アンス・ファティの投入で変わるクロアチア優勢の流れ
イタリアを下しファイナルにたどり着くことができたスペイン。立ちはだかるのはレアル・マドリーに君臨する生きるレジェンドが率いるクロアチアである。
両チームとも立ち上がりに目に付いたのは後方に枚数をかけたビルドアップを行うこと。特に、SBがCBとほぼ同じ高さでビルドアップに参加していたのは意外だった。
ひとまずは両チームとも後方でボールをまわしたいのだろう。その論点で言えば主導権を握ることに成功したのはクロアチアだった。もっとも、スペインの非保持の基本線は4-4-1-1のような形。モラタがGKまでプレスに行くときは、SHのピノがバックラインにプレスに行くこともあったが、基本的には2トップがアンカーを受け渡しつつ、CBには時間を与えてボールを持たせる方針にシフトしたといえるだろう。
スペインのSHはどちらかといえば外に開くクロアチアのSBよりもCBや降りる動きを見せる中盤のケアを優先していた印象。よって、クロアチアは大外を使うことができればバックラインをズレさせることができる。SBのナバスを釣りだして、横ずれを狙う形で最終ラインにギャップを作る。
しかしながら、クロアチアのストロングポイントといえばやはり中盤。サイドを迂回させる形は配球面を考えても優位が限定的になる。クラマリッチなどトランジッションで迎える決定機の方がよりゴールに迫っていた印象だ。ラポルトが救っていなければ、クロアチアは前半のうちに先制点を手にしていただろう。
スペインのボール保持に対してもクロアチアは慎重にふるまう。中盤のマンツーを優先し、バックラインへのプレスは制限をかけていた。
クロアチアと同じくスペインもサイドからはボールを運ぶことはできていたが、やはり効果は大きくはない。ナバスは対面との駆け引きでクロスを上げることがいっぱい。攻撃のブレイクスルーにはならない。
迎えた後半はスペインが保持で支配的にふるまいながらスタート。しかしながら、あっという間にクロアチアが保持で主導権を握り返す。準決勝のイタリア戦でも後半からはボールを持って安定だった試合運びを見せていたので、決勝もその流れかと思ったのだが、クロアチアの握力はなかなかに強かったようである。
左サイドのイヴァンシッツとペリシッチの2人からファーのパシャリッチという準決勝でも見せたパターンはこの日も健在。外→外のクロスでの空中戦をスペインに挑んでいく。
ただし、多彩なビルドアップの割にはフィニッシュの単調さは否めず。押し込む優位を得点のにおいにつなげることができなかった。
クロアチア優位の流れが変わったのはスペインが左サイドにアンス・ファティを入れてから。対面での勝負だけでなく裏への駆け引きができるアタッカーを投入したことでスペインはイタリア戦よりもだいぶ遅れて主導権を握ることとなる。
延長戦でもファティは主役。クロアチアは同サイドにスタニシッチを入れて手当をするなど、こちらのサイドのフォローにはかなり手を焼いていた。
スコアレスのまま120分を終えた両チーム。PK戦で勝利を手にしたのはスペイン。接戦を制して見事3代目の王者に輝いた。
ひとこと
保持で主導権をスペイン相手に握るクロアチアには驚かされた。
試合結果
2023.6.18
UEFAネーションズリーグ
決勝
クロアチア 0-0(PK:4-5) スペイン
フェイエノールト・スタディオン
主審:フェリックス・ツバイヤー