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「ライスのアンカー起用の問題点」~2023.9.3 プレミアリーグ 第4節 アーセナル×マンチェスター・ユナイテッド レビュー

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レビュー

前進はできないが奪わせはしない

 1年前、開幕から連戦連勝を重ねるアーセナルが初めて躓いたのはオールド・トラフォード。トーマス・パーティという中盤の要人を欠いたアーセナルはプレッシングの機能不全に陥り、あっさりと敗れてしまった。

 あれから1年。アーセナルは連戦連勝ではないが開幕戦から無敗をキープ。そして今年もこのタイミングでマンチェスター・ユナイテッドと相対することになる。またしてもトーマスは不在。舞台はエミレーツだが、昨季と似た試練にアーセナルは立ち向かうことになる。

 まず注目点として挙げられるのはお互いのポゼッションに対するプレッシングの形である。どちらのチームも自陣からの保持を大事にしており、プレッシングという対応策をどのように組むか?というのは大きなポイントになる。

 ユナイテッドの保持はCBが横に大きく開く形。そして、間に選手が1人挟まれる。カゼミーロ、エリクセン、そしてGKのオナナ。多くはこの3人がCB間を担当する選手である。

 アーセナルの中盤は3枚がそれぞれマンツーでマークするのが基本線。だが、カゼミーロやエリクセンのように中盤の選手が降りていくアクションに対してはついていかずにリリース。中盤の持ち場に戻っていく。オナナにも常時マークを付けることはしないため、ユナイテッドは誰が最終ラインとして3人目の選手になったとしても、アーセナルが常時枚数を合わせたプレッシングを仕掛けることはなかった。

 オナナがGKとして入った場合はリサンドロ・マルティネスの方からプレッシャーをかけて、ボールをリンデロフの側に誘導する。そこでマルティネッリやハヴァーツ、ライスなどが列を上げながらスタートしていく形でアーセナルは勝負のプレスに出る。

 ただし、こういうケースは稀。先にも述べたようにアーセナルは枚数を合わせて強引に奪いに行くというよりも、構えてユナイテッドの出方をうかがうような振る舞いが中心となっていた。

 ポゼッションが安定していたユナイテッドだが、それであれば順調かどうかといわれると話は別。自陣では安全にボールを回すことができても、敵陣でのボールの預けどころがなかなか定まってこない。オナナが入ったことでバックラインでのパスのやり直しを徹底する分、簡単にボールをアーセナルに渡さないというじりじりした状況が続くようになる。それもそれでアーセナルの保持の連打攻撃を防ぐという観点では意味があるともいえそうではあるが、なかなか前進できないという均衡状態を生み出していた感はあった。

 出口となりそうなのは前線へのロングボールか、ブルーノへの縦パス。ただし、前者は成功率が低く、後者はブルーノにライスがマンツーでべったり。外せることもなくはないが、ボールを奪われてしまうとミドルゾーンからカウンターを受けるピンチを生んでしまうため、ここに入れるからには必ずボールはつなぎたいところ!という状況だった。

 アーセナルからすると前進は許していないが、プレスもはまっていない状況。アウトボクシングを徹底しているユナイテッドに対して、ポジトラが発動せず。ややユナイテッドが沼にハマっている状態となった。

失点場面の切り口は豊富

 アーセナルのボール保持はジンチェンコがインサイドに入る22-23仕様が基本線だった。しかしながら、ライスとジンチェンコの左右が入れ替わったり、最終ラインに彼らが組み込まれたりなど、列落ちや列上げやレーン変更をしていく形で後方が3-2の陣形を維持するのではなく、破壊と再構築を試みるスタイルは23-24のエッセンスが入り込んでいるといえるだろう。

 アーセナルはユナイテッドに比べると、WGにボールを届ければある程度前進の目途が立つという意味で、ポゼッション→押し込みのメカニズムが確立されている。ユナイテッド側もWGへのパスコースをふさぐというアプローチをとるよりは、撤退してアーセナルのWGにボールが入った後を迎え撃つというスタンスが強かった。

 よって、ホームのアーセナルはユナイテッドに比べて敵陣に侵入できる頻度が高かったといえる。アーセナルのWGに対してユナイテッドは基本的にはダブルチームで対応。2列目が下がってヘルプに入る形でWGに対して鉄壁のマークを敷く。右のSBであるワン=ビサカはタイマンの猛者だし、左のSBのダロトもこの日はサカ相手に好調。1on1でもSBをマッチアップ相手につけられればそれなりにやれてはいた。

 というわけでアーセナルは押し込むことができるが、ユナイテッドのこの日の仕組みを考えると2列目のWGにボールを入れるまでの時間はなるべくかからない方がいいという展開。そうした状況を作るためにはもっとも有効な手段はトランジッション。具体的には縦に刺すボールを潰して、素早く攻撃に転じる形であれば、ユナイテッドの守備陣が整った状態でアーセナルのカウンターを受けることはできない。

 素早い攻撃への移行を能動的に引き起こすためには先に挙げたリンデロフ方面への誘導と2列目からのプレッシングの頻度を上げることが重要になる。しかしながら、この積極的なプレスの姿勢は逆にユナイテッドの先制点につながることになる。

 アーセナルはプレスに出たタイミングで回収したボールをハヴァーツがロスト。そのままエリクセンのパスを受けたラッシュフォードがボールを拾い、先制点を手にした。ハヴァーツのパスミスが一番わかりやすいファクターではあるが、このゴールの原因はいくつか階層に分けられると思うので少し詳しくみていきたい。

 まずはゴールに近い方から。真っ先に気になるのはサリバとホワイトの対応である。ラッシュフォードへの対応は終始この2人が行っていたが、この2人が「2人」という状況の優位を生かせなかったことは問題だろう。

 例えばラッシュフォードがボールを受けたタイミングはまだここから縦に行くか、カットインするかはわからない。であれば、縦に進んだ時にケアする人とカットインした時にケアする人の両方を手分けして監視した方がいい。

 仮に2人ともカットインに出ていってしまったのであれば、サリバが列を上げてシュートを止めに入るタイミングはもっと早くしたいところ。当該シーンでは1人分の横幅でしかブロックに入れていない。2人分の幅でシュートを止めに行けていれば、ラッシュフォードが放つシュートは枠内に届くことはなかったかもしれない。

ラムズデールに関しては初手でラッシュフォードに左に行かれて一気に2人まとめて抜かれる可能性があったことを踏まえると、ニアを消し切るわけにはいかない。決め打ちでファーに絞る形は乗れないだろう。逆側への移動がプレスに合わせてだったのは仕方ない。

 そしてハヴァーツのパスミスを挟んでより時間を巻き戻した場面では敵陣でライスが突撃してボールを奪い返していいカウンターの形を作ろうとしている。今回はハヴァーツのパスミスで失点したが、プレスの失敗でも同じ状況が起き得るとすれば、チャレンジングなプレスにはいきにくくなる。

 ライスのアンカーに関しては「保持におけるポジショニングについて」がやり玉に挙げられることがあるが、彼が動こうがアーセナルの前進が詰まる様子はないので、少なくとも現段階ではそこまで問題視はしていない。それよりも現状ではアーセナルのプレス強度を上げる方策として真っ先に挙げられるライスの列上げがこのようなリスクと背中合わせという非保持の面の方が気になる部分である。

 ライスの出ていく判断自体はリスクが高い場面が少ないため、そこまで気にはならないし、奪った局面からチャンスはできている。ハヴァーツがシュートを決められなかった場面もライスのボール奪取からだ。

 ただ、このユナイテッド戦を含めて終盤でプレス強度を上げるための方策が今季のアーセナルにはあまり備わっていないように見えるのが気がかりではある。その方策がライスを押し上げるというリスクを伴う手段でしか実現できないものだとしたらむやみに多用出来ないのも納得ではあるが、そこをトリガーとして勝ち点を落とす試合も出てきそうだなという懸念があるのも事実だ。

 というわけでハヴァーツのミス以外にもこの失点はいくつかの切り口があるものだったといえるだろう。なお、アーセナルは早々に反撃。左サイドの旋回からマルティネッリがこの試合で再三狙っていたマイナスのクロスをウーデゴールが決めて同点。早々においついて振りだしに戻す。

 ユナイテッドはゴール以降アントニーが降りる動きを見せるなど中盤に顔を出す選手が増えはしたが、ミドルゾーンよりも先に進める状況を安定して供給できずに苦戦。アーセナルも追加点を奪うことができず、試合はタイスコアでハーフタイムを迎える。

ゲームチェンジャーの封殺に成功するアーセナル

 後半も試合の展開は変わらない。保持側のチームからボールを奪い返すことはなかなか難しい状況は同じで、アーセナルの方がボールの届け先が決まっている分、安定した試合運びを見せている状況となっていた。

 ユナイテッドも保持からチャンスをうかがい、54分にはようやくオナナとリサンドロ・マルティネスで相手のマークを外し、時間を前に送る形で前進してのチャンスメイクができるようになっていた。後ろからつないでいった結果チャンスになるという形は理想的なボールの動かし方でもあるだろう。

 しかしながら、マルティネスは後半途中に負傷。これにより、自陣からのキャリーという方策は絶望的な状態になる。ホイルンドの投入により、前線のターゲットができたことは悪いことではなかったが、リサンドロ・マルティネスが健康な時間帯から交代を準備していたことを踏まえれば、テン・ハーグの描いていた青写真は自陣からのキャリーとロングボールでの起点づくりの併用だったはず。マルティネスの負傷により、ホイルンドとすれちがいが発生したため、ユナイテッドの攻撃は片翼がもがれた状態となっていた。

 ホイルンドとガブリエウのマッチアップは見ごたえがあった。体を預けてくるホイルンドを跳ね返しつつ、徐々に動きを見切って対応したガブリエウもさすがだが、ホイルンドも体を当てられないシーンでは絶妙な安定感のポストプレーを見せており、スペースがある状況では攻撃を加速する役割を果たしていた。

 ユナイテッドの状況を加味するとホイルンドにはロングボールの的としての起点の役割は果たしてほしかったはずなので、体を当てての競り合いを抑え込んだアーセナルの対応がやや上回ったという形か。ガブリエウの奮闘に合わせて、彼がホイルンドに集中できるようにジンチェンコを冨安にスイッチすることでカバーの体制を整えるアルテタの修正も見事だった。

 ヴィエイラ、冨安と左サイドの面々を入れ替えながら勝ち越しゴールを狙っていくアーセナル。サカが迎えた決定機など、ゴールを脅かす場面も増えてくる。しかしながら、縦パスや強引なターン、ドリブルで中央につっかける場面が徐々に増えていくことで、アーセナルはピンチを招くことに。そうなれば、ユナイテッドは縦パスからホイルンドのポストを経由し、攻撃を加速させることができる。

 ガルナチョのオフサイドも含め、こうした強引な中央での仕掛けが危険な場面を作り出すことも多々あったアーセナル。しかしながら、なんとかこれを凌いで後半追加タイムを1-1で迎える。

 すると決め手になったのはセットプレー。数多の機会を得たCKのトライが実ったのは96分。セットプレーを沈めたのはファーで構えていたライス。ニアでオナナを打ち抜いて劇的なゴールを手にする。

 さらには101分にジェズスがヴィエイラのエスコートからダメ押しゴールをゲット。終盤に立て続けにゴールを決めたアーセナルが接戦をものにして、「トーマスなしでのユナイテッド戦」という試練を克服して見せた。

あとがき

 ユナイテッドからするとやはりCBが2枚交代(リンデロフの交代の意図はわからないが)することになってしまったのは痛いだろう。特にリサンドロ・マルティネスの離脱は攻守両面における特大ダメージ。同ポジションに離脱者が続いているのは今後を見据えても悪循環である。

 現状ではオナナへのバックパスをプレスの無効化以上のものに出来ていないもったいなさはあるので、この部分をいかにプラスに消化できるかはチームとしての天井を決める要素になる感じはした。あと、ホイルンドはプレミアファンとして今後どうなるのか楽しみだし、アーセナルファンとしては脅威になりうるなと思った。

 アーセナルは基本的には局面を制御しながら戦っていたと思うが、タイスコアで迎えた終盤のギアの入れ方は少し不安要素かなと思う。プレッシングに出ていって試合のテンポを上げるアプローチもあまり見えなかったし、保持では無理な仕掛けから簡単にユナイテッドにチャンスを与える場面も目に付いた。

 勝利の仕方こそ劇的ではあったが、ギアアップの方策が見つからなければ勝ちきれない試合も増えるはず。静的な展開を維持しての安定感の向上と瞬間最大風速の出力の尖りの両立の模索は上位勢に食いついていく上では必須要件だろう。

試合結果

2023.9.3
プレミアリーグ 第4節
アーセナル 3-1 マンチェスター・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:28’ ウーデゴール, 90+6‘ ライス, 90+11’ ジェズス
Man Utd:27‘ ラッシュフォード
主審:アンソニー・テイラー

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