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「お気楽な悩み」~2022.10.30 プレミアリーグ 第14節 アーセナル×ノッティンガム・フォレスト レビュー

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目次

レビュー

■両WGと両SBが光った先制点

 首位のホームで最下位のチームを迎え撃つという格好になったこのゲーム。両チームのこの試合への立ち向かい方は序盤から予想通りの構図になったと言えるだろう。ボールを持つアーセナルに対して、プレスを無理にかけることもしないフォレストという構図で試合でスタートする。

 プレビューで触れたアーセナルのポイントはボールを持った時にブロックの中央に無理にボールを刺さないこと。フォレストは守備においてWGが躊躇なくリトリートするチーム。アーセナルはサイドからきっちりと押し下げることで、相手の選手を自陣からきっちりと遠ざけることができる。

 この「サイドからきっちり!」というテーマに関してはうまくできていた立ち上がりのアーセナル。中央の強引なパスを回避し、じっくりとサイドからボールを動かすことで押し下げることができていた。

 その上でこの日のアーセナルはプラスアルファを乗っけることができている。ズバリ、スムーズなサイドチェンジだ。象徴的だったのは先制点の場面である。インサイドで受けたマルティネッリから逆サイドのサカにサイドチェンジして1on1を演出。そのまま躊躇することなくエリア内に飛び込み先制点を獲得する。

 素晴らしかったのはマルティネッリのランだ。エリアに1人しかいない状態にも関わらず、クロスを合わせる余裕があったのは彼がDFの死角から入り込み、かつ相手のDFに受け渡しを促すように斜めに走り込んだからである。

 フォレストのような後ろの重心が重たいチームに対しては、エリア内の数的優位が効きにくい。密集地帯では数的優位があっても敵も味方も多いため、マーカーが外れていてもできる動きに制約がかかる場合が多い。このシーンのマルティネッリのようなマークを受け渡すようなランは少ない人数で攻め切るのにうってつけの武器と言えるだろう。

 先制点のシーンで黒子として活躍したのは両サイドバック。ホワイトはサカを追い越すランで左側の進路を確保する手助けをしたし、冨安は即時奪回でマルティネッリに見事にボールを繋いだ。ランで相手を操ることも、即時奪回で波状攻撃に繋げることも撤退守備を攻略する中での重要な要素と言えるだろう。

■サカの交代により変わる流れ

 アーセナルは先制点以降も大きくサイドを変えながら無理なく試合の主導権を握ることができていた。フォレストはアンカーのトーマスもかなり放置気味。アーセナルは中盤でフリーになっているトーマスを軸に左右に大きく展開して、マルティネッリとサカの2人を軸にサイド攻撃を仕掛けていった。

 さらにこの日アクセントになったのはジャカの裏抜け。ハーフスペース、もしくは大外にマルティネッリとレーンを住み分けながら前線に飛び出す形でトーマスからのロングパスを引き出すことでチャンスメイクする。フォレストは撤退形のチームではあるが、基本は4バックのチーム。ジャカの飛び出しに対してはCBかSBのどちらかが対応しなければならず、動きが遅れやすい。

 もう一つ、撤退型のチーム相手の指標になるのはトーマスのプレーエリア。シティをよく見ている人ならわかると思うが、彼らが押し切って得点を挙げることができる場合はロドリが前目にプレーできることが多い。そのアシストをするのはベルナルド。右サイドの大外でのドリブルからズリズリと敵陣側に進みながらロドリの上がる時間とパスコースを創出するのが抜群にうまい。

 ここまでをまとめるとやはり敵陣攻略のキーになっているのはやはりWGとトーマス。トーマスの大きな展開を引き取った先の攻撃の精度を担っているのはWGだし、トーマス→ジャカが抜けるスペースがあるのはWGが外に張ることでインサイドにスペースが空くから。トーマスのプレーエリアの話もWGが関わっている。

 したがって、サカの負傷交代はアーセナルにとっては痛手だった。ホワイト、ウーデゴールの2人を相棒に右サイドを攻略の旗手だったサカ。1on1でもフォレストはロディが止めるのに手を焼いていた。サカがいなくなれば機能性の部分でもデュエルの部分でもパワーバランスの変化は避けられないだろう。

 サカがいなくなってからのアーセナルはやはりトーンダウン。大きな展開が減り、近目近目のパスコースを選択することが増える。これにより、フォレストはボール周辺の守りを無理なく手厚くすることができるようになった。アーセナルは左右に広げられないことで、縦にボールを刺すことができても、受けた選手のスペースが狭くなってしまい、次のプレーの選択肢を持つことができない場面もあった。

 ただ、交代で入ったネルソンのパフォーマンス自体はそこまで悪くなかったように思う。サカと同じことはできないという前提はある意味当然。その上で、ホワイト、ウーデゴールと棲み分けながらオフザボールのポジションを探ったり、カットインから相手の動きを観察したりなど、自分の動きによる周りのリアクションを探るような立ち上がりとなっていた。

 フォレストの保持は右サイドはアウォニィやギブス=ホワイトがロングボールの受け手に、左サイドはリンガードを軸とした裏抜けで左右非対称の手段で敵陣に迫っていく。試合前は左SBの冨安起用はどことなく疑問だったが、ストッパーとして機能を果たすことが多かったため、ここを見据えての起用だったのかもしれない。

 フォレストの攻撃の厚みはやはりサカの交代前後でかなり変わった印象を受ける。近目近目で攻めるアーセナルに対してはフォレストはプレスの狙いを定めることができたので、カウンター開始位置も高くなるケースが徐々に出てくるように。

 アーセナルのバックラインはロングボールのデュエルこそ安定していたが、その後の処理が不安定。象徴的だったのは40分のシーン。ガブリエウのパスミスやサリバのキックミスでピンチを連鎖的に招いてしまった。ボタンが一つ掛け違えていればフォレストが息を吹き返すきっかけになっていた場面だろう。サカがいなくなって以降はこうしたアーセナルのバックラインの不安定な部分をフォレストが突く場面が目立っていた。

■2得点がお膳立ての余裕をもたらす

 後半も試合のテーマは同じ。アーセナルはいかに広く攻められるか。そして、サイドで相手を外すような動きができるかどうかである。アーセナルはこれに対して早々に答えを出す。

 やはりキーとなったのはトーマス。フォレストが引き続き放置したトーマスから左サイドの裏に抜けたジャカ(前半によく見られた攻撃パターンである)にパスが出る。中央のジェズスに送ると、ポストで逆サイドに展開。ここに走り込んだネルソンが一度はGKに当てながら二度目のシュートを決めて追加点をゲットする。

 アーセナルは息をつく間も無く畳み掛ける。次のゴールはロングカウンター。前がかりになるフォレストをひっくり返すようにアーセナルは攻撃を加速させる。左サイドのマルティネッリから逆サイドのジェズスにボールを展開。ウーデゴールとのスモールスペースの攻略から、針の穴を通すようなクロスでネルソンのこの日2得点目をお膳立てして見せた。

 自由になったトーマスをきっかけに奪った追加点で勢いに乗ったアーセナル。これによって、かなりリラックスしたプレーが見られるようになったのがネルソンだ。2得点という結果も出て、だいぶ伸び伸びできたのだろう。右サイドからのプレー選択には余裕が出てくる。

 相手のDF複数枚に囲まれた時のプレー選択やPA内に送るボールの精度など、彼らしいプレーを見せることができたのは後半の大きな収穫だろう。スクランブルな投入となったが、ラカゼットのCovid-19陽性反応をきっかけに契約延長を勝ち取ったエンケティアのように、この日のネルソンは次につながるきっかけを掴むことができた。あとはフォレスト以外の相手に、この日のようなパフォーマンスを継続して発揮できるかどうかである。全ては彼次第だ。

 4点目はそんなネルソンからのお膳立て。先に挙げたロドリを押し上げるベルナルドのように、ネルソンは右サイドで時間を作るとバイタルまで入り込んできたトーマスに横パスを入れる。ボールを受けたトーマスはノースロンドンダービーを彷彿とさせるゴールを叩き込んでこの日4点目をゲット。

 先輩たちからチャンスをもらっていたネルソンは4点目ではチャンスを供給する側として輝いて見せた。得点シーンでトーマスの前にあったスペースは、後半に結果を出したネルソンが見せた輝きが生んだ空間と言っても差し支えないだろう。

 逆にフォレストからすると、前半からポイントだったトーマスを後半になって再びケアできないのは想定外。こうなるとビハインドとはいえ5バックに移行せざるを得ない。アーセナルのパスワークをただただ眺めているこの時間帯の守備が続けば、何点失ってもおかしくない状況だったからだ。引き締めをしなければいけないというクーパーの判断は理解できる。

 ネルソン以外に後半に際立ったパフォーマンスを見せたのは冨安。インサイドでの繋ぎ役から左サイドに飛び出していき、大外のマルティネッリを手助けするフリーランや大外からのクロスを放っているのは目覚ましい進歩。脅威の吸収力で左のSBが板についているのには驚かされた。

 サカの負傷以外の唯一の懸念はジェズスにこの日もゴールが出なかったこと。ウーデゴールの5得点目も含め、この日見せたアシスト能力やスペースメイク、そして献身的な守備も含めれば、今のアーセナルにはジェズスを外す選択肢はない。得点を取らなくても十分に貢献度は高いのである。だからこそ、得点を取ってもらいたいのだけど。こういう選手は応援したくなるし、個人的には待つことができる。

 逆にいえばアーセナルのこの日の悩みは負傷者の様子と誰が点を取るかくらいのもの。5失点で項垂れるフォレストファンにとってはアーセナルファンの悩みは非常にお気楽に思えたことだろう。

あとがき

■ミスマッチなSBの特性とリーダー不在の傭兵軍団

 メンバーは固まってきたが、スカッド構成上の歪な感覚はいまだに抜けていないフォレスト。特に気になるのはSBの人選だ。ロディ、オーリエ、ネコ・ウィリアムズなどことごとく攻撃的な顔ぶれにもかかわらず、彼らの攻撃力を生かせないのは痛い。前線のキープなど何かしらの時間を作る手段は欲しいところだ。

 試合を見ていて気になるのはチームを引っ張るリーダーの存在。傭兵軍団だからこそ、個々に備わるキャプテンシーは大事なのだろうが、その部分で頭角を表す選手がいないのは気がかり。ビハインドの状況での途中交代でテーピングを外しながら歩いて交代するリンガードにはがっかり。彼のような選手がプレミアの経験をチームに伝えなければ、フォレストが傭兵集団の域を出る見通しはなかなか見えてこないだろう。

■次のチャンスを手にした2得点

 サカの怪我は肝を冷やしたが、打撲ということで一安心。週末のチェルシー戦に間に合うという吉報を待ちたいところである。

 試合に関しては久しぶりに後半に内容の良化が見られたのは好材料。相手とは力の差があるとはいえ、これまでのアーセナルの課題であった後半の失速や、強引に縦パスによる被カウンターなどを喰らわなかったのは改善ポイントと言えるだろう。ホームでの久しぶりのクリーンシートにはラムズデールもにっこりだ。

 ネルソンに関しては大事なのはここから。本文でも触れたが、次のチャンスを得ることができたというだけでまだ何も立場を確立したわけではないと。負傷も少なくない選手なのでその部分も気がかり。ようやく手にした格好のチャンスをなんとしても手にしたいところ。W杯前の残り4試合で必ず回ってくるであろう出番で再び結果を残したいところだ。

試合結果
2022.10.30
プレミアリーグ 第14節
アーセナル 5-0 ノッティンガム・フォレスト
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ マルティネッリ,49′ 52′ ネルソン, 57′ トーマス, 78′ ウーデゴール
主審:シモン・フーパー

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