プレビューはこちら。
前回対戦はこちら。
スタメンはこちら。
【前半】
攻め筋はあるけど、安全運転優先
両チームとも並びでいえばボール保持、非保持ともに上の図に近い並びになっていた。
アーセナルのボール保持に対して、スパーズのプレス隊は2トップ。エリクセンはプレスをかけるのはボランチまでといった具合だった。アーセナルがボールを保持している際に使いやすかったのはトッテナムのFW脇、WBの前の部分。この位置を使うことで前進に成功していた。特に使うことが多かったのは左サイド。アーセナルはイウォビとモンレアルメインで進むことが多かった。
イウォビには基本的にはトリッピアーが前に出てきて対応する。ただ、ここのマッチアップは若干イウォビが優勢。モンレアルもうまくFW脇のスペースを使っていた。この試合におけるアーセナルの理想的なチャンスメイクの手法を述べれば、モンレアルがシソコを引っ張り出して、イウォビと対峙するトリッピアーのヘルプにワニャマとかが出てきた場合。ワニャマにしろシソコにしろ、イウォビのヘルプに行く選手は寄せはするけど甘い場合が多かったので、その分空いた中央が使える場合があった。ちなみに最終ラインはラムジーとラカゼットがイウォビのカットインに備えて裏を狙う用意をしているので、スパーズのCB陣はややヘルプに行きづらい状況。ちょっとわかりづらいので図にしますね。
最終ラインからの組み立ての結果でモンレアルが相手のIH1枚、イウォビがアンカーを釣りだしができれば、内に絞ったムヒタリアンがDFラインの前でチャンスメイクできそう!という話。仮にシソコがモンレアルに食いつかなかったとしてもムヒタリアンが内に絞れば、中央はスパーズのボランチ2枚に対してムヒタリアン+ボランチ2枚で数的優位。ムヒタリアンの撃退にDFラインが出てくればしめたもので、最終ラインに穴をあけることができる。試合中にツイートしてたのはこの上の図のイメージでした。
ちなみにこの試合の右サイドバックのムスタフィのクロスの精度はあまりにもあれだったけど、幅を取ること自体は超大事だと思っていた。イウォビが左で幅を取って、ムヒタリアンが絞って輝きやすい形だなと思っていたので、右に幅を取る人は欲しい。ムスタフィのクロスでプレーを終わらせなければいい話であって、外にいること自体はとても大事。まぁ、本人が蹴っちゃうんだけど。。それは問題かもしれないけど。。
ただ実際はこの形はそこまで多く見られなかった。この試合のアーセナルがいつもとやや違って見えたのはボールの失い方。この局面ではムヒタリアンが絞ったほうが攻撃においてはいいんだけど、ロスト後の被カウンター時にローズをムヒタリアンにケアさせることを考えると絞るのを自重するのはわかる。ワニャマはアーセナルのSHが持った時のスライドの意識は高かったし、イウォビに2人選手が行くことを考えればロストの確率は低くない。スパーズのアタッカー陣のスピードを考慮すれば、あまり最終ラインの数的同数は受け入れたくなかったのだろう。イウォビもロスト後の安全性を考慮してか、横よりは裏を選択肢として選ぶことが多かった。トリッピアーの裏も空いていたし。そこをラムジーが使って!とか。リスクヘッジ優先!
ちなみに上の図のような中央に絞ったムヒタリアンを生かすシーンは10分過ぎに見受けられてて、この時はムスタフィはオーバーラップしなかったけど、モンレアルとパスを出したイウォビが前線に走りこんでた。最終ラインからムヒタリアンのケアに出てきたのはサンチェス。この日のサンチェスの出来はあっさり交わされたこのシーンのスライディングに象徴されるようなものだった。最終ラインは数的優位で多少のチャレンジは許されているとはいえ、若干お粗末なスライディングだった。
というわけでこれまでの話をまとめながらいくつかスタメンが悩ましかった位置の選手の選考理由を考えてみたい。
【エジルではなくラムジー】
・セーフティに攻撃を終えるため、トップ下は裏抜け頑張ってほしい。【オーバメヤンではなくイウォビ】
・左サイドでボール保持のキーマンやってほしい。【トレイラではなくゲンドゥージ】
・トランジッションは起きないようなボールロストを心がける。その代わりプレスは絶対回避。ショートカウンターだけは阻止。【ムスタフィのSB起用】
・わかりません。
すまん、ムスタフィ。オチっぽく使ってしまった。真面目に言えばケインとソン相手にCB3枚っぽく対応したいからかな。エリクセンとかも前に絡んできても余裕を持って対応できるようにみたいな。
【前半】-(2)
スパーズのボール保持はリスクもかけたい
一方スパーズのボール保持を見てみる。最終ラインは3バック、アーセナルのプレス隊は2枚なので余裕でボールを運べる。はずなんだけど、いまいちボールを運べないスパーズ。理由はサンチェス、ワニャマ、シソコが組み立ての局面での貢献度が低く、ボールを前に進めるのにあまり役割を果たせていなかったから。サンチェスって足元うまくなかったっけ?とにかく、ホールディングもコシエルニーもいないときのアーセナルの3バックを思い出して少し悲しくなった。というわけで起点はヴェルトンゲンとアルデルワイレルドに頑張ってもらうしかない。ロリスも意外と頑張っていた。やばい時はしっかり蹴っ飛ばしていたし。足元がうまいGKはトレンドというか主流になっていくんだろうけど、できないことを理解してしっかり割り切るのも大事だと思うのです。
そんなスパーズの主なボールの進め方は3つ。
・最終ラインからロングボール。
・WBから前進(最終ラインに相手のSHが食いついた場合とか)
・中央でエリクセン頑張れ。
前に進む手段としては若干乏しいのだが、前に進めた後のCHの運動量は厄介。WBが持った時のハーフスペースの裏抜けとか、セカンドボールの回収とかはシソコは頑張っていた。3バックということで最終ラインの前方へのチャレンジも許容。抜けられた際は2トップへのケアは残った2枚で頑張ろう!が基本線のように見えた。持ち上がりの手段がしんどい分、押し込んだ後はキープを頑張ろう!そこはリスクを取ろう!という作戦。
それが裏目に出たのが先制点のシーンだった。トリッピアーがジャカにまでプレスをかけている通り、即時奪回がこのシーンでのスパーズの望むことだっただろう。ヴェルトンゲンも高い位置を取っていたし、アルデルワイレルドはトリッピアーのカバーとしてイウォビを見ていた。というわけでラカゼットはサンチェスが何とかしなければいけないのだが、このコントロールをミス。ハーフウェイラインから裏抜けしたラムジーがゴールを決めた。押し上げたのを大事にするっていう理屈はわかるけど、この試合で不安定だったサンチェスの3バック中央起用は危なっかしかったかなと。
その後のスパーズはロスト後のプレスを強化。アーセナルが簡単にボールを手放すプレーが多かったのも手伝って、一進一退気味で進んでいた試合はこれ以降スパーズがボールを持つ展開に。押し込んだ後はWBやエリクセンを起点に、ソンフンミンを中心としたエリアへの裏抜けメインで攻略を試みた感じ。ただし、アーセナルのCB陣が粘り強く跳ね返したおかげで、決定的なチャンスは作らせず。唯一やばかった44分の決定機はレノが気合いで跳ね返した。あれはやべぇ。試合は0-1でアウェイのアーセナルリードで折り返す。
【後半】
交代策で着火するノースロンドンダービー
中2日同士だから仕方ないという部分もある両チームのサポーターをよそに、ほかのプレミアファンには「ノースロンドンダービー、こんなもん?」という若干血の気が足りない前半になったかもしれない。そんな皆さんお待ちしてましたという展開になった後半である。
リードしているアーセナルはゲンドゥージ→トレイラ。待ち受けるトランジッション合戦に備えての交代だろう。
トレイラの交代を合図にアーセナルは中盤のプレス意識を強化。素早く潰しにいく意識はさらに高くなった。もともと高い強度でつぶしていたスパーズも手を緩めることなく、お互いに中盤の潰しあいが続く展開に。
後半10分を過ぎたあたりでアーセナルはラカゼット→オーバメヤンの交代。さらに縦の速さが加速しそうな交代だ。スパーズのワニャマ→ラメラも前線の枚数を増やす好戦的な交代。試合は徐々に互いの陣地をボールが行き交うスピード感が出てくる展開になってくる。ラメラはエリア周辺の仕事のケインとソンに合わせて、間や幅取りに走り回って仕事をする役割。エリクセンの位置はやや深めにシフト。
ちなみに70分手前からローズがアンカーでプレーし始めた理由が本当に何もわからないので、だれか仮説を見いだせる人がいたら教えてほしい。どうしても4バックにしたかったのかな。。なら下げればいいよね。。他の選手でいいよね。
まぁ、おそらく中盤でボールの奪い合いが連発する展開の中で中盤で同じ枚数を確保したいということだろう。相手にボール持たれるのもやだし、後ろ3枚いらないもんね。アーセナル前出てこないし。そうなんだけど、なんでそれがローズじゃなければいけないんだろう。カードをもらっている中で不慣れなこの位置でプレーさせる意味ってあるんだろうか。
とりあえずそんな中でPKから追いついたスパーズ。手を使ってしまったムスタフィ。切ない。アーセナルはPK失敗したけど、オーバメヤンに裏に抜けられたシーンはCB減らしたリスクが顕在化したところかなと。またサンチェスのところ。追加処分の件もそうだけど、この試合は結構散々だったかも。
劇的なロリスのセーブがスパーズを救い、試合はドローで終わった。
まとめ
なんとか連敗を止めることができたスパーズ。ロリスとエリクセンはさすがだし、ケインも本調子とまではいかないまでも、存在感は発揮していた。しかしながら、個々のコンディションはやや厳しい状況のように見えた。ソンフンミンはこの冬に発揮していたほどの存在感は見えなかった。中盤の人選はアーセナル対策でのフィジカル重視の選択かもしれないが、両名ともボール回しへの貢献度が低く、球出しはヴェルトンゲンやアルデルワイレルドへの依存度が高く、ビルドアップで違いを見せるのは厳しそうだった。そのため最終ラインも含めて押し上げを実施することで、アーセナルを前がかりに抑え込む方策に出た印象。ただ、最終ラインのクオリティは前がかりのチームを支えるほど高くはな かった。特にこの日は本文でも何度かふれたとおりダビンソン・サンチェスは不安定なパフォーマンスに終始。コンディションの回復は待たれるところだろう。
チームの完成度としては高いものの、選手の層の厚さには不安があるスパーズ。この日はチェルシー戦後の中2日ということで情状酌量の余地があるが、CLと後ろの足音が聞こえる4位争いの二足の草鞋に挑むには、主力のギアをもう一度巻き直す必要があるだろう。ここで踏ん張る余力は彼らに残されているだろうか。
コンディション面で差を見せ、内容ではやや優勢だったアーセナル。xGは2.8であり、PKを抜いてもゴール期待値的には合計で2点は取れてたはずで、ファンの中には勝てた試合だったと考える人も多いかもしれない。この日のアーセナルがつなぐ意識を捨てて、いつもよりもさらに安全なボールロストに終始していたのは、この試合のためにエメリが用意してきたプランかもしれない。実際、スパーズをおびき寄せてミスからカウンターで先制することに成功しているし、プランの半分はうまくいったといっていいだろう。先制後はさらにダイレクト志向は強くなった印象だ。
しかし、スパーズに与えたPKはそんな「大人なアーセナル」のプランを狂わせてしまった。モンレアル、コシエルニー、ソクラティス、レノなどのバックスは体を投げ出すディフェンスで今季屈指のパフォーマンスを見せただけにわずかな綻びで勝ち点を落とすことになったのは切ない。最も、アーセナルはプレミアで唯一のアウェイでクリーンシートがないクラブ。そんなアーセナルに1点リードをボール保持にこだわらずにしのぐという大人なゲームプランは、まだちょっぴり背伸びだったかもしれない。
ここの引き分けが悪くないと思えるのは、次節にユナイテッドを倒してこそ。大人なアーセナルを見せるのは半分失敗してしまったが、ホームでは元気いっぱいのアーセナルでスールシャールの進撃を食い止めたいところだ。
試合結果
プレミアリーグ 第29節
トッテナム 1-1 アーセナル
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
TOT: 74′ ケイン(PK)
ARS: 16′ ラムジー
主審: アンソニー・テイラー