ベトナム代表、カタールW杯アジア最終予選の歩み。
2021/9 招集メンバー
GK
ダン・バン・ラム
ブイ・タン・チュオン
グエン・バン・トアン
DF
グエン・タイン・チュン
クエ・ゴック・ハイ
ブイ・ティエン・ズン
グエン・フォン・ホン・ズイ
ブイ・ホアン・ヴィエット・アイン
グエン・タイン・ビン
ホー・タン・タイ
チャン・バン・キエン
MF
グエン・チョン・ホアン
グエン・クアン・ハイ
グエン・トゥアン・アイン
グエン・ホアン・ドゥック
ファン・バン・ドゥク
ルアン・スアン・チュオン
ファン・ドゥ・フイ
ヴー・ヴァン・タン
FW
グエン・ティエン・リン
グエン・バン・トアン
ファム・トゥアン・ハイ
ハー・ジューク・チン
第1節 サウジアラビア戦(A)
■常連国の貫禄でじっくりと料理
アジア最終予選初の参加を決めることに成功したベトナム。記念すべき初戦はこのステージにおける常連のサウジアラビアである。
ベトナムは常連国の胸を借りるつもりだったのか、アウェイで思い切りのいい立ち上がりを見せた。フォーメーションこそ5-4-1と後ろ重心ではあったものの、隙があればラインをあげながらのプレッシングを試みる。特に積極的なプレスを行っていたのはCHの2人。サウジアラビアのCHに対して前に出て保持の阻害を試みる。
その勢いのままにベトナムは一気に先制。サウジアラビアのクリアが甘くなったところで、22歳の新鋭である19番のグエン・クアン・ハイのシュートが炸裂。若きWGがベトナムの最終予選史上初のスコアラーとなった。
先制点の後はサウジアラビアの保持一色に。ベトナムのローラインの5-4-1に対して、まずはボール回しで様子を見ながら攻略法を探す。糸口として見つけたのはベトナムのCHの積極的なプレスを逆手に取ること。彼らを誘き出した上で背後のスペースに選手を多く送り込み、そこに楔を入れることで起点を作る。CFのアル・シェフリのポストプレーに合わせた抜け出しも見られるようになると、徐々に積極的だったベトナムの守備陣は脆さが見られるようになっていく。
サウジアラビアのブロックの溶かし方は堅実だった。内側に狙いを定めるだけでなく、きちんと大外も噛ませることで、ベトナムの守備に的を絞らせない。外を使ったと思いきや、今度はWGから斜めの楔で中を使うなどやり方はさまざま。サウジアラビアのアプローチは派手さはないものの、確実にベトナムにダメージを与えていた。
そのダメージが決定的になったのは後半開始直後。大外から裏をとったサウジアラビアに対して、右のCBであるド・ドゥイ・マンがハンド。そしてこれが2枚目の警告となり、PK+退場のダブルパンチを喰らうことになった。
こうなると一気にペースは同点弾を決めたサウジアラビアに。5-3-1だと中央の楔をケアするために閉じることや、逆サイドの手薄さをカバーするのがどうしても難しくなるベトナム。一方的なサウジアラビアペースの中、勝ち越しゴールとして積極的なオーバーラップを見せていたアッ=シャラハーニーがヘディング(アフロってなんでこんなに空中戦強いんだろう)でネットを揺らす。勝ち点をなんとか確保しようと積極的に攻めたベトナムを、今度はカウンターアタックから裏返すとまたしてもPK。決定的な3点目を獲得する。
結局試合はそのまま終了。開始直後こそ面食らったサウジアラビアだったが、ベトナムをじっくり料理し、常連国としての貫禄を見せつけた。
試合結果
2021.9.2
カタールW杯アジア最終予選 第1節
サウジアラビア 3-1 ベトナム
キング・サウド・ユニバーシティ・スタジアム
【得点者】
KSA:55′(PK) アッ=ドーサリー, 67′ アッ=シャハラーニー, 80′(PK) アル・シェフリ
VIE:3′ クアン・ハイ
主審:タンタシェフ・イルギス
第2節 オーストラリア戦(H)
■オフサイドトラップで見られた前触れ
電光石火の先制点を挙げた初戦だったが、退場者を出してしまいサウジアラビアに逆転負けを喫してしまったベトナム。2戦目の相手はオーストラリアと非常にタフな試合が続いていく。
戦い方としては大枠ではサウジアラビア戦と同じ。5バックを軸に低い位置でオーストラリアを迎え撃ち、ブロック守備で凌ぎながらの戦いである。修正点としては、CHが前に出ていきすぎることで無駄に食いつく頻度が減ったこと。
ベトナムはその分、前方への推進力を失ってしまっていたが、穴を開けずにオーストラリアの保持に対してジリジリと食らいつく。サウジアラビア戦はここで前に出ていき過ぎたことでライン間にスペースを生み出してしまっていたので、そこは初戦の反省を生かしているといえそうだ。
オーストラリアは4-3-3気味で前のタレントを増やす形で対抗。フルスティッチがアンカーに入り、前は5人で攻略に挑む。しかしながら、なかなかブロックの攻略はできない。ワンタッチパスが2つ続いて繋がればチャンスにはなるが、有効打となるパスが連続で繋がることはまずない。
WGとSBにはそれぞれベトナムのWBとワイドCBがマンマークで対抗。サイドから崩そうとするもなかなか手が出ない。初戦で裏抜けで活躍したメイビルもスピードに乗った状態でなければ、なかなか持ち味を発揮できず。裏に一発で通そうとしてもスピードで明確に上回れる選手がいないため、攻めあぐねる。
むしろ少ないながらも危険なシーンを作り出したのはベトナムの方。早い攻撃からハンド風味のプレーを誘発。OFRまでこぎつけるが、原判定が覆らないというレアケースでPKは認められず。前節と同じくベトナムはOFRで運が転がってこない。
その後も攻め手が見つからないオーストラリア。一番のチャンスはベトナムがオフサイドトラップを掛け損なったFKのシーンだろう。この場面では何を逃れたが、このシーンは失点の前兆だった。左SBのスミスを主体としたクロス攻勢から二次攻撃を狙うオーストラリアに対して、ラインアップが遅れたベトナム。これを見逃さなかったオーストラリア。最後はグラントが詰めて前半終了間際に先制する。
後半、ベトナムは攻勢に出るために攻撃的な配置に変更。前節得点を挙げたグエン・クアン・ハイをWGから中盤に動かし、ボールを運べる選手を増やす。前半よりもゴールに迫る機会は増えたベトナムだったが、運んだ後のプレーに精度が伴わず、ライアンを脅かすようなシーンを作ることができない。
一方のオーストラリアも前半よりも間延びしたベトナムの陣形を崩せず。撤退した時にボールを回して時間を使うならわかるけど、明らかに攻め切れる時に煮え切らない攻撃をしているのは1点差ということを踏まえても不満。日本などが得意なショートカウンターはあまりうまくないのかもしれない。
共にジリ貧だった終盤戦だが、前半終了間際の先制点を守り切ったオーストラリアが逃げ切り成功。予選2連勝スタートを飾ることとなった。
試合結果
2021.9.7
カタールW杯アジア最終予選 第2節
ベトナム 0-1 オーストラリア
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
AUS:43′ グラント
主審:アブドゥラフマン・アル・ジャシーム
2021/10 招集メンバー
GK
ブイ・タン・チュオン(ハノイ)
チャン・グエン・マイン(ベトテル)
グエン・バン・トアン(ハイフォン)
DF
ホー・タン・タイ(ビンディン)
グエン・フォン・ホン・ズイ(ホアンアイン・ザライ)
グエン・タイン・チュン(ハノイ)
クエ・ゴック・ハイ(ベトテル)
ブー・バン・タイン(ホアンアイン・ザライ)
ブイ・ティエン・ズン(ベトテル)
ドー・ズイ・マイン(ハノイ)
グエン・タイン・ビン(ベトテル)
ブイ・ホアン・ベト・アイン(ハノイ)
MF
ルオン・スアン・チュオン(ホアンアイン・ザライ)
グエン・ホアン・ドゥック(ベトテル)
グエン・トゥアン・アイン(ホアンアイン・ザライ)
グエン・クアン・ハイ(ハノイ)
ファム・ドゥック・フイ(ハノイ)
ファン・バン・ドゥック(ソンラム・ゲアン)
リー・コン・ホアン・アイン(トッペンランド・ビンディン)
FW
ファム・トゥアン・ハイ(トッペンランド・ビンディン)
グエン・ティエン・リン(ビンズオン)
グエン・コン・フオン(ホアンアイン・ザライ)
グエン・バン・トアン(ホアンアイン・ザライ)
第3節 中国戦(A)
■ラインの駆け引きを制したウー・レイが勝利の立役者
予想通り、9月は苦しんだグループBにおいては格下の両チーム。上位勢に少しでも近づけるようにまずはきっちりここで勝利を掴んでおきたいところである。
主導権を握ったのは中国。攻撃時は3-2-5に変形。18番のチャンを中心にエウケソンとウー・レイがシャドーで待ち受ける形を作る。ベトナムの守備は5-4-1で後ろに重く構える形で迎え撃っていたのだが、ライン間のスペースの管理がややルーズ。ラインのスペースが空いてしまったり、後ろから捕まえにいってファウルを犯したりなど中国に対して中央を封鎖することができていなかった。
中国の武器はもう一つ。左サイドの縦関係。17番のリュー・ビンビンと3番のワン・シンチャオのコンビでクロスを上げるところまで持っていき、PAに迫っていく。ただし、中国は精度がイマイチ。長いボールやクロスの精度が欠けており、最後のところでベトナムのゴールを脅かすことができていなかった。
一方のベトナムも攻撃においては苦戦。グエン・フォンが高い位置を取ることで5バックから攻撃的な形にシフトし、高い位置からの攻撃を狙ってはみたもののやや硬直気味。9月に見せたような細かいパスを素早く繋ぐ小気味いい攻撃は完全に形を潜めてしまう。単純なアスリート的な身体能力は中国の方が上だけに、攻撃が一度止まってしまうとベトナムは一気に苦しくなる。この日のベトナムはテクニックの部分でもやや難があり。トラップが流れてしまう場面が目立ってしまっていた。
中国有利で進んだ展開は後半にスコアが動く。ベトナムが高い位置からプレスに行ったところを中国がロングボールで一気にひっくり返す。最終ラインの駆け引きでも中国は優位に立っていたのだが、ようやくロングボールからウーレイの抜け出しで先制。日本相手には起点になれなかったFW陣がロングボールを収めることでようやく中国は得点を手にする。
2得点目もラインの駆け引きから。ベトナムの守備陣は中国のアタッカー陣の上下動に対応することができていなかった。こうなると中国は一気に優位に。とりあえず撤退し、ベトナムの攻撃のミスを待ち続けるだけでいい。自陣に引く中国に対してベトナムは苦しむ。
だが、80分にベトナムは反撃ののろし。ミスが多く、PAまで迫るところまでいけなかった試合だったが、そこまでいければ得点ができることを証明して見せた。さらに終了間際にベトナムは追いつく。攻撃の核であるグエン・クアン・ハイの技ありのアシストで90分に同点弾を決める。
しかし、試合の流れは最終盤に再度中国の元に。チームを救ったのは再びウー・レイ。ベトナムの守備陣との駆け引きを制し終了間際に勝ち越し。中国に劇的な予選初勝利をもたらした。
試合結果
2021.10.7
カタールW杯アジア最終予選 第3節
中国 3-2 ベトナム
シャルージャ・スタジアム
【得点者】
CHI:53′ チャン・ユニン, 75′ 90+5′ ウー・レイ
VIE:80′ ホー・タン・タイ, 90′ グエン・ティエン・リン
主審:モハメド・アブドゥラ
第4節 オマーン戦(A)
■見せ場はあるも拙い試合運び
オマーンはトレードマークである4-4-2ダイヤモンドを封印。4-4-2フラットという新しい形でこの試合に臨んだ。おそらくこれはベトナムの布陣に対応するためだろう。ベトナムは5バックで中央を固めて後ろ重心ということで、SBにフリーで時間を得させるためにということではないだろうか。結果的にベトナムはこの日、普段の5-4-1ではなく5-3-2だったため、いつもよりサイドに人をおいたオマーンの形はさらにハマるようになっている。
サイドから安全にボールを進めることができているオマーン。ただ、ここから先に何か工夫があるか?と言われると特にそういうわけでもない。だけども、押し込んでおけば事故るのが今のベトナムの守備陣のレベル。ラインコントロールは怪しいし、跳ね返しにも強くない。
そして案の定、事故ってしまうベトナム。PK判定は少し意外な形で背後の相手に振った腕が当たったことが起因になっていた。しかしながら、これはアルハルディがミス。オマーンは先制点を得るチャンスを逃す。
ベトナムはライン間のグエン・コン・フォンやグエン・クアン・ハイに楔を入れて前を向いてもらうことでチャンスメイク。ただし、ターンまで自力でやってね!という感じ。結構な難題だけど、これができていたときは前進できていた。
しかし、先制点はややジリ貧気味のベトナムから。しかもほぼ奇襲と言っていいハイプレスから。ホー・タン・タイのボール奪取からショートカウンターが発動し、グエン・ティン・リンのゴールで先手をとる。
だが、オマーンもすぐに追いつく。終始優勢だったセットプレーからのアクロバティックなゴール。CKからのこぼれ球をアル・サブヒが叩き込み前半のうちに同点に追いつく。
オマーンは後半にもセットプレーからの追加点。ゴリゴリの力技で前に出る。試合の決定づけるオマーンの3点目は再びPKから。しかも、またしても同じく振った腕を顔に当てるファウルから。ベトナム、オフザボールにおける2回の顔面叩きで2つのPK献上ということになる。背中側にいる選手に対してなので、未必の故意って感じだけどとりあえず背負う時に腕振るのが癖になってるんだろうか。この試合の主審はオフザボールの競り合いにナーバスだったから1つ目のPKでアジャストしないとダメである。
健闘するもオマーンのパワーに屈し、試合運びにも拙さを見せたベトナム。最終予選の経験の浅さを痛感させられる敗戦となった。
試合結果
2021.10.12
カタールW杯アジア最終予選 第4節
オマーン 3-1 ベトナム
スルタン・カーブース・スポーツコンプレックス
【得点者】
OMA:45+1′ アル・サブヒ, 49′ アルハルディ, 63′(PK) アルヤハヤエイ
VIE:39′ グエン・ティン・リン
主審:アドハム・マハドメ
2021/11 招集メンバー
GK
ブイ・タン・チュオン(ハノイ)
グエン・ヴァン・ホアン(ソンラム・ゲアン)
トラン・グエン・マイン(ベトテル)
DF
ド・ドゥイ・マン(ハノイ)
クエ・ゴック・ハイ(ベトテル)
ブイ・ティエン・ズン(ベトテル)
ファム・スアン・マイン(ソンラム・ゲアン)
グエン・フォン・ホン・ズイ(ホアンアイン・ザライ)
ホー・タン・タイ(ビンディン)
グエン・タイン・チュン(ハノイ)
ヴー・ヴァン・タン(ホアンアイン・ザライ)
チャン・ディン・チョン(ハノイ)
MF
ルアン・スアン・チュオン(ホアンアイン・ザライ)
レ・バン・スアン(ハノイ)
グエン・トゥアン・アイン(ホアンアイン・ザライ)
グエン・ホアン・ドゥック(ベトテル)
ファン・ドゥ・フイ(ハノイ)
グエン・クアン・ハイ(ハノイ)
ファン・バン・ドゥク(ソンラム・ゲアン)
FW
グエン・バン・トアン(ホアンアイン・ザライ)
グエン・コン・フオン(ホアンアイン・ザライ)
ハー・ジューク・チン(ダナン)
グエン・ティエン・リン(ビンズオン)
第5節 日本戦(H)
■速攻以外のギャップが…
5-4-1と5-3-2を併用して今最終予選に臨んでいるベトナム。彼らのこの試合での選択は5-3-2だった。5-3-2の場合、日本には2トップの脇からボールを持つ時間を捻出することが出来る。日本はこの場所からボールを進める。
左サイドは守田がこの位置に降りることで長友を同サイドの高い位置に押し上げる。SHの南野は内側に絞ることで大迫のそばに位置する形である。
逆サイドはもう少し流動的。2トップの脇は山根か田中のどちらかが使う。山根が高い位置に入るときは伊東は内側のスペースに入り南野と左右対称のナローな3トップを形成するが、山根が低い位置に入り田中が高い位置を取るときは伊東は大外に張る。どちらかといえば後者の方が割合としては多かっただろうか。
変則的ではあったが5トップ気味になり、ベトナムの3センターを外から回るように超えることが出来た日本。だが、苦戦したのはそこから。5バックは5レーンを埋める相手にはマッチアップがはっきりしやすい。対人で上回る選手がいればいいのだが、日本はその糸口を見つけるのが難しかった。
左の大外を取る長友には対面したWBを交わせる力はない。大外で優位が取れない5レーン型の攻撃はなかなかにしんどい。逆サイドの伊東も連携が不完全。押し込んでからの攻撃で光る部分はなかなか見えなかった。
こういう停滞の時に期待されるのはここ数カ月増量中の川崎成分だろう。すなわち、守田と田中である。しかし、この試合の彼らの役割は前者が左サイドの低い位置まで降りて長友を押し上げる役割をやっていたのに対して、田中は前線に留まる役割。互いの距離が遠い上、オーストラリア戦で見せた均質的な3センターによるポジションの入れ替わりは鳴りを潜め、分業型での前進となっていた。
前進はできる。けど5レーンで詰まった先は打開できない。ベトナムからはカウンターが飛んでくるという状況。日本にとって誤算だったのは日本の守備陣のカウンターでの対応が意外と危うかったこと。特に相手に反転を許したり、スピードで置いていかれる吉田麻也のパフォーマンスはちょっと不安定。勤続疲労か加齢の影響なのかはわからないが、ここでハイラインが維持できないようだと今後の予選の見通しはいろいろ変わってくる。
逆に日本にとって幸運だったのはベトナムが前から捕まえに来てくれる意識を持っていたこと。早い攻撃ならば日本のWG陣のスピードを生かした攻撃が可能。まさしく日本のチャンスはこの速い攻撃から。大迫のポストから南野が裏を取り、いつの間にか伊東純也が相手を追い越しているという質的優位マシマシのゴールで先制点をゲット。ちなみに2点目も伊東純也マシマシだ!!になるはずだったのだけど、残念そこはオフサイド!である。
ただ、日本のゴールを生んだベトナムの強気な姿勢も日本にとってありがたかったばかりではない。徐々に長友をプレスやロングボールの狙い目として前に進むチャンスを見出していた。
後半も大きな展開は変わらず。日本の攻撃で気になったのはとにかくライン間を使わないこと。確かに5-3-2は本来ならば中央を固めており、攻撃側に外から壊すことを強要する形である。だけどもベトナムの3センターはサイドに拠るときに横並びが過ぎる。アンカーの位置に入る選手はIHの斜め後方に入るべき。ベトナムの中盤はこれを怠っているので、日本はとてもライン間への縦パスが入れやすい状況だった。
にもかかわらず、日本はとにかくライン間にパスを入れられない。そもそもライン間に人がいないのもあるし、いても受ける気も出す気もない感じ。それならば裏抜け一本!!という形で浅野、伊東、古橋の三雄揃い踏みで出し手の柴崎までセット!というところまではわからなくもないけども、そうなった途端ボールキープとか始めちゃうのはどうして!ライン間で受ける浅野が松井大輔にダメだしされるというシュールな状況になっていた。
ベトナムのカウンターには最後まで冷や汗をかいたものの、日本は何とか逃げ切り成功。残り20分くらいから85分のサッカーをやっていた感も否めないのだが、結果が大事と本人たちが言っているので、その結果をオマーン戦でも出してくれることを信じたい。
試合結果
2021.11.11
カタールW杯アジア最終予選 第5節
ベトナム 0-1 日本
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
JAP:17′ 伊東純也
主審:モハメド・ハッサン
第6節 サウジアラビア戦(H)
■5-3ブロックを成り立たせる前提
最終予選、ここまで全敗のベトナム。今節は無敗で首位をひた走るサウジアラビアとのハードなチャレンジとなる。
立ち上がりからベトナムにとっては厳しい戦いになることを予感させられる戦いだった。サウジアラビアの2CHと2CBの3-1と2-2の配置を駆使するビルドアップに対して、うまく前からプレスがかからずに苦戦する。
ベトナムの非保持における弱点は3センターの守備の練度である。3センターは通常、IHがホルダーとマッチアップする際に、アンカーが斜め後方にカバーに入りながら守るのが普通。
しかしながら、ベトナムはこのカバーリングがフラットになることが多い。そうなるとボール保持側は簡単にボールを縦に入れることができる。5-3ブロックは本来、中央にボールを入れさせない代わりにボールを外に追いやりながら、大外を壊すチャレンジを保持側に強いることができるというメリットがあるのだが、このベトナムのように中央を閉じる!という大前提が成立していない場合は話が別である。
前節の対戦相手である日本はこの弱点をろくにつくことができず、ライン間にパスを入れることをしなかったが、サウジアラビアは積極的にこの縦パスを入れてくる。ライン間で簡単に前を向かれてしまっては非保持側は裏を取られるリスクが出てきてしまう。そうなると5枚という最終ラインの枚数はラインが乱れるだけの因子が多いだけ!ということになってしまう。
というわけでこのライン間には最終ラインが慌てて飛び出す格好になるベトナム。サウジアラビアがその飛び出してきた最終ラインの選手をかわして先制点に結びつける。ベトナムとしては中盤の守備で穴が空いてしまい、その穴を埋めようと飛び出してくる最終ラインの守備にさらに穴を開けてしまうという連鎖。サウジアラビアはこのベトナムの穴の連鎖をしたたかにつくことができたということである。
前半は専制守備からのカウンターでチャンスを伺っていたベトナム。この形でも十分にチャンスは作ることができる。だが、後半になるとベトナムは徐々に保持から押し込むように。3バックからWBにボールを繋ぎ、サイドから抉るような形でサウジアラビアを攻め立てる。
サウジアラビアはこれに対して強気なやり方に。前半以上に保持における前方へのオフザボールの量を増やして、積極的に2点目を狙いにいく。得点のチャンスは増えるが、失点のピンチも増えるこの方策。ベトナムは前半から引き続きカウンターからも十分にサウジアラビアの脅威になった。
だが、ゴール前になると精度、強度が共に足りず枠内シュートにいけないベトナム。サウジアラビアは日本と同じように後半のベトナムに慌てる場面もあったが、逃げ切りに成功。前半は日本と異なる保持のクオリティを見せつけ、後半は日本と同じように苦しんだサウジアラビアが無敗をキープして首位を堅持。終盤戦に向けたアドバンテージを得て11月シリーズを終えた。
試合結果
2021.11.16
カタールW杯アジア最終予選 第6節
ベトナム 0-1 サウジアラビア
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
KSA:31′ アル・シェフリ
主審:ハンナ・ハッタブ
2022/1 招集メンバー
第7節 オーストラリア戦(A)
■30分は遅いくらい
オーストラリアがベトナムゴールのネットを揺らしたのはわずかに19秒のこと。OFRで取り消されたものの、この電光石火のシュートシーンはこの試合のオーストラリアとベトナムの力関係をきっちりと表していたもののように思う。
ベトナムは5-4-1であるものの、最終ラインの位置は比較的高め。ミドルゾーンの位置で構えるベトナムの最終ラインに対して、オーストラリアは右サイドから一気に打開。ボイルとカラチッチのスピード豊かな右サイドから一気に切り崩すことで敵陣に進撃していく。
左サイドではロギッチがライン間のパスを受けて前を向き、リッキーの裏抜けを活用。止まる人と動く人のギャップで崩していく。左右ともにラインブレイクの手段を見出しているオーストラリア。先制点は30分のことだったが、個人的にはオーストラリアがようやく点を取ったという感想。ベトナムが30分持ったのは非常に意外だった。
先制点の場面は左サイドからのハイクロス。確かに空中戦ではオーストラリアが有利ではあるが、あれだけ対空時間があるクロスへの対応において、一番気をつけるべき9番に対して誰も競ることすらできないベトナムの守備は切なすぎる。
ベトナムは保持の意識の高さはあり、自陣からのショートパスでの組み立てにはトライするものの、最終的には19番のグエン・クアン・ハイからの一撃必殺スルーパスに頼りがちになってしまう。前線にもフォワードが1枚しか残っておらず、オーストラリアのDFにはバレている状態。これでは流石に厳しい。
ベトナムの守備の不味いところはボールホルダーへのプレッシャーをかけないところ。ラインが高いうえに、相手のホルダーがフリーとなればオーストラリアが裏を取られるのは当然。前半終了間際に2点目を決めて試合の大勢を決める。
後半の頭はややベトナムが盛り返す。エリア内までボールを運んで押し上げることができれば、ベトナムにはチャンスがある。オーストラリアはエリア内の守備はかなりバタバタしており、人数がいてもスペースが空いたりフリーの選手を作ってしまったりなどのリスクマネジメントができていない。
ベトナムには点を返す機会があったのだが、それを生かすことができず。そうしている間にオーストラリアがさらに反撃。ライアンから高いラインの裏に抜けるパスをだすと、抜け出したグッドウィンが沈めて3点目。
直後に4点目を入れたオーストラリア。ベトナムとの力の差を見せつけて、ここはきっちりと上位陣を追走することに成功した。
試合結果
2022.1.27
カタールW杯アジア最終予選 第7節
オーストラリア 4-0 ベトナム
メルボルン・レクタンギュラー・スタジアム
【得点者】
AUS:30′ マクラーレン, 45+2′ ロギッチ, 72′ グッドウィン, 76′ マッグリー
主審:コ・ヒョンジン
第8節 中国戦(H)
■依存脱却で繋がる最下位脱出の望み
グループBの上位対決となった日本×サウジアラビアの試合の直後に行われたのは、グループのボトム2によるベトナム×中国の一戦だった。
中国は日本戦を踏襲する4-4-2を採用。アランやアロイージオなど、日本戦ではベンチやメンバー外だった帰化組をスタートから起用するという変化を付けてきた。
一方のベトナムは5-3-2。5-4-1との2択感があるが、キーマンであるグエン・クアン・ハイの位置が低くなるこちらのフォーメーションで中国と向き合うこととなった。
ベトナムの3センターは左右に動きながら中国の攻撃を片側に寄せる試みを行う。これに対して中国はその密集をかち割るようなアプローチ。パス交換から3センターの間を通すような縦パスを狙っていく。
縦パスの受け手として存在感があったのは18番のアロイージオ。フィジカルを活かしてベトナムのDFを背負い、裏を取り走る選手にラストパスを送っていた。中国は2トップ+SH2人がポジションレスに動き回る構造になっていたし、ベトナムの5バックは裏抜けに対する耐性が結構脆いので、このやり方は仕上げとしては悪くはなかったと思う。
ただ、そもそもの前提となるベトナムの3センターをかいくぐってアロイージオへの縦パスを通すというところの精度はイマイチ。中国はポゼッションでの仕掛けはそこまでできるチームではないので、その点で苦戦していた。
対するベトナムは早々に先制する。左サイドからズレを作り、最後はファーサイドのホー・タン・タイが決めて先手を取る。ベトナムはこれまではグエン・クアン・ハイの一撃必殺ラストパス頼みだったのだが、この試合ではかなりその依存度が下がったように思う。
例えば、先制点の場面では左の大外から2トップの一角のファン・トゥアン・ハイが同サイド裏に流れたことで、中国のDFラインが乱れて大外の選手ががら空きになってしまっていた。2トップの動き出しがこの試合では崩しのスイッチになることが多かった。中国がその余裕を与えた側面はあったが、ホルダーにプレスをかけられないとこれだけ多彩な崩しは出来てしまうチームということなのだろう。
セットプレーからの同サイド崩しで追加点を得たベトナムは試合を終始支配。ボールこそ、中国に渡す場面が多かったが中国が効果的に攻められている場面は少なかった。
後半、中国はアロイージオ、アランを下げて狭いところを打開にこだわるよりも、広いスペースにボールを逃がすメソッドも併用で採用した感じ。前線で背負えるアロイージオ役は9番のチャン・ユーニンに代わり引き続きインサイドの解決策も探っていく。
だけども、これも攻め手として確立できないまま時計の針は進んでいく。ビルドアップ隊がこうしたバリエーションを操るほどのスキルがないのが中国の現状である。
試合は後半に互いに1点ずつを追加して終了。エース依存からの脱却の兆しを見せたベトナムが中国を下し、最下位脱出に望みをつなぐこととなった。
試合結果
2022.2.1
カタールW杯アジア最終予選 第8節
ベトナム 3-1 中国
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
VIE:9′ ホー・タン・タイ, 16′ グエン・ティエン・リン, 76′ ファン・バン・ドゥク
CHI:90+7′ 徐新
主審:ナワフ・シュクララ
2022/3 招集メンバー
第9節 オマーン戦(H)
■物足りなさが残る中で4位を確定させる
おそらく、現地映像のトラブルのせいで立ち上がりの7分ちょっとくらいは見れないというなかなかパンチの効いた試合になったベトナム×オマーン。というわけで立ち上がりの展開はよくわからん!というのが正直なところではあるが、基本的には力関係が上のオマーンの方がポゼッションを高めながら試合を進めていた。
フォーメーションの噛み合わせ的にはオマーンのポゼッションにおいてはSBが空く。ベトナムの5-3-2のフォーメーションに対して、オマーンはすでに最終予選のおなじみになった同サイドのオーバーロード気味の攻撃でベトナムのゴールに迫っていく。
仕上げとなるのは裏抜け。右サイドの大外のアル・ハルティの抜け出しを終点としてベトナムのバックラインを押し下げていく。逆にいえば、この裏抜けが仕上げにならないとオマーンの攻撃は完結しない。いつもに比べればこのオフザボールの動きの量は少ない感じで、その分相手ゴールに迫る迫力は割引されている感じはした。
一方のベトナムもなかなかいつも通りには行かない感じ。19番、エースのグエンの存在感はこの日は希薄。落ち着きながらのボール保持はできているので、オマーンに一方的に攻められ続けしまう!という展開は避けることができてはいたのは確か。しかし、ここまでの予選において攻撃の仕上げのほとんどに絡んできたグエンの存在感が低くなると物足りなさが出てくるのは当然だろう。オマーンと同じく、裏抜けで一気にシュートまで持って行きたいが、なかなかいい形を生み出すことができない。
迎えた後半はベトナムが押し込みながらのスタート。敵陣でのプレーを増やしながらセットプレーを獲得し、あわやハンドからのPKを得るところまではオマーンを追い込むことができていた。
しかしながら、セットプレーから結果を出したのはベトナムではなくオマーン。65分にコーナーキックの流れからアル・ハシリが先手をとって均衡を破る。
ベトナムはここから中盤からの飛び出しの量を増やしながら、前線の厚みを増そうと試みるが、がっちり守るオマーンに対してなかなかこじ開けることができない。むしろ、跳ね返されての手早い攻撃への以降で逆にオマーンに脅かされることもあった。
どちらも攻撃で迫力を出せない中でセットプレーでの1点を守ったオマーン。これで勝ち点を2桁に乗せることに成功。グループBにおける4位を確定させて最終節を迎えることとなった。
試合結果
2022.3.24
カタールW杯アジア最終予選 第9節
ベトナム 0-1 オマーン
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
OMA:65′ アル・ハシリ
主審:ハンナ・ハットタブ