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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~メキシコ代表編~

目次

第1節 ポーランド戦

■レヴァンドフスキに立ちはだかる『名物男』

 サウジアラビアがアルゼンチンを下すという衝撃的なスタートを飾ったグループCの戦い。ここで勝利すればアルゼンチン相手に一歩前に出る絶好のチャンスとなった両チームの一戦である。

 ポゼッションで優位を取ったのはメキシコの方。保持におけるメキシコは左右の形が非対称。左の大外はSBのガジャルドがとるのに対して、右の大外はWGのロサノが取る形でアシメな陣形を作る。

 ビルドアップに関与する枚数調整はSB、IHも含めた後方7枚で送っていく形。アンカーのアルバレスと両CBはマストであとは状況に応じて!というスタンスである。ポーランドは中盤より後ろは割とはっきりとした人を捕まえるアクションをしていた。もっともその傾向が強かったのはガジャルドの対面になったカミンスキ。高い位置に出ていくポジションはガジャルドに合わせたもの。彼のポジション次第ではポーランドの非保持は4バックに見えることもあった。

 逆にアルバレスの受け渡しはやたらファジー。トップのレバンドフスキが持ち場を離れる際には、マークを引き継ぐ選手が不在。アルバレスはフリーのまま放置されることが多く、特に管理させることなく自由に動きまくっていたのが印象的であった。キーマンがフリーとなったメキシコは安定したポゼッションでゲームを進めることができる。

 メキシコの攻撃のアクセントになっていたのはWGを追い越すようにオーバーラップを仕掛けるSB。高さのないメキシコはクロスを上げる前の工夫が必須。そのためにはオーバーラップするSBでポーランドのラインをコントロールしたほうがいい。ガジャルド、サンチェスの2人はオーバーラップからチャンスを作り出すがその頻度はもう一声!という感じだった。

 ポーランドはボール保持になると4-3-3のフォーメーションに。右のシャドーのジエリンスキがCHにスライドし、カミンスキが大外を駆け上がる形で変形する。対面のガジャルドは攻め上がることが多かったため、トランジッションで右サイドは狙い目になる。

 逆に、静的なポゼッションの時の狙い目は左サイド。メキシコのWGとSBの間にシマンスキがサイドに流れることでズレを作り出すことができていた。レバンドフスキのポストも含め、ポーランドのポゼッション時の手段はそこまで少なくはない。保持の機会はなかなか少ないのだけども。

 後半、システムに手をつけたのはポーランド。ベーシックな4-4-2に移行する。狙いは若干読み取りにくいがレヴァンドフスキとジエリンスキがはっきりとアルバレスの受け渡しを行っていたので、前半は曖昧だったアンカーの処遇を明確にすることなのかなと推察する。

 ただし、相手についていく精神は4-4-2にしても健在で、メキシコのSBのオーバーラップには対面のSHが下がって対応。よって時にはポーランドのバックラインの枚数が変わって見える現象は後半も継続することとなった。

 そのポーランドの変化がもたらしたのがPK奪取である。ジエリンスキがアルバレスのターンを咎めるチェックに成功したことで、ポーランドはショートカウンターを発動。体をはってボールを追いかけたレヴァンドフスキにはPKというご褒美が与えられる。

 しかし、立ちはだかるのはオチョア。メキシコのワールドカップは彼抜きに語ることはできない!という名物男である。名物男は早速初戦から存在感を発揮。レヴァンドフスキのシュートをストップし、今大会初めてのPK阻止に成功する。

 このセービングで勢いに乗ったのはメキシコ。サイドアタックを軸に敵陣に一気に攻め込む機会を増やしていく。しかしながら、クロスからの仕上げがイマイチだったメキシコ。ポーランドの中盤のスペースが徐々に空いて攻める余裕があった分、ゴールへの向かい方が単調だったように思える。最短ルートで休みなくゴールに向かった結果、相手からしても止めやすいし、味方も動き出しのタイミングを掴めない!みたいな。ちょっとサウジアラビア戦のアルゼンチンと似ている節があった。

 ロサノやアントゥナの仕掛けのスキル自体は面白かったけど、どこか得点に繋がる匂いがしなかったのは、味方にゴールに向かう動きを生み出す一呼吸が足りなかったからのように思う。ポーランドの選手も含めて多くの選手が忙しい展開になる中で、唯一味方に時間を与えるタメを作り続けていたのはせっせとポストプレーを繰り返すレヴァンドフスキという構図だった。

 一本調子の攻めでイケイケムードを制することができなかったメキシコにとっても、PKという絶好のチャンスを活かせなかったポーランドにとっても
後悔が残るドローだろう。グループCは開幕節で唯一の勝利をあげたのがサウジアラビアという波乱のスタートとなった。

試合結果
2022.11.22
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第1節
メキシコ 0-0 ポーランド
スタジアム974
主審:クリストファー・ビース

第2節 アルゼンチン戦

■全てはあの一撃のために

 開幕節でサウジアラビア相手にまさかの失態を繰り広げてしまったアルゼンチン。ベスト16常連のメキシコとの一戦は負ければ敗退というプレッシャーのかかる一戦となる。メッシの最後のワールドカップをこんなところで終わらせないためにも勝ち以外は見えない一戦だ。

 メキシコからすると非常に難しい位置付けの試合になる。最終節の相手のサウジアラビアはこの試合の前にポーランドに負けたことで勝ち点は3。アルゼンチン戦の結果がどうなろうと、最終節に勝つことができれば上回ることができる勝ち点である。現状、アルゼンチン相手よりも多い勝ち点を稼いでいるメキシコからするとこの試合の結果は引き分けでも悪くない。状況は複雑である。

 立ち上がりのメキシコはアルゼンチンのビルドアップをサイドに閉じ込める意識が強かった。3センターは極端にスライドし、アルゼンチンを片側サイドに閉じ込める。

 アルゼンチンはサイドチェンジを仕掛けることはあまりなかったこともあり、この閉じ込めに対して脱出することができず。メキシコは2トップが中盤とサンドしながらショートカウンターを発動し、アルゼンチンがボールを持つ局面をひっくり返すことでゴールを脅す。ロサノやベガなどの機動力が豊かなアタッカー陣のスピードを生かし、敵陣に迫っていく。

 対するアルゼンチンはメキシコのプレスをひっくり返すどころか、自陣から出ることすら難しい状況。メキシコの勢いに飲まれてもおかしくない立ち上がりだった。

 しかしながら、この試合のメキシコのプライオリティは「負けないこと」にあったように思う。立ち上がりに主導権を握った後は無理に深追いをすることをせず、ブロックを組むことを優先したように見えた。

 メキシコのスタンスの変化によりボール保持を許されたアルゼンチンだが、配置になかなか苦戦する。左のWGをベースポジションとするメッシは当然立ち位置を守ることはない。彼はフリーマンである。加えて、右のWGのディ・マリアもフリーダム。縦横無尽とは言わないまでも右サイドの低い位置まで降りながらボールを受けにくることはかなり多かった。悩ましかったのはマック=アリスター。降りてくるメッシに対してかなり気を遣ったポジションを取る工夫を行っていた。ブライトンで様々なポジションを経験している彼を先発させたのはこの試合では結構良かったのかなと思う。

 WGが低い位置を降りてきてしまい、高い位置のレシーバーが不在というのは前節のサウジアラビア戦の問題点と一緒。あの試合はラウタロが1人で最終ラインとの駆け引きをしながらあわやゴール!というシーンまで持っていくことができていたが、この試合はラウタロ自身の動きだしもなし。後ろ重心の状況を打開するための材料がなかった。引き分けでOKなメキシコ側もこうした状況を打開しようとすることがなかったため、日本のファンにとっては眠い目を擦り続けるような前半になったと言えるだろう。

 後半、ようやく試合は動き出す。両チームとも高い位置から組み合うことが増えて試合は活性化する。アルゼンチンがバックラインからボールを繋ぎ、敵陣深い位置まで進むことができる状況は前半になかった形である。

 マック=アリスターはようやく適性の位置を見つけた感がある。逆サイドからの展開を3センターの脇で受けて、大外のアクーニャとPA内の仕掛けの両睨みができる立ち位置を取ることに成功。ややサイドよりの位置からチャンスを作るポジションを確保できるようになる。

 ただ、試合は活性化したといってもようやく敵陣までスピード感を持った攻撃ができるようになった程度。シュートが飛び交うなどのような両チームともに得点の匂いがする状況にはなってはいなかった。

 そうした状況を打開したのはここまで沈黙を守ってきたメッシである。右サイドでボールを持ったアルゼンチンはメキシコの3センターの脇で待ち構えるメッシに横パス。ここまで存在感は皆無だったメッシは左足を一振り。これが先制ゴールとなる。

 この一撃で明らかにスタジアムの空気は変わった。重たかった空気はメッシとアルゼンチンを後押しする雰囲気に一変。負ければおしまいというプレッシャーを背負っていたアルゼンチンのイレブンにとってはあまりに大きすぎる一撃だったと言えるだろう。

 逆にメキシコはこの状況でうまくギアを入れ直すことができなかった。アウェイ感が増す状況で、この試合ここまでほとんどやってこなかった強引に得点を取りに行くアプローチを急に始めるというのは難しいだろう。あるいは得失点差の観点から考えても1-0であれば、最終節に突破の可能性を残しうる。メキシコ側がどう考えたかは難しいところであるが、いずれにしても「得点をとりにいく」ということを一枚岩になって実行できている感じはなかった。

 リードを維持するアルゼンチンは左サイドから追加点をゲット。交代でアンカーに入ったエンゾ・フェルナンデスがハーフスペース付近から技ありのミドルシュート。この大会では珍しい長いレンジのゴールを見事に沈めてみせた。

 メッシの一撃で明らかに変わったアルゼンチンの空気。アルゼンチンの望みを繋いだこのゴールは、この試合どころかこの大会のアルゼンチンにとってターニングポイントになるかもしれない。

試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第2節
アルゼンチン 2-0 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
POL:64′ メッシ, 87′ フェルナンデス
主審:ダニエレ・オルサト

第3節 サウジアラビア戦

■勝者不在のルサイル・スタジアム

 グループCでの現在の順位は3位と4位。今の状況で言えばともにグループステージ敗退ではあるが、混戦のグループCでは共に突破の可能性を残している。

 勝利すれば自力突破のサウジアラビアの方が現状では厳しい状況。前線以外は各ポジションに離脱者が出ており、両SBができるアブドゥルハミドがCHを務めるという状況。欲を言えば、彼をあと2人両方のSBとして起用したいくらいやりくりが厳しい。ベンチメンバーの少なさがサウジアラビアのスカッドのハードさを表している。スカッドが苦しい上に引き分けでもOKの可能性があるというサウジアラビアに比べると、条件は厳しいが勝利しか道がなかったメキシコの方がやるべきことはスッキリしていたかもしれない。

 ボール保持では互いにルートを見つけることができていた。メキシコはアルバレスがアンカーに下がり、バックラインは横に広く幅を取っていく。サウジアラビアのSHはメキシコのSBの動きについていったので幅を取るCBはフリーでボールを持ち上がることができる。このおかげでメキシコの保持はだいぶ安定していた。

 サウジアラビアはメキシコの強気のプレスの裏をかく形。バックラインでのボール回しから、2列目を引き出すと中盤のギャップを活用しての前進を行っていた。

 前線のキーマンになったのはカンノ。アバウトなボールでも収めることができるカンノのキープ力から厚みのある攻撃を繰り出していく。カンノとアブドゥルハミドは普段と異なる起用法ではあったが、問題なくクオリティを発揮することができるあたり、タレントとしての能力の高さを示している。

 しかしながら、前進のきっかけをより作っていたのはメキシコの方。サウジアラビアのボール保持を咎めた結果のポジトラからチャンスを作る。メキシコの2列目の機動力は強烈で、サウジアラビアの高いラインの裏をかき回しながら決定機を創出し続ける。

 ボールを保持している局面でもメキシコはサウジアラビアのラインの裏を狙っていく。ボールを回していく部分と背後を狙う部分、メリハリをつけながらメキシコは敵陣深い位置まで攻め込んでいく。即時奪回も決まっているメキシコに対して、サウジアラビアは自陣から脱出することが困難に。ペースは明らかにメキシコに傾いていた。

 後方早々に結果を出したのはメキシコ。セットプレーからマルティンが押し込み、ようやく優勢な内容をスコアに反映することに成功する。

 しかしながら、この段階で他会場ではアルゼンチンが先制。両チームにとって追い落とす対象がアルゼンチンからポーランドに変化する。となると、メキシコに重要なのは得失点差である。ここまで無得点のメキシコにとっては試合開始時点であった4という得失点差を埋めなくてはいけない。

 というわけでラッシュをかけていくメキシコ。52分にはチャベスのスーパーなFKも飛び出して、スタジアムのムードはメキシコにとっては非常にポジティブなものになった。

 サウジアラビアの状況もメキシコの後押しになる。彼らは他会場の結果に関わらず、勝利をすることができれば自力で突破が可能。2点ビハインドだろうが、前に出ていく姿勢は止める理由がない。むしろ、点差が開く分、欠けるリスクは大きくなっていると言えるだろう。前からのプレスはより強くなる。

 両チームの利害が一致した共に間延びしながら攻め合うという状況は前線の機動力で明らかに有利なメキシコの土俵。サウジアラビアのハイラインをロサノを中心に食い荒らしながら得点のチャンスを量産。中にはネットを揺らす場面もあったが、これはオフサイドで取り消される。関係ないけど、テクノロジーがある分、メキシコの選手たちはオフサイドの後の次のプレーに集中できるように見えた。どの判定も副審のジャッジは正しかったのだけど、この辺りは選手たちの納得感が大事なのだろうと思う。テクノロジーが担保してくれるのは納得感だ。

 ロサノのアジリティ、マルティンのターン、そして更なるチャベスのFK。あらゆる手段でサウジアラビアのゴールに迫っていくメキシコ。アルゼンチンの助けもあり、最後はあと1ゴールで突破ができる状況まで漕ぎ着ける。

 だが、最後までその1ゴールを奪うことができないメキシコ。明らかにもうグロッキーだったサウジアラビアなんだけど、アルゼンチン戦のように限界となった状況から粘る力がすごい。95分に決めたゴールもメキシコの突破条件には理屈の上では影響はないのだけど、ガックリと来させる効果は十分にあった。

 激闘の末に最後の1点を許してもらえなかったメキシコ。ルサイル・スタジアムには勝者がおらず、互いにグループステージ敗退となる両チームの悔しさだけが残る結果となった。

試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
サウジアラビア 1-2 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
KSA:90+5′ アッ=ドーサリー
MEX:47′ マルティン, 52′ チャベス
主審:ダニー・マッケリー

総括

■抑揚のバランスを見つける時間の代償

 ベスト16の常連であり、新興国に立ちはだかるW杯の門番的な役割を果たすことでお馴染みのメキシコ。しかしながら、今大会はまさかの44年ぶりのグループステージ敗退となってしまった。

 結果を見れば驚きではあるが、内容を見ると納得できる点はそこそこ出てくる印象はある。得点に目を向けてみるとゴールを入れることができたのはサウジアラビア戦の後半のみ。200分以上ノーゴールの時間を過ごしてしまっては短期決戦においては致命傷である。

 ノーゴールとなったポーランド戦とアルゼンチン戦はそれぞれ沈黙の要因が異なる。ポーランドとの試合においては、明らかに流れに乗ることができていた。もちろん、レバンドフスキのPKをオチョアが止めたシーンである。だが、この時間帯においてメキシコは急ぎすぎてしまった嫌いがある。常に裏!裏!と急ぎすぎてしまった故に、攻めに一呼吸を入れることができず、一本調子の状態で漫然と裏パスを点で合わせる作業に終始してしまった。

 アルゼンチン戦はまるで逆。こちらは全く動きがなかったことが致命傷になった。引き分けOK、寝技覚悟のローラインブロックで静的なゲームコントロールに徹したが、メッシの一撃で全てが覆されてしまい、完全に雰囲気に飲まれてしまうこととなった。

 急ぎすぎたポーランド戦と押さえ込みに失敗したアルゼンチン戦の反省を踏まえ、ようやくいいバランスを見出したのがサウジアラビア戦だった。ボール保持で相手を動かしつつ、機動力抜群の2列目を生かしながら一気に畳み掛ける。抑揚のついたボール保持でサウジアラビアをボコボコにして見せた。

 最終節で全てをなかったことにできる可能性もあったが、出遅れの代償はポーランドとの間に開いた得失点差として重くのしかかってしまう。敗退は驚きではあるが、短期決戦においてバランスを見つけることに苦心した証拠でもあるだろう。

pick up player:ギジェルモ・オチョア
 W杯というのは4年に一度大暴れするオチョアの姿を再確認する大会である。

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