プレビュー記事
レビュー
ライスとトーマスの関係性に変化あり
パレスのホーム開幕戦は連勝をかけたロンドンダービー。勝ったチームはブライトン、シティに続き3チーム目の開幕連勝を飾ることになる。
戦前の予想通り、ボールを持つことになったのはアーセナル。メンバー構成としては前節のティンバーの負傷交代後の11人がピッチに並ぶことになった。
ただ、前節のやり方を踏襲していたかといわれると微妙なところ。ポイントの一つはライスとトーマスの関係性である。
前節においてはトーマスがほぼライスを推しのける形でワンアンカーのような振る舞いをして、ライスは左サイドの高い位置のサポートを行っていた。今節はライスが中盤にとどまって3-2型を維持。
よって、座組として近いのはコミュニティシールドのスターター。そこから人割を変えたイメージだろうか。
ライスが重心を低く構える分、トーマスはシンプルにサイドのサポートに出ていく機会が多かった。この日に関してはむしろライスよりもトーマスの方が自由に動きながら攻撃に参加していた印象である。
ライスが自陣の深めの位置にとどまるのであれば、左サイドのサポートとしては冨安が出ていくことが求められる。保持に関してはよどみなくチームにフィットしたなといえるのが前半のパフォーマンスだった。
インサイド、アウトサイドなどのレーンも問わず無理なくプレー。ティンバーのような足元の精度はもちろん難しいが、左に人数をかけた崩しの際にもポゼッションの一端を担う役割は果たせたといえるだろう。
非保持の冨安は議論の余地がないとは言えない。相手の右のWGのアイェウとの1on1からクロスを上げるシーンを数回許したのは事実だからである。
このクロスがどういうものだったかをパレス視点で考えてみたい。前節のゴールはアイェウが右サイドから上げたクロスをエドゥアルドが決めたもの。この日冨安が上げることを許したクロスを似ている部分はある。
その一方、プレビューで指摘した通り、パレスはエリア内のクロスのターゲットがエドゥアール1枚になりがちというのが課題でもある。サイドからのクロスを1枚かつ高さのアドバンテージがない選手が仕留めるには、クロスを上げる際にスペースを作ることが必要となる。
例えば、先に挙げた開幕節の決勝ゴールはアイェウのドリブルに合わせて、エドゥアールが並行でサポートに。このアイェウの動きにブレイズのバックスがついていけなかったという側面がある。
では冨安が上げさせたクロスはどうだったか?基本的には抜き切らずに挙げたものが多かっただろう。そのため、クロスは山なり。よってインサイドは十分に余裕をもって跳ね返すことができた。サリバとホワイトに挟まれたエドゥアールにボールを届けるのは至難の業だっただろう。
したがって、冨安が上げさせたクロスは攻撃の脅威になったとは言えず、そういう意味では最低限の役割を果たしている。だが、逆にこうした形で得点をとれるインサイドの選手がいるチームもいる。そういう時はよりクロスに対して積極的に制限をかけなくてはいけない。今日は相手なりによかったというのが彼に対する印象だ。
相手なりという話においてもう1つ指摘したいのはハヴァーツ。撤退守備において中盤CHの役割になると、少し出ていきすぎてしまっている感も否めない。
今日であれば対面の相手に多少入れ替わられる程度で済んでいたが、保持でより多く崩す場面をつくれる相手であれば致命傷になりかねない。ただ、前線にプレスに行った後にCHのブロック守備で強度を出すという両立までハヴァーツに求めるのは難しいだろう。だから現実的にはより守備色の強い人間を使うしかない。
中盤にとどまったライスの存在感は抜群だった。パレスがなかなかカウンターにおいて直線的な攻撃をできずに苦労したのはこの男の影響が大きい。まさに壁のようにパレスの攻撃の動線を封じ、跳ね返すことに成功する。
サカ封じシフト打破に動き出したのは?
相手の攻撃を抑え込んだことで前節同様前半は落ち着いてポゼッションをすることとなったアーセナル。左サイドでも攻撃のトライは見えたが、やはり機会は右の方が多かった。
パレスの4バックに対して3-2-5的な配置で崩すことになったため、まずは大外のサカを基準点にするというのはアーセナルにとっては自然な流れ。当然パレスとしてもそれは想定済み。大外のサカに対してミッチェルに加えてシュラップかレルマを加えて対応をする。
サカにマークにいく2人の分担は縦と横をシェアして封じるイメージである。ミッチェルに加わる2人目はフォレスト戦の2点目のように横ドリブルからのシュートやラストパスをふさぐ役割。ドリブルに対して外に追いやるように守る。サカがカットインからシュートを打った場面は何回かあったが、いずれも詰まったような形になったのは、この2人目がそれを防ぐことに専念していたからだ。
本来であれば攻撃面では外を回るホワイトが助けになるのだが、トーマスが間に挟まる関係でなかなか負いこと形で右の大外の深い位置までは顔を出せない。手詰まりになりそうだった状況を打開したのはエンケティア。右のハーフスペースから直線的に裏に抜ける動きや、同じ位置から斜め方向にゴールに向かう動きが非常に効果的。彼のおかげでサカのドリブル以外に右サイドから中央に入り込む動線を敷くことができた。ライスのラストパスを受けてループを放ったシーンなどはその典型例といえるだろう。
最大の武器を封じられて苦戦するアーセナル。だが、守備における粘りとエンケティアのサポートにより、可能性のあるトライを続けることができた前半45分だった。
後半もペースはアーセナル。右サイドを軸とした攻撃でパレスのゴールに迫るトライを続ける。工夫を見せていたのはサカ。大外からの早めのクロスや、エンケティアのように自らが縦に抜けてラインブレイクするなど、カットイン中心だった前半とは異なるアプローチでボールを動かしていく。
先制点を奪ったのはクレバーなリスタートから。ファウルを受けた流れからマルティネッリが抜け出したエンケティアに素早くリスタート。慌てたジョンストンが対応するも、間に合わずにPKを献上することになる。このチャンスをウーデゴールが決めてアーセナルが先制する。
エンケティアの素晴らしい動き出しは称賛されるべきだが、パレスからすると悔いが残るプレーだろう。何しろ、右サイドはすでに前半に一度クイックリスタートからトーマスにフリーでクロスを上げられている。同じようなリスタートから今度はPKを奪われたのだから、悔やんでも悔やみきれない。
追い込まれたパレスはエゼがサイドから斜めのパスを入れるなど積極的な仕掛けを見せる。アーセナルはサカとトーマスが縦に並んでいる右サイドがやや後手に。立ち上がりにはミッチェルのオーバーラップにも追いつけないなど不安を残すことに。スピードに乗らせなければ奪いきれるのだが、スピードに乗られてしまうと一気に脆くなるのがこのサイドである。
右サイドの守備以上に試合の流れを大きく変えたのはもちろん冨安の退場だ。主審のカード基準の一貫性は問われるべきではあるが、冨安にも反省の余地はある。入れ替わって接触してしまったのならば、警告は出ても全くおかしな話とはいえないだろう。このレビューが出る前にすでにファンがたっぷり議論したスローイン問題に加えて、状況に対応しなければいけないシーン。冨安は後半にマルティネッリにいいパスを出すなど、左で使い続ければよくなる兆候を見せていただけに、次節の欠場が悔やまれる。
アルテタは躊躇なく5バックを選択。5-3-1でパレスを迎え撃つ選択をする。当然ボールを持つのはパレス。両サイドからアンデルセンやミッチェルがクロスを放ったり、アタッカーを増やした中央に強引に縦パスを入れたりなどの試行錯誤を行うように。
どちらかというとパレスの攻撃はサイドの方が有望。右はトーマス、左はサカと対面のパレスの選手からすれば、クロスを上げる隙はありそうな感じ。実際、危ういクロスがあがるシーンは何回かあった。
しかしながら、これをなんとか水際で耐えるアーセナル。キヴィオルとジンチェンコで最終ラインにさらなるテコ入れを行い、中盤にジョルジーニョを投入。ポゼッションに転じた時のボール保持における番頭っぷりはさすが。少ない機会ながら保持のフェーズで確実に仕事をこなす。撤退守備ベースならば1人1人の守備範囲も限られてくるので、展開としては意外と向いていたかもしれない。
88分の3枚替えでゲームクローズにも少し安定感が出たアーセナル。10人ながらもリードを保ち、アウェイで開幕連勝を決めた。
あとがき
退場までは第1節と同じく相手を押し込み崩しのトライをしながら過ごすことができた。エースのサカをエンケティアがサポートするという右サイドの構造は悪くはなかった。
ここまでのアーセナルは相手なりにクオリティを上回ることで何とかしのいできた感がある。ということはより強い相手ならばどうなる?という観点で改良の余地がある点は多いということ。この辺りの改善のスピード感や組み合わせに関してはシーズンを進めながら探っていくことになるだろう。まずは10人で勝ち切った選手たちをねぎらいたい。
試合結果
2023.8.21
プレミアリーグ 第2節
クリスタル・パレス 0-1 アーセナル
セルハースト・パーク
【得点者】
ARS:53‘(PK) ウーデゴール
主審:デビッド・クート