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「マンツーマンへの対応策は?」~2023.5.15 プレミアリーグ 第36節 アーセナル×ブライトン レビュー

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レビュー

仕上げの甘さが目立つアーセナル

 優勝争いと欧州カップ戦争い。それぞれの目標においては追いかける立ち位置にいる両チームの対戦である。残り試合が少なくなっていることを踏まえれば敗戦は目標への扉を大きく狭めることになる。両チームとも是が非でも勝ち点を獲りたい状況である。

 メンバー表から想定されるフォーメーションとは異なる形を採用しているのはブライトンの方だった。変えて来た箇所は2つ。三笘とエンシソのサイドが左右逆だったこと、そしてカイセドとグロスのどちらがSBを務めるかである。

 まず、グロスではなくカイセドをSB起用したことについて。これは先日のマンチェスター・ユナイテッド戦で試された用兵である。なお、この試合にはグロスは軽度の負傷で欠場。よって、グロスに先んじる形でカイセドがSBに入るケースが初めてといえるだろう。

 狙いとして読み取れるのはシンプルにアーセナルのWG対策だろうか。間に合っておらずファウルになったプレーではあるが、立ち上がりのマルティネッリへのハードなタックルは彼に託された役割の1つを垣間見たような気がした。

 一方で三笘を右に移す変更は解釈が難しい。発端は間違いなくマーチの欠場だろう。エバートン戦ではそれに伴う攻撃の左サイド偏在がかなりハードであり、ここを解消したかった可能性がある。

 考えられる要因はいくつかある。チャンスメイクは左→右の形が多かったのでヘディングに強い三笘をフィニッシャーにするため、外を回ってくれるエストゥピニャンであればプレーエリアがインサイド寄りのエンシソでも問題なくプレーできると考えたため、エストゥピニャンと三笘を左右に分散させることで両ワイドに大外に張れる選手を置くため。あるいはこういうことの複合要因だろうか。ピッチでのプレーを見ても、明確な解釈を得ることは難しかった、

 明確な解釈を得ることが出来なかった理由の一つはブライトンの後方からのビルドアップがあまり機能していなかったからだろう。アーセナルはブライトンに対して高い位置からのプレスに行っていた。狙いとしては中盤より手前でボールを狩り取ること。いつもであれば制限をかけるくらいのアクションで始まる立ち上がりだが、アーセナルは明確にボールを高い位置で取りに行っていた。

 プレス隊となっていたのはジェズスとウーデゴール。2人ともまずは誘導する方向を決めてからボールを追いかけるので、次のアクションでボールを奪い取りやすい。

特に、縦にギリギリのパスを差し込みたがるコルウィルに対してはアーセナルのプレスの相性は良好。ウーデゴールがコルウィルにプレッシャーをかける形で列を上げるアクションに呼応するように、後方のジョルジーニョは1列手前の箇所を塞ぎに行く。誘導がセットになっているので、守備範囲に不安があるジョルジーニョも無理なく守ることができる。

アーセナルはブライトンのバックラインへのプレッシャーからショートカウンターのチャンスを得ることが多かった。しかしながら、詰め手の雑さとシュート選択の早さが仇となり、なかなか枠内シュートにたどり着くことができない。

この試合を通してみるとウーデゴール、トロサール、サカ、ネルソンにはそれぞれ惜しいミドルシュートを打つチャンスがあったが、いずれも枠にいかなかった。全員惜しいし、シュート選択自体は理解できるものだったが、どれも枠にいかないとなると、ここは単純に技術不足ということなのだろう。

また、角度のないところからの無理筋なシュートも散見。この日のアーセナルはショートカウンターで自身の価値を証明することが出来なかった。ブライトンにとってはアーセナルの甘さに助けられた格好になるだろう。ちなみにブライトンの守備陣の中で圧倒的だったのはコルウィル。特にアーセナルの右サイド側の抉ってからのマイナスのパスのグラウンダーをことごとくカットしていたのは素晴らしかった。ちょっとこれは鬼でした。

ついてくるかどうかでマンツーへの対応を決める

 アーセナルのボール保持に対するブライトンはマンツーマン志向だった。一般的にマンツーへの対策の方向性としてざっくりと提示できるのは「マークがついてくることを利用すること」もしくは「マークがついてこないことを利用すること」の2つである。

 この試合における実例を用いて説明しよう。アーセナルはビルドアップの際にティアニーが絞るのではなく、ウーデゴールが下がるアクションを多用していた。純粋なマンツーの発想でいえばウーデゴールのマーカーはコルウィルになる。

 しかしながら、後方のスペースを捨ててCBのコルウィルが相手のCHの位置に降りるウーデゴールについてという動きはかなり尖ったものになる。ついていくかどうかはそのチームがどれだけマンツーの色が濃いか次第である。

 仮に降りるウーデゴールにコルウィルがついていかないのだとしたら「マークがついてこないことを利用する」。ウーデゴールがフリーになるのでアーセナルのCHの位置でブライトンのマンツーの原則は崩壊する。ジョルジーニョのマーカーにも迷いが生じるかもしれない。このようにCHをフリーにする。

 ところが今回のブライトンはリスクをいとわずにコルウィルがウーデゴールを捕まえに出て来た。ちなみに、ブライトンは自陣からのショートパスからの前進が得意なチームに対して、このようにオールコートマンツーで対抗することがある。エティハドでのシティ戦もそうだった。よって、このようなマンツー原理主義色の濃い対応をアーセナルにしてくることはある程度予見できたといえるだろう。

 このパターンへの対抗策はざっくりと2つ。後方のパス交換でフリーの選手を作り、相手のマンツーを外すこと。もしくは、人口密度が薄くなっている敵陣目掛けて一直線である。ロストするなら遠くの方が安全だし、広いスペースでストライカーが勝負できれば相手のバックラインに対する勝率もそれなりにあるだろう!ということである。

 ちなみにアーセナルがいつもやっている偽SBも蹴っ飛ばす解決策と似たような発想だ。相手のSHにコルウィルと同じ判断を強いて、ついてこないのであればインサイドを使うし、ついてくるのであればWGへの動線が開く。ついてこないのなら使うし、ついてくるなら使わない。この原則である。

 マンツーマンにも濃淡があるように、マンツーマンへの対応も濃淡がある。アーセナルはショートパスをつなぎながら確実に前進できるポジションを作り出すパスワークを自陣側で作ることと、ラムズデールが前線に蹴っ飛ばすことを織り交ぜながら前進にトライしていた。

 前者はそれなりにうまくいったといえるだろう。しかしながら、後者の蹴っ飛ばす方からのチャンスメイクはもう少しできるように思えた。若干、ロングボールのターゲットが人主体過ぎただろうか。ジェズスとダンクのマッチアップであれば、もう少しスペースに蹴る形でスピード勝負に持ち込みたかったところ。また、こうしたロングボールのデュエルがうまいマルティネッリが負傷交代したのもアーセナルが解決策を見いだせない理由の1つだった。ちなみに同じ策をぶち当てられたシティの解決策はエデルソン→ハーランドでダンクをぶっ壊すでした。セオリー通りとはいえ怖すぎる。

ティアニーに出来たことはあったのか

 なにかとティアニーが絞らなかったこととアーセナルの前進がうまくいかなかったことが関連付けられがちだが、うまくいかなかったのは前線の3枚を活用したスペースへのロングフィードが機能しなかったことであり、ティアニーがインサイドでポジションをとっているかどうかはあまり関係がないように思う。

 というか、インサイドにポジションを取ったら、おそらくアーセナルの保持の足かせになったいただろう。絞ることでズレが作れればいいが、この試合のブライトンの基準でいえばおそらく絞るティアニーに三笘がついてくるはず。

中盤中央でボールを受ける選手に求められるのは細かなパスワークの資質、ターンで相手を外すスキル、そしてパスを出した後のオフザボールのアクションである。これらはいずれもジンチェンコに期待できるものであって、ティアニーに期待できるものではない。これができない人がインサイドで受けても、パス交換からフリーマンを作り出すことは難しいだろう。むしろ、ボールロストの温床になるかもしれない。よって、インサイドに絞らない判断は正しかったといえるだろう。

 とはいえ、外側のレーンでなにもできなかったやんけ!と言われると辛いところである。ブライトンの特性を考えればこの試合のティアニーは内外に関わらず低い位置でボールを受けるアクションを重視しなくてよかったと思う。むしろ、狙ってほしいのは列を上げることでフリーになり、フリーの状態でボールを運ぶことである。

 この試合のティアニーは外側のレーンの低い位置でとどまっていてパスを受けようとしていた。欲しいアクションはある程度アーセナルのパス回避の目途が立った段階で前線に駆け上がることである。できれば対面の三笘を出し抜く形になれば理想だ。

 ちなみにこうした動きは懐かしのヌーノ・タバレスが抜群にうまかった。自分たちの攻撃がプレスを脱出すると判断する早さで対面を出し抜くことで、何度も左サイドからフリーでボールを持ちあがっていた。

 ブライトンのカイセドもこの動きがうまかった。ダンクと共にトロサールを狙い撃ちにする形で前進をしたり、16分のように最終ラインからのロングボールをDFラインの裏で受けたりなどである。

 個人的にはティアニーがジンチェンコと同じスキルを身に着ける必要はないと思う。インサイドに絞るアクションは必要だが、細かいパスワークから強烈なマンツーを外すことは無理だろう。かといって、何もできませんでは起用されないだけである。この試合であれば、大外から相手を外す形で駆け上がって攻撃参加する機会を増やせれば、より持ち味が発揮されるだろう。こういう方向性でスキルを伸ばしてほしい。

プレスバックの出し抜きが均衡を動かす

 前半にチャンスの機会が多かったのはアーセナルだろう。しかしながら、ハードなマンツーで要所でプレーを切ることで、試合が中断するタイミングを作ったブライトンはアーセナルにペースを持っていかれないようにしていた。マンツーでのハイプレスの応酬もどちらかといえばブライトンが引き込んだ土俵である。

 彼らがそうしなくてはいけなかった理由は両翼を欠いた状態では押し込んだ後の定点攻撃が機能しないから。前節のエバートン戦でもそうだったし、アーセナル戦での前半でもそうだった。よって、ラン&ガン型のアーセナルの方が有利だとしても、ブライトンが点を獲るためにはよりスペースがある状態での攻撃を仕掛ける必要があったのではないだろうか。ちなみにブライトンの左右のWGを入れ替えた形はおそらく狙った形で機能しなかったのだろう。35分には元の形に戻ることとなった。

 後半もマンツー色が強い応酬が続いていく両チーム。オープンなスペースで受ける機会が多いにも関わらず、両チームになかなかチャンスが生まれないのは前線の選手の戻りが早く、もたついてしまったらすぐに挟まれてしまうからだろう。アーセナルのファストブレイクがやや焦り気味になっていたのはブライトンの戻りが早い影響もあるだろう。アーセナルの2列目の中で球持ちがいいのはトロサールだが、この試合ではリリースを遅らせる判断をした結果、ボールを奪い取られるシーンが目立っており、あまり効果的に自身の特性を使えていなかった。

 そういう意味ではブライトンに生まれた先制点は非常にこの試合を象徴するものだった。インサイドでキヴィオルがエンシソをマークできなかったことが失点の直接要因であるのは間違いないのだが、このシーンは三笘を追い越すエストゥピニャンにサカが完全に出し抜かれたシーン。トランジッションの早さを生かしてエストゥピニャンがサカを振り切った瞬間だった。ブライトンとしてはようやく狙い通りに2人の関係性が使えた場面だったといえるだろう。

 リードをしたアーセナルに対して、ブライトンはボールを持ちながら時間を使っていく。しかしながら、ポゼッションで逃げ切るという判断はあまりデ・ゼルビの頭の中にはなかったのではないかと推測する。

 理由の1つはアーセナルのプレスが後半もなお機能し続けていたこと。この試合のアーセナルのハイプレスは基本的に非常によくやっていたと思う。今季のブライトンならばハイプレスは大体10~15分もあれば解体できるケースがほとんど。後半まで持たせていたというのはアーセナルはよくやった方だと思う。ファーガソンへのロングボールをほぼ無効化していたガブリエウもブライトンの選択肢を狭めていた。

 もう1つはブライトンのスカッドの事情だ。この試合の交代選手で計算が立つ選手はブオナノッテ、ウンダフ、ウェルベックと2列目より前がほとんど。守り切ったりバランスを取ってしのぐというのは難しい。よって、1-0で逃げ切らずにオープンな状況で追加点を狙うためにウェルベックを投入する。

 アーセナルからすれば先制点を取られたにも関わらず、チャンスを多く作れたここまでの土俵が継続することになる。保持に回れば十分にチャンスを作れそうな状況はキープできていたのだが、変化があったのは三笘が登場した左サイド。スティールからのロングボールを収めつつ、ホワイトを出し抜くという役割を完璧にこなしていた。サカに走り勝つことが常態化していたエストゥピニャンもまとめて襲い掛かってくるブライトンの左サイドにホワイトは完璧に飲み込まれてしまっていた。

 インサイドではウェルベックがファーガソンと縦関係を形成することで2トップの関係性からの起点作りに搬送。前半よりも後方からのロングボールの逃げ場を作ることが出来たブライトンは同じ土俵でも前半ほどアーセナルのプレスに引っかからずにボールを前に進めることが出来た。

 すると、ブライトンはハイプレスから追加点。トロサールのパスをカットしたグロスからウンダフがループで沈めて2点目をゲット。これで勝負は決着したといえるだろう。

アーセナル目線でいえば、このプレーはトロサール個人のミスの色が濃い、中央に降りてくる選手にパスを付けるのはある程度リスクがあるプレーではあるが、トロサールとグロスの距離感を見れば捕まっているとは言い難いし、グロス以外にトロサールを挟むアクションをする選手もいないため、自陣方向にコントロールしながらマーカーを引き付けつつフリーになる選手を探す、もしくは左サイドでフリーのティアニーにボールを預けるのどちらかがベターだったはず。ワンタッチで列を超えようとするパスは決まれば最高だが、リスクがあまりにも大きかった。

 ブライトンは後半追加タイムに3点目をゲット。走り続けたエストゥピニャンがウンダフのシュートのこぼれ球を押し込んでケーキにイチゴを乗せた。

 試合は0-3で終了。エミレーツを完全制圧したブライトンが欧州カップ戦への望みをつないだ。

あとがき

足りなかったのはプランAの突き抜け

 「監督は負け方を選べる」とデ・ゼルビは言っていたが、この試合のブライトンにはスカッド上の制約が多く、選び取れる負け方はあまり多くはなかった。特に1点リードしてからの振る舞いはベンチのメンバーが異なれば違ったものになったかもしれない。

 そういうわけでアーセナルは0-0はおろか0-1で推移していた時間帯でも自分たちが望むものに近い土俵で戦えたといえるだろう。ハイプレスから相手の攻撃を寸断し、ハイプレスに対して自陣からパスワークで無効化する。今季のアーセナルのプランAが突き詰めてきたスタイルである。

 この試合の敗因はそのスタイルが通用しなかったこと。少なくともスコアに可視化される形で違いにならなかったことである。プランBとか、控え選手の質とかそういう問題ではなく、スターターのスタメン11人のプランAで勝負に負けたことである。

 今季のアーセナルは早々にカップ戦が全滅したことで試合のペースは週1で推移していた。プランAの精度を高めて逃げ切るというアウトサイダーとしての優勝パターンが発揮される土壌は整っていたといえるだろう。しかし、ブライトン戦ではその部分が挫かれた。シンプルに優勝のためには力が足りなかったのだろうと思わざるを得ない内容だった。

 来年はまた別次元の厳しさを体感するシーズンになるだろうし、周りのライバルの勢力図も変わるだろう。今年優勝を争えたから来年もまた!ととんとん拍子で行くとは限らないのが今のプレミアリーグの厳しい環境である。

それでも、今季のアーセナルはよくやったと思う。残り2試合でチームとファンが顔を上げられるようなパフォーマンスを見せて、素晴らしい22-23シーズンを締めくくりたい。

試合結果

2023.5.14
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 0-3 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
BHA:51′ エンシソ,86′ ウンダフ, 90+6′ エストゥピニャン
主審:アンディ・マドレー

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