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「変化の中の原点」~2023.6.10 UEFAチャンピオンズリーグ Final マンチェスター・シティ×インテル マッチレビュー~

目次

レビュー

切れ目を埋めるブロゾビッチが思惑を阻む

 構図的には大本命のマンチェスター・シティにインテルがどうくらいついて行くかという対戦カード。しかしながら、これまでの歴史においてビッグイヤーに愛されてきたのはインテルである。マンチェスター・シティには本命視されながらもCL優勝を逃し続けたツケを全て清算するための重要な一戦になる。

 当然、ボールを持つ時間が長かったのはマンチェスター・シティ。右のSBに入ったストーンズはいつもの立ち位置であるロドリの横のポジションを通過し、IHと言えるような位置まで上がって行くのが特徴だった。つまり、シティは3-1-4-1-1のようなイメージだろうか。

 ストーンズがロドリの横に立つと、よりインテルの中盤の陣形に近くなる形になるので、高い位置から嵌められることを避けての配置かもしれない。バックラインの枚数は余っているのでプレッシャーも後方のキツくないだろうし。

 インテル側はこの配置にまずどのような対応を講じるかがポイントとなる。シティの3バックにはジェコ、ラウタロの2人に加えて、バレッラが後方から3枚目として迎撃する形を取る。

 こうなると苦しいのは中盤である。ストーンズまで入ってくるとシティの中盤はざっくりと4枚換算となる。バレッラがシティのバックラインまで引き出されれば、インテルの中盤は恒常的な不利になる。

 この盤面上の不利をピッチ上に顕在化させなかったことが前半のインテルの最大の功績と言えるだろう。つまり、インテルは中盤の数的不利をものともしなかった。そのためにまずポイントとなったのはそれぞれの担当にファジーさを設けさせることである。

 バックラインにケアに行くバレッラにしてもあくまで本分は中盤。必要であれば前に出て行く形である。アンカーのロドリのケアは基本的にはチャルハノールが行っていたが、ジェコが1列下がって受け持ったり、あるいはブロゾビッチが出て行くことで受け渡すケースもある。

 また3センターの脇のスペースには両ワイドのCBが迎撃に来る。ダルミアンとバストーニの2人は降りるシティの選手にフリーで前を向かせないことを徹底していた。特にバストーニの出て行くアクションは秀逸前を向かせない能力が高かった。

 ジェコもそうだが、前と後ろの選手は人が足りなくなりそうな構造の中盤をサポートする意識が強かった。インテルのやり方は言うは易し、行うは難しというものだろう。特に絶妙な働きをしたと言えるのはブロゾビッチ。サイドの守備が間に合わなかった時、ロドリがフリーになりそうだった時などあらゆる局面で発生しうるインテルの空白をことごとく埋めていた。

 この日のブロゾビッチはいわゆるアンカーのセオリーで言えば動きすぎだったように思う。ただ、そもそもアンカーが動くことのデメリットは彼が空けたスペースを活用されてしまうこと。シティはおそらく、そこでギュンドアンやデ・ブライネがアンカーの背後でボールを持つことが出来ていれば、一気に加速するという青写真を描くことが出来ていたはずだ。

 だが、その切れ目をほとんどブロゾビッチは活用させなかったと言えるだろう。出て行く時は潰し切るか、迂回させるパスコースを選ばせて遅らせる。これでインテルは陣形を整え直す時間ができる。

 ブロゾビッチが前に出て行く理由としてはカウンターを意識したことが挙げられる。インテルの攻撃が成功するかどうかは、MFを高い位置に押し上げてバイタルでフリーでボールを持たせることができるか?が関わってくる部分がある。フリーになる列上げが上手いブロゾビッチが高い位置でボールを奪えれば、トリノ戦のようにフリーでシュートを仕留める可能性も出てくるからと言うことだろう。

 インテルがマンツーのマーカーに流動性があった分、シンプルに中盤が空いてしまう場面もあった。特にロドリ→右のハーフスペースでアンカーの脇に入り込むストーンズのパスコースはとても浮いていた。

 グアルディオラは試合後に「ロドリのマーカーがブロゾビッチではなく、チャルハノールだったことは計算外」という旨を話していたが、先に述べたようにインテルはマンツー要素が薄くなり、受け渡しを行う場面もあった。実際、ロドリ→ストーンズがフリーで通りそうな場面も時折あったので、ここは本人が試合後にコメントで認めていた通り、ロドリ自身の技術や認知の問題なのかもしれない。

 前がかりなインテルの切れ目をつけず、ストーンズの中盤上げもなかなか活かすことが出来ない。シティの立ち上がりの攻撃は思い通りにいかなかったと言えるだろう。

きっかけを掴みかけた矢先の負傷

 一方でインテルのボール保持はいつもよりはバタバタしていたものだったと言えるだろう。立ち上がりは低い位置からGKのオナナを絡めた形でのビルドアップを行っていた。

 シティは4-2-3-1型のプレスでこれに対抗。プレスのスイッチになっていたのはWGのベルナルドの外切りプレスだった。通常外切りプレスの意義は、外のコースを切ることでインサイドにボールを刺す選択肢を相手に選ばせたところでボールを回収すると言うものだと思うのだが、このベルナルドの振る舞いはどちらかといえば、インテルの攻撃のサイドを逆側に追いやる形で限定する意義があるように見えた。

 シティはインテルの攻撃を右サイドに追いやる形でプレッシングをかけて狭いスペースからボールを閉じ込めていく。インテルはこれを嫌ったのか徐々にオナナを組み込まない3バックがフラットに並ぶ形でビルドアップを行う形に方向転換をしている。

 しかしながら、インテルの元来の保持の持ち味はGKを絡めた後方のビルドアップでズレを作りボールを運んでいくことである。しかしながら、後方を3バックからスタートすることになれば、インテルはズレを作って運ぶことは出来ない。

 結果的にジェコにとっととボールを当てるように。だが、シティのバックラインは屈強。簡単に収めることはできない。それでもジェコであればそれなりに競り合うことはできる。ルカクよりもハイボールを収めることに向いているジェコを先発に抜擢したのはこうしたロングボールにおける逃げを積極的に活用できるからかもしれない。

 中盤が押し上がらず、後方で手数をかけることが出来ないインテルに残された武器はCFへのロングボールとともに攻め上がることができるWBの脚力。特にロングボールのターゲットになることもあったダンフリースの攻め上がりは有用だった。

 だが、インテルのWBは抜け出し切ることができれば効くが、スローダウンさせられて相手と正対しての1on1に持ち込まれてしまうと抜き切ける公算は下がってしまう。インテルは高い位置のWBにボールを届けられるシーンはあったが、せいぜい相手のSBと正対するのが関の山。攻撃のブレイクスルーにはならなかった。

 どちらのチームも苦戦する中でのきっかけを掴みかけたのはシティの方だった。デ・ブライネは徐々に狙い所を定めていたように思える。

 例えば、26分のハーランドの決定機に繋がったシーン。ライン間のギュンドアンのワンタッチの落としで前を向いたデ・ブライネからのチャンスメイクだった。

 ポイントはライン間で受ける選手(ギュンドアン)を噛ませることで自らが前を向きやすい状況を作ること。自分がライン間でボールを引き出してしまうと、自らがターンで前を向かなければ行けなくなってしまう。インテルはブロゾビッチやワイドCBの迎撃が異常に早いので、このコストは自分では払いたくはない。であれば、味方に助けてもらおうと言う発想である。

 またはワイドのCBが出てきた背後のスペースに走り込む。降りる選手によってワイドのCBを釣り出し、その背後にデ・ブライネが走るという形。

 このように自分が前を向く前に一手他の選手を噛ませるところを狙うことで徐々に縦に鋭い攻撃が出てくるようになる。それだけに彼の負傷は痛恨だろう。

 代わりに入ってきたフォーデンはトップ下として相手のライン間で受ける動きを直近のリーグ戦で繰り返していたので、ライン間でボールを受けるというインテル攻略を実践するのには適任だろう。しかしながら、デ・ブライネのような一手先を狙うアクションを行うわけではなかったので、局面をめぐる攻防としては序盤のうまくいかないフェーズに入り込んでしまう。試合は無得点でハーフタイムを迎える。

動いたインテル、我慢のシティ

 後半の頭は前半と陸続きになっていたように思う。シティはより手数をかけながら相手ゴールに迫るようになった分、インテルは全体の重心が下がる形で自陣側に押し込まれる形での対応を余儀なくされる場面は増えてはいた。

 だが、それが試合に大きな影響を与えたようには思えない。インテルのプレーエリアが低くなったことはシティのチャンスの増加には繋がってはいなかった。

 というわけで後半の見どころはどちらのチームが攻撃での不具合を解消するかである。まず動いたのはFWを入れ替えたインテルの方。ルカクを投入し、前線の味を変えてくる。

 ルカクはジェコに比べると動ける範囲が広く、加速力がある。そしてグラウンダーであれば収めて落とすことができるという特徴を持っている。インテルのバックラインは低い位置でオナナがビルドアップに絡む機会を増やしつつ、MFをシティの中盤の裏に送り込む形を使うように。ルカクを使うことで自陣から長いボールを刺す形でのチャンスを作りにいく。

 自陣からのキャリーが増えたことで自由に動くバストーニのアクションも復活。MFが最終ラインに落ちる代わりに前線に止まるいつもの光景も見られるようになった。

 しかしながら先制点を奪ったのは動いたインテルではなく、我慢したシティだった。押し込んだ形での二次攻撃からアカンジのドリブル&スルーパスとベルナルドの裏抜けでインテルの左サイドの裏をこの日最も綺麗に抜いていった。

 先制点はややごちゃついてからのロドリのスーパーミドル。他の要素もふんだんに盛り込まれたゴールではあったが。このアカンジとベルナルドのサイドでの仕掛けが得点のトリガーになったのは確かだろう。シティは待望の先制点を手にする。

 しかしながら、ルカクを投入したインテルは十分にチャンスを作れていた。さらにインザーギは左にディマルコとゴセンスと並べるWBタンデム体制でサイド攻略に挑む。

 その分、バックラインの耐久度は弱まる。直後に反転から決定機を迎えたフォーデンのシュートが決まっていれば、この試合の決着は即座についただろう。

 しかしながら、この決定機をオナナがしのぐと、その後のペースはインテル。両サイドのWBからクロスを積極的に入れていき、エリア内で繋ぐシーンも見られる。ルカクやディマルコには決定的なチャンスが訪れたがいずれも決め切ることが出来なかった。

 そして、終盤はエデルソン劇場。グアルディオラも膝から崩れ落ちるほどのアカンジとの連携ミスを後半にかましたエデルソンだったが、残り時間がわずかになってからは彼の大胆さやセービングが際立つ展開に。至近距離でのシュートセーブや混戦に飛び出していってのキャッチングなど、確実にインテルの攻撃を寸断していく。

 エデルソンという最後の牙城を崩せなかったインテル。シティはようやくイスタンブールでビッグイヤー未達という呪いから解放。歓喜のCL初優勝の栄誉を手にした。

ひとこと

 よくやったインテルとうまくいかなったシティで互角だった前半が両チームの力関係をよく表していると言えるだろう。リーグでシティの軍門に下ったアーセナルもそうだが、インテルも現実的にCL制覇を視野に入れたシーズンスタートではなかった中で、シティによく食い下がったと言うべきだ。

 特にユーロ・ダービー以降にメンバーが固まってからの完成度の高まり方には目を見張るものがあったと言えるだろう。この日の出来も含めて、誇り高いグッドルーザーだった。

 勝ったことのない決勝というのはどんなに本命視をされても難しいもの。打開策が見つからず、デ・ブライネがベンチに下がる前半は嫌な予感を抱くシティファンもいたかもしれない。

 しかしながら、最後は結果を出したのは例年と違うところ。CL仕様にモデルチェンジしたことでスタイルから何から例年と違うシティが、例年と違う結果を手にし歴史に名を残すチームとなったことには心からの賞賛を送りたい。ちなみに優勝を決めたロドリのゴールがいつも通りの「ハーフスペース裏抜け」がトリガーになっているところには変化とともに原点に立ち返れる大事さも併せて教えられたような気がする。

試合結果

2023.5.17
UEFAチャンピオンズリーグ
Final
マンチェスター・シティ 1-0 インテル
アタテュルク・オリンピヤト・スタドゥ
【得点者】
Man City:67′ ロドリ
主審:シモン・マルチニャク

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