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「与えた希望の代償」~2023.4.16 プレミアリーグ 第31節 ウェストハム×アーセナル レビュー

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レビュー

流れを変えたPK奪取

 ウェストハムの選んだフォーメーションは4-1-4-1。中盤を3枚にする形でFWは1枚の形である。ズマの相棒CBが本職SBのケーラーでECLをプレイしたはずのアゲルトやオグボンナはベンチ外、1トップのチョイスがイングスではなくアントニオという昨今のウェストハムからすると、やや気になるメンバー選考はあるが、CBが多くないスカッドであれば中盤をかみ合わせるような4-1-4-1の採用は妥当なように思える。

 ウェストハムの立ち上がりのプランはミドルプレス。特にジャカとトーマスにソーチェクとパケタが出て行くなどミドルゾーンやや前目からプレスをかけていく。普段はアンカーで鎮座することが多いライスも他のCHと縦関係を変更してプレスに出て行く場面も目につく。ウェストハムのこうした姿勢は比較的珍しかった。

 アーセナルの前進はウェストハムの前がかりな姿勢を十分に活用するものだった。立ち上がりからスムーズに前進を続けるアーセナル。構造的なものというよりもウェストハムがマークについているトーマスに対して、簡単にターンで前を向かせてしまうことに帰結する部分が大きかった。

 前を向くことが出来たトーマスは前がかりになったウェストハムのCHの背後に入り込むウーデゴールに縦にパスを入れる。こうなるとアーセナルは簡単にWGとSBの1on1のシチュエーションを作ることができる。序盤はこのパターンでトーマスが無双する流れだった。間延びしたMF-DF間のラインに入り込むウーデゴールとの関係性は非常に高い再現性でウェストハムの攻撃に襲い掛かっていた。

 ウェストハムのローラインの守り方を見ると、おそらくアーセナルのWGにはSHとSBの2枚で対応が基本なのだろう。しかしながら、トーマス→ウーデゴールのルートが開通しているアーセナルに対しては2列目の帰陣が間に合わないケースが多々発生。サイドでの守備が後手に回ることが多かった。

 アーセナルの先制のシーンはサカに対してベンラーマのカバーは間に合ったものの、周辺の選手の活用に対してまで気が回らなかった様子。インサイドに入り込むサカにクレスウェルが釣られるとサイドに残ったホワイトとウーデゴールに対してベンラーマがフリーズ。ラインブレイクに成功したホワイトがファーのジェズスにラストパスを決めて先手を奪う。

 続く2点目もWGとSBの1on1からであった。マルティネッリからファーに入り込んだウーデゴールのクロスが通り、これを叩き込んで追加点をゲット。サイドから優位を作り、大外のSBの裏のスペースまで持ち運ぶというパターンを左右で作り上げたアーセナルが10分で2点のリードを得る。

 いい流れで試合に入れたアーセナルだが、少しこの流れに乗り切れていない選手がいた。ジンチェンコの代わりに入ったティアニーである。この日のアーセナルはジンチェンコ不在にも関わらず、左のSBをインサイドに入れる3-2型のビルドアップを継続していたが、ティアニーはなかなかその効果を発揮できなかった。

 立ち位置の有効性の部分以上に気になったのはミドルレンジのグラウンダーのパスがことごとく引っかかっていたこと。内→外または外→内へのパスがカットされたことで危険なカウンターの起点になっていた。正直なキックモーション、キャンセルのないパスまで動き、そしてパススピード。彼のパスは狙われやすい要素があるのだろう。

 ウェストハムは先に述べたように全体の重心を下げていたため、ボールホルダーが最終ラインを直接脅かすような形でなければゴールに迫れなかったが、ティアニーのパスミスはウェストハムにこうしたカウンターの機会を提供する手助けになってしまっていた。

 カウンターから徐々に前進のきっかけをつかみだしたウェストハム。一度敵陣に入ればアバウトなボールから肉弾戦を挑まれたアーセナルは自陣からの脱出に苦労するように。さらに悪いことに、アーセナルはティアニーのパスミスが伝播したかのようにミドルゾーンでパスミスが徐々に出てくるように。ボールを持つ機会はあるものの、ロストから危険なシーンが見られてくる。

 危うい流れを決定的なものにしてしまったのは序盤に猛威を振るっていたトーマスだった。おそらく、この日の彼の立ち上がりの感覚でいえばターンが可能な状況だったのだろう。しかしながら、そこを狙っていたのはライス。アーセナルの司令塔からボール奪取を決めるとエリア内に入り込んだパケタがPKを獲得。これをベンラーマが決めてウェストハムが先制する。

 2失点という苦しい立ち上がりになったウェストハムにとって、ハイプレスからの成功体験はおそらくもっとも必要だったものである。トーマスへのライスのプレスがそれをもたらすと、ここからはウェストハムがミドルゾーンをプレッシングで制圧するように。

 中盤が捕まり続ける状況であれば、インサイドに入り込むSBには救世主になる資質があるが、さすがにティアニーにはその役割が荷が重たい。業を煮やしたジェズスが降りるアクションを増やし、ミドルゾーンから自陣側にボールを受け取りに行く機会が増えていく。

 しかし、アーセナルはウェストハムの圧力に苦戦。ウェストハムはバックラインが中盤のハイプレスに呼応するように高い位置から奪いに来ており背中でパスを受けた選手たちをことごとく潰していく。かといって長いボールに逃げてもアーセナルは保持の時間を回復できない。保持で時間を稼げずに相手からの攻撃を受け続けるという流れはリバプール戦でそっくりそのまま見た光景でもある。

 結局、アーセナルは失点して以降は一度もシュートを打てず。ウェストハムのプレスとセットプレーの雨あられに1点のリードをキープしてハーフタイムを迎えるのがやっとであった。

ティアニーに求めたいことは・・・

 後半になっても試合の流れは変わらない。圧力の強いセットプレーからウェストハムがアーセナルを攻め立てる流れであった。この日のアーセナルにとって救いだったのは、敵陣まで運ぶことさえできれば崩しのフィーリングはそこまで悪くなかったこと。ミドルゾーンで人が捕まり続けて呼吸ができないのが問題であり、敵陣に侵攻できればそれなりにやれていたことである。

 そんなアーセナルはウェストハムの猛攻を縫って入りこんだセットプレーから追加点を奪うチャンスをゲット。アントニオのハンドからPKのチャンスを得る。しかしながら、サカのシュートは枠の外。絶好の機会を逃してしまうことに。

 すると、今度はセットプレーの数では大きく上回るウェストハムの番に。セットプレーのセカンドチャンスからアーセナルのラインの裏を取ったボーウェンが角度のないところからラムズデールのニアを破り追いついて見せる。

 正直に言えば、この場面はティアニーに頑張ってほしかったところ。インサイドに入ってのプレーにジンチェンコと同質のものを彼に求める必要は個人的には皆無だと思う。それよりも彼は彼にしかできないことでジンチェンコとは違う価値を見せればいい。こうした失点を防ぐことはティアニーの方が資質としては優れているはず。

 それだけにこのプレーや、このプレー以降しばらくボーウェンに主導権を握られ続けたことこそ、この試合のティアニーでがっかりしたシーン。インサイドでのプレーが不得手なのは当然なのだが、できないことのチャレンジをし続けるためには、自分が出た時にできる別のものを示す必要がある。それを証明するための十分なプレーがこの試合のティアニーにはできなかった。

 失点してなおエンジンがかからないアーセナルはジョルジーニョを中盤に投入。トランジッションの強度と引き換えに、保持での主導権奪取を狙う。

 この狙いはある程度はハマったといえるだろう。ジョルジーニョの保持でまずはポゼッションを回復するという第一段階はクリアすることが出来た。しかしながら、全体の流れが完全にアーセナルに移ったかといわれると疑問が残る。

 ジョルジーニョが入ってなおティアニーはインサイドに顔を出し続けていた。ウェストハムもさすがにプレスの圧力が弱まりつつあり、彼がインサイドに入らなくても保持は落ち着いていた。よって、外で得意なプレーに専念してもいい時間だったが、ティアニーは愚直にインサイドに入り続け迷子になっていた。

 これにより、左サイドの外のレーンの活用頻度が低下。さらに右サイドは軸となるサカがPK失敗以降ピリッとせずに基準になることができない。そうなると前で待っていてもボールがやってこないトロサールが我慢できずに下りてきてしまい、PA内の人が足りない状況が出来上がってしまう。

 ティアニーを下げて、アーセナルは前線の枚数を増やす采配に出る終盤戦に。ティアニーの代わりにSBに入ったジャカが絞って中盤をやっていたのは偽SBなのか普通のジャカなのかはもうよくわからない状態であった。

 左の大外にネルソンを固定したことやエリア内にエンケティアを入れたアプローチ自体は間違っていなかったように思うが、勝ち点1に向けて冷静に時計の針を進めるウェストハムを前にアーセナルは3点目を奪うことが出来ずに試合は終了。

 2試合連続2-0から勝ち点を落としたアーセナル。優勝に向けて手痛いブレーキである。

あとがき

 プレータイムは与えられるものではなく勝ち取るもの!派なので、ティアニーに対してここまでプレータイムを与えられなかったことが正当化されるような内容になってしまったのはとてもとても残念である。パスミスやポジションの混乱だけであれば、この役割を与えたアルテタが悪い!で済ませることができるが、平面のSBとしてのパフォーマンスに不満が残ってしまっては、ティアニーにできることがまだあったとするのが妥当だろう。この部分で甘い評価を与えるほど自分のティアニーの評価は低くはない。残りのシーズンでの巻き返しを期待したいところだ。

 チーム全体ではリードした後のゲーム運びについては触れる必要があるだろう。プレミアで唯一逆転負けがないチームなので、試合運びが極端に下手ということではないだろう。ただ、サリバと冨安がいないバックラインの強度が落ちていることは回避しようがない。受け身に入ると今のチームは脆い。

よって、今のスカッドでできることはロングボールを減らして自陣からのプレス回避できっちりと主導権を握り直すことだろう。リバプール戦もウェストハム戦も失点のきっかけはポゼッションの喪失が絡んでいる。得点まで行ければもちろん理想だが、最低限保持で落ち着きを取り戻す呼吸方法を覚えておきたい。ジョルジーニョ投入以外の方策で(=その時ピッチにいる選手で)落ち着きをもたらせられれば最高だ。

 ウェストハムは素晴らしかった。正直に言えば先制すれば勝ち点3は堅い相手だと思っていた。そして、ハイプレスで得点を奪うイメージは全く持っていなかった。トーマスからライスがボールを奪ったあのシーンでウェストハムが希望を持った。個人的にはサカのPK失敗よりも断然流れを変えたワンプレーだと思う。そして、アーセナルはこの与えた希望の代償を最悪な形で払うこととなってしまった。

試合結果

2023.4.16
プレミアリーグ 第31節
ウェストハム 2-2 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:33‘(PK) ベンラーマ, 54’ ボーウェン
ARS:7’ ジェズス, 10‘ ウーデゴール
主審:デビッド・クーテ

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