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「健闘に至るまでの道のり」~2022.12.3 FIFA World Cup 2022 Round 16 アルゼンチン×オーストラリア マッチレビュー~

■メキシコ戦の再現を果たしたメッシ

 サウジアラビアに敗れて無敗記録が止まるという屈辱的なスタートから、尻上がりでグループステージでのパフォーマンスを上げてここまでやってきたアルゼンチン。決勝トーナメント初戦の相手はサウジアラビアと同じくアジア勢であるオーストラリアである。

 オーストラリアのプランはまずは高い位置からプレッシングをかけていくことだった。おそらく、これは保持における陣地回復が見込みにくい相手ゆえの賭けだろう。ボールを持つ時間が長くしながら敵陣深い位置で運ぶのは難しい。であるならば、プレッシングでプレーエリアをなるべく自陣から遠ざけたいと考えたのではないか。

 ただし、アルゼンチンの4-3-3をベースとする保持のフォーメーションに対して、オーストラリアの4-4-2という形はそこまで相性の良いものではない。さらにアルゼンチンはアンカーのエンゾ・フェルナンデスを最終ラインに下ろすことで3バック化。これでオーストラリアは敵陣でボールを奪い取る目はほとんどなくなったと言って良いだろう。

 オーストラリアはこれを見て潔く撤退。4-4-2でブロックを構えていく。構えられたブロックに対して膠着しやすいというのが前半のアルゼンチンの難点。メッシをはじめとして足元に要求し続ける選手たちではオーストラリアの守備ブロックを動かすことは難しい。前線ではアルバレスが活発な動きをしているが孤軍奮闘感が否めない。

 敵陣深い位置でボールを奪い取ることはできなかったオーストラリアだが、メッシがプレス隊の先頭にいるアルゼンチンには前線からのハイプレスは不可能。オーストラリアのバックラインにはボールを持つ余裕があった。

 ここまでのオーストラリアは長いボールを主体とした組み立てがメイン。CFにボールを当てる、セカンドボールを拾う、サイドに展開する、クロスを上げるのステップを踏むというほとんど一本槍で完遂することでここまで上がってきたチームである。

 しかし、この試合ではショートパスを使いながら自陣から繋いでいくプランを選択。ボール保持の時間を増やし、アルゼンチンから保持の時間をとりあげよう!という方向性は理解できなくもない。だが、前に進めるタイミングにおいては前に進まないとバチが当たるように思う。

 アルゼンチンのプレスは時折、メッシを追い越して中盤やWGの選手が前にプレッシングに出てくることがある。後方の選手たちがそれに連動してスライドしながらスペースを埋めたり、周りの選手で追い込みながらプレッシングに行くことはなかったので、おそらくこれはそれぞれの選手のアドリブなのだろう。

 よって、オーストラリアにとっては目の前の選手にパスをつけることさえできれば中盤が前を向いてボールを持つことができる場面がたまに訪れる。ムーイが前を向く形を作れれば、オーストラリアは前進を見込める機会と言えるだろう。しかしながら、オーストラリアはこうしたシーンで前に進むことを選択しない。バックラインにボールを戻してしまい、進むことができる局面を台無しにしてしまう。

 組み立てる能力のあるCHが前を向き、スペースがある状態でバックパスを選択してしまう。アルゼンチンの守備ブロックを保持で動かす形を持っているチームではないオーストラリアは自ら攻めのチャンスを手放してしまう。いくらポゼッションを大事にしても、前に進める機会がそこにあったのならば前にボールを進めるべきだ。

 どちらも前にボールを進めることができず、ジリジリした展開が続く。まるでアルゼンチン×メキシコの焼き直しを見ているような前半だなと思っていた。すると一瞬の隙をついて先制したのはアルゼンチン。わずかにできた中央のスペースで前を向いたメッシがゴール隅にシュートを丁寧に流し込む。停滞した局面がメキシコ戦と一緒なら、試合を動かすのがメッシのゴールというのも一緒。グループステージの再現を果たしてみせた。

 リードを奪われてしまい困ってしまったオーストラリア。後半は高い位置からプレッシングのトライに行く。これに対するアルゼンチンの対応は早かった。5分でリスクを察知すると、リサンドロ・マルティネスをバックラインに入れて3バックにシフト。数的優位で4-4-2プレスへの対策を素早く打ち出してみせた。

 それでもオタメンディがやらかしかけるなど、安定しないアルゼンチンのポゼッション。これはいける!となったオーストラリアだが、ここにまさかの落とし穴が待っている。それは自陣側のポゼッションのミス。デ・パウル、アルバレスのチェイシングに面食らったオーストラリアはライアンまでバックパスを送るが、これをライアンがコントロールしきれず、奪われたボールは無人のゴールに収まってしまう。

 ライアンにフォーカスが当たりがちなプレーになるだろうが、実質バックパスを戻したロールズにもライアンと同様か、それ以上の問題があると言っていい。自分が前に蹴り出すしかないボールを同じ状況、同じリスクでGKに渡すプレーに何か意味があるとは思えない。ライアンのコントロールもギリギリであり、大きく蹴り出す余裕が彼にあったかは怪しいところである。

 2点リードとなったアルゼンチン。ここから試合は凪のリズムで進む。このままアルゼンチンが試合を殺して終わるのかな?と思っていたが、オーストラリアが突如反撃に移行。主役となったのは左のSBであるベヒッチ。オーバーラップからの豪快な攻撃参加から溢れたボールをグッドウィンがシュート。これが跳ね返り、ゴールにすっぽりと収まることに。

 1点差となり追いつくことが現実的になったアルゼンチン。追撃弾と同じようにベヒッチが攻撃参加で存在感を出していく。交代で入ったフルスティッチ、クオルなどの選手たちも勢いを持って攻撃に出ていくように。

 しかしながらアルゼンチンは老獪だった。時折、きっちりファウルを奪い切ることで相手に流れが行き切ることを防ぐと、カウンターからメッシを軸にチャンスを創出。ラウタロ・マルティネスが好調であれば、とどめの一撃は早い時間に決まっていてもおかしくなかった。

 最後はクオルに同点のチャンスが訪れたアルゼンチンだったが、これはエミリアーノ・マルティネスがセーブ。紙一重のところまで健闘したオーストラリアだったが、最後のところでアルゼンチンに手が届かず逃げ切りを許すこととなった。

あとがき

 全体的な内容は上がってきたとはいえ、リードを奪う前の段階でエンジンをかけることができないのは依然としてアルゼンチンの課題として残っている印象だ。得点を取る部分は狭い攻め筋を撃ち抜いていくことになっている。

 だが、ゴールを奪えばメッシを軸にパフォーマンスが鰻登りになるのがアルゼンチンの特徴。カウンターはほぼノーミスでシュートまで辿り着くことができるし、プレスにも勢いが出る。実質覚醒スイッチと化している1点目をなんとか決めることができるかが先のラウンドの課題になる。

 最後は健闘したオーストラリアだったが、多くの時間の過ごし方には不満が残る内容となった。日本からすると冨安が問題提起した翌日にオーストラリアがこうなったというのはいかにも示唆的である。

 オーストラリアの代表がどういう方向性で強化しているのかは知る由はないが、時折ボールを持ちたいという意欲を感じるのは事実。そして、この試合においてはそうした部分を大事にするプランが裏目になったと言えるだろう。勢いを取り戻したのはベヒッチのドリブルというダイレクトでグループステージを突破したオーストラリアの志向に近いプレーである。

 試合を落ち着かせたい!は理解できるが、ムーイが前に進めるチャンスがあるのならば、それを逃すことをしてはいけない。試合のリズムを掴めるチャンスがあるならば、躊躇すべきではないのだ。讃えられるべき健闘の終盤だけでなく、大半の時間の過ごし方が突きつける課題にもオーストラリアがきちんと目を向けること必要があるのは明らかだ。

試合結果
2022.12.3
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
アルゼンチン 2-1 オーストラリア
アフマド・ビン=アリー・スタジアム
【得点者】
ARG:35′ メッシ, 57′ アルバレス
AUS:77′ フェルナンデス(OG)
主審:シモン・マルチニャク

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