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「Catch up Premier League」~Match week 26~ 2023.3.4-3.6

目次

マンチェスター・シティ【2位】×ニューカッスル【5位】

わずか5分、圧巻の鎮圧劇

 立ち上がりの攻めの手段は両チームとも非常にはっきりしていた。ニューカッスルは押し込んでからのセットプレー、シティはボールを奪い取ってからのロングカウンター。ボールを支配すると見られていたシティが攻撃で急いだことで試合は落ち着きのない展開を見せていた。

 シティは落ち着くとボール保持をスタート。3-2型に変形した後方からビルドアップを開始する。ニューカッスルはこれに対して躊躇なくハイプレスを行う。特にシティの右サイドのDFへのプレスは見事に自陣に追い込むことができていたと言っていいだろう。

 ハイプレスには当然リスクがある。もちろん、ひっくり返されてカウンターに移行されるというリスクだ。シティはカウンターも鋭いし、バックラインのプレス耐性もある。プレスをかける側にかかるリスクはかなり高い。

 このプレスに躊躇なく出ることができたのはニューカッスルの中盤のフィルター性能の高さが要因の1つ。バックラインがプレスを超えることができても、ミドルゾーンでニューカッスルの中盤がストップ。ブロックを形成する時間を稼ぐことに成功する。

 もう1つの要因はデ・ブライネの不調。この日のシティの攻撃は縦に鋭いものが多く、デ・ブライネにうってつけの展開だったと言えるだろう。しかしながらキックのフィーリングが合わず、プレー選択も渋いものが多い。せっかくニューカッスルの中盤を超えることができたシチュエーションでも、チャンスをフイにしてしまうシーンが目立った。

 ブロックを組む前に攻撃を完結させるか、それともブロックを破壊するのか。シティの攻撃が得点に結びつくにはどちらかをクリアする必要がある。先制点のスコアラーであるフォーデンがクリアしたのは後者。右サイドからの独力のカットインでブロックをこじ開けて貴重なゴールを手にする。

 大外でドリブラーがボールを持った時には、ニアを塞いでいることが多いジョエリントン。だが、このシーンではハーフスペースに抜けていくデ・ブライネに気を取られてしまった。空いたカットインのコースをフォーデンが見逃さなかった形。ニューカッスルのブロックが一瞬後手になる瞬間を一気に仕留めた。

 徐々にシティがニューカッスルのプレスに慣れてきたこともあり、試合は少しずつシティ側に主導権が流れていく。しかし、ニューカッスルのアンカーのギマランイスのケアの方法がいまいち定まらない。ギマランイスは後方からボールを受けて反転する余裕はあり、ニューカッスルのゲームメイクはここが空く限り死ぬことはない。

 終盤はギマランイスから右サイドにラインブレイクを促すフィードが通すことでチャンスを得たニューカッスル。ウィルソンが右サイドから折り返されたシュートをミートすることができれば、前半のスコアはシティの1点リードでは終わらなかったかもしれない。

 後半、ニューカッスルのセットプレーから始まる立ち上がりは前半の焼き直しのようだった。デ・ブライネのフィーリングの合わなさも相変わらず。ニューカッスルは少し保持を模索するが、基本的には前半の陸続きの物語と言えるだろう。

 そこから15分ほど試合はシュートがない静かな展開に。すると、エディ・ハウは60分を待ったように動き出す。ウィロック、イサク、サン=マクシマンの凶悪な3人を投入。これで詰まり気味の状況の打開を図る。

 交代は効果があったと言えるだろう。特に右サイドの裏に流れるイサクとアルミロンの相棒になったウィロックは投入直後から同点ゴールに近づく雰囲気を出していた。

 グアルディオラは3枚替えを見て、即座にデ・ブライネを諦めてベルナルドを投入。これがシティのプレッシング強化の合図。そして、ものの見事にハイプレスからのカウンターでベルナルドが決定的な2点目を決める。凶悪トリオ投入からわずか5分の出来事だった。

 試合は2点目でシティが押し切ることに成功。この後試合を控えるアーセナルにプレッシャーをかける勝利を挙げた。

ひとこと

 圧巻の鎮圧劇。またしてもベルナルドを使ったプレッシングで試合の流れが不安定な時間帯を一気に自分のもとに持ってきた。シティ、怖い。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
マンチェスター・シティ 2-0 ニューカッスル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:15′ フォーデン, 67′ ベルナルド
主審:サイモン・フーパー

チェルシー【10位】×リーズ【17位】

長いトンネルをようやく越える

 リーグ戦での最後の勝利は1月15日のクリスタル・パレス戦。チェルシーはもう1カ月半以上もリーグ戦の勝利から遠ざかっている。それどころかリーグ戦での最後の得点は2月11日のウェストハム戦。この試合を逃せばチェルシーはリーグ戦で1ヶ月ゴールがないことになってしまう。

 加えて、チアゴ・シウバを失うという苦境に陥っているチェルシー。この試合でひねり出したのは3バックの採用だった。後ろに重くなりがちという問題点は今更であるし、この試合はフォファナとバディアシルという足元に自信がある2人がワイドのCBを務める。チェルシーはここ数試合の中では落ち着いてビルドアップを進められたといえるだろう。

 バックラインに加えてエンソとコバチッチもビルドアップに参加。3CBに加えて5人のビルドアップ隊は左右にボールを散らしながら前進する。前後分断気味になるのはご愛敬だが、ここも4バックのリーズが大外を空けていたので効果的な配球だった。フェリックスの降りる動き、チルウェルの抜け出しなどこれまでの武器(前後分断気味だけど)も絡めながらチェルシーはうまく前進が出来ていた。

 リーズはチェルシーの保持に対してどういう対策を取りたいのかはあまり見えてこなかった。2トップが無理にプレスに行かないといえば聞こえはいいが、プレッシャーのかからない中で外に展開されて危ないクロスまで入り込まれているのだから、我慢した結果の先に何も残っていないじゃないか!と言われても仕方ない状況ではあった。

 奪ったら縦に早くという意識は悪くなかったとは思う。サマーフィルの突破はファウルを奪えていたし、アダムスとマケニーの中盤のデュエルも分は悪くない。

 だが、カウンターでハフェルツが決定機を迎えるなど、チェルシーも早い展開はもってこい。後方のCBから中盤のデュエルに援軍が素早く来ることも踏まえると、リーズは速い攻撃で明確に主導権を握れたわけではなかった。

 守備ブロックにおいてはクリバリの存在感が光った。加入当初の壁感のある守備でリーズの攻撃を次々とシャットアウト。ゴールに迫らせることはなかった。

 迎えた後半も優勢だったのはチェルシー。ライン間のフェリックスから狭い幅を攻略し切ると最後はスターリングが決定機を迎えるなど、徐々にゴールに近づいている予感はしていた。

 そしてゴールが決まったのはセットプレー。1か月弱ぶりとなる待望のゴールを決めたのはフォファナ。ようやくチェルシーが前に出ることに成功する。

 リーズは失点以降はボールを持てるように。ただし、失点してもなかなかテンポが上がらない。ラターとアーロンソンの2人がプレスでスイッチを入れられないことが大きな要因に見える。これまでは放っておいてもプレスに出て行ったリーズの面々がビハインドでこれだけ動けないというのはあまり記憶にない。

 それでもニョントとジョゼフの投入から徐々に前線に動きが出てくるようになったリーズ。終盤はチェルシー陣内で攻め込む時間を多く作れるように。チェルシーの交代選手はなかなか保持で存在感を発揮することが出来ずに苦しんでいた。

 最後はメリエの枠内シュートまで飛び出したが、なんとかケパを中心にクリーンシートを死守。クリスタル・パレス戦以来1か月半ぶりとなる勝利で長いトンネルの脱出に成功した。

ひとこと

 課題はあるし、リーズの出来の悪さに助けられたのも確か。それでも長いトンネルを抜けたことには意味がある。チアゴ・シウバの負傷を乗り越える手ごたえのある3バックが一定の成果を出したのは大きい。守り切るのはなんとかなる公算が付いたが問題はいかに得点を奪うか。ドルトムント撃破のポイントはここにかかっているだろう。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
チェルシー 1-0 リーズ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:53’ フォファナ
主審:マイケル・オリバー

アーセナル【1位】×ボーンマス【19位】

途中交代のネルソンが起爆剤に

 レビューはこちら。

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 試合は衝撃的な幕開けでスタート。ボーンマスは立ち上がりからデザインされたキックオフでアーセナルを翻弄。わずか9秒足らずでアーセナルのネットを揺らすことに成功する。

 アーセナルはこの先制点に対して慌てずに対応したといっていいだろう。サイドからの攻撃にはそれなりに手ごたえがあったはず。サカを軸とした仕掛けでボーンマスのDFラインの高さを操り、エリア内のスペースメイクを行う。中盤ではトーマスが即時奪回に睨みを利かせ波状攻撃の機運を高めていた。

 しかし、20分すぎにトロサールが負傷交代すると、徐々にアーセナルのブロック守備の攻略の雲行きは怪しくなっていく。交代に伴い中央に移動したマルティネッリがいなくなった左サイドでは、連携が未整備の選手だけ取り残されることに。試行錯誤をしながら攻略法を探していたが、なかなか味方のラインブレイクのタイミングを掴むことが出来なかった。まだフィットネス的に十分ではないだろうスミス・ロウや限られた先発のチャンスとなったスミス・ロウにとっては難しい試合となった。

 中央ではマルティネッリが動きだしてしまい、中央で我慢が出来ず。右サイドでは冨安とサカの連携が見られず。サカを追い越すSBからのチャンスメイクという大きな武器の1つが活きず。アーセナルは時間の経過とともに停滞感が漂うようになる。

 さらにボーンマスは少ない攻撃機会ながらもソランケが抜群の存在感を発揮。中央の高い位置でボールをキープすると、ビリングの抜け出しを促す。悪い体勢でも相手に寄せられてもボディバランスを崩さないソランケの存在はボーンマスの希望となっていた。

 頻度は高くない流れでも攻められる手ごたえを感じたボーンマスは後半に少しずつラインを上げていく。すると、セットプレーから追加点をゲット。トーマスのマークを外したセネシのヘディングでリードを2点差に広げる。

 追い詰められたアーセナルはここから猛チャージ。マークを外してしまったトーマスがセットプレーでやり返しとなる追撃弾を挙げることに成功する。

 そしてここからの主役はネルソン。左サイドで抜け出す形からファーのホワイトのゴールをおぜん立てすると、真骨頂となるのは97分の決勝点となるボレー。途中交代から左サイドの活性化とミドルシュートでの決勝点と完璧な起爆剤としての役割を果たした。

 ユナイテッド戦、ビラ戦に続きまたしても終盤の一撃。薄氷ながらも確実に勢いのつく4連勝でシティとの勝ち点差5のキープに成功した。

ひとこと

 チームの雰囲気はかなり高まっている。終了間際の劇的なゴールというとミラクル・レスター相手にゴールを決めたウェルベックが思い出されるが、あの年のようにここからの失速で優勝のチャンスを逃すことだけは避けたいところだ。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
アーセナル 3-2 ボーンマス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:62‘ トーマス, 70’ ホワイト, 90+7‘ ネルソン
BOU:1’ ビリング, 57‘ セネシ
主審:クリス・カバナフ

アストンビラ【11位】×クリスタル・パレス【12位】

エメリのやりたいことを完全体現

 エンジと白×青ベースのユニフォームが対戦した試合はこの節では2試合あった。もう一つのブライトン×ウェストハムは明らかにブライトンがボールを持って支配していたのだが、この試合はエンジ色のアストンビラが保持でクリスタル・パレスを圧倒した試合だった。

 バックラインはマルティネスを挟むようにCBがボールを持ち、前プレに人数をさかないクリスタル・パレスに対してプレスを誘い込むような振る舞いを見せる。パレスの中盤を食いつかせたらビラは攻撃を一気に加速させる。ラインの裏に走り込むキャッシュを活かせるくらいにはアストンビラはクリスタル・パレスの守備の陣形を翻弄することができていた。

 この日のアストンビラの振る舞いはエメリがやりたいポゼッションを体現している感じがした。相手が食いつくまではねちっこくバックラインがボールを持ち続ける。2列目はインサイドでプレーし、最終ラインの矢印を前に向ける。SBが大外から一気にラインの裏側を強襲。一気にラインを押し下げる。

 ミングスの長いキックやカマラの縦へのパスはこうした展開にうって付け。キャッシュの抜け出しは再現性を持って行うことができていたし、これがアンデルセンのオウンゴールにつながっていた。オウンゴールとはいえ、パレスは構造で殴られ続けての失点と受け止めるべきである。

 パレスはトランジッションからザハがネットを揺らし、早々に得点かと思われたが、これはオフサイド。このシーン以降はパレスはボールの取り所に困り、ポゼッションの機会を得ることができない。それでも先制点以降は、右サイドからボールを運ぶオリーズから徐々に攻めの機会を得るようになる。

 後半もスタンスを変えなかったアストンビラだったが、中盤の舵取り役として君臨していたカマラの負傷交代は一大事である。代わりに入ったのが本職でないチェンバースとなったこともあり、ビラの中盤は混乱気味。パレスにとっては強襲をかける大きなチャンスを迎える。

 だが、ここでドゥクレが退場。ファウルした相手がそのチェンバースというのもなかなかに切ない。これで混乱に陥るのはパレスの方になってしまった。

 終盤にセットプレーから決定機を迎えることはできたパレスであったが、これを掴むことはできず。10人になったタイミングが悔やまれる痛い敗戦となった。

ひとこと

 カマラが負傷した後はややトーンダウンしたとはいえ、ビラのボール保持は会心の出来。それだけにカマラの離脱がどのくらい長引くかは気になるところだ。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
アストンビラ 1–0 クリスタル・パレス
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:27‘ アンデルセン(OG)
主審:クレイグ・ポーソン

ブライトン【8位】×ウェストハム【16位】

攻め続けられるメンタリティ

 立ち上がりはブライトンがボールを保持しながらスタート。バックラインは落ち着いてボールを持ちながら安定のポゼッションでウェストハムの様子を伺う。

 ウェストハムはミドルゾーンで構える形でスタート。4-1-4-1のフォーメーションからわかるように中盤を噛み合わせながら相手のCBにある程度の時間を与えながら守ることが狙いだっただろう。

 だが、この日のウェストハムのブロックは我慢が効かなかった。中盤プロテクトが優先のはずのパケタが1列前のCBにプレスに出ていくことが多く、ウェストハムはここからズレが発生。パケタがずれた分のプレスのズレを後方の選手が埋めることができなかったので、ブライトンはここから前進ができるように。SBを噛ませながらカイセドがフリーになるという事態が連発し、ここから前進のきっかけを掴むことになる。

 このビルドアップでの+1を使う正確性は今のブライトンの強みである。かつ、そこのズレがないときにマック=アリスターとファーガソンが前線から降りてくるタイミングが非常に的確。特にファーガソンはこの部分で非常に長足の進歩を遂げていると言えるだろう。

 そして自陣から脱出することができたらマーチと三笘の2人がアタッキングサードで待ち構えている。バックラインが中盤を引き付けながらWGにボールを届けるという流れを実践できていたので、三笘とマーチがボールを受ける状況は常に対面相手に仕掛けられる良質なものだった。

 先制点はこの2人から。逆サイドのマーチから大きな展開を受けた三笘が1stコントロールでジョンソンを交わし、代わりに対応したボーウェンがPKを見城。これをマック=アリスターが仕留めて先制する。

 ブライトンは先制点以降もペースを握っているが、ややつなぎの局面やスピードアップの状況で徐々にミスが出る。ウェストハムは23分にようやくこの試合初めての決定機を得ることができた。だが、ブライトンとしてはベースは保持で握れているので問題はそこまで大きくない状況。チームとしての目指す方向性を考えても精度を突き詰めていくしかないので、気にせず続けていくということだろう。

 後半は巻き返したいウェストハム。高い位置からボールを取り返しにいくが、なかなか反撃のきっかけを掴むことができずに苦戦。逆にハイプレスをハメ直してやり返すことで主導権をブライトンに握られ続けることとなった。

 後半のブライトンの攻め立て方は圧巻だったと言えるだろう。セットプレーでフェルトマンがボールを奪った時点で十分に試合の決着はついたように見えたが、この日のブライトンはひたすらに攻め続けることができていた。三笘のゴールももはや日常茶飯事である。

 三笘やマーチといった主力組が交代した後もギラギラした控え組が攻撃の手を緩めない。チームとして良い循環が回っていることを感じさせる終盤の攻め立て方。明らかにオーバーキルのウェストハムからすればいい迷惑である。

 試合は終了間際にウェルベックが素晴らしいゴールを決めて4-0で終了。内容に見合った大勝で上位追走に成功した。

ひとこと

 昔、「川崎は大量リードをしていても攻め続けられるという才能を持っている」というツイートを見かけたけど、この日のブライトンにはそのメンタリティを感じた。関係ないけど、バイエルンというかミュラーはこのメンタリティの遥か最先端にいるように思う。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
ブライトン 4–0 ウェストハム
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BHA:18‘(PK) マック=アリスター, 52’ フェルトマン, 69‘ 三笘薫, 89’ ウェルベック
主審:スチュアート・アットウェル

ウォルバーハンプトン【15位】×トッテナム【4位】

あべこべの後半にツケを払う

 立ち上がりは明らかにスパーズペースだったと言えるだろう。能動的な日のトッテナムはプレッシングも勢いに乗ることができているが、この日はまさにそれ。高い位置から相手を捕まえることができていたし、そこからスムーズに敵陣に進むことができていた。

 特にこの日のウルブスで気になったのはDF-MF間のスペースのケアの甘さである。ソン、ケイン、クルゼフスキの3人は狭いスペースで悠々とパスを繋ぐことができていたし、そうなれば大外のボロもオーバーラップのタイミングを掴むことができる。守備から攻撃までひと繋ぎでいい循環を回すことができていた。この日のトッテナムのイレブンは並びを見るとやや攻撃により過ぎている?という印象だったのだが、そうしたバランスをつかれることはなし。試合は完全にトッテナムペースに流れている。

 だが、トッテナムはなかなか決定機を掴むことができない。特にシュートタッチの悪さが際立ったのはソン。今季はなかなかシュートが決まらないが、この日は特に頭を抱えたくなるほどひどかった。と言ってもベンチに待ち構えているのはこちらもゴール欠乏症のリシャルリソンなので難しいところだけども。

 それで言えばウルブスの前半も頭を抱えたくなる出来だった。いつもであれば多少のプレッシングはレミナorネベスのサリーで解決していたのだけども、そうした手段をとっても一向に保持は安定しない。守備では先に述べたように人がいるのに守れていない状況であり、トッテナムのシュート精度に助けられる格好になった。さらにはコスタも負傷するなど、悪い流れを体現するような連鎖がピッチでは起こっていた。

 迎えた後半、トッテナムは2枚の交代とシステム変更を行う。レミナ→コリンズの交代でシステム変更はすぐに読み取ることができた。だが、方向性としては後方を増やす形。かつ、トッテナムのフォーメーションに噛み合わせる形である。この日のウルブスは後方の人がいないことが守備の問題になっていたわけではなかったし、プレス回避の観点からも噛み合わせが良くなる形はトッテナムのプレスに対してあまり相性が良いものではないように思えた。

 それだけにこれでトッテナムがプレスをやめてしまったという展開には驚いた。撤退守備優先のプランかと思ったウルブスは後半押し込み始めるという流れに。降りていくサラビアを逃がしてしまうトッテナムには前半のプレスの積極性は見る影もなかった。

 右サイドのトラオレは前半に覆い隠されていたトッテナムの攻撃に偏った布陣の歪さを徐々に露わにしていったし、後半途中で投入されたクーニャはウルブス側のプレス隊として機能。徐々に試合はトッテナムペースだった前半とあべこべの展開になっていったと言えるだろう。

 そして決定機を活かしたのは流れに乗ったウルブス。左右から上がったクロスを処理しきれず、最後に仕留めたのはトラオレ。前半からは考えられない展開の一変。ソンをはじめとするアタッカー陣が外し続けたツケを驚きの形で払う結果となった。

ひとこと

 仮に自分のファンのチームの試合だとしたら目を覆いたくなる結果だ。不甲斐ないアタッカー陣と勇気のないバックライン両方に情けなさを覚えるだろう。大きな不安を覚えた状態でトッテナムはCLに臨むことになった。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
ウォルバーハンプトン 1-0 トッテナム
モリニュー・スタジアム
【得点者】
WOL:82‘ トラオレ
主審:ティム・ロビンソン

サウサンプトン【20位】×レスター【14位】

好機をフイにしたイヘアナチョ、セインツに引き摺り込まれるレスター

 勝てば最下位を脱出することができるサウサンプトン。今節の相手のレスターを3連敗で残留争いに引き摺り込むことができるおまけ付きというシチュエーションである。

 立ち上がりから勢いに乗った攻撃に打って出るサウサンプトン。サイド攻撃から縦に早く侵入する。左サイドはウォーカー=ピータースが前節アーセナルにメタメタにやられてしまったテテと対峙する。逆サイドではメイトランド=ナイルズが足の長いノックオンドリブルでボールを前方に運んでいた。

 一方のレスターはWGを軸にボールを運んでいく。前節は悔しい思いをしたテテだったが、相手が変わることで当然どこまでできるかは変わる。アーセナルほど支配的ではないサウサンプトンに対して十分に攻撃の起点になることが出来たといえるだろう。

 よって、試合は激しいサイドでのデュエルをベースにしたものとなる。基本的にはサイドアタックはどちらがボールを持つにしても攻撃側が優勢であり、ボールを持たれた側は比較的苦戦が続いていたといっていいだろう。

 そうした中で試合は意外な形で動く。エリア内でのハンドを犯してしまったのはレスターのカスターニュ。現代のサッカーにおいてはあまりにも軽率といえる類のハンドを取られてしまい、サウサンプトンにPKが与えられる。稀代の名手であるウォード=プラウズを前に絶体絶命だったレスターだが、ウォードがこのPKのセーブに成功。レスターは事なきを得る。

 しかし、そんな安堵もつかの間、レスターは3分後に失点を喫することに。最終ラインの裏に抜け出したアルカラスに対してアダムスからボールが通ると、そのままゴールを決めて先制。これまで右足でチームを助けて来たウォード=プラウズのミスをチームメイトが助ける形で先制点を奪う。

 リードを奪われたレスターはここからガンガン。休まらない直線的で一本調子な早い攻撃でサウサンプトンに迫る。もう少し、落ち着かせてもいいかな?と思ったけどもなまじイケてしまうため、そうした部分が邪魔をするのだろう。

 後半はレスターはもう少しボールを持って落ち着く。CB、CHの4枚はボールを回しながら、ポゼッションから攻撃を始めていく。

 なお、リードしているサウサンプトンは特に先制したにも関わらず試合を落ち着かせる気配はなさそうな感じ。むしろ、アップテンポな状態に持ち込んで、速い展開に立ち返る形で序盤のような勢いのある状況をつくりだしていく。

 レスターはプラートの投入から攻撃を徐々に活性化。左サイドをフリーで駆け上がる彼からゴールに迫る状況に。しかしながら、この日はイヘアナチョが振るわなかった。前半から訪れるチャンスをことごとく逃してしまい、決定機をフイに。どうも彼の日ではなかったようである。

 ヴァーディ投入後も最後までピッチに残してもらったイヘアナチョ。しかし、彼がネットを揺らすことは最後までなし。アルカラスの決勝点を守り切ったサウサンプトンが残留争いをさらに混沌とさせる3ポイントを確保した。

ひとこと

 ここで勝ったら面白いな!というタイミングできっちり勝つサウサンプトン。レスターに対して降格の恐怖を現実的に突きつける大きな1勝を手にした。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
サウサンプトン 1-0 レスター
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:35‘ アルカラス
主審:ロベルト・ジョーンズ

ノッティンガム・フォレスト【13位】×エバートン【18位】

喧嘩は進む、シュートは撃たれず

 前節、ウェストハムに奇妙な4失点での大敗を喫したフォレスト。一応現状の順位は降格圏とは差があるとはいえ、まだまだ予断を許さない状況は続いている。対戦相手のエバートンも苦しい状況だ。ダイチの就任当初の高揚感は徐々になくなり、ジリジリした試合が増えている。もっともこれが本来の彼の持ち味のような気もするのである意味軌道に乗ったともいえるのかもしれない。

 フォレストのボール保持は4-3-2-1。まず目についたのはアンカー起用が多いシェルビーがフロイラーと入れ替わる形でIHを務めていたことである。ボール保持は基本的には外循環。フォレストの攻撃の最短ルートであるライン間にボールをなかなか入れることができない。

 どちらかといえば前進はエバートンの方が順調なように見えた。サイドからボールを運ぶ意識はサイドがフォーメーション的にがら空きのフォレストに対しては刺さっていたし、後方からSHへの対角のパスからクロスを入れることもできていた。

 左右のクロスからエリア内の迫力を生かしてフォレストを自陣に釘付けにするとそのままPKを獲得。シェルビーがマクニールを倒してしまったPKをグレイが決めた。

 だが、同点後は相手の攻撃をやや受けてしまうエバートン。その隙をついてフォレストは同点に。この試合初のライン間のギブス=ホワイトからの攻撃でウッドとのワンツーを決めて抜け出すと、シュートのこぼれ球をジョンソンが決めて追いつく。

 この失点でギアを入れ替えたエバートンとフォレストはここから打ち合いに。殴り合いとなった前半の終盤を制したのはデザインされたFKから勝ち越しゴールを決めたエバートン。再びリードを得ると、そこからは消極的な姿勢を棚上げし圧力をかけたまま前半を終える。

 後半は激しいデュエルが目につく試合だった。早めにクロスを入れるフォレストの姿勢は前半以上に早い展開を助長したし、エバートンもそうした展開はお手のもの。試合は混沌する。

 混沌とした試合は徐々に乱戦ムードに。互いに審判を見ながら転んでみたり、至る所で小競り合いが起きる状態に。シュートもろくに打たず、小競り合いに専念して時間がただただ過ぎていくというのは両チーム以外のファンからすると何とも言えない時間だったといえるだろう。

 喧嘩ばかりで時間を使っていてまずいのはビハインドのフォレストの方である。4-2-3-1という攻撃型のシフトを採用して圧力をかけていく。すると、カウンターを発動しようとしたドゥクレのミスからフォレストのカウンター返しが炸裂。好調のジョンソンのゴールで終盤に試合は振り出しに戻る。

 終盤も撃ち合いになったこの試合。わずかなところまで迫ったのはフォレストの方だったが、最後まで勝ち越しゴールでネットは揺らせず。試合は痛み分けに終わった。

ひとこと

 大げんかというより小競り合いが多かったので、エバートン×リーズに比べると喧嘩的な観点では物足りなさがあった。

試合結果

2023.3.5
プレミアリーグ 第26節
ノッティンガム・フォレスト 2-2 エバートン
ザ・シティ・グラウンド
【得点者】
NFO:19′ 77′ ジョンソン
EVE:10′(PK) グレイ, 29′ ドゥクレ
主審:ジョン・ブルックス

リバプール【6位】×マンチェスター・ユナイテッド【3位】

ゴールをプレスのエネルギーに変えて無限ラッシュ

 4位争いレースの中枢に参入間近なリバプールと優勝争いを睨む上ではこれ以上離されるわけにはいかないユナイテッド。後半戦のナショナルダービーは両チームの異なる目標のために負けられない一戦となった。

 立ち上がりは両チームとも非常にエネルギッシュだった。ピッチのあらゆるところに顏を出してリバプールの濃い攻撃を食い止めようとしていたフレッジが展開を象徴するハードワークを見せていたのが印象的だった。

 試合の序盤からどちらかといえばペースを握っていたのはリバプールの方だった。落ち着かなかった試合の立ち上がりにおいては直線的な縦への迎撃でユナイテッドの守備陣を脅かしていたが、少し時間が経つとボールを持ちながらの攻略にシフトチェンジする。

 この試合のリバプールの攻め筋で少し異なっていたのは3トップのバランスである。直近の3トップの配置はベーシックな1トップ+2人のWGという形で配置されることが多かったが、この試合ではCFのガクポを中央で上下動させる分、WGの2人はナローなポジションを取っていた。バランスでいえば少し前のCFが全滅した時に仕方なく使っていた擬似2トップのようなバランスとなっていた。

 その分、サイドの攻撃は後方が行うことになる。SBはもちろんのこと、右のワイドにおけるエリオットの貢献は非常に印象的だったといえるだろう。リバプールの保持は前からのプレスでテンポを奪いたいユナイテッドに十分対抗できているものとなっていた。

 前線はナローで後方は広がりながら支援というリバプールのスタンスに対して、ユナイテッドは直線的なロングカウンターを軸に反撃を行う。だが、得点にはもう一味二味足りない印象。ボールを奪った後にもう少しつないでから前に進むことができれば、前線に無理なく人が送れる印象だった。ラッシュフォードがいればそれでもいいぜ!なのかもしれないが、少し攻撃の早さに前線がついていけていなかった印象を受けた。

 30分過ぎにはそうしたロングカウンターの流れから敵陣でのプレータイムを徐々に得ていくように。序盤に持っていかれた流れを引き戻すようにポゼッションでの回復を見せる。だが、先制点を決めたのはリバプール。ユナイテッドが志向していた直線的な攻撃のお返しという形でガクポが先制ゴールをゲット。均衡していた前半に大きなリードを奪う先制点を手にする。

 迎えた後半、ポゼッションでスタートするユナイテッドにいきなり落とし穴が。前半よりも数段強気でプレスに出てくるリバプールにいきなりポゼッションを咎められてしまったのである。ヘンダーソン、エリオット、ファビーニョの中盤3枚で圧をかけまくったプレスからヌニェスが後半のオープニングゴールを飾ると、これがリバプールのゴールラッシュ開始の合図に。

 3点目で実質試合は決着といっていいだろう。雨の影響か足を取られたような対応になったマルティネスをサラーが一蹴し、ガクポが角度のないところから決める。3点という得点差もさることながら、コテンパンにユナイテッド守備陣を叩きのめすという構図がこの試合の決着がすでについていることを示していた。

 ここからはボーナスステージである。自陣からのカウンターとなった4点目をはじめとしてリバプールはここからとりもとったり7得点。テン・ハーグが試合後のコメントで指摘した通り、得点差を重ねるたびにユナイテッドの守備陣から覇気がなくなっていたのは事実だが、それでもこの日は難易度の高いゴールを決めまくったリバプールの攻撃陣を褒めるべきだ。

 難易度の高いシュートを決めて、それをプレスのエネルギーに変えるという恐ろしい出力の仕方をしていたこの日のリバプール。この日の出来であればどんなチームからも勝利を視野に入れられるだろう。サラー、ヌニェスのパフォーマンスも圧巻だったが、ガクポとエリオットがこの水準のパフォーマンスを継続させることができれば、CL出場権の獲得は間違いないだろう。ファン・ダイクとコナテが揃ったDFラインも強固さを証明し、世界に特大なインパクトを与える圧巻のゴールショーに花を添えた。

ひとこと

 先週のカラバオカップの記事の終わりに「国内カップ戦のタイトルはリーグでのパフォーマンスに簡単に上書きされてしまう」と書いたのだけど、まさかこんなに早く特大インパクトに襲われるとは思わなかった。強度で勝負したいユナイテッドが過密日程でこのリバプールと衝突というのは悪夢でしかないだろう。事故としてとっとと忘れて来週以降の試合に備えたい。

試合結果

2023.3.5
プレミアリーグ 第26節
リバプール 7–0 マンチェスター・ユナイテッド
アンフィールド
【得点者】
LIV:43‘ 50’ ガクポ, 47’ 75‘ ヌニェス, 66’ 83‘ サラー, 88’ フィルミーノ
主審:アンディ・マドレー

ブレントフォード【9位】×フラム【7位】

スコア以上の完勝でカップ戦争いに生き残る

 第26節のトリを飾るのは欧州カップ戦争いの生き残りをかけたロンドンダービーだ。無敗記録を伸ばしつづけるブレントフォードが昇格組のフラムを迎え撃っての一戦となる。

 先手を打ったのはブレントフォード。ハイプレスでボールを奪い、サイドの裏にボールを送りセットプレーを得てチャンスを作る。勢いを持って試合に入ることができたブレントフォードはそのまま先制点をゲット。セットプレーからピノックがゴールを奪う。

 一方的な展開になった理由はブレントフォードがいい入りをしたというのもある。だが、両チームの相性も大いに展開に影響しているように感じた。フラム攻略のキーはミドルプレスをいかに超えるかにある。先週対戦したフォレストはフラム対策を実装するために持ち味のライン間への縦パスを捨てて、ロングボールでミドルゾーンを越えることに集中していた。だけども、本来の持ち味を失った分、自分たちの理想とする攻撃もできなかった。

 一方でブレントフォードはそもそも長いボールを無理なく攻撃に組み込めるチーム。よって、フラムのミドルゾーンを越えるのに自分たちのスタイルを変える必要がなかった。前線では3トップに加えてダムズゴーも体を張っており、バックラインは非常に積極的に長いボールを入れることとなった。

 フラムの保持に対してもブレントフォードは積極策。通常は4-1-4-1気味の形を採用する際は比較的撤退気味の色が強いブレントフォードだが、この日は的確にフラムの攻撃をサイドに追い込み、高い位置で閉じ込めてからボールを刈り取っていた。

 25分を過ぎたあたりからようやくボールを持つことができたフラム。大きな展開から逆サイドにボールを逃しつつ、トライアングルからクロスを上げる形を作っていた。しかしながら、なかなかもう一歩入り込むことができない。それだけにセットプレーからの同点ゴールを決めることができたのは大きかった。アンドレアス・ペレイラのFKを公式戦5試合連続ゴールとなるソロモンが押し込んで、同点にしてハーフタイムを迎える。

 後半は再びブレントフォードが圧力をかけてのスタートに。その勢いのまま勝ち越しゴールに漕ぎ着けるのだから、前半の焼き直しである。勢いに乗ったままPKを獲得したブレントフォードは再びリードを奪う。

 リードを奪ったブレントフォードはそのまま主導権を握り続ける。この日のブレントフォードはプレスと撤退の使い分けはうまい。フラムはバックラインが距離をとりながら押し返そうとするとが、相手の撤退に対して上回ることができるスピードアップを見せることができない。

 ブレントフォードは押し下げられてしまってもロングカウンターで十分に対応は可能。トニーはミドルゾーンからレノを脅かすようなロングシュートを放つ余裕すらあったくらいである。

 ブレントフォードは右サイドから交代で入ったシャーデがロビンソンを突破し、マイナスを折り返しをイェンセンが仕留めることに成功。試合はこれで完全決着。最終スコア自体は終盤にヴィニシウスが押し込むことで3-2という僅差になってはいたが、試合はブレントフォードが多くの時間でリードと主導権を奪いながら完勝した試合と言えるだろう。

ひとこと

 ブレントフォードのパフォーマンスとフラムへの相性の良さを感じた試合だった。これで無敗記録はさらに伸びることに。今の彼らはどこにとっても対戦したくないチームである。

試合結果

2023.3.6
プレミアリーグ 第26節
ブレントフォード 3-2 フラム
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:6’ ピノック, 53‘(PK) トニー, 85’ イェンセン
FUL:39‘ ソロモン, 90+9’ ヴィニシウス
主審:アンソニー・テイラー

今節のベストイレブン

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