■「中央のパスワーク」×「WBの馬力」という強みの掛け合わせ
ノックアウトラウンドの幕開けはグループAを無敗で突破したオランダと、こちらもグループBを無敗で突破したアメリカの一戦。フォーメーションとしてはどちらもグループリーグで使い慣れた形。自分たちの形を作れるかどうかが勝負のポイントになる。
立ち上がりはアメリカの決定機からスタート。ブリントが上げ損ねたラインに対して、プリシッチが抜け出していきなりオランダのゴールを脅かす形を作り出した。
3-4-1-2と4-3-3の激突のたびに書いているので、普段から僕のレビューを見ている方にとっては耳にタコができていると思うのだが、この2つのフォーメーションは噛み合わせがよく、守備側が行こうと思えば形を崩すことなく前からプレスに楽に行ける形である。よって、まずは非保持側がどこまでプレッシングに行くか?が注目ポイントになる。
結論から言えばどちらのチームも高い位置から極端なマンマークを仕掛けることはなかった。アメリカはダンフリースにマケニーがスライドする形でマークに出ていっており、なるべくであればバックラインは横に動かしたくない!というスタンスなのだろう。
対するオランダも同じである。ガクポ、デパイの2トップはどちらもCBとSBの中間に立ち位置を取り、強引にプレスすることをしなかった。噛み合っている中盤の3枚はマンマーク色が強かったのだが、基本的には前方がプレスを控える分、後方は枚数を余らせる形を採用していると言えるだろう。
というわけでどちらのチームもそれなりにバックラインがボールを持ちながら戦うことを許された格好になる。アメリカのボール保持のポイントになっていたのは左のSBのロビンソン。ロビンソンがインサイドに絞ることでオランダは同数でマンマークを行っていた中盤に登場してズレを生み出すことができていた。
一方のオランダがボール保持に回った際のプランはより自陣側にアメリカのプレッシングを引き込む考え方。バックラインが深い位置から組み立てることでアメリカのプレスをなるべく誘き寄せつつ、前方に前進できるスペースを作り出していく。中でも大きな動きを見せていたのはフレンキー・デ・ヨング。ボールを持って前を向くことさえできればなんとかなる!という彼がボールを引き取りに動きターンをすることでオランダは前進することができていた。
提示されたビルドアップのプランが得点に繋がったのはオランダの方だった。低い位置まで相手を引き込んだことでアメリカはバックラインがカバーしなければいけないスペースが相対的に広がる。先制点のシーンは降りてくるデパイを捕まえきれないところからオランダの攻撃が加速。動き直しでそれぞれのマーカーを外しながら前進することに成功。最後はズレの起点となったデパイが自らゴールを決めて先制する。
このオランダのゴールを裏打ちしているのはグループステージでみせた強みである。今大会のオランダの強みは2トップ+トップ下の3人の中央での少ないタッチでのコンビネーション。少ないスペースでも攻撃の起点を強引に作り出し、前を向く選手を作りフィニッシュに持っていく。
ワンタッチでの技術もさることながら、オフザボールの動きも秀逸。ゴールの場面で言うと、ガクポが離れていったことで右に展開できたところやゴール前にクラーセンが突っ込んで行ったことでデパイへのマークが分散したことなどは秀逸な動きだった。
ダンフリースの馬力を生かしたオーバーラップもオランダの強みの1つ。高い位置まで入り込んでの折り返してのクロスは効果が抜群だった。オランダはある程度枚数を揃えておいてアメリカの守備陣の位置をロックした後、遅れてマイナスに入り込む選手を作ることにより、ダンフリースのクロスの受け手を作ることに成功する。
大外を駆け上がったダンフリース×マイナスのクロスという形は前半追加タイムに発生した追加点でも繰りかえされる。異なっていたのはマイナスのクロスに飛び込んだのがデパイかブリントか?くらいのもの。とても再現性が高いプレーだった。
リードを奪ったことでオランダの非保持の意識はさらに後ろになる。CB、SBにはボールを持たせることを許容。前進のキーになっていたロビンソンには、インサイドに入り込んできたタイミングで中盤とガクポが挟みながら対応することで勢いを殺すことに成功していた。
後半、2点のビハインドを背負ったアメリカがやるべきことは攻撃に打って出る手段を探すことである。積極的に狙っていったのは右サイドの裏抜け。前半と比べて縦に急ぐことで活路を見出そうとしていた。
だが、このスペースに対応するのはアケ。プレミアでエースキラーとして活用されるほど対人守備が信用されている男である。アメリカはこのサイドの裏抜けでは簡単にアドバンテージを取ることができない。
仮にアケを出し抜いたとしても、カバーにはファン・ダイクが待ち構えていることを踏まえればこのプランからゴールに迫るのは難しい。現実にはこの日のアメリカはファン・ダイクには汗をかかせることすらできなかった。両サイドからビシバシ裏抜けを狙いまくってファン・ダイクをあたふたさせていたセネガルは今更ながらすごいのだなと思った。
直線的に抜け出すことができないのならば止まればいいのだろうけど、アメリカは止まったら止まったで攻め手がなくなってしまうのが辛いところ。敵陣に人数をかけた攻撃はオランダの同数もしくは数的優位のロングカウンターの呼び水になっていた。ライトの時間を止めるシュートで追撃弾を決めたアメリカであったが、頻度で言えばオランダが更なる追加点を決める可能性の方が高かったと言えるだろう。
試合を決める3点目をブリント→ダンフリースのWBコンビで仕留め切ったオランダ。3点目のクロスのターゲットはマイナスではなく、4バックの泣きどころである大外であった。
試合は3-1でオランダの完勝。アメリカを充実の内容で下し、ベスト8一番乗りを決めてみせた。
あとがき
保持で相手を破るプランとアタッキングサードでのクロス精度と設計。相手からゴールを奪う設計図の部分でオランダが終始優位に立っていたと言えるだろう。GSと比べるとデパイの好調ぶりが際立つ。序盤はプレータイム制限があったようなので、コンディションが上がってきたのだろう。
7~8人をあらかじめレギュラーで固定し、残り数人をGSを通じて優先度や使い分け方法を決めていくオランダのスタンスは今大会にはちょうどいいのかもしれない。レギュラーの骨組みという基準があって、それにどのように残りのメンバーをフィットさせるか?のチーム作りをGSでファン・ハールは上手くやった印象だ。
アメリカはやはり4年後を見据えたチームになるだろう。若い平均年齢もそうだし、次回の開催国であることを踏まえても本番は次だろう。そのために今回このチームでノックアウトラウンドを経験できた意義が大きい。GS突破をもたらした勢いをファン・ハールに止められたというのは非常に学びになる。若いチームに経験をもたらせたことを活用していきたい。
試合結果
2022.12.3
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
オランダ 3-1 アメリカ
ハリファ・インターナショナル・スタジアム
【得点者】
NED:10′ デパイ, 45+1′ ブリント, 81′ ダンフリース
USA:76’ ライト
主審:ウィルトン・サンパイオ