■レヴァンドフスキに立ちはだかる『名物男』
サウジアラビアがアルゼンチンを下すという衝撃的なスタートを飾ったグループCの戦い。ここで勝利すればアルゼンチン相手に一歩前に出る絶好のチャンスとなった両チームの一戦である。
ポゼッションで優位を取ったのはメキシコの方。保持におけるメキシコは左右の形が非対称。左の大外はSBのガジャルドがとるのに対して、右の大外はWGのロサノが取る形でアシメな陣形を作る。
ビルドアップに関与する枚数調整はSB、IHも含めた後方7枚で送っていく形。アンカーのアルバレスと両CBはマストであとは状況に応じて!というスタンスである。ポーランドは中盤より後ろは割とはっきりとした人を捕まえるアクションをしていた。もっともその傾向が強かったのはガジャルドの対面になったカミンスキ。高い位置に出ていくポジションはガジャルドに合わせたもの。彼のポジション次第ではポーランドの非保持は4バックに見えることもあった。
逆にアルバレスの受け渡しはやたらファジー。トップのレバンドフスキが持ち場を離れる際には、マークを引き継ぐ選手が不在。アルバレスはフリーのまま放置されることが多く、特に管理させることなく自由に動きまくっていたのが印象的であった。キーマンがフリーとなったメキシコは安定したポゼッションでゲームを進めることができる。
メキシコの攻撃のアクセントになっていたのはWGを追い越すようにオーバーラップを仕掛けるSB。高さのないメキシコはクロスを上げる前の工夫が必須。そのためにはオーバーラップするSBでポーランドのラインをコントロールしたほうがいい。ガジャルド、サンチェスの2人はオーバーラップからチャンスを作り出すがその頻度はもう一声!という感じだった。
ポーランドはボール保持になると4-3-3のフォーメーションに。右のシャドーのジエリンスキがCHにスライドし、カミンスキが大外を駆け上がる形で変形する。対面のガジャルドは攻め上がることが多かったため、トランジッションで右サイドは狙い目になる。
逆に、静的なポゼッションの時の狙い目は左サイド。メキシコのWGとSBの間にシマンスキがサイドに流れることでズレを作り出すことができていた。レバンドフスキのポストも含め、ポーランドのポゼッション時の手段はそこまで少なくはない。保持の機会はなかなか少ないのだけども。
後半、システムに手をつけたのはポーランド。ベーシックな4-4-2に移行する。狙いは若干読み取りにくいがレヴァンドフスキとジエリンスキがはっきりとアルバレスの受け渡しを行っていたので、前半は曖昧だったアンカーの処遇を明確にすることなのかなと推察する。
ただし、相手についていく精神は4-4-2にしても健在で、メキシコのSBのオーバーラップには対面のSHが下がって対応。よって時にはポーランドのバックラインの枚数が変わって見える現象は後半も継続することとなった。
そのポーランドの変化がもたらしたのがPK奪取である。ジエリンスキがアルバレスのターンを咎めるチェックに成功したことで、ポーランドはショートカウンターを発動。体をはってボールを追いかけたレヴァンドフスキにはPKというご褒美が与えられる。
しかし、立ちはだかるのはオチョア。メキシコのワールドカップは彼抜きに語ることはできない!という名物男である。名物男は早速初戦から存在感を発揮。レヴァンドフスキのシュートをストップし、今大会初めてのPK阻止に成功する。
このセービングで勢いに乗ったのはメキシコ。サイドアタックを軸に敵陣に一気に攻め込む機会を増やしていく。しかしながら、クロスからの仕上げがイマイチだったメキシコ。ポーランドの中盤のスペースが徐々に空いて攻める余裕があった分、ゴールへの向かい方が単調だったように思える。最短ルートで休みなくゴールに向かった結果、相手からしても止めやすいし、味方も動き出しのタイミングを掴めない!みたいな。ちょっとサウジアラビア戦のアルゼンチンと似ている節があった。
ロサノやアントゥナの仕掛けのスキル自体は面白かったけど、どこか得点に繋がる匂いがしなかったのは、味方にゴールに向かう動きを生み出す一呼吸が足りなかったからのように思う。ポーランドの選手も含めて多くの選手が忙しい展開になる中で、唯一味方に時間を与えるタメを作り続けていたのはせっせとポストプレーを繰り返すレヴァンドフスキという構図だった。
一本調子の攻めでイケイケムードを制することができなかったメキシコにとっても、PKという絶好のチャンスを活かせなかったポーランドにとっても
後悔が残るドローだろう。グループCは開幕節で唯一の勝利をあげたのがサウジアラビアという波乱のスタートとなった。
試合結果
2022.11.22
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第1節
メキシコ 0-0 ポーランド
スタジアム974
主審:クリストファー・ビース