乖離が際立つラストゲーム
クラブに天皇杯という初タイトルをもたらしたイニエスタのラストゲーム。吉田監督は長らくスタメンから外してきたイニエスタをこの日は先発で送り出した。
多くの神戸ファンはおそらく彼の先発を歓迎していただろう。しかし、ピッチの中の展開はイニエスタの先発にそぐわないものになっていた。どちらのチームも直線的なロングボールが主流。札幌はお馴染みのオールコートマンツーで神戸にプレッシャーをかける。神戸は追い込まれると積極的に前線にボールを送る。
神戸は大迫というターゲットマンがいない分、右サイドの裏をとるパトリッキを狙う回数はやや多かったと言えるだろう。パトリッキが押し下げたラインを活用し、トップの武藤がライン間でボールを受けにいくといった工夫も見られた。
神戸の積極的なスタンスが見られたのは非保持においても。特に左サイドの汰木がCBに積極的にプレスに行くのはあまりこれまでの神戸では見られない光景だった。
その分、札幌は右サイドでの攻撃が有望。相手のプレスを外し、右サイドにボールを届けることができれば、前への意識が強い汰木が間に合わない分、金子が躍動できる隙が出てくることになる。
はじめはやや攻めあぐねていた札幌だったが、集中的にこのサイドにボールを届けると、ようやく前半のうちに先制点をゲット。右サイドからのクロスに飛び出した前川が十分に飛距離の出る処理を行うことができず、これをスパチョークが押し込む。
先制点後も試合の展開は変わらず。イニエスタは35分のFKでようやく存在感を出したが、なかなか縦に早い流れの中で展開を作ることができない。両チームとも積極的なサイドの打開でチャンスを作ることを狙っていく。
ビハインドで迎えた神戸は後半頭から大迫が登場。スピードスター推しだった神戸の前線にロングボールのターゲットが加わることで、神戸は押し込む機会を増やしていく。札幌は浅野が根性で前にボールを運んであわやハンドというシーンまで作るが、なかなか報われず。それでも暴れていた大迫にマンツーでついていく要員として中村を投入した以降はそれなりに大迫の破壊力を落ち着かせることができていた。
それでも、押し込み続ける神戸。オープンな状況の中でひたすら殴り続けると85分にセットプレーから同点。トゥーレルのゴールで試合は振り出しに戻る。
最後まで縦に早く撃ち合う展開だった神戸と札幌。後半早々にピッチに退いたイニエスタとこの試合の神戸のスタンスの乖離は彼がこのチームを去る理由としてはとても説得力があるものに感じた。
ひとこと
個人的には今まで見てきたイニエスタの神戸の試合の中で一番イニエスタ成分が薄かったように見える。
試合結果
2023.7.1
J1 第19節
ヴィッセル神戸 1-1 北海道コンサドーレ札幌
ノエビアスタジアム神戸
【得点者】
神戸:85′ マテウス・トゥーレル
札幌:26′ スパチョーク
主審:カミス・モハメド・アルマッリ