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「まずは課題の把握から」〜川崎フロンターレ 序盤戦報告 2023

はじめに

 開幕して7試合でここまで1勝、無得点の試合は3試合で複数得点を挙げて試合よりも多い状態である。去年から苦しんでいた川崎だったが、今年はより一層苦しんでいる様子である。

 この記事では今の川崎が抱える問題点と解決策を考えてみたい。その前に今季チャレンジしている3-2-5がどういうシステムなのか?について今一度理解したい。

目次

3-2-5について考える

メリット

 まず、一般的な3-2-5におけるメリットを考えたい。保持におけるメリットは後方に枚数をかけており、守備側がマンマークをかけるのが難しいこと。GKまで含めれば少なくとも6枚を敵陣に送り込む必要があり、守備側にとってはこれは大きなリスクにもなる。

 よって、後方でのビルドアップは数的優位を抱えての前進を行いやすい。ビルドアップにおける重要なポイントは守備側に選択を突きつけながら動きに負荷をかけられるかどうか?である。後方に人を置いてフリーで余ってる選手を作ることは、選択を突きつけるための有用な手段になりうる。

 3-2-5の構造上、相手に迷いを与えることができる一例としては後方からのビルドアップルートで中央とワイドの両にらみができることが挙げられる。川崎の場合、SBが絞っての3-2-5に移行することが多いのだが、相手のSBのマーカー(4-4-2のSHと仮定する)は絞るSBについていくか、自分の持ち場を離れるか選ばなければならない。これが上に挙げた「選択を突きつける」の一例である。

 ボールを持ったCBが相手のSHにつっかけるのであれば、選択肢はさらに増えることになる。ボールを止めに行くか、持ち場を離れないか、絞るSBについていくかの3択である。

 保持側は端的に言えば、相手が選ばなかった方を選べばよい。相手が絞るSBについていかなければSBにボールを付ければいいし、ついていくのであれば大外から前進する。CBがボールを運ぶのであれば、次は相手のSBやCHがついていくかついていかないかの選択をする番になる。

 後方に枚数がかかっている状態でかつ横幅が十分に保たれている状態では守備側は中央もサイドも消すのは難しい。できるだけサイドに追い込めれば制限は可能だが、保持側はその可能性を事前に察知し、広い方に逃がしやすい仕組みである。組み立てにおける3-2型は相手が消し切れないところを選び取ることをやりやすい形といえるだろう。

 アタッキングサードにおける並びもズレを作りやすい。いわゆる5レーンに人が立つ形はとりわけ4バックに対しては初手でズレを産みやすく、枚数が1枚少ない状態での対応が後手に回すことも少なくはない。

 後方の枚数が十分に担保できることは被カウンターにおいても有用だ。ボールをロストしたタイミングで後方に枚数が揃いやすいので、カウンターに対する迎撃に比較的強い。谷口の移籍、ジェジエウの負傷と川崎のここ数年を支えてきたCBの不在により、ストッパーの負荷を軽減したい!と考えるのは自然な流れのように思う。

3-2-5のメリット
  • 後方の数的優位構築により中央かサイドかの選択を守備側に突き付けられる
  • 4バックに対してアタッキングサードでズレを作りやすい
  • 相手のカウンターへの対応枚数の増加

デメリット

 ではデメリットは何だろうか。真っ先に挙がるのは前方に枚数をかけにくい点である。例えば、これまで使ってきた4-3-3をベースでの攻め方はWG、IH、SBの3枚がサイドでの攻撃に参加しやすいシステムである。だが、3-2-5の場合はサイドの崩しは5の外側2枚に依存する。3の大外は物理的に距離が遠く、中央の2も動いてしまえば後方に負荷がかかりやすくなる。

 サイドに人数をかけられるのが2人であれば、数的な優位が失われるのがもとより、ポジションの入れ替えの複雑性が大きく低下することで守備側の認知負荷は大きく下がる。見ておけばいいのはホルダーに加えてもう1人だけになる。3-2-5の肝は初手で4バックにズレを作りやすいことであり、5バックの相手やあるいは4バックでも5枚の形に対する対応策が明確に決まっているチームには弱い。

 そういうチーム相手には1枚剥がすことができたり、2人引き寄せられるような大外の選手が必要なのである。「4-3-3はWGへの依存度が高いから、三笘がいない今はなり立たない!」みたいな話を見かけるが、個人的にはこの3-2-5の形の方がよほど大外での質的優位が重要になってくるように思う。

 だからこそ、持たざるチームにとっては後方から相手に選択を突きつけていくことが大事なのだ。相手の逆を取り続ければ、相手が揃えたいところに人は揃わない。敵陣に侵入したタイミングでズレを作れているかが生命線になる。先に挙げた例ではCBの持ち上がりから2段階で選択を促す仕組みを挙げたが、3-2-5の理想形はゴールないしはゴールに近づく段階まで連鎖的に相手に選択肢を与え続けることである。

3-2-5のデメリット
  • 敵陣でのポジションチェンジが単純化されやすく守備側に認知負荷をかけにくい
  • 大外で質的優位を持つことができるWGがいないと硬直しやすい

現状の川崎と3-2-5を照らし合わせる

 まず、先に断っておくが川崎はどの試合も常に3-2-5をやっているわけではない。今の川崎の3-2変形のトリガーはRSBの山根が絞ることだが、その山根は絞ったり開いたり動きが試合や時間帯によってまちまちである。

 逆に必ず大事にしているのは中央のCHポジションで複数枚の選手を揃えることである。相手のFW-MF間に2枚以上の選手を置き、この場所でフリーの選手を作る。そしておそらくそこから縦パスを刺す。これが川崎の今季狙っている形の1つであるのだろう。

 ただし、中央から中央に縦パスを刺すというのは相手からすればゴールの最短ルートであり、最も警戒すべきアクションである。守備側がおいそれと簡単に開けてくれるはずはない。

 山根がインサイドに絞る形は先に挙げたような4-4-2相手で、対面の相手が絞るか絞らないかを選択すべき場合においては有効だが、そもそも中央に枚数を揃えている5-3-2のような相手においては単に相手が警戒して埋めているスペースに飛び込んでいるだけであり効果が薄い。

 そうした時に今の川崎が苦しいのは外のレーンのパスを使えないことである。すでに述べた通り、3-2-5システムのメリットは中央とサイドを使い分けながら突きつけることができる点である。インサイドを固めているのであれば、外を回しながらのボール循環をすればいい。例えば下の図のような。

 しかし、現状ではこの大外レーンにおけるCB→WGへのパスルートは開通していない。現状、川崎の外循環がうまくいくときは登里や山根のようなSBをリンクできるときであり、特に山根が絞ることが多い右サイドにおいては外のルートは封鎖される形になっている。今の川崎のビルドアップの最大の難点は困ったCBは無理やりインサイドに刺す→ボールロストという流れが非常に多いことだ。そういった現象を引き起こす一因は外のルートが死んでいるからである。

 結果的に中央のルートを使う!がゴールなのだとしても、「外と中央の2択で中央の優先度が高い」ことと「中央しかない」こととは全く違う。今の川崎はどちらかといえば後者に近い。よって、CBは無理にボールをつけるし、中盤中央で受けた選手は強引なターンでロストの温床になるのである。

 ならば、初めからSBは外でビルドアップの助けをした方が?と思うかもしれないが、SBが大外でパスコースを作りつつ、中央を2枚で維持する4-2-3-1型の仕組みになれば、前方の枚数はさらに削られることになる。かといって、CBに持ち上がって相手を引き付けてはチャンスメイクのパスを連発できるような選手もいない。

 今の川崎対策として守備側の目線で有効なのは、FW-MF間を狭く保ちつつ川崎のCBを放置または狭いサイドに囲いこみながらパスコースを制限する。ボール保持者に対しては中央にパスを入れたくなるようなコースの切り方を行い、狭く保ったスペースに縦パスを入れてくるタイミングで一気にボールハントする。これが理想形だろう。

 川崎が外を見せれないことでプレス隊が簡単に狙いを中央に絞れることで3-2-5で保持を進めるメリットの多くは失われている。その上、前でトライアングルを形成しにくいという3-2-5のデメリットはそのまま残る。家長、脇坂、山根という右サイドの従来の強みといえるユニットは彼らが同時にピッチに立っていても機能していない。今の川崎は3-2-5のメリットを生かせず、デメリットのみを享受している状態なのである。

課題に対しての対応策は?

1.狭いスペースでのパスワークを向上する

 現実的か非現実的かというのはさておいて、今のピッチにおけるボールの循環の仕方を変えないという前提であるならば、解決策はこれ一択。ルートがないわけではないので、ターンしてもボールを失わない。狭いスペースでもパスを通すパスワークを突き詰める!とか。ある意味プランと心中する方向性である。

2.レアンドロ・ダミアンの活用

 昨年までの川崎のビルドアップの逃げ場になっていたCFへのロングボール。小林、山田、宮代ではこのロングボールは2トップに移行しない限りは有効にはならない。今の川崎はまずスタートから2トップを採用しないので、CFにボールを当てて前進するという手段を使うならば実質ダミアン一択になるだろう。

 3-2-5はIHが高い位置を取るので、セカンドボールは拾いやすい。IHのデュエル強度は今の川崎がリーグトップレベルの水準を出せるセクションの1つである。バックラインもダミアンという逃げ場があるのであれば、ギリギリまで相手を引き付けるチャレンジができる。そうなれば近場のパスコースも空きやすくなるという副次的な効果も狙える。

3.CB、GKのプレス耐性の向上

 上の項でも少し述べたが、CBが相手を引き寄せることができれば味方はフリーになりやすい。バックラインが幅を取る3-2-5は敵陣すべての選手にマークを付けるのはカロリーが比較的高めなシステムなので、基本的には誰かしらはフリーになるはず。相手に正確に欲しい速度のボールを届けるスキルはもちろん、味方の距離を遠く保てるとか、相手をどの距離まで引き付けられるかは自信によるところも多いので、このあたりはやっていくうちに向上の余地はある。

 GKへのバックパスを能動的に活用できるかは信頼感も大事。平場のパス回しでミスが出てしまうと、ビルドアップ隊から実質1枚消えてしまうことになる。自陣からの時間を前に送りたい今の川崎にとっては大きな痛手になる。

4.大外レーンでの質的優位構築

 こちらは前線での数が揃えられない問題の対応策である。マルシーニョは実質この役割を担えているかもしれないので、問題は右になるだろう。永長、名願といった選手たちが外に張りながら相手を2枚引き付けたり、必ず1枚剥がしたりなどができれば、アタッキングサードでの人数不足問題は解消に向かうだろう。

5.一人二役マンの登場

 こちらも4と同じく前線の枚数問題の解決策となる。例えば、山根が絞ってCHとしての仕事をしながらもサイドの崩しの3人目になることが出来たらどうだろうか?カウンター対応の脆弱性とのトレードオフではあるが、家長のキープ力と山根の走力をかけ合わせれば無理な話ではないだろう。後方でのゲームメイクと前線での3人目役の一人二役ができれば、山根がこの役割をやる意味が出てくる。

 現有戦力の中で似たような役割が求められそうなのは遠野だろう。左のIHは同サイドのSBが外に開く分、低い位置でのプレーも求められるが、低い位置でのプレーとカウンターにおけるマルシーニョの相棒の役割を両立できるのは走力的には彼しかいないように思える。

 あくまで3-2-5のメリットを表出させた先の話ではあるが、こうした属人的な要素の上乗せは決してマイナスなことではない。むしろ、彼らはチームのスペシャリティといえる特別な武器になりえる存在のように思う。

非保持はどうするの?

 さて、ここまではボール保持について述べて来たが、今の川崎は非保持においても課題が多い。押し込めた時の即時奪回には自信があるが、ゴールキックなどの敵陣深い位置からのビルドアップに対するハイプレスはあまり機能しているとは言えないだろう。

 川崎のハイプレスのトレードマークはWGの外切りハイプレスである。SBへのパスコースを切りながら、CBにプレッシャーをかければ1人で2人の相手を消せるだろう!という発想のものである。

 だが、このハイプレスは中央の選手を壁にしてSBにパスを通す、もしくはWGの頭を越えるパスを直接SBにつけるの2つで解決可能。そして、多くのチームに川崎のハイプレス対策としてすでに実装されている。

 先日、対戦したC大阪はジンヒョンからSBへの正確なパスでたびたび外切りのプレスを無効化していたチームである。川崎はこの日、WGがCBにプレスにいかずにSBを優先。頭を越されることを回避することを選択する。

 一見、ハイプレス対策の対策として機能しているかのように思えるが、今の川崎にはハイプレス以外にボールの奪いどころになる場所をなかなか定めることができないという問題点がある。よって、この試合ではプレスラインがズルズル下がった結果、サイドに顏を出した香川に家長のポジションが乱され、山中にクロスを上げることを許してしまっている。

 ジンヒョンからSBにボールを付けられるよりも、山中からクロスが上がることのほうが圧倒的に失点の可能性は高い。というよりもC大阪からすれば前者は後者のような状況をスムーズに作るための目的に近く、後者のような状況が作れるならば、別に前者を経由する必要などないのだ。よって、川崎の守備対応は機能しているどころか事を悪くしているともいえるだろう。

 ハイプレスが効かない、しかしブロック守備も脆い。これに対する特効薬は現状では思いつかない。地道ではあるが、前線から相手のパスコースを制限しつつ、後方の選手がアタックしやすい状況を作る。これしかないと思う。相手に選択肢を突きつけるのが保持の方針であるならば、非保持の方針は相手の選択肢を狭めることに設定すべきである。

 特に左サイドに明確なストロングを持っているC大阪を相手に回すと、どこにボールを追い込みたくて、どこからはやられたくないのかの優先度があまり設定されていないように見受けられる。地道だが、失点を減らすにはこうした優先順位を共有しながら同じボール奪取の画を描き続けるしかないのだ。

あとがき

 課題はたくさんある。そして、きっとすぐにはよくならない。が、現状何にぶつかっているかを整理することは大事である。この記事は自分なりの整理だが、これを読んだ読者の皆さんも今の川崎が何に苦しんでいて、どうすれば解決に近づくのかを自分なりに考えることが、なかなか勝てないストレスがたまりやすい状況の中でモヤモヤを減らして試合を見ることができる手助けになるはずだ。この記事がその助けになれば幸いである。

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