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「同じ上昇曲線を誓って」~2023.5.28 プレミアリーグ 第38節 アーセナル×ウォルバーハンプトン レビュー

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レビュー

サカの優位がサイドの優位に

 優勝、CL出場チーム、EL出場チームが最終節前に確定している今季のプレミアリーグ。残る競争は1つの枠をめぐるECLの出場権争いと、3チームで1つの椅子を奪い合う残留争いである。

 最終節に残された決め事が少ない今季のプレミア。その影響からか38節では実質的な消化試合と位置付けることができるカードが合計で5つ。エミレーツ・スタジアムで行われるアーセナル×ウルブスのカードはそのうちの1つである。

 ただ、ホームスタジアムの後押しを見るのであればアーセナルの面々がこの試合を単なる消化試合の1つと位置付けられたかは怪しいだろう。エミレーツに乗り込んだアーセナルファンは素晴らしいシーズンのラストゲームを見届けるために、もしくは長年苦楽を共にしたグラニト・ジャカの姿を目に焼き付けるためにピッチに声援を送り、多くのバナーを掲げていた。

牧歌的なのんびりとした最終節の雰囲気も個人的には嫌いではない。だが、テレビの向こうのエミレーツで感じた雰囲気はそうしたものとは少し違うように思えた。

 そういう意味でこの日のアーセナルファンが最も目にしたかった光景が実現するまでにはそこまで時間はかからなかった。右サイドに流れたジェズスからのクロスにフリーで合わせたのはグラニト・ジャカ。今日この日にもっともファンがゴールを待ち望んでいた男が開始早々にネットを揺らして見せた。

 もっとも、右サイドで崩して左サイドで仕留めるという形はこの試合では先制点以降も何度も何度も繰り返されることとなる。左サイドが主戦のジャカがエリア内で仕留めるという形は必然性が高い得点パターンだったといえるだろう。

 右サイド偏重の攻撃になる理由の一つはアーセナルのフォーメーションである。前節のフォレスト戦で起用した11人をアーセナルは完全に踏襲。左サイドにマルティネッリはいないが、右サイドにはサカがいる。左右のWG事情の偏りは素直にアーセナルの攻撃が右に変調する形で出力されることとなった。

 さらにこの流れを加速させたのはアーセナルの攻撃が右に偏ることを十分に予見できたはずのウルブスが特に効果的な対策を打ってこなかったことである。ウルブスの基本的なフォーメーションは4-4-2。ナチュラルな下地ではアーセナルの大外×ハーフスペースのコンボアタックに対抗すると難しい試合になる予感がする形である。

 だが、ウルブスは特に対策を施すことはせず、素直に勝負を挑む選択をした。その結果、アーセナルの右サイドはサカとブエノのマッチアップで生まれた優劣がそのままサイドの優劣にシンプルに反映されることとなった。

整理された前線の動きとトーマスの役割

 フォレスト戦で分かったこの11人でのアーセナルの良かった点は、右のCBをキヴィオル→ホワイトに入れ替えたおかげで右のCBが広い位置を取り、SBを押し上げてサカのサポートをすることができるようになったこと。

 逆に課題となるのは、SBがホワイト→トーマスになったことでサカとホワイトという右サイドのホットラインが途切れてしまうこと。トーマスも悪いパフォーマンスではないが、サカとの連携面で言えばトーマスに一日の長があるのは間違いない。右サイドに人を送り込む過程でホワイトを起用することで、最終局面にホワイトを使うことができないというジレンマにアーセナルは悩まされることになる。

 だが、この日のアーセナルはそこまでこのジレンマに悩まされることはなかった。右サイドはサカ、ウーデゴール、ジェズスの3枚で崩すことができたため、トーマスの攻め上がりのタイミングはそこまで問題にならなかった。

 トーマスはむしろ、後方の3-2ブロックからの組み立てで仕事をしていた。右サイドの大外に的確にボールを供給することできっちりとサカとブエノの1on1を作り、右サイド攻略の下地を作ることに専念していた。

 整理という意味合いではフォレスト戦では自由すぎて無秩序だった感じの前線の動きもだいぶ整ったように見えた。フォレスト戦では右サイドの低い位置まで降りるアクションをしていた左WGのトロサールは行動範囲を制限。中央まで絞るシーンは引き続きあったが、ボックス付近で仕上げに専念する形で関与していたため、ピンポイントで効果的な移動だったといえるだろう。

 ホルダーが止まって正対し、そのホルダーを追い越すという形で関係を作り続けるアーセナル。先制点を取った後も引き続き優勢。2点目も順調に優位を保つことができた右サイドから。サカのカットインでごちゃっとしたところを最後は再びジャカが押し込んでこの日2点目を決める。

 また、3点目も右サイドから。今後は正真正銘崩し切ったサカからゴールが生まれ、アーセナルは前半のうちこの試合の勝利を決定づけるリードを得る。

 ウルブスの攻めのスタンスは時間帯と共に変化していた。バックラインはいつものCHが縦関係になるサリーで3バック化。アーセナルはジェズス、ウーデゴールにジャカとWGが機を見て加わる形でウルブスのバックラインにプレッシャーをかけていく。

 ちなみにウルブスの非保持のフォーメーションはアーセナルの2点目以降、レミナが最終ラインに入る(もしくはジェズスを基準点とした守備を行う)形に切り替えていたので、攻守における陣形の変化が少ない形になっていた。

 攻撃に打って出るときのターゲットとしてウルブスが狙っていたのは左サイド。トーマスとファン・ヒチャンのマッチアップである。正対した状態を作ることができれば優位なのはヒチャン。スピードを生かしてトーマスをちぎっていく。

序盤の1on1で正対した時の劣勢を感じ取ったトーマスはヒチャンに前を向かれる前に封殺する形に対応を変えていく。それでも根性を見せるヒチャンは反転からチャンスを作る。WGの強引な反転からの突破は逆サイドのトラオレでも見られており、WGの根性はこの日のウルブスの生命線だったといえるだろう。

 アーセナルが3点目を奪って以降は試合の展開はフラットに。よって、ウルブスも攻める機会を与えられることとなったし、ファウルを得てからのセットプレーまではこぎつけることができた。

しかし、これを得点に結びつけることができず。試合はアーセナルが3点のリードをキープしたままハーフタイムを迎えることとなる。

交代選手も躍動を引き継ぐ

 後半開始直後からは再び試合はアーセナルのペースになっていた。前半に優位を取った右サイドを軸にウルブスをまたしても攻め立てる展開が続いていく。

 前半のアーセナルは突破力が目立っていたが、後半のアーセナルはきっちりやり直しを繰り返しながら保持の時間を長く確保することでポゼッションによる支配を安定させていた。

 セットプレーからアーセナルは後半早々にネットを揺らす。しかし、トーマスのゴールはジョゼ・サへのホワイトのファウルにより取り消し。アーセナルは追加点を決めることができなかった。

 だが、それも数分後にはリカバリー。左のWGのトロサールから速攻気味にボールを持ち運ぶと、ファーサイドにふわりとした球質のクロスをジェズスに合わせて4点目。PA内でのパスの精度や球質の確かさというトロサールの長所を生かしたアシストでアーセナルは追加点を手にする。

 タックルによる細かい負傷を繰り返していたサカが早い段階でネルソンにスイッチしてもアーセナルの優位は変わることがなかった。フォレスト戦で欠場していたネルソンの出来はインパクターとしては十分なもの。PA付近での仕掛けとアシストスキルで言えば、十分にレギュラー陣に匹敵するものがあることを示すプレーを連発。噂されている長期の契約延長を後押しする声が増えそうなパフォーマンスだった。

 ウルブスは後半頭からネベスを投入するが、試合の流れは変わらず。高い位置からのプレッシングも見据えてはいたが、レミナがジェズスを守備の基準にしていることはわからなかったので前に十分な枚数をかけることができなかった。

 この日のジャカをはじめ、選手を入れ替えながらも主導権までは渡さないアーセナル。交代で入った選手がリラックスできる展開だったのも大きいだろう。のびのびとしたアタッキングサードでの仕掛けは終了間際まで見られた。

 そして、22-23シーズンのゴールラッシュのトリを飾ったのはキヴィオル。セットプレーからの5得点目で今季公式戦103ゴール目をもぎ取る。

 12年連続のシーズン最終節の勝利を決めたアーセナル。ウルブスを下しての84ポイントでの2位で試合を終えた。

あとがき

 浮き沈みが激しいアーセナルの近年の成績はグラニト・ジャカが描いているキャリアととてもよく似ている。アーセナルの最悪の時期を象徴するエピソードはやはりクリスタル・パレス戦のジャカの腕章を放り投げる出来事だったと思うし、今季のアーセナルの躍進を象徴となるのはジャカの変身だったと思う。アーセナルはジャカと共に沈み、ジャカと共に浮上している。2つの成長曲線はここ数年連動していたのだ。

 だからこそ、ここでのお別れが濃厚になっているのは寂しい。彼が引っ張ったチームはようやく来季CLに返り咲く。あのアンセムを聞きながらもう1年一緒に旅を続けてもいいだろうと思ってしまう。

「強いチームは先手を打って戦力を入れ替える時代だ」と意見は確かにその通りだろう。だけども、そうした一般論は置いておいたとしても自分は来季のアーセナルのユニフォームにジャカが袖を通さないのは受け入れがたい。同じ波長で歩んできた仲間がいなくなるのが単に寂しいのである。

 残留が叶わないのであれば、願うことは1つだけ。今季そうして歩んできたように、これからもアーセナルとジャカが同じ上昇曲線を描き続けることである。そうであってほしくはないが、ウルブス戦での大団円はジャカのアーセナルのキャリアの最終章としてはふさわしかったことも確かなのだ。14分で2得点はあまりに出来すぎな筋書きだ。

「気持ちよく送り出せたのだからいいだろう」

そうやって自分自身を無理やり納得させつつ、心のどこかに寂しさを抱えながら今年の夏のメルカートを迎えることになるのだろう。またどこかで再開できることを願いつつひとまず笑顔で彼を見送る決意を固めようと思う。

試合結果

2023.5.28
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 5-0 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:11′ 14′ ジャカ, 27′ サカ, 58′ ジェズス, 78′ キヴィオル
主審:アンドレ・マリナー

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