【グループD 第2節】チュニジア×オーストラリア
■王道前進パターンで繋いだ突破の可能性
初戦でフランスに逆転負けを喫したオーストラリア。チュニジアとの一戦は負ければ敗退が決まる背水の陣となる。オーストラリアが選んだフォーメーションは4-4-2。フランス戦の4-1-4-1から変更したプランでチュニジアに挑む。
いずれのチームもバックラインにはプレッシングを積極的には行わなかったため、ボールを持つ側は能動的にボールを動かすことのハードルが低かった。より前進のルートが整理されていたのはオーストラリアの方。やり方としてはロングボール主体の前進である。2トップにボールを当ててCHがそれを拾う。拾ったCHがサイドにボールを展開すると、SHもしくはオーバーラップをしてきたSBがクロスを上げてCFがフィニッシュをするというとてもオーソドックスな形である。
オーストラリアは主に左サイドをメインとしてボールの動かし方としては確立されていたが、チュニジアの守備ブロックは強固。サイドからのクロスはニアのCBに引っかかることが多くオーストラリアのCFにボールが届かず。クリティカルな攻撃にはならなかった。
一方のチュニジアは3CBを軸にボールを動かしていく。3-2-5が基本だがビルドアップに関わらない側のCHが高い位置を取るパターンもある。主な形としては左のIHであるライドゥニが前に入ると、左シャドーのムサクニがトップ下にスライドする形で待ち構える。
だが、チュニジアの前進はフィジカル的な劣位によってなかなかスムーズに実現しない。ロングボールの競り合いではオーストラリアが優位。チュニジアの前線はそもそも長いボールを収めることができない。トランジッションにおいても一本目のパスが刺さらず、なかなか前進に苦労するように。
なかなかシュートに至らない中、結果を出したのは前進することができていたオーストラリアの方だった。バックラインのフィードからCFのデュークに当てると、落としをサイドに展開。このクロスを再びエリア内に飛び込んだデュークが決めてみせた。
オーストラリアからするとこの試合ずっと狙っていたバックラインからのボールの動かし方で結果を出した形。チュニジアはスキリが審判と交錯したせいで中盤で相手をスローダウンさせられなかったのが痛かった。これまでのクロスと少し違ったのはチュニジアのDFラインが下がりながらの対応を余儀なくされてしまったこと。クロスがニアで引っかかって軌道が変わったこともオーストラリアにとっては幸運だったと言えるだろう。
この得点以降はチュニジアが徐々にチャンスを作るようになる。中央だけでなく左右に流れながらボールを収めることができるジェバリに徐々にボールを預けることができるようになったチュニジア。CFが開けたスペースには左右からシャドーとWBが入り込みながらシュートを放つ。だが、いずれもゴールには結び付かず。最も惜しかったドレーガーのシュートはCBのサウターに阻まれてしまう。
ビハインドで後半を迎えたチュニジア。選手交代でシステムは4-3-3に変更する。ただ、ボール保持の陣形としてはアンカーのスキリが最終ラインに落ちて3バック化していたので3-2-5という全体的な陣形はあまり変わらなかった。
その中で変わった点はボール保持において左サイドという明確なポイントができたことである。左シャドーのムサクニのところにサッシが入ることでチュニジアはこのサイドで安定してボールを持つことができるように。SBのアブディのオーバーラップの機会も増加し、このサイドからクロスで勝負することができていた。
チュニジアは4バックになったことでオーストラリアの攻め手も増えた印象。サイドを変えることで逆サイドの大外はだいぶ使いやすくなり、サイドから鋭いクロスでチュニジアのゴールを脅かすことができていた。
終盤はボールを持たれる機会が増えたオーストラリア。自陣の深い位置まで押し込まれる状況に苦しむが、徐々に全体の重心を後ろに下げてなんとか対処する。最後まで跳ね返しに徹して、チュニジアにゴールを許さなかったオーストラリア。あらゆる形でPA内に侵入したチュニジアを退け、グループステージ突破に望みを繋いだ。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第2節
チュニジア 0-1 オーストラリア
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
AUS:23′ デューク
主審:ダニエル・シーベルト
【グループC 第2節】ポーランド×サウジアラビア
■呪いが解けたレバンドフスキ
アルゼンチンを下すという歴史的なアップセットを引き起こしたサウジアラビア。グループAとBでオランダとイングランドがそれぞれトチったこともあり、勝てばグループステージ最速での突破を決めることができる。サウジアラビアにとっては世界を再び驚かせるチャンスとなる。
対するポーランドは昨年のEUROと比べると、幾分か整備された形での試合運びを見せた。この試合でもサウジアラビアの守備に対して高い位置からのプレッシングを行っていく。ただし、2トップがそこまで重たい守備のタスクを課されているわけではなく、後方はマンマーク気味に選手を捕まえにいくため、陣形は乱れることが多かった。
2トップがプレスにそこまでこない影響もあり、サウジアラビアはCHのカンノが簡単にボールを運ぶこともできるように。これ以外にも、左サイドからボールを運び、逆サイドへの展開からハーフスペースの裏抜けという形でのPA侵入も決めていたサウジアラビア。オフサイド大作戦の前節は戦い方が疑問視されることもあったが、アジア予選を通して見た感じでいえば、こうしたベーシックなポゼッションチームとしての振る舞いこそサウジアラビアの真骨頂と言えるだろう。
一方、ポーランドの前進はやや苦しんでいた。バックラインにビエリクが降りて3バック化しながらボールを運ぼうとするが、膠着気味の前線には預ける場所がない。手詰まりだったポーランドが前線の並びを早々に変えたのはビルドアップにおける可変を積極活用するためだろう。トップ下に移動したジエリンスキが降りていくビエリクのスペースに入る。左SBのベレシンスキは高い位置を取るのに合わせて左のSHのミリクがストライカーとして振る舞うという形を採用する。
可変でのポゼッションという狙い目は見えたポーランドだが、ボールをつなぐ過程でミスを連発。可変ゆえの被カウンター対応の脆さから警告を受けまくるという悪循環に陥ってしまう。
だが、一発で劣勢をひっくり返したポーランド。きっかけになったのはここまでパフォーマンスが芳しくなかった右のSBのキャッシュ。バックラインからのリスタートで一気に右サイドの裏を取ると、折り返しのボールに最後押し込んだのはジエリンスキ。直後のレバンドフスキの抜け出しも含めて、ポーランドはこの時間帯に右サイドの裏を集中的に狙っていたように見えた。
ビハインドになったサウジアラビアにはすぐに反撃のチャンス。こちらは長らく狙っていた右サイドのハーフスペースの裏抜けからPKをゲット。ポーランドは裏のケアに走ったビエリクが後手を踏むことになってしまった。しかし、この大ピンチをシュチェスニーがセーブで救う。絶体絶命の状況をしのいだポーランドが前半をリードで終える。
迎えた後半。サウジアラビアはCHのカンノが保持時には1列前に入り込み前を厚くするスタンスに。途中交代で入ったアル=アービドも狭いスペースでのボールタッチで敵陣の深い位置で貢献。アタッキングサードでのアクセントになっていた。中央での狭いスペースの突破は前半よりも増えたと言っていいだろう。
サウジアラビアのCBは左サイドへの対角パスを増やす。左サイドに移動してきたアブドゥルハミドも含めて、後半はこちらのサイドを深く抉る形も確立。中央でのパス交換のように、サウジアラビアの攻撃の武器となっていた。サウジアラビアはサイドからのクロスも鋭い球筋のものが増え、ポーランドのブロックを打開するのにあと一歩まで迫った感があった。
一方のポーランドは前に出てきたサウジアラビアの中盤の手薄さをカウンターで狙うことができず。前半に比べると攻め手が少なく苦しむ形になっていた。
試合の争点はサウジアラビアの攻撃をポーランドが凌ぎ切れるかどうか?に絞られたかのように思われた。しかしながら、サウジアラビアのバックラインはまさかのミス。レバンドフスキがチェックから独走し、ついにW杯初ゴールをゲット。試合を決める追加点を奪い取る。本人の喜びようと周りの祝福の様子はなかなかにグッとくるものがあった。
最後までポーランドゴールに迫ることをやめなかったサウジアラビア。しかしながら、PKを止めたシュチェスニーを軸とするポーランド守備陣を破ることはできず。
勝てば突破が決まるという状況を活かせなかったサウジアラビア。勝利したポーランドはサウジアラビアと入れ替わるようにグループCの暫定首位に躍り出た。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第2節
ポーランド 2-0 サウジアラビア
エデュケーション・シティ・スタジアム
【得点者】
POL:39′ ジエリンスキ, 82′ レバンドフスキ
主審:ウィルトン・サンパイオ
【グループD 第2節】フランス×デンマーク
■不確実性を打ち消すアジリティでベスト16一番乗り
初戦は王者としての風格たっぷりな逆転勝利での白星発進となったフランス。勝てばグループステージ突破を決めることができる一戦で迎えたのはネーションズリーグでフランスに勝った実績のあるデンマークだ。
デンマークのプランは5-4-1で後方を重たくするプラン。ミドルゾーンからPAの手前くらいにラインを設定し踏ん張りに行く。サイド攻撃が主体となるフランスに対して、5-4-1は割と人員を余らせることができている形。左右のどちらのサイドにも顔を出すグリーズマンの効き目はオーストラリア戦に比べると限定的だったと言えるだろう。
その分、この日のフランスは純粋なスピード勝負で優位に立っていた節があった。両WGのスピードは相変わらず凶悪。正対した相手を置き去りにすることが平気でできるアジリティを有している。
特にムバッペとテオが縦に並ぶ左サイドはデンマークにとっては非常に厄介。低い位置までおりていくムバッペについていけばテオに背後に走られてしまうし、かといってムバッペがおりていくのを放置すればドリブルを開始されてしまう。網を張っていてもムバッペはそれを突き破る勢いでかかってくるので非常に厄介である。
ムバッペ→デンベレもデンベレ→ムバッペももちろんジルーをターゲットにするエリア内に迫る攻撃もなかなかにクリティカル。デンマークの守備陣は跳ね返しに大忙しだった。
ただ、デンマークのボール保持に対してはフランスはそこまで積極的に阻害する様子はなかった。そのため、フランスが攻める局面のみの試合になっているわけではなかった。
デンマークの保持の狙いとなりそうなのはムバッペの戻りが甘いフランスの左サイド。4-4-2ベースの陣形なのだが、フランスの守備陣形はムバッペが戻らない分、歪む形で守ることになる。デンマークは自由に持たせてもらえるCBから対角のパスを駆使して右サイドにボールを届ける。
ただし、フランスはフランスでムバッペが戻りきれないことは織り込み済みだった。グリーズマンを中盤に下げてラビオを早めにフォローに向かわせたり、大外→ハーフスペースの裏抜けというデンマークの動線はウパメカノが完全に見切ったりなど、戻れないなりに設計されていた。
デンマークの用意した右サイドのプランはウパメカノに無効化されてしまったので、別の前進ルートを用意しなければいけない。ただし、テオの守備は軽かったのでこちらのサイドを崩しの狙い目に設計していること自体は悪くないと言えるだろう。
後半もフランスの左サイドはアジリティ勝負。相変わらずムバッペはテオを相棒に暴れ回る状況が続いていた。撤退色を強めるデンマークに対して、フランスは遅攻気味の右サイドでも攻撃を構築。高い位置での右のワイドに張るデンベレを軸にクンデとグリーズマンを絡ませることでバリエーションをもたらしていた。
特に、グリーズマンの動きは秀逸。右の大外に張り出すデンベレを囮に自らも最終ラインと駆け引きをしながら、裏に抜けるボールを引き出して見せる。決定機の創出はアジリティ第一じゃなくてもできる!と言わんばかりの身のこなしであった。
左右の異なる形で攻撃の目処を立てているフランス。デンマークに対して先制点の牙を向いたのは左サイド。インサイドを走り抜けるテオを相棒にカットインしたムバッペが先制ゴールをゲット。2人を引きつけたテオのフリーランが見事にムバッペのお膳立てに寄与。素晴らしい連携でデンマークのゴールをこじ開けてみせた。
しかし、敵陣に押し込むということに関しては支配的でいれないのが今のフランス。ボールを奪うということに関してはそこまで得意ではない。デンマークにボールを運ばせる機会を与えてしまうと、セットプレーからクリステンセンの同点ゴールを許してしまう。
だが、最後に笑ったのはフランスだった。86分、右サイドに入ったコマンからマイナスのパスを受けたグリーズマンが鋭いクロスを放つ。おそらく、このクロスが少しでも山なりであればシュマイケルはキャッチに行けたはずだ。それだけに絶妙な軌道と言えるだろう。
このクロスの先にいたのはムバッペ。機動力で強引にDFの前に入り、体ごとゴールに押しこんでみせた。
非保持の不安定さを打ち消す破壊的なアジリティで連勝を決めたフランス。ノックアウトラウンド進出第1号となった。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第2節
フランス 2-1 デンマーク
スタジアム974
【得点者】
FRA:61′ 86′ ムバッペ
DEN:68′ アンドレアス・クリステンセン
主審:シモン・マルチニャク
【グループC 第2節】アルゼンチン×メキシコ
■全てはあの一撃のために
開幕節でサウジアラビア相手にまさかの失態を繰り広げてしまったアルゼンチン。ベスト16常連のメキシコとの一戦は負ければ敗退というプレッシャーのかかる一戦となる。メッシの最後のワールドカップをこんなところで終わらせないためにも勝ち以外は見えない一戦だ。
メキシコからすると非常に難しい位置付けの試合になる。最終節の相手のサウジアラビアはこの試合の前にポーランドに負けたことで勝ち点は3。アルゼンチン戦の結果がどうなろうと、最終節に勝つことができれば上回ることができる勝ち点である。現状、アルゼンチン相手よりも多い勝ち点を稼いでいるメキシコからするとこの試合の結果は引き分けでも悪くない。状況は複雑である。
立ち上がりのメキシコはアルゼンチンのビルドアップをサイドに閉じ込める意識が強かった。3センターは極端にスライドし、アルゼンチンを片側サイドに閉じ込める。
アルゼンチンはサイドチェンジを仕掛けることはあまりなかったこともあり、この閉じ込めに対して脱出することができず。メキシコは2トップが中盤とサンドしながらショートカウンターを発動し、アルゼンチンがボールを持つ局面をひっくり返すことでゴールを脅す。ロサノやベガなどの機動力が豊かなアタッカー陣のスピードを生かし、敵陣に迫っていく。
対するアルゼンチンはメキシコのプレスをひっくり返すどころか、自陣から出ることすら難しい状況。メキシコの勢いに飲まれてもおかしくない立ち上がりだった。
しかしながら、この試合のメキシコのプライオリティは「負けないこと」にあったように思う。立ち上がりに主導権を握った後は無理に深追いをすることをせず、ブロックを組むことを優先したように見えた。
メキシコのスタンスの変化によりボール保持を許されたアルゼンチンだが、配置になかなか苦戦する。左のWGをベースポジションとするメッシは当然立ち位置を守ることはない。彼はフリーマンである。加えて、右のWGのディ・マリアもフリーダム。縦横無尽とは言わないまでも右サイドの低い位置まで降りながらボールを受けにくることはかなり多かった。悩ましかったのはマック=アリスター。降りてくるメッシに対してかなり気を遣ったポジションを取る工夫を行っていた。ブライトンで様々なポジションを経験している彼を先発させたのはこの試合では結構良かったのかなと思う。
WGが低い位置を降りてきてしまい、高い位置のレシーバーが不在というのは前節のサウジアラビア戦の問題点と一緒。あの試合はラウタロが1人で最終ラインとの駆け引きをしながらあわやゴール!というシーンまで持っていくことができていたが、この試合はラウタロ自身の動きだしもなし。後ろ重心の状況を打開するための材料がなかった。引き分けでOKなメキシコ側もこうした状況を打開しようとすることがなかったため、日本のファンにとっては眠い目を擦り続けるような前半になったと言えるだろう。
後半、ようやく試合は動き出す。両チームとも高い位置から組み合うことが増えて試合は活性化する。アルゼンチンがバックラインからボールを繋ぎ、敵陣深い位置まで進むことができる状況は前半になかった形である。
マック=アリスターはようやく適性の位置を見つけた感がある。逆サイドからの展開を3センターの脇で受けて、大外のアクーニャとPA内の仕掛けの両睨みができる立ち位置を取ることに成功。ややサイドよりの位置からチャンスを作るポジションを確保できるようになる。
ただ、試合は活性化したといってもようやく敵陣までスピード感を持った攻撃ができるようになった程度。シュートが飛び交うなどのような両チームともに得点の匂いがする状況にはなってはいなかった。
そうした状況を打開したのはここまで沈黙を守ってきたメッシである。右サイドでボールを持ったアルゼンチンはメキシコの3センターの脇で待ち構えるメッシに横パス。ここまで存在感は皆無だったメッシは左足を一振り。これが先制ゴールとなる。
この一撃で明らかにスタジアムの空気は変わった。重たかった空気はメッシとアルゼンチンを後押しする雰囲気に一変。負ければおしまいというプレッシャーを背負っていたアルゼンチンのイレブンにとってはあまりに大きすぎる一撃だったと言えるだろう。
逆にメキシコはこの状況でうまくギアを入れ直すことができなかった。アウェイ感が増す状況で、この試合ここまでほとんどやってこなかった強引に得点を取りに行くアプローチを急に始めるというのは難しいだろう。あるいは得失点差の観点から考えても1-0であれば、最終節に突破の可能性を残しうる。メキシコ側がどう考えたかは難しいところであるが、いずれにしても「得点をとりにいく」ということを一枚岩になって実行できている感じはなかった。
リードを維持するアルゼンチンは左サイドから追加点をゲット。交代でアンカーに入ったエンゾ・フェルナンデスがハーフスペース付近から技ありのミドルシュート。この大会では珍しい長いレンジのゴールを見事に沈めてみせた。
メッシの一撃で明らかに変わったアルゼンチンの空気。アルゼンチンの望みを繋いだこのゴールは、この試合どころかこの大会のアルゼンチンにとってターニングポイントになるかもしれない。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第2節
アルゼンチン 2-0 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
POL:64′ メッシ, 87′ フェルナンデス
主審:ダニエレ・オルサト