはボールをある程度もちながら、対面のアダラバイオを引き寄せる。リリースが早すぎなかったことで、相手の注意をきっちり自分の方に向けたのはさすがである。ここで大外にリリースし、トロサールがテテを抜ききらないまま左足で挙げたクロスがマルティネッリのゴールを呼ぶ。大外のロビンソンに競りかけることが出来たのはジャカがアダラバイオにサイドのケアを意識させていたからだ。

 こうなるとフラムはなかなかに手の打ちようがなくなってくる。ミドルプレスは空転するし、ハイプレスはひっくり返される。かといって深い位置で構えても前進ができない。ロングボールのターゲットとなるミトロビッチはサリバ相手に制空権を握るのに苦労するし、降りてきたところからボールを運べるウィリアンもこの日は不在。ボールを前に進める手段もない。

 2点目を入れたことでアーセナルはブロック守備を組むようになり、ようやく敵陣でのボール保持の時間がフラムにも出てくるようになる。アーセナルは大外から抉られてスペースを作られるような形はそこまで作られてしなかったが、大外からハイクロスを上げて、インサイドのミトロビッチを目掛けるというプランは確立。崩し切れないながらも危険性のあるクロスを上げることは出来ていた。

 だが、アーセナルはクロスを跳ね返すことができれば、ロングカウンターから決定機を作ることができる。フラムのクロスの怖さはあったにはあったが、その後迎えるカウンターのクリティカルさである程度得点に迫れている。アーセナルからすれば、ボールを持たれたとて悪い状況とは言えなかった。

 無論、ラムズデールのパスミスを咎められていれば大きく流れが変わった可能性も否定できない。だが、実際に、前半の内にさらに得点を決めたのはアーセナルの方だった。トロサールのこの日3つ目のアシストからアーセナルは大量3点のリードをハーフタイムまでに得ることが出来た。

王道パターンをいなして試合を制御

 後半、フラムはいきなり右サイドからのクロスでチャンスを演出する。ハリソン・リードのハーフスペースの裏抜けはフラムの王道のチャンスパターンの1つである。

 フラムの後半の振る舞いには「この試合を諦めていない」というスタンスが見て取れた。守備ではハイラインをリバイバル採用して、アーセナルのバックラインにプレッシャーをかけていく。ボール保持ではルリッチを最終ラインに落としてこちらもポゼッションの安定を画策。大外からはこちらも必殺技であるノータイムでミトロビッチにクロスを上げるテテも炸裂し、徐々にフラムは得点の可能性を高めていくようになる。

 ただし、この日のアーセナルは自陣の深くに押しこまれても、ロングカウンターから十分に得点の可能性を感じさせることが出来ていた。前半も多くのチャンスを作ったが、後半も押し込まれてからの反撃は十分。フラムが攻める機会は増えたが、それがアーセナルの得点の可能性に蓋をすることはなかった。

 主導権は60分を過ぎると、徐々にアーセナルの方に傾くようになってくる。押し込まれる状況を改善しようと逆にハイプレスに出て来たアーセナルに対して、フラムのバックラインが徐々にフォームを崩すようになったのだ。

 前線の交代カードが乏しいフラムがハイプレスを続けにくくなったこともあり、この時間以降はアーセナルが落ち着いて試合をコントロールする。サカ、ジンチェンコをはじめとする主力を下げ、プレータイムが欲しい選手を(アルテタにしては)早めに投入。ジェズスはおよそ15分ほどのプレータイムで軽い動きを披露し、アーセナルファンを安心させることが出来た。決定機をレノにぶち当ててフイにするのはご愛敬である。

 試合はそのまま終了。シャットアウトでの勝利を決めたアーセナルがアウェイのロンドンダービーをクリーンシートで5連勝というプレミア初めての偉業を成し遂げた。

あとがき

 ウィリアンとパリ―ニャが不在という割引要素はありながらも、中位安定のフラムにこれだけ力の差を見せつけることが出来たのは素直に喜んでいい。プランもほぼすべてハマっていたし、アーセナルは完勝である。

 プレミアリーグはタフな試合の連続であり、こういう試合のめぐりあわせは首位と言えど多くはないことはアーセナルファンは身に染みているだろう。ここ1ヶ月はハラハラの連続で試合後にどっと疲れる内容ばかりだったはずだ。だからこそ、たまに出てくる幸運な試合は楽しむだけでいい。アーセナルの崩しを堪能しながら、今季の成長を体感するのにまさにうってつけの試合になったといえるだろう。

試合結果

2023.3.12
プレミアリーグ 第27節
フラム 0-3 アーセナル
クレイヴン・コテージ
【得点者】
ARS:21′ ガブリエウ, 26′ マルティネッリ, 45+2′ ウーデゴール
主審:デビッド・クーテ

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