チェルシー、23-24シーズンの歩み。
第1節 リバプール戦(H)

先行されたチェルシーが奮闘するも「お決まりの結末」
ネームバリューの観点で単純に開幕カードの中では最も注目度が高い一戦になるのだろうが、すでにピッチ外で実質開幕戦をしているという点でもなかなか面白い巡り合わせのカードとなった。
立ち上がりにペースを握ったのはリバプールの方だろう。攻撃的な選手を並べた中盤を軸にチェルシーのマンツーマンの守備を外しながら前進。右サイドのサラーを出口に攻撃を仕掛けていく。
イメージとしては右サイドがゲームメイク担当という感じ。ショボスライ、マック=アリスター、アレクサンダー=アーノルドの3枚が中盤に降りながら前線にパスを供給。左サイドは逆にガクポやディアスが速い攻撃を仕掛けていく。ロバートソンが上がる時間がもらえずに少し寂しそうではあったが、左右のスタイルの違いから攻めていこうということだろう。
チェルシーの守備は部分的にマンツーをしつつ、後方は人を余らせて待機させるブロック守備重視の仕様。リバプールの攻撃がゆったりすると前線のスターリングとジャクソンはリトリートで自陣のPA付近まで戻ることもしばしば。
ダラダラしていると平気で守備にリソース投入してくるチェルシーを見て、リバプールは手早く裏にボールを繋ぐようになる。長いボールを蹴ることができるアレクサンダー=アーノルドと相手を背負う状態で受けてもターンや無理な体勢からのパスで前線で繋ぐ圧巻のマック=アリスターを軸に攻撃を仕掛けていく。
先制点の起点となったのもマック=アリスター。右サイド奥のサラーに展開をすると、ファーサイドに走り込んだディアスをピンポイントで狙ってゴールをアシスト。終始バタバタした試合の中で唯一仙人のように落ち着いていたサラーの巧みさが詰まったゴールだった。
チェルシーの保持は中央を固めるリバプールに対して外循環のスタート。一見逃げのように見えるプランだが、この試合のリバプールの中盤より前の守備基準はガタガタ。WBにボールが入るとそれだけであっさりと最終ラインが晒される。WBにボールを入れてSBを引き出すと、その背後に前線の選手が入り込むだけで簡単にゴール前に進むことができた。
SBが裏を取られることがわかっていればCBが早い段階でスライドすればいい!となりそうだが、リバプールは3センターがコンパクトに守れない人選になっているため、ライン間の縦パスにも警戒する必要がある。縦パスに積極的にファン・ダイクが出ていく関係で、今季のコナテはアレクサンダー=アーノルドと逆側のサイドの背後もカバーしなくてはいけないという昨季よりも大変そうな状況になっていた。
こうした状況であればラインダウンするエンソは簡単にゲームメイクができる。リバプールは遅れてリアクションをする守備をしているので、スペースを逃さないエンソにとってはうってつけ。アンカー的に振る舞うギャラガーもゲームメイクで貢献できた。
アタッキングサードにおいてはDFとGKの間に右サイドからひたすらクロスを入れる動きを継続。そのご褒美が37分のディザジのゴールに繋がる。
後半もペースを握ったのはリバプール。ハーフタイムを経てもなお、外と中を自由に行き来するチェルシーの攻撃に対抗策が見つからず前進を許し続ける。内外問わずオフザボールの動きを繰り返すスターリングの実直性が光る流れとなった。
チェルシーは右サイドのジェームズがオーバーラップができなくなってからややサイドアタックの精度が低下。リバプールの守備の対応は少しずつ間に合うようになる。
リバプールはヌニェスなど前線の選手を入れ替えることでエネルギーを注入。プレスは前に出ていくようになったが、外され続けていたのであまり効果はなかったが、前進の馬力が出たこと自体は良かった。だが、最も可能性を感じるサラーをあっさりと諦めたのは意見が分かれるところだろう。
ホームチームは同点ゴール以降は試合の主導権を握ったが、勝ち越しゴールを奪うことはできず。スコアレスではなかったが、またしてもこのカードは引き分け。これでチェルシーとリバプールの対戦はPK決着となったカップ戦も含めて7試合連続で引き分けが続くこととなった。
ひとこと
試合後もピッチ外で引き続き戦っていて面白いです。
試合結果
2023.8.13
プレミアリーグ 第1節
チェルシー 1-1 リバプール
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:37′ ディザジ
LIV:18′ ディアス
主審:アンソニー・テイラー
第2節 ウェストハム戦(A)

新戦力に明暗、老獪なウェストハムがチェルシーの勝ちゲームをひっくり返す
ともに開幕節は引き分けスタート。初勝利をかけてのロンドンダービーとなる。
立ち上がりに存在感を見せたのは新加入のウォード=プラウズ。右サイドからのCKが続くと2回目でスコアに繋げることに成功。ファーのアゲルトめがけて綺麗に向かっていく放物線は非常に美しかった。
この場面のようにウェストハムは押し込むとセットプレーを含めてチャンスになる。しかしながら先制点以降はなかなか押し返すことができず、チェルシーが主導権を握るように。
最もわかりやすいアドバンテージは前線のスピード。昨季よりはるかに若返ったようにキレのあるドリブルで相手を何枚も置き去りにするスターリングと相手を吹っ飛ばすパワーと置いていくスピードを兼ね備えたジャクソンの2人がハマーズのバックラインを蹂躙。
やや、裏へのボールが一辺倒な感じがしたチェルシーだが、これだけわかっていても止められないのであれば十分だろう。特に左サイドは裏抜けで押し下げた後も崩しが機能。大外からエンドラインを舐めるような侵入からマイナスのパスでフィニッシュを狙う。ウェストハムはかなり重心を崩されてはいたが、なんとかこの折り返しを根性で守るあたりはさすがであった。
マイナスパスをなんとか跳ね返し続けるウェストハムに対してチェルシーの解決策となったのはチュクエメカ。裏ではなくカットインへの横の動きでソーチェクを置き去りにすると、カバーの選手が来る前にミドルシュートを射抜き追いつく。
これ以降も裏への圧力でウェストハムを自陣に押し込み続けるチェルシー。左は連携、右はスターリングというサイド攻撃を奥行きを使えるエンソを軸にゲームを組み立てる。
前半終了時にタイスコアだったのはウェストハムにとって幸運。スターリングが得たPKをエンソが無駄にしたことも含め、ギリギリで失点を回避する。なんとか前半に勝ち越しゴールを取り切りたいチェルシー。だが、追加タイムにはチュクエメカが負傷するなど、決して何もかもがうまくいった45分ではなかった。
後半も引き続きチェルシーはスピードでウェストハムに圧力をかけていく。しかしながら、少し急ぎすぎる嫌いがあり、雑なパスを引っ掛ける場面も目立つ。
そうなってくると今度はウェストハムに局面をひっくり返す局面がやって来る。ディザジのところから溢れたボールを拾ったウォード=プラウズは即座に裏のアントニオに。まさに強振ジャストミートというシュートでゴールを射抜き、ウェストハムがカウンターからチャンスをものにする。
このまま逃げ切りたいウェストハムだが、アゲルトがボールを奪いにいくタックルが届かず2回目の警告を受けて退場。後半の残り時間を10人で過ごすことになる。
結果的には数的不均衡がチェルシーにとっていい方向に働かなかった。ブロック守備を敷くことで見解一致のウェストハムに対して、スペースと体力が削られたジャクソンやスターリングは存在感を失うことに。定点攻撃から1枚剥がすことを求められたムドリクとマドゥエケはクオリティが伴わずチェルシーは停滞することに。個人的には追い越す動きができるチルウェルがいればウェストハムの守備にギャップを作れたと思うが、ポチェッティーノは早々に彼を下げてしまった。
アントニオが下がった後もパケタやボーウェンが体を張りながら陣地回復に貢献。チェルシー側にボールを追いやることで相手に負荷をかけていく。
時間がなく焦るチェルシー。後半追加タイムに追い込まれた状況で最後にババを引いたのはカイセド。PA内でのタックルが遅れてPKを献上する。こういう時に彼がババを引くのは仕方がない。プレミアリーグはそういう脚本になっていることがあまりにも多い。このPKをパケタが沈めて試合は完全に決着する。
前後半でそれぞれPKに泣いたチェルシー。開幕戦に続き今節も勝ち点3を得ることができなかった。
ひとこと
前半は明らかにチェルシーの勝ちゲーム。それだけに後半の老獪さに飲み込まれてしまったのが切ない。単純にチェルシーが強くなればなるほど、押し込む相手を崩すという後半のような局面は増えていくので、今日よりもはるかに整理されたものを用意できるかどうか。ポチェッティーノの手腕が問われることになる。
試合結果
2023.8.20
プレミアリーグ 第2節
ウェストハム 3-1 チェルシー
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:7′ アゲルト, 53′ アントニオ, 90+5′(PK) パケタ
CHE:28′ チュクエメカ
主審:ジョン・ブルックス
第3節 ルートン・タウン戦(H)

見えてきた新生チェルシーの枠組み
開幕2試合でここまで勝利がないチェルシー。3戦目はホームにルートンを迎えて、今節初勝利を狙っていく。
ルートンの5-3-2に対して、バックラインから繋ぎながらボールを持つチェルシー。ルートンはWBはCBと同じ高さをキープしつつ、IHが2トップのサポートに出ていく形。降りていく選手には厳しくついていくが、バックラインには多少余裕を持たせるスタートとなる。
チェルシーの攻め手となっていたのは右サイド。好調のスターリングが右に開く形からカットインで5バックに真っ向勝負を挑んでいく。インサイドに入っていくタイミングで大外からオーバーラップを被せてくるグストが浮くパターンもちらほら見受けられた。
もう一つの攻め筋はトップのジャクソンのサイドに流れる裏抜けとライン間での反転。これに合わせるように中央高い位置に入っていくエンソがバイタルからゴールを狙うという構図もチェルシーの狙いの一つだったと言えるだろう。2トップの片方と他の選手の組み合わせからチェルシーは攻撃を構築していく。終盤は息切れした前節と比べて2トップの馬力頼み感は減っており、持続可能な活かし方ができているように思える。
先制点を決めたのは外側から攻め込むスターリング。右の大外から1枚を剥がし、2枚を引き寄せつつ左足で狙ったシュートでルートンの守備を個人ベースで切り裂くことに成功する。
ルートンからするとアデバヨとモリスの2トップにロングボールが入らずに苦戦が続く。チェルシーのバックラインは強固。一度はモリスが抜け出しかけるが、これはコルウィルが外に追い出す形で見事に潰し切った。中盤ではタヒス・チョンがなんとかボールを持って押し上げにいくが、なかなかシュートまでつながらない。
2トップを軸に押し下げる形を持っているチェルシーは優勢とキープ。先制点を持っていることもあり、ビルドアップ隊は安定感を重視。ポゼッションから押し下げることを優先し、ルートンの反撃の芽を摘む。この辺りはカイセドがもたらす安心感が別格であった。
30分を過ぎると少しずつルートンがボールを持てるように。5-3-1+右の大外スターリングみたいなブロックを組むチェルシーに対して、やや手薄となるチェルシーの左サイド側からカボレを軸に前進を狙うルートン。だが、CKからニアを狙ったセットプレー以外はチャンスらしいチャンスはなし。チェルシーはリードをキープしてハーフタイムを迎える。
後半もチェルシーは落ち着いたポゼッション。流れに逆らわずに2トップを軸とした攻撃を前半に引き続き行なっていく。前半の終盤に攻め手になっていたルートンの右サイドのところをボールの刈りどころにしていたのも印象的。このサイドをひっくり返してチャンスに繋げていた。
ルートンは60分過ぎからオープンな展開に乗ってWBが攻撃に参加できるように。ジャイルズやカボレが高い位置に顔を出していく。
そうなると、今後はチェルシーの2トップがカウンターからスピードを生かした攻撃を行うように。オープンな土俵でもルートンに力の差を見せつけていく。
すると、右サイドの崩しからチェルシーは追加点。絞るスターリングが空けたスペースに顔を出したグストから折り返しを決めたのはスターリング。勝利を大幅に引き寄せる2点目を手にする。
3点目はスターリングが右を抜け出したところから。クロスをジャクソンに届けて2ゴール、1アシストの大暴れである。後半のゴールのように、チェルシーが前線で抜け出す動きを怠らないのはカイセドやエンソといった抜け出しを見逃さないパサーがいることも大きい。
充実の3ゴールでようやく初勝利を飾ったチェルシー。ポチェッティーノも安堵の笑顔で就任初勝利を祝った。
ひとこと
ポチェッティーノ・チェルシーの枠組みが見えてきた感がある。2トップに連携を紐づけた攻撃、中盤のタレントを軸とした安定したポゼッション、そして強力なストッパーを揃えた3バック。前節のように追いかける展開への適応力は怪しい部分はあるが、攻守両面で土台が手堅い感じがするので、大崩れはないかもしれない。
試合結果
2023.8.25
プレミアリーグ 第3節
チェルシー 3-0 ルートン・タウン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:17′ 68′ スターリング, 75′ ジャクソン
主審:ロベルト・ジョーンズ
第4節 ノッティンガム・フォレスト戦(H)

後半頭のプレスの意識が先制点につながる
前節、ルートン相手にようやく今季初勝利を手にしたチェルシー。ホームでフォレストを叩き、きっちりと連勝を狙いたいところ。
ボールを長い時間持つことができたのはチェルシー。推進力を持ちながら縦に速い攻撃で敵陣を素早く攻略しにいく。しかしながら、やや単騎での強引の解決を試みるスタンスが目立つところ。スターリングやジャクソンといった前線のメンバーが好調というのもあるのだろう。ボールホルダーの球離れが悪く、なかなか相手を外すことができず。テンポが上がってこない。
横断しながらWBを活用することができれば、スマートに前進ができそうな感じがあるのだが、そうしたシーンは稀。やや個人個人の力技に縋ってしまった感があったと言えるだろう。セットプレーからのチャンスもあったが、これも活かすことはできなかった。
一方のフォレストは自陣からジリジリファウルを奪いながらセットプレーからチャンスを狙っていくという地道な形で反撃を狙っていく。ボックス内でアウォニイには肉弾戦の末にシュートを打つチャンスが何回かあった。
流れの中ではカウンターでスピードに乗った状態を迎えることができればいいのだが、チェルシーの固い守備陣を前にフォレストはなかなかそうした場面を作ることができず。その一方でフォレストの守備陣もカウンター時にはチェルシーのホルダーを素早く捕まえてきっちり対応。相手にもスムーズなカウンターを許さず、多少遅れてもボックス内での厳しいチェックで帳消し。チェルシーにクリーンなチャンスを与えなかった。
後半、フォレストはプレスで前半よりも積極的にホルダーを捕まえにいく。リトリートとの使い分けが適切でチェルシーは出てくるプレスの裏をかくことができなかった。
そして、ミドルゾーンでのプレスの意識が先制点をもたらすことに。ギャラガーとカイセドのところにミスを引き起こし、アウォニイとエランガでカウンターを完結。後半頭のギアチェンジの成果が早々に出ることに。
エンソ絡みのジャクソンとチルウェルの抜け出しくらいしかスピードアップのきっかけを掴むことができないチェルシー。その抜け出しに対してもフォレストはワローを中心にボックス内の粘り強い跳ね返しで対応し続ける。
チェルシーはパーマーを投入してリズムを変えていきたいところ。彼が投入された右サイドのハーフスペース付近はショートパスが増え、パスワークのリズムがよくはなったもののチャンスの増加になかなか繋がらない。その後も若い選手を中心に積極的に交代カードを切っていくが、選手を入れれば入れるほどごちゃついていくような出たところ勝負感が否めないようになる。
それでも83分にはスターリングが決定機を創出するが、ジャクソンがシュートを枠内に飛ばすことができず。結局最後まで得点を奪うことができなかったチェルシー。フォレストにスタンフォード・ブリッジで金星献上を許してしまった。
ひとこと
これだけスカッドを入れ替えれば交代のたびにごちゃつくのは序盤戦は仕方ないだろうなという印象のチェルシー。フォレストはカウンター以上にボックス内の粘り強い守備に好感が持てた。
試合結果
2023.9.2
プレミアリーグ 第4節
チェルシー 0-1 ノッティンガム・フォレスト
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
NFO:48′ エランガ
主審:ティム・ロビンソン
第5節 ボーンマス戦(A)

直線的な攻撃と間延びの連続で今季初のスコアレスドロー
豪華な補強、悪くない内容ながらもここまで4戦未勝利と苦戦が続くボーンマス。今節の相手はこちらもいまだにルートン相手の1勝だけと苦しんでいるチェルシーである。
立ち上がりから慌ただしい展開となった。どちらのチームもホルダーのプレスには積極的な上にアタッカーの切れ味は良さそうな感じ。開始早々に左サイドからムドリクのカットインでチェルシーが決定機を迎えて試合は幕を開ける。
どちらかといえば前半にチャンスが多かったのはチェルシーの方だろう。左サイドはSBのコルウィルが高い位置をとりながらエンソとムドリクを押し上げつつサポート。たまに自身がエリア内に入り込む高さをとることもあり、攻撃の手助けをしていた。
右サイドはその分トップ下的なギャラガーが流れてサポート。スターリングとグストは右の大外からの抉るようなカットインでマイナスのクロスからチャンスメイクをしていた。
チェルシーは基本的にはWGを軸に悪くない攻撃はできていたが、やや気になったのはアタッカーに入った時に直線的な動きが目立つこと。なまじ切れ味が良い分、特攻してのプレーが多く、強引さが先立ってのロストが目立った。安易なボールロストがボーンマスのカウンターの温床となることを考えても、緩急をつけるようなプレー選択が欲しかったところ。
もっとも、それを阻害したのはボーンマスの功績と言えるだろう。基本的には中盤は噛み合わせる形の守備をしたボーンマスだが、クリスティとビリングは時折バックラインまで追ってプレスのスイッチを入れつつ、中盤のマーカーを受け渡しながら厳しくチェック。緩急を入れられそうなエンソやアンカー的に振る舞ったウゴチュクが自由にボールを持てなかったのは、受け渡しと激しいマークを両立した彼らの守備があってこそだろう。
ボーンマスの攻撃は立ち上がりは左サイドのワッタラが好調。ドリブルで相手サイドを切り裂きながらゴールに迫る。セットプレーからの決定機を決めていれば100点の立ち上がりだったが、これはサンチェスの冷静な対応にいなされてしまう。
ボーンマスもチェルシーと同じく両WGから攻め手は見つけられそうな予感は漂う前半だった。だが、試合が進むにつれて強引な仕掛けが両チームに目立つようになり、後方からのパスは確実性の低い一気に進めるオープンスペースへのものが増えていく。
そうした流れによって、徐々に試合自体が間延びした展開に。両軍のチャンスの可能性が停滞したまま前半はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半の立ち上がり、いきなりチャンスを迎えたのはチェルシー。セットプレーからの決定機だがスターリングのFKの跳ね返りを押し込んだコルウィルはオフサイドを取られてしまう。
基本的には前半の流れの延長上だった後半。アバウトさが先立つ中でチェルシーは決定機の勢いそのまま主導権を握る。左サイドを軸にコルウィルの攻撃参加は後半も有用だった。
だが、時間の経過とともにペースはボーンマスの手中に。チェルシー優勢の流れが変わった要因はボーンマスのバックラインのパフォーマンスの高さだろう。ボックス内の粘りはもちろん、徐々にラインを上げてチェルシーのアタッカーを高い位置から迎撃するように。特にムドリクを完全にゲームから締め出したアーロンズは出色の出来だった。
徐々にバックラインのトランジッションからチャンスを作るボーンマス。前線の交代によるリフレッシュからポジトラの威力はさらに高まっていった印象。チェルシーのボックス内の守備の集中力の怪しさもボーンマスの得点の可能性に拍車をかけていたが、サンチェスの冷静さでなんとか失点を防ぐ。
ボックス内の守備以上にチェルシーが難しかったのは攻撃面。交代選手が入るたびに個人のデュエルの集合体のようになってしまう保持時の連携は大幅にスカッドを入れ替えた弊害と言えるだろう。代表ウィーク前でも見られた課題はそのまま今後も引き継がれることになる。
結局後半の追加タイムは間延びしつつもチャンスができない前半と同じ形での終幕。5節目にしてプレミアでは今季初のスコアレスドローとなった。
ひとこと
チェルシーはカイセドの不在とエンソが南米帰りだったというエクスキューズはあるが、終盤の前線のマネジメントが早急な解決策が欲しいところ。合わせる基準が誰なのかを整理しつつ、連携の構築を急ぎたい。
試合結果
2023.9.17
プレミアリーグ 第5節
ボーンマス 0-0 チェルシー
ヴァイタリティ・スタジアム
主審:デビッド・クート
第6節 アストンビラ戦(H)

息をつけないチェルシーをビラがしたたかに下す
今季ここまではわずかに1勝。ルートンにしか勝っていないチェルシーへの風当たりは早くも強くなっている感じがする。
そんな状態を振り払うかのようにチェルシーはエンソとジャクソンを主体とした高い位置からのプレスを敢行する。しかしながら、アストンビラはこれを落ち着いていなす。特にGKのマルティネスを活用しての数的優位の確保は効いており、チェルシーの高い位置からのプレッシングを無効化できていた。
左右にボールを前進のスキームがあったのもビラにとっては優位に立った理由の一つ。左サイドのハーフスペース付近でグストを背負ったザニオーロが絶好調。ボールを収めて反転して前を向く形でチャンスメイクをしていく。
逆サイドではカマラがマッギンの列落ちに対してムドリクやギャラガーが後手に回った対応をするシーンが目立った。前からのプレスに意欲的なのはいいのだが、とにかくどこの向きに誘導しているかがわからないので、後方からのサポート役もプレスに打って出れずに守備網が間延び。結局、望まない形でプレスラインの撤退を強いられることに。
チェルシーは右サイドを軸にWGの抜け出しからチャンスを作っていく。猪突猛進のスターリングのスピードからサイドを押し下げていく。チェルシーの攻撃を見て少し感じたのは、トップの抜け出しからシュートまで力み続けているような場面が続いていること。決定機の割に決められないというxG的な話は出ていたが、シュート前に息が入る間がないので、シュートが力んでしまっている可能性もあるかもしれない。
均衡で迎えた後半、チェルシーはチャンスメイクで依存していた前線のスピードをさらに生かすかのように、縦に速いテンポでの攻撃を行っていく。ビラもこれに応戦しつつ、チェルシーが少し流れを引き戻してきたなという後半の立ち上がりだった。
だが、テンポアップに先に音を上げたのもチェルシー。グストの一発退場で10人になってしまうと、自陣撤退第一の流れに引き込んでいく。だが、そんなチェルシーをあざ笑うかのようにアストンビラが先制。行けると思ったチェルシーのセットプレー攻勢をディアビのカウンターからひっくり返して最後はワトキンス。数的優位に加えてついにリードを奪い取る。
チェルシーは終盤に復帰戦となるブロヤが投入される。セットプレーから決定機もあった展開だったが、最後までゴールは奪えず。チェルシーはアストンビラに逃げ切りを許して今季は早くも3敗目。9月上旬から続く無得点記録もストップできず、9月は3試合のリーグ戦でノーゴールという形に終わってしまった。
ひとこと
やはり、シュート前の一息をつけるかどうかはチェルシーにとって大事な気がする。ジャクソン不在で縦に急げないフラム戦でもう少し緩急をつけた攻め筋が見つかればいいのだが。
試合結果
2023.9.24
プレミアリーグ 第6節
チェルシー 0-1 アストンビラ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
AVL:73′ ワトキンス
主審:ジャレット・ジレット
第7節 フラム戦(A)

初ゴールが起爆剤になるか
近年は格差が目立っていたウェストロンドンダービーだが、昨年はまさかのフラムが上位でのフィニッシュ。そして、今季のこの対戦も再びフラムの方が上位で迎えた一戦となる。
立ちあがりにチャンスを迎えたのはチェルシー。出場停止のジャクソンに代わって先発だったブロヤにいきなり決定機が訪れるが、シュートが枠をとらえられず、早々のチャンスを逃す。
チェルシーの保持に対してフラムはプレスを強めていく。チェルシーは手数をかけるポゼッションよりも縦に速い選択に注力。フラムはチェルシーと異なり、右サイドに展開しつつクロスを上げるポゼッション重視のスタイルをとっていたので、チェルシーはトランジッションからも速攻を重視。ムドリクを軸に左サイドから裏を取る形で反撃に出る。
そうした中で先制点を奪ったのはチェルシーだった。左サイドで高い位置を取ったのはムドリクではなくコルウィル。カイセドの促すようなパスからオーバーラップをすると、エリア内のムドリクにラストパス。これを仕留めたムドリクはうれしい加入後初ゴールを記録する。
前節のチェルシーの試合の戦評で抜け出すところに力を使いすぎている感がある!と述べたが、カイセドのパスに促されたコルウィルを挟むことで、ムドリクはフィニッシュより手前に使う力をセーブできていた。やはりカイセドがいれば、手前の部分の余裕は持たせられるようになるのかなという感じである。
先制したチェルシーはそのまま追加点をゲット。怠慢なフラムの保持をパルマーが咎めて、ブロヤが2点目を決める。フラムがシュートすらたどり着けないうちにチェルシーは2点のリードを手にする。
フラムはその後もポゼッションから反撃を狙う。片側に寄せつつ、パリーニャで逆サイドへの展開という形は悪くなかったように思う。だが、この日は左サイドからのカウンターのキレが抜群だったチェルシー。フラム以上の得点のにおいがするカウンターで、常にのど元にナイフを突きつけていた。
後半、フラムはハイプレスからテンポを取り戻していく。チェルシーもプレスの手は緩めず、試合は同サイドにポゼッションをいかに閉じ込めるかバトルを軸に進んでいく。トップの誘導からカイセドの回収までスムーズに描けていたチェルシーの方がこの点ではやや優勢だったといえるだろう。
フラムはイウォビを投入し、ウィリアンと共に低い位置から運ばせる選手を作ってポゼッションの安定化を図る。安定という意味ではそれなりに効果があった交代かもしれないが、決め手としてチェルシーのブロックを崩す方策をフラムは最後まで見つけられなかった印象だ。
昨年、上回られたローカルライバルを制圧したチェルシー。ムドリクとブロヤの初ゴールを起爆剤としてここから上がっていきたいところだが。
ひとこと
ムドリク、よかったねという気持ちと本来の活躍が期待されるスピード感はこんな感じだったんじゃないのかなという気持ちが半分ずつ。
試合結果
2023.10.2
プレミアリーグ 第7節
フラム 0-2 チェルシー
クレイヴン・コテージ
【得点者】
CHE:18’ ムドリク, 19‘ ブロヤ
主審:ティム・ロビンソン
第8節 バーンリー戦(A)

スターリングがターフ・ムーアを完全制圧
立ち上がりは積極的にバーンリーが高い位置からチェルシーを捕まえにいくスタート。チェルシーはサイドにボールを逃しながら1on1か裏を取るアクションなどスピードを活かしたアプローチで対抗する形である。
試合が落ち着くと両チームは時間を与えられたバックラインからの組み立てで勝負に行く。バーンリーはGKのトラフォードを使いながらゆったりとショートパスで組み立てていくが、ターンオーバーでコレオショがいないこともありいつも以上にボールの終着点がわからない展開となった。
一方のチェルシーもバックラインからボールを幅をとって動かしながら勝負に出て行こうとするが、右のSBのククレジャにボールが渡ると必ずボールがバックラインに戻ってしまうため、こちらも停滞感があった。バーンリーが中盤を噛み合わせてきたこともあるが、フラム戦のような中盤の小気味良さは終始見られなかった印象だ。
そうした中で少ないチャンスを活かしたのはバーンリー。ターンオーバーしたスタメンの中でもチャレンジ枠のオドベールが先制点をゲット。パリ=サンジェルマンのユース出身の18歳がチェルシー相手に見事なプレミア初ゴールを決めてみせる。
停滞感もあったチェルシーだが、そうしたチームを牽引していたのは左WGのスターリング。中盤が硬直している中でアバウトなボールからあっさりとチャンスを作り出すなど、一人気を吐く働きを見せていた。
そして、そのスターリングがこじ開けてゴールを決めたのが43分のこと。縦への突破からアル=ダヒルのオウンゴールを誘発する鋭いクロスを放って試合を強引に動かしてみせる。先制点以降は全くチャンスのきっかけが掴めないバーンリーからすれば、なんとかハーフタイムまでリードを維持したかったところだろう。
バーンリーは後半まったりとした保持で巻き返そうとするが、チェルシーの高い位置からのプレッシングに屈することとなった。奪ってからは素早くスターリングに預けてあっという間にPK奪取。これをパルマーが決めてチェルシーは逆転。
これ以降もまさしく試合はスターリング祭りだったと言えるだろう。マッチアップ相手がヴィチーニョからロバーツに代わってもその勢いは衰えることはない。バーンリーのポゼッションのあたふた具合がチェルシーにあっさり捕まったことも相まって、中盤でのボール奪取からスターリングまでの流れでチェルシーはあっさりと3点差をつけて見せた。
バーンリーは終盤にボールを持てるようになったが、これはプレッシングを止めたチェルシー側の事情が大きい。新星の貴重なゴールが塗りつぶされてしまう大量4失点でバーンリーは敗北。チェルシーはこれで公式戦3連勝だ。
ひとこと
後半のバーンリーのポゼッションのバタバタ具合を見ていると、プレミアでこの保持が通用する相手がどれだけいるのかは疑わしくなってしまうというのが正直な感想である。
試合結果
2023.10.7
プレミアリーグ 第8節
バーンリー 1-4 チェルシー
ターフ・ムーア
【得点者】
BUR:15′ オドベール
CHE:42′ アル=ダヒル, 50′(PK) パルマー, 65′ スターリング, 75′ ジャクソン
主審:スチュアート・アットウェル
第9節 アーセナル戦(H)

少ないチャンスを仕留めたアーセナルが1ポイントを掬い取る
レビューはこちら。

立ち上がりの両チームの振る舞いはここまでのチーム状況は真逆。流れがよく入れたのは下位に沈むチェルシーで苦しんだのはアーセナルだった。
もっとも、アーセナルからすれば重馬場のピッチコンディションは言い訳にはなるだろう。簡単にボールが止まるピッチに置いては普段のアーセナルの組み立てで見せるような小気味のいいパスワークは見せることはできない。
チェルシーはそうした状況を利用しつつ、バックラインに対してプレスの駆け引きを敢行。中盤を幽閉しつつ、無理に出ていかずに陣形のズレを作らないチェルシーの守り方にアーセナルは苦戦。強引にWGにボールを預けた結果、サカとマルティネッリの負荷が高まる展開となった。
特にサカとマッチアップしたククレジャは出色の出来といえるだろう。正対はもちろん、横ドリブルすらできないくらいの圧でサカの選択肢を削り取ったククレジャは前半におけるチェルシーのMVPの1人だ。
アーセナルの攻め手を封じることに成功したチェルシーはカウンターを軸にスピードアップしてゴールに迫る。特に大外のムドリクの背負うスキルを中心に設計されていたドリブラーを生かす形は秀逸。スピードに乗ったギャラガーを相手にジョルジーニョが後手に回るシーンがちらほらみられるようになった。
ボックス内までその勢いを維持することに成功したチェルシーはサリバに先んじてクロスに飛び込んだムドリクがハンドを誘発してPKを獲得。これをパルマーが沈めてチェルシーが先制する。
追いかけるアーセナルは後半、ジンチェンコ→冨安の交代を敢行。広い範囲を守れる冨安を中央に置き、ジョルジーニョを右サイドに出張させる形からチャンスを作っていく。
しかし、このテコ入れした右サイドからカウンターを決める形でチェルシーは追加点をゲット。ラヤの癖を盗んだというムドリクのクロス性のボールはそのままゴールに収まり、チェルシーはリードを広げる。
苦しくなったアーセナルだが、少しずつサイドの深い位置に入り込む攻撃は機能するように。カウンターからチェルシーが3点目を仕留められなかったことや、トップにジャクソンが入ってもなおアバウトな方向性にシフトチェンジしなかったことはアーセナルにとっては幸運だろう。
繋ぎにこだわったチェルシーはパスミスから失点。サンチェスのパスミスを拾ったライスは距離があるところから無人のゴールに狙いすましたシュートを打ち込んで見せた。
勢いに乗りたいアーセナルだが、交代で前線に入ったエンケティアとスミス・ロウがプレッシングで機能せずにブレーキに。それでも少ない機会を狙いすましたようにものにしたのがサカとトロサール。WGtoWGのクロスからの決定機を見事に仕留めて試合を振り出しに戻す。
逃げ切り体制に入ったチェルシーと交代選手の活性化がうまくいかないアーセナルにそれ以降は得点を動かす力はなし。ロンドンの両雄の対戦は痛み分けで幕を閉じた。
ひとこと
地獄の連戦が開幕したチェルシー。この内容のまま走り抜けられれば今の順位よりも高い位置に目標を設定する現実味が出てくる感じもする。
試合結果
2023.10.21
プレミアリーグ 第9節
チェルシー 2-2 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:15′(PK) パルマー, 48′ ムドリク
ARS:77′ ライス, 84′ トロサール
主審:クリス・カバナフ
第10節 ブレントフォード戦(H)

こじ開けられずに代償を重ねる
フラム、アーセナルとロンドンのチーム相手に着々と勝ち点を稼いでいるチェルシー。この試合ではややメンバーから外れている選手がいるが勢いにのってさらに勝ち点を積み重ねていきたい。
立ち上がりにロングボールから縦に速く攻め込んでいたのはブレントフォード。チェルシーのプレスに追い立てられるように前線に早い段階でボールを預けていく。ブレントフォードはロングスローなどジリジリとしてはいるが、ボックス内にクロスを放りこんていく。
チェルシーは自陣の深い位置からでもロングカウンターを発動。スターリング、ジャクソン、パルマー、マドゥエケの4枚の前線で攻撃を完結させにいく。
10分もするとチェルシーはようやくゆったりとしたポゼッションに移行。ブレントフォードは中央を噛み合わせるように迎撃していく。そのため、チェルシーは右のマドゥエケの1on1とハーフスペースから逆サイドにクロスを放り込んでいくパルマーからチャンスを作っていく。
特にトップ下のパルマーは好調。中央からもアタッカーに時間を供給し、チャンスを作り出していく。だが、これをアタッカー陣がなかなか枠に持っていくことができない。
前半の終盤には再び縦に速い展開の応酬に移行。しかしながらどちらも決め手に欠き、前半はスコアレスのままでハーフタイムを迎える。
迎えた後半、チェルシーはゆったりとしたポゼッションから攻略を狙うフェーズに移行する。前半と少し違ったのはブレントフォードもボールを持つ側に回るとゆったりとしたポゼッションで手数をかけて攻撃を行なっていたこと。これにより、前半と異なり試合は攻守の切り替えが少ない展開となった。
押し込むフェーズで仕事をしたのはブレントフォード。イェンセンのロングスローにスムーズに移行できる右サイドを軸に攻めていくと、サイドを抜け出したのはムベウモ。前節もアシストをした右足からこの日も見事な軌道のクロスで先制点を演出。ピノックが押し込んでブレントフォードがリードを奪う。
その後はスムーズに撤退守備に移行するブレントフォード。チェルシーはブロック守備の攻略に挑むこととなるが、サイドからブレントフォードの守備の重心を崩すことができずに苦戦。交代した前線の選手たちもなかなか試合の活性化をすることができない。
サンチェスの上がりで文字通り全てを投げ打ったチェルシー。だが、その賭けの結末はロングカウンターからのブレントフォードの追加点。ムベウモは2試合連続の1ゴール、1アシストだ。
ブレントフォードをこじ開けられなかったチェルシーは最後に更なる失点の代償を支払うことに。続いていた公式戦無敗の記録もひとまずここで打ち止めとなった。
ひとこと
やはりキーポイントは前半だろう。パルマーを軸にチャンスメイクが効いていた時間帯にチェルシーは先制点が欲しかった。
試合結果
2023.10.28
プレミアリーグ 第10節
チェルシー 0-2 ブレントフォード
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
BRE:58′ ピノック, 90+6′ ムベウモ
主審:サイモン・フーパー
第11節 トッテナム戦(A)

「9人じゃ試合は勝てない」という原則が最上位
立ち上がり特有のとりあえず強くあたってから考えるシーンを抜けると、ボールを保持したのはトッテナム。チェルシーは自陣に引いて構える気は毛頭ないので、CBにボールを持たせつつ2列目がプレスを仕掛ける機会を伺う形でスタートする。
クルゼフスキのゴールはシュートシーンだけ見ればチェルシーからすると不運なもので片付けたい気がするが、プレッシングのところまで遡ってしまうと話は別。プレスのスイッチを入れたパルマーにジャクソンは連動しきれず、カイセドのサイドへのフォローが間に合っていない。スピードに乗せた状態でクルゼフスキにチャンスを与えてしまったのは、彼らのプレスがトッテナムのビルドアップに上回られてしまったからであり、そこには運の要素は少ないという点は指摘しておきたい。
トッテナムは先制点以降もこのバックラインを軸としたスウィングでチェルシーのプレスを振り回していた。マディソンの展開力は今更触れるまでもないが、逆サイドからのボールの引き取り手としてウドジェやサールの貢献度の高さはさすが。そして仕掛けるタイミングでの同じ絵の加速を作れているあたりはチームとしての完成度の高さだろう。
トッテナム優位の風向きが変わったのはウドジェの警告あたりからだろうか。徐々にチェルシーのロングカウンターがトッテナムのハイラインを侵食するようになる。さらにはエンソのミドルなど(リプレイが被ってるせいでおそらくにはなるが)ハイプレスからボールを奪い取るシーンも少しずつ出てくるように。
そして、カイセドのミドルのシーンも同じ文脈。ネットを揺らしたこのシーンは流れの中でロメロの退場を生み出しており、これ以降盤面は大きく変わることになるが、チェルシーの同点ゴールを生み出したのもまた必然性はあったことは付記しておきたい。
トッテナムは4-3-2でのハイライン継続を選択。マディソン、ファン・デ・フェンという攻守の要を負傷で失ってなお、この方向性は変わらず。チェルシーは無限に左サイドからスターリングが抜け出しを続けるが、ダイアーとエメルソンの急造CBが裏抜けに食らいついていく奮闘が光り、試合は1-1でハーフタイムを迎える。
前半はいろんなことがありすぎたのでトッテナムは単に盤面を整理する時間がなかった可能性もあったが、後半の頭からもポステコグルーは4-3-2のハイラインを選択したことで、彼らの哲学がそこにあるのだなということがわかる。もちろん、CBがベンチにいないのならば、その道を行くことになる納得感もそれなりにある感じはする。
しかし、カウンター対応で3対2の局面からウドジェが2枚目の警告を受けてトッテナムは9人に。スターリングの対応がまごついたものになったが、逆にそれが退場を誘発するのだから、サッカーは難しい。
9人でも4-3-1でハイラインを継続するトッテナム。ホルダーにプレスがかからないようになると、裏抜けを全部なんとかするのは難しいという点で4-3-2より難易度はグッと上がる。
だが、チェルシーはスターリングが何もかも1人でやろうとしたり、ククレジャのように抜け出した後の選択がイマイチだったり、ジャクソンがそもそも抜け出さなかったり、ムドリクが普通に人数をかけたサイドの突破を狙ったりなど難がかなり見えた。トッテナムは強気のプレスにヴィカーリオのリベロ仕事を掛け合わせることで流れを引き戻す。
しかしながら、9人でホルダーにプレスがかからないハイラインを続けてしまえば、破られるシーンが出るのは仕方ないこと。ジャクソンがスターリングの抜け出しを仕留めて本当にようやくリードを奪う。
だが、トッテナムはセットプレーを中心に反撃。交代で入ったウゴチュクがプレスで飲みこまれたり、ムドリクやグストが軽率なファウルを犯したりなど、チェルシーは足元を掬われてもおかしくない試合内容ではあった。
しかしながら、「9人でサッカーを勝つのは難しい」という原則は強固。更なるチャンスを迎えたジャクソンがハットトリックを決めて、最後はチェルシーが大勝。プレミアリーグから無敗のチームは消え去ることとなった。
ひとこと
魔の11節を締めくくるに相応しい内容だったと思う。語りたい角度があまりに多すぎる試合だった。9人じゃ試合は勝てないし、世の中にはいろんなハットトリックがある。試合は見ないとダメだ。
試合結果
2023.11.6
プレミアリーグ 第11節
トッテナム 1-4 チェルシー
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:6′ クルゼフスキ
CHE:35′(PK) パルマー, 75′ 90+4′ 90+7′ ジャクソン
主審:マイケル・オリバー
第12節 マンチェスター・シティ戦(H)

許容されたオープンな展開で激しい撃ち合いに
2週間にわたるリメンバランスデイのトリを飾る一戦はチェルシーとシティの激突。チェルシーにとってはトッテナムに続く上位喰いのミッションに2週連続で挑むことになる。
立ち上がりのプレーはこの試合の激しさを表していたものと言っていいだろう。ハイプレスに出て行ったシティに対して、ポゼッションからチェルシーがこれを回避。
チェルシーは左サイドで上下に動きながらフリーになっているエンソを起点に逆サイドに流すと、ボールを引き取りに降りたパルマーから前進していく。割とテンプレートのような形でゴールに迫る武器を整理できていた印象である。
非保持のチェルシーは人を見ていくスタイルではあるが、シティに比べるとミドルゾーンからの加速に警戒しているぶん、バックラインへのプレスの強度に甘さはあった。シティの保持は中央が封鎖されている分、外循環に傾倒。ディアスが大外のレーンに立つなど、シティがお得意の移動でのマンツー外しは全く何もなかったわけではないが、直線的な動きをチームとして好んでいたため、ハーランドやフォーデンが目立つ一方でロドリやベルナルドといったまずは構造で動かそう!派閥はあまり存在感がない状況だった。
縦に速い攻撃の応酬にも足の長いパスを駆使してついていくチェルシー。ほぼ完璧なゲームプランかと思われたが、ククレジャがPA内でハーランドを倒してPKを献上。これを決められて先行を許してしまうことに。
しかしながら、セットプレーから同点弾をゲットしたチェルシー。ニアに入り込む動きでチェルシーが早々に追いついてみせる。さらには勝ち越しゴールもすぐさまゲット。右サイドのスムーズな前進から加速し、最後はスターリング。この試合の頭から見られていた加速から勝ち越してみせる。
それだけに前半終了間際の失点は痛恨。セットプレーの二次攻撃でアカンジをシウバが浮かしてしまい、試合は同点でハーフタイムを迎えることになる。
後半も高い位置からボールを奪いにいくチェルシー。シティはこれをひっくり返す形で右サイドからのカウンターで勝ち越し。スターリングのゴールよろしく右サイドから奥行きを作り、ハーランドは自分もマーカーもボールも全てゴールに押し込んで見せた。
シティのリードで試合は落ち着くかと思われたが、試合はまだまだここから二転三転していく。次に光を放ったのは交代で入ったムドリク。左サイドからの突破でロドリを引きつけると、ギャラガーがロドリが開けたスペースからミドルで強襲。このこぼれ球をジャクソンが押し込んで再び試合は振り出しに。後半のシティはロドリやグバルディオルなど受けに回ると不安定な守備陣のパフォーマンスがやや目につく。
しかしながら、ロドリはクラッチシューターとしてその存在感を遺憾なく発揮。何度もみた80分以降のミドルシュートでシティに今日も勝ち越しゴールをもたらしてみせる。
だが、試合はこれで終わらず。チェルシーは終了間際にPKを獲得。中盤のパスワークでコバチッチを振り回して作った穴をディザジ→スターリングで使うと、PA内でボールを受けたブロヤに慌ててディアスがアプローチ。このタックルが軸足を刈り取るものになってしまった。シティのバックスのらしくなさは最後まで尾を引くこととなった。
プレッシャーのかかる場面でキッカーとしての勤めを果たしたパルマーにより、チェルシーはこの日3回目の同点弾をゲット。壮絶な撃ち合いは4-4のドローで幕をとじた。
ひとこと
シティのバックスのキレキレ感のなさとリードを奪った時のポゼッションでのいなしフェーズのなさは結構気になる。
試合結果
2023.11.12
プレミアリーグ 第12節
チェルシー 4-4 マンチェスター・シティ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:29′ チアゴ・シウバ, 37′ スターリング, 67’ ジャクソン, 90+5′(PK) パルマー
Man City25′(PK) 47′ ハーランド, 45+1′ アカンジ, 86′ ロドリ
主審:アンソニー・テイラー
第13節 ニューカッスル戦(A)

手応えは前節と真逆
前節はシティ相手に引き分けと健闘したチェルシーとボーンマス相手に完敗だったニューカッスル。対照的だった結果だが、代表ウィークを経てどのように変化をするかが重要な一戦となる。
バックラインへのプレスはお互い控えめな中でボールはニューカッスルが握る。SBをインバートしながらビルドアップから配置を動かす形を使い敵陣に入っていく。
チェルシーはカウンターを重視。ジャクソン、スターリングが直線的な動きを見せてゴールに迫る形で反撃に出る。マイリーの開けたスペースに侵入するククレジャとギャラガーのドリブルからのカウンターが印象的だった。
チェルシーは試合が落ち着くと保持からも崩しに打って出る。ギャラガー、パルマーといったタメを使ったプレーで奥行きを作り、エンソのミドルを演出したシーンは見事だったと言えるだろう。
雑に括るとボール保持のニューカッスルとカウンターのチェルシーという構図だったこの試合。お互いその形でゴールを1つずつ奪い取る。
ニューカッスルはゴードンの横断からゴールを演出。イサクの抜け出しのパスを繋いだのはプレミア初アシストとなったマイリーだった。チェルシーからするとククレジャのラインアップが遅れてしまったのが痛恨だった。
チェルシーはカウンターからスターリングが独走し、ファウルを奪い取ったところからゴール。直接FKを自ら決めて試合を振り出しに戻す。
終盤はやや慌ただしい展開だったが、ミドルゾーンでの引き出しの多さを比較すると、どちらかといえばチェルシーペースで試合は進んでいる印象だった。試合はタイスコアでハーフタイムを迎える。
後半はどちらも保持側が優勢な流れだった。どちらのチームもプレスには積極的だが、なかなか奪い取るところまでにはいかずファウルが嵩んでいく。保持側もまた非保持側のプレスをいなしきって敵陣に入る形は作れなかった。
そうした状況で増えるのはセットプレー。この好機を生かしたのはニューカッスル。高いライン設定のチェルシーの守備に対して、ショートパスでのリスタートでボールを回してタイミングを外すと、ゴードンのクロスに抜け出したのはラッセルズ。このゴールで前に出ると勢いに乗ったニューカッスルはプレスからあっという間に追加点。チアゴ・シウバに襲いかかったジョエリントンがパスミスを誘発して3点目を決める。
さらにはチェルシーはジェームズが退場。これを持ってこの試合は完全なるワンサイドゲームとなる。ボールを保持し、シュートを浴びせて試合を支配するニューカッスル。ゴードンの4点目、そして次々と投入される背番号の大きい若手と悠々としているニューカッスルを前にチェルシーは抗議とファウルで警告を増やしていく終盤になった。
完勝を果たしたニューカッスル。両チームは前節の手応えとは全く逆の結果を手にする結末となった。
ひとこと
チアゴ・シウバのロストが全てを決めてしまったかな。。
試合結果
2023.11.25
プレミアリーグ 第13節
ニューカッスル 4-1 チェルシー
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:13‘ イサク, 60’ ラッセルズ, 61‘ ジョエリントン, 83′ ゴードン
CHE:23‘ スターリング
主審:サイモン・フーパー