MENU
カテゴリー

「Catch up J2 League」~2023.7.9 J2 第25節 町田ゼルビア×東京ヴェルディ ハイライト

目次

町田の5バック移行と奥の手の存在が分かれ目に

 J2初の国立開催、首位と2位との天王山、そしてバスケス・バイロン。東京クラシックという舞台装置を除いたとしてもこれだけの要素が詰まった今季のJ2でトップクラスの注目を集める一戦となった。

 試合はその看板にふさわしいインパクトとなった電光石火の先制点から幕を開ける。先制したのはホームの町田。ロングボールの競り合いで粘った藤尾が残したボールをエリキと安井がワンツーで打開。溢れたボールを藤尾が押し込んで先制。わずか2分で町田がリードを奪う立ち上がりとなった。

 町田の試合は見たことがなかったのだが、後から振り返れば非常に彼ららしいゴールだったと言えるだろう。競り合いで粘った藤尾にエリキを軸としたコンビネーションから一気にゴールまで向かう形はいかにもこの試合の町田のスタイルを体現している物だった。

 この先制点が試合にどこまでの影響を与えたかはわからないが、このゴール以降は追いかける東京Vがボールを持つ展開がメインとなった。東京Vの基本的なフォーメーションは4-4-2ではあったが、4-3-3への可変がベースにあった。CHと2トップがそれぞれ縦関係を築き、アンカーとIHにそれぞれ片方が列落ちをする形である。こうした場合、低い位置に落ちる側がどちらか明確に決まっているケースも多かったが、東京Vは誰が移動するかに一定の流動性を持たせていた。

 CHは森田を軸に稲見がポジションを取り直す形になっていた。森田は基本的にはボールのそばでプレー。自陣にボールがある時はアンカーの位置に入ることが多く、やや押し込んだ局面では左のIHのように振る舞うことが多かった。

 なかなか縦パスが入らなかった東京Vにおいて森田が縦パスを受けることができたのは、そこにい続けるのではなく、後方からポジションを上げて現れるからだろう。森田が高い位置に移動する場合は稲見がポジションを下げて縦関係が入れ替わる。

 東京Vのサイド攻撃はこの左サイドを軸に行われていた。北島、深澤の縦関係に森田が加わり、パス交換でフリーの選手を作りクロスを上げる。アタッカーはファーを中心に待ち構えながらクロスに合わせて積極的に空中戦を挑む。

 攻める頻度の低い逆サイドは甲田の仕掛けに宮原がフォローに入る形であり、より個人の威力を活かす形。もっとも、彼らの攻撃時の主な役割は左サイドからのクロスをフォローすること。甲田はファーにクロスに飛び込む、宮原は誰も触れずにファーに流れていったボールを拾い、二次攻撃となるクロスを仕掛けていく形がメインだった。

 町田はこの東京Vのポゼッションを基調とする攻撃に対して堂々と受けて立ったと言えるだろう。エリア内の空中戦では一歩も引かずに奮戦。より前線に前を向けると4-4ブロックをプロテクトする2トップの可動域の広さが目につく。アンカーの管理からGKのプレスまで幅広く行う2トップのおかげで、4-4ブロックはあまり歪みなく守ることができる時間帯が続いた。

 自陣深くまで押し込まれた時間帯においてもロングカウンターという武器があったのは大きい。エリキは圧倒的な攻撃の主役でロングカウンターのキャリー役、定点攻撃での降りてのポスト役までなんでもこい!といった感じ。まさしくJ2では規格外の存在。周りの選手もエリキと心中するように非常に活発に走っていたのが印象的だった。

 4-4ブロックが歪みがなく守れていると言ったが、隙があればきっちりとボールハントまで動く。町田が手にした2点目のシーンはまさにその象徴。下田の狙い澄ましたインターセプトから安井が決めた追加点は非常に大きいゴールだった。

 2点を追う後半、東京Vは右サイドの攻め手を強化。染野がより低い位置に降りるなど、サイド攻撃の参加者を増やしながらクロスを上げるための状況を整えていく。

 町田が10分も経たないうちに5バックにシフトしたことを踏まえれば、この東京Vの後半のスタンスは十分に効き目があったと言える。町田は5バックにしたことで守備ブロックの強化を図れてはいたが、重心が下がったこととスタミナがなくなったことで徐々にエリキを軸としたロングカウンターの頻度は減っていく。

 東京Vの決め手となったのはなんと言っても新井。左サイドを切り裂くことができるドリブラーの投入で左右どちらのサイドからも安定したクロスの供給を決定づける。

 試合を振り出しに戻した2つのゴールは5バックの左右のサイドをきっちり崩した形。1点目は翁長も荒木もマークに出ていけなかった宮原がフリーで上げたクロスがきっかけだったし、2点目は逆サイドを手前に引き出すアクションと裏抜けを組み合わせて完全に町田の右サイドを破壊した。

 同点になったことで終盤はワンプレーごとに緊張感がある天王山らしい展開に。エリキには後半追加タイムに試合を決めるチャンスが訪れたが、1on1からのシュートは枠外に。

 異なる個性がぶつかった東京クラシックは痛み分けのドロー。追う側の城福監督は悔しさを隠さない振る舞いが非常に印象的だった。

ひとこと

 結果的には町田の5バック移行が尚早だったということになってしまうだろう。そういう意味では2点リードとはいえ、相手を専制守備に追い込んだ東京Vの後半頭の振る舞いは見事。押し込むフェーズを確立してからゲームチェンジャーの新井という劇薬を投入したことも含めて町田を追い込むことができた。スコアラーだけを見れば染野の活躍が目立つところだが、実質的にはPA内にどうボールを届けるか?のアクションを改善できたことが東京Vが2点のビハインドをチャラにできた大きな要因のように思う。

 町田は町田でこうした我慢の効くスタイルの正当性を証明した試合だったと言えるだろう。結果的に2点差を溶かしてしまったのは議論が分かれるところだが、枚数をかけてくる東京Vのアタッカー陣を前半は無理なく跳ね返せていたし、自陣の深い位置からもエリキと心中したカウンターから反撃をすることができていた。彼らもまた東京Vとともに異なる毛色での確固たるスタンスを持っていることがよくわかった試合だった。

 城福監督の試合後のコメントやアクチュアルプレイングタイムの話など、町田を中心に試合に臨むスタイルに疑問が呈される論調もちらほら見かけたが、個人的には異なる個性を持つ2チームが大舞台にふさわしい激突を繰り広げたという感想以外は持ちようがない非常にスリリングな一戦だった。

試合結果

2023.7.9
J2 第25節
町田ゼルビア 2-2 東京ヴェルディ
国立競技場
【得点者】
町田:2′ 藤尾翔太, 38′ 安井拓也
東京V:73′ 83′ 染野唯月
主審:清水勇人

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次