第1節 チュニジア戦
■保持の安定≠効果的な前進
本命のフランスを追いかける両チームの対戦。混戦となる予想がされるグループステージ突破争いで主導権を握るべく、まずは勝利で優位に立ちたいところである。
積極的にプレスをかけていったのはデンマークの方。チュニジアのバックラインに高い位置からプレスをかけていく。しかしながらバックラインがGKを交えてのビルドアップを行うチュニジアに対して、プレスはかけきれないデンマーク。ハイラインだけど相手を捕まえきれない状態に苦しむことになる。
チュニジアにとっては中盤で体を張れたのも大きかった。特に目立っていたのは14番のライドゥニ。序盤から闘志むき出しでプレーしていた彼と同サイドのシャドーのユセフ・ムサクニの2人を軸に左サイドでボールの落ち着きどころを作っていた。
アンカー役となっていた17番のエリス・スキリが最終ラインに下がりながらCB2枚とGKと菱形を作ることが多かったことからも分かるように、ショートパスで繋ぎたがっていたチュニジア。中盤から抜けるところまではボールを運びながらデンマークに対抗できていたと言っていいだろう。
デンマークに比べれば、チュニジアは明らかにバックラインに対してプレッシャーをかけてこなかった。チュニジアのトップのケアはアンカーのデラニー付近が起点に。デンマークは3バック+アンカーの3-1でボールを運ぼうとするが、中央に明確な預けどころを見つけることができない。
デンマークの保持のメインルートとなったのはサイドの方。左サイドは大外を回るメーレが敵陣を抉るようにアタックをかけていたし、右サイドはFW陣がサイドに流れることで起点に。右サイドは逆にインサイドにはR.クリステンセンが入り込むことで、FW陣が作り出したスペースを有効活用していた印象だ。
立ち上がりは中盤同士のデュエルが頻発し、ややチュニジアが優勢となっていたが、25分過ぎからはデンマークがボールを持つ機会がグンと増える。きっかけとなったのはIHの降りる動き。エリクセンやホイビュアなどは積極的に列を落ちる動きを行うことでポゼッションを安定させていた。
しかしながら、保持の安定とボールを前に進めるかどうかはまた別の話。後ろに重いポゼッションは前進の手助けにはならず、ボールを持ちながらもゴールに進めない状況が続くことになるデンマークだった。ボールを持てる機会が減ったチュニジアはややロングボールに頼る傾向が強くなる。デュエルで負け始めたチュニジアは自陣に押し込まれる機会が増えることとなった。
均衡した状態で迎えた後半も同じくデンマークがボールを持つ展開に。アクセントになったのは前半途中のデラニーの負傷交代によって投入されたダムスゴー。低い位置に降りてから前を向くと、馬力のあるドリブルで前線までボールをキャリー。降りても自分で運べればよし!のルールに乗っ取って、高い位置までボールを運ぶことで降りる動きを正当化していた。
右サイドはインサイドに入るR.クリステンセンがアクセントになっていたデンマーク。左サイドもダムスゴーの登場でデンマークはサイドで崩すための動きが増えることとなった。左サイドは交代でWGにイェンセンが入ると、ビルドアップに献身的に参加。同サイドのメーレは前半から高い位置のクロスで収支はプラスになっており、後半もビルドアップに絡ませることはほとんどなかった。けども、割と終盤は割と移動がバレていた節があるので、効果的だったかは微妙なところである。
左右できっかけを見つけることができたデンマークは後半も押し込みながらの攻撃に専念。チュニジアはロングカウンターを軸に一発でひっくり返す形を継続して狙っていく形になっていた。
大きな展開よりも、エリクセンがライン間に入り込むような動きにパスを
重ねることができたりする方が得点の匂いがしたデンマーク。前半から優位を取っているセットプレーも含めて敵陣深くまで攻め込むが、最後まで解決策を見つけることができないまま試合は終了。
デンマークが終盤にかけて押し込む展開を続けることになったが、決定的なゴールを生み出すことができず試合はスコアレスドローに。両チームとも勝ち点1を分け合う発進になった。
試合結果
2022.11.22
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第1節
デンマーク 0-0 チュニジア
エデュケーション・シティ・スタジアム
主審:セサル・アルトゥール・ラモス
第2節 フランス戦
■不確実性を打ち消すアジリティでベスト16一番乗り
初戦は王者としての風格たっぷりな逆転勝利での白星発進となったフランス。勝てばグループステージ突破を決めることができる一戦で迎えたのはネーションズリーグでフランスに勝った実績のあるデンマークだ。
デンマークのプランは5-4-1で後方を重たくするプラン。ミドルゾーンからPAの手前くらいにラインを設定し踏ん張りに行く。サイド攻撃が主体となるフランスに対して、5-4-1は割と人員を余らせることができている形。左右のどちらのサイドにも顔を出すグリーズマンの効き目はオーストラリア戦に比べると限定的だったと言えるだろう。
その分、この日のフランスは純粋なスピード勝負で優位に立っていた節があった。両WGのスピードは相変わらず凶悪。正対した相手を置き去りにすることが平気でできるアジリティを有している。
特にムバッペとテオが縦に並ぶ左サイドはデンマークにとっては非常に厄介。低い位置までおりていくムバッペについていけばテオに背後に走られてしまうし、かといってムバッペがおりていくのを放置すればドリブルを開始されてしまう。網を張っていてもムバッペはそれを突き破る勢いでかかってくるので非常に厄介である。
ムバッペ→デンベレもデンベレ→ムバッペももちろんジルーをターゲットにするエリア内に迫る攻撃もなかなかにクリティカル。デンマークの守備陣は跳ね返しに大忙しだった。
ただ、デンマークのボール保持に対してはフランスはそこまで積極的に阻害する様子はなかった。そのため、フランスが攻める局面のみの試合になっているわけではなかった。
デンマークの保持の狙いとなりそうなのはムバッペの戻りが甘いフランスの左サイド。4-4-2ベースの陣形なのだが、フランスの守備陣形はムバッペが戻らない分、歪む形で守ることになる。デンマークは自由に持たせてもらえるCBから対角のパスを駆使して右サイドにボールを届ける。
ただし、フランスはフランスでムバッペが戻りきれないことは織り込み済みだった。グリーズマンを中盤に下げてラビオを早めにフォローに向かわせたり、大外→ハーフスペースの裏抜けというデンマークの動線はウパメカノが完全に見切ったりなど、戻れないなりに設計されていた。
デンマークの用意した右サイドのプランはウパメカノに無効化されてしまったので、別の前進ルートを用意しなければいけない。ただし、テオの守備は軽かったのでこちらのサイドを崩しの狙い目に設計していること自体は悪くないと言えるだろう。
後半もフランスの左サイドはアジリティ勝負。相変わらずムバッペはテオを相棒に暴れ回る状況が続いていた。撤退色を強めるデンマークに対して、フランスは遅攻気味の右サイドでも攻撃を構築。高い位置での右のワイドに張るデンベレを軸にクンデとグリーズマンを絡ませることでバリエーションをもたらしていた。
特に、グリーズマンの動きは秀逸。右の大外に張り出すデンベレを囮に自らも最終ラインと駆け引きをしながら、裏に抜けるボールを引き出して見せる。決定機の創出はアジリティ第一じゃなくてもできる!と言わんばかりの身のこなしであった。
左右の異なる形で攻撃の目処を立てているフランス。デンマークに対して先制点の牙を向いたのは左サイド。インサイドを走り抜けるテオを相棒にカットインしたムバッペが先制ゴールをゲット。2人を引きつけたテオのフリーランが見事にムバッペのお膳立てに寄与。素晴らしい連携でデンマークのゴールをこじ開けてみせた。
しかし、敵陣に押し込むということに関しては支配的でいれないのが今のフランス。ボールを奪うということに関してはそこまで得意ではない。デンマークにボールを運ばせる機会を与えてしまうと、セットプレーからクリステンセンの同点ゴールを許してしまう。
だが、最後に笑ったのはフランスだった。86分、右サイドに入ったコマンからマイナスのパスを受けたグリーズマンが鋭いクロスを放つ。おそらく、このクロスが少しでも山なりであればシュマイケルはキャッチに行けたはずだ。それだけに絶妙な軌道と言えるだろう。
このクロスの先にいたのはムバッペ。機動力で強引にDFの前に入り、体ごとゴールに押しこんでみせた。
非保持の不安定さを打ち消す破壊的なアジリティで連勝を決めたフランス。ノックアウトラウンド進出第1号となった。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第2節
フランス 2-1 デンマーク
スタジアム974
【得点者】
FRA:61′ 86′ ムバッペ
DEN:68′ アンドレアス・クリステンセン
主審:シモン・マルチニャク
第3節 オーストラリア戦
■フィニッシャー不在のデンマークをロングカウンターで粉砕
勝てば今大会アジア勢初めてのグループステージ突破を決めることができるオーストラリア。対するは堅実な試合運びが目立つ一方で勝ちきれない試合が続くデンマークである。
保持においてショートパスでの明確な前進を用意することができたのはデンマークである。CBにプレスをかけることを放棄したオーストラリアに対して、アンデルセンは自由にゲームメイクが可能。インサイドへのパスとアウトサイドのパスを使い分けながら前進する。
インサイドのパスはブライズワイトへの楔をターゲットにしたもの。目立っていたのはパートナーとしてオフザボールを駆け回っているイェンセン。楔の落としを裏抜けしながら受けてみせる。イェンセンはこの試合ではフリーランの鬼。右の大外にボールがある時はほぼ自動的にハーフスペースの裏抜けを行ってみせていた。
中央の楔を意識したオーストラリアがインサイドに注意を向けるべく、陣形を横にコンパクトにすると、デンマークの狙い目は左サイドに向く。大外を抜けるメーレとリンドストラムの2人からインサイド攻略を狙っていく。
デンマークはどちらのサイドの攻略もオーストラリアのラインコントロールを意識させながらのクロスであったことは興味深い。裏を返せばラインを動かさない高さ勝負のクロスではオーストラリアには勝ち目はないということ。大外に抜けられてしまうメーレはともかく、ハーフスペースを機械的に抜けるイェンセンに対しては徐々に対応が慣れてきたオーストラリアだった。
配置で殴られているといえば殴られているオーストラリア。だが、プランをどこまで変えるかは難しいところ。後ろに重たい布陣に修正すれば、独力で陣地回復ができないオーストラリアはモロにカウンターに影響が出る。引き分けでOKという状況も裏のカード次第では変容することもある。
何より、カウンターからの攻撃は割といけていた。その理由は空中戦での強さ。長いボールの主導権は常にオーストラリアが握っており、アバウトでも収めることができたのは大きい。カウンターには厚みのある状況を作るオーストラリアは比較的得点の可能性がある形になっていた。
プレッシングにおいても高い位置に出ていけば、比較的デンマークのバックラインを困らせることができていたオーストラリア。オープンな状況を誘発した際に、割とオーストラリア側にペースが流れたのはなかなか興味深い事象だった。
両チームとも選手交代を敢行したハーフタイム。グッドウィンに代わってバッカスを入れて、中盤のアーヴァインを外にポジションを写す。デンマークは右のSBを入れ替える形である。
それ以外の変更点としてはエリクセンがポジションを下げて2センターのような形でビルドアップを行っていたこと。そして、オーストラリアが再びプレスのスタート位置を自陣の深い位置に下げたことである。よって、後半もデンマークがボールを持ちながら右サイドを軸に攻略していく形だった。
他会場の経過の関係で、後半早々に得点の必要性が出てきたオーストラリア。その注文を素早くクリアしてみせる。ロングカウンターから裏に独走したのはレッキー。完全に抜け出しきれないでDFを1人交わす必要があったシーンだったが、一度内側に進路をとることで外のコースを開けたドリブルの選択に加えて、股抜きでファーを狙ったシュートも見事。運ぶ過程からフィニッシュまで非常に優れたロングカウンターの完結と言っていいだろう。
これで突破には2点が必要となったデンマーク。交代枠を早々と5枚使い切り反撃を狙う。右サイドの突破は選手交代後も問題なくできていたことと、エリア内に高さでオーストラリアのDF陣と張ることができるコーネリウスを入れることで反撃に出る。
だが、これは押し切るための手段として考えるとどこまで効果的だったかは怪しいところ。フィニッシュをこなせる人材不足は大会を通しての課題で、この試合でもデンマークはその部分を解消することができなかった。
最後は5バックにシフトし、ゲームクローズに走ったオーストラリア。デンマークから最後まで決定機を取り上げることに成功し、逃げ切りを達成。フランスに敗れた後の2連勝で逆転でのグループステージ突破を決めた。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
オーストラリア 1-0 デンマーク
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
AUS:60′ レッキー
主審:ムスタファ・ゴーバル
総括
■CF不在と一本調子な攻め手に悩まされる
EUROではスイスと並び非常にコレクティブなサッカーを展開したチーム。組分け的にもここは問題なく突破するかと思われたがまさかのグループステージ敗退となった。開幕戦のチュニジア戦では強固な守備同士の一戦で両軍納得のスコアレスドローといった風情だったが、続くフランス戦とオーストラリア戦で連敗を喫し、呆気なく終戦となってしまった。
フランス戦での健闘を見ればわかるように、グループステージで敗れようとどこにとってもデンマークが倒しにくいチームであることに異論はないだろう。問題は勝てなかったことである。3試合通して得点は1つ。決めた1得点はコーナーキックからということで、オープンプレーからの得点は1つもなかったことになる。
オーストラリア戦はそうした彼らの問題点が浮き彫りになる試合だったと言えるだろう。ボールを奪い、サイドに展開し、ハーフスペースの折り返しを行うところまではできていた。だが、そこからゴール前で相手を脅かす手段がない。ハーフスペースの裏抜けまでの過程もやや機械的一本調子な嫌いがある。メーレ、R.クリステンセンと攻撃的なSBはいいアクセントにはなっていたが、うまくエリア内に待ち構えていた選手達と繋がれていたかは怪しい。
真っ先に挙げられるのはCFとして信頼できるタレントがいないというところだろう。ドルベリ、コーネリウス、ブライスワイトはいずれも確固たる信頼を置ける選手とは言い切れず、試合ごとにメンバーを入れ替えながら試行錯誤することとなった。
CF以外で気になったのは司令塔であるエリクセンの存在感の薄さ。EUROからカムバックしてきたというストーリーはそれだけで特別なものであることに疑いの余地はないが、ユナイテッドで見せているような輝かしいゲームメイクは鳴りを潜めていた。一本調子な試合運びを変えるならば彼!と思っていたけども、この部分で存在感を出せなかったのは痛恨だろう。
シュマイケルからの正守護神移行のタイミングは難しいが、CBをはじめとするバックラインは強固でこの先数年も安定感は揺るがないはず。やはり、前線を主体としたアタッカーの台頭があるかどうかが今後の大きなポイントになるだろう。
Pick up player:ヨアキム・アンデルセン
ボールを持たせた時の配球力は天下一品。クリスタル・パレスでの好調を本大会でも遺憾無く発揮した。