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「ヴィエイラの裏抜け連打の意義」~2023.9.17 プレミアリーグ 第5節 エバートン×アーセナル レビュー

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レビュー

マルティネッリの負傷で流れが変わる

 アルテタ政権になってアーセナルが改善したところはどこだろうか。アーセナルファンにこの問いを投げかければおそらく千差万別の答えが返ってくることだろう。アルテタの就任はそれだけ多くの面でアーセナルにポジティブな要素をもたらしたと言える。

 しかし、今節はアルテタがアーセナルにもたらした負の部分と向き合わなければいけない。グディソン・パークでの戦績はアルテタ就任以降に大きく落ち込む形になっている。アーセナルは2017年以来、6年ぶりの勝利をかけてエバートンのホームスタジアムに乗り込む。

 立ち上がりからボールを持つのはアーセナル。エバートンは1トップのベトの傍からドゥクレが上がるタイミングを待ち構えるように佇んでいる。

 今季のアーセナルのビルドアップの特徴は不定形であること。昨季であればジンチェンコが内側に絞って、アンカー役のライスと並ぶと一言で済む形だったが、今季はそこからさらなる変化を生むのが特徴である。

 特にCHの位置関係において動きの大きさは顕著で、彼らが縦に並んだり、あるいはサイドに大きく開いたり、もしくは最終ラインに組み込まれたりもする。こうした動きの大きいアーセナルのビルドアップ隊はエバートンの人基準の守備に対しては非常に厄介だろう。サイドに出ていくライスは捕まえにいくのか、最終ラインに落ちた場合はどうするのか。その場合、インサイドに絞ってくるジンチェンコや降りてくるウーデゴールやヴィエイラは放置していいのか?など考えることが多くなる。

 となると、深い位置までライスを追いかけ続けるのはリスキーと判断するようになって、だんだんエバートンのプレッシングは弱腰になる。ヴィエイラはジンチェンコがインサイドに臆せずパスをつけるチャレンジをしていたのも、後方を開けるリスクとしてエバートンの脳裏に刻まれた可能性もある。

 というわけでプレスの的を絞れなくなったエバートンは3センターがボールを刈りに行くアクションが見られるなくなるように。アーセナルは4-4-2のミドルブロックの攻略に挑むこととなる。

 となれば、まずはWGから小手調べは始まる。右の大外のサカへは4分のシーンのようにホワイトがインサイドに絞ることでにマクニールをひきつける受け方をするのが効果的。

 このようにマクニールを手前で動かせれば、大外のサカへのダブルチームは遅れることになる。サカへのボールの預け方の工夫はなかなかに考えられたものだなあと思った。

 左サイドではワイドで開いている位置で受けているガブリエウが後方で相手を引き付けていたので、素直にマルティネッリが1on1を仕掛るケースを作ることができていた。こうなれば仕掛けてのエリア内へのボールの供給は比較的しやすくなる。

 しかし、そんなアーセナルにアクシデント。マルティネッリがネットを揺らしてシーンで負傷交代してしまう。オフサイドでゴールは取り消され、負傷でマルティネッリを失うなど、アーセナルにとっては散々な時間帯だった。

 マルティネッリを失ったことで試合の流れはほんのり変わる。左サイドでは大外から縦に抜けるアクションが劇的に少なくなってしまった。おそらく、代わって入ったトロサールは右足でプレーするところから逆算してプレーを組み立てる傾向があるので、縦に抜けていく動きはあまり得意ではないのだろう。

 トロサールは大外においてしまうと、インサイドに入り込んでいく馬力不足も顕著。周囲の連携の中でインサイドに入り込む動きも作ることができない。この辺はヴィエイラ、ジンチェンコといった面々との連携不足ということもあるのだろう。

 左サイドのパスワークが機能不全に陥ったことで、アーセナルは中央への縦パスと右サイドへの負荷が増大。サカに高い位置からプレッシャーをかけて前を向かせないアプローチを高い位置から取れるように。こういう迷いがなくなった時のエバートンのプレスは厄介である。サカの受ける位置はだんだん下がっていく、中盤のプレッシャーが増していく。

 前半終盤はジンチェンコの強引な縦パスでボールを引っ掛ける形でロストの場面が増えてくる。エバートンのカウンターの成否はライスを越せるかどうかにかかっている。彼がPAに突撃して後方を開けてしまっている時や、ドゥクレに交わされる形で置いてかれている場合はカウンターのチャンスが出てくる。

 ただし、ベトの対面相手となるサリバとガブリエウは強力。スピード、高さの両面で凌駕することができず、効果的なフィニッシュの形を迎えるのに苦戦していた印象。アーセナルの失い方が悪い場面は前半の終了に近づくにつれ増えていったが、それをエバートンが得点の脅威に結びつけられたかというとそこは別問題といった印象だった。

 アーセナルは前半終了間際にヴィエイラが左サイドから裏に抜ける動きを連発。まさしく、これは左サイドに足りなかった動きでもある。個人の特性の組み合わせで課題をするのも大事だが、既存のメンバーの中で解決策を探るスキルを身につけるのも非常に大事。ヴィエイラの工夫はそういった面でもポジティブなものだったと言えるだろう。この試合ではネガトラにおける働きも大きく、レギュラー候補として堂々と名乗りを上げるパフォーマンスを見せた。

サイド攻撃の再構築とショートコーナーへの特化

 後半、アーセナルの攻撃はトロサールの外をまわるジンチェンコのオーバーラップから幕開けする。これもまた先に述べた「既存のメンバーの中で解決策を探るスキル」の括りに分類できる動きと言っていいだろう。

 チーム全体で見ればサイド攻撃の再整備がアーセナルの後半のテーマだった。左サイドは裏抜けの動きをカジュアルに取り入れながら3人のリポジションでの繋がりを重視する。

 右サイドは大外に2人、ハーフスペースから裏を狙う動きを1人。これをホワイト、サカ、ウーデゴールで分担しつつ、後方からライスが支援する形で大外とハーフスペースを使い分けながら攻撃を行なっていた。ライスが中央にいない問題はネガトラにおけるフィルター不在問題と隣り合わせ。ロストしたらどうするねん!という感じではあるが、前半のような強引な縦パスを減らすことでなんとか採算を合わせることができた。

 もう1つ、攻め手の中で工夫があったのはセットプレー。後半の途中からショートコーナーに特化した崩しが見られており、よりオープンプレーに近づけた攻撃の機会として活用していた。

 このショートコーナーの動きからアーセナルは先制点をゲット。右サイドの連携から最後はトロサールが左足を振り、逆サイドのネットに突き刺すというアクロバティックなシュートを決めて見せた。

 エバートンは前半以上に苦しい後半となった。アーセナルが対角パスを活用しながら外重視の動かし方をしてきたせいで、ボールを奪い返すきっかけは再び掴めないように。ベトやドゥクレが低い位置に下げられてしまい、カウンターの開始位置が低くなってしまったため、得点の可能性は薄まってしまった。むしろ、バックラインでのパス回しからアーセナルの即時奪回に脅かされる場面が目につくようになる。

 ならば、昨年のリバイバルということでキャルバート=ルーウィンを投入するダイチ。だが、復帰明けで体が重いのか、あるいは顔の負傷を保護するマスクによって視野が制限されているのか、本来のパフォーマンスとはいえず。競り合いは引き分けに持っていくのが関の山で、試合の流れを大きく変える一手にはなりえなかった。

 よって、非保持では特攻プレスに出ていくことでなるべく高い位置からボールを奪いにいったエバートン。しかしながら、アーセナルはこれを横幅を使うバックラインのボール回しでいなし続けることに成功。特にGKにラヤがいる安心感は大きく、スマートなプレーで無理なく局面を進めるフィードを出しながら自身の持ち味を提示することができていた。危険な場面が少なかったため評価は難しいが、ハイボール処理やリベロ仕事も含めて、この試合では特に気になる分野はなかったと言えるだろう。次の試合もスタメンかはわからないが、近いうちに再び出番があることは間違い無い。

 ジンチェンコとラヤがいるバックラインはボール回しに関しては最強だが、途中交代でバックラインに入った冨安を含めて、他のビルドアップ隊の面々もエバートンのプレッシングに対しては落ち着いて対応していたと言える。エバートンのプレスは空転し続け、唯一のチャンスと言えるライスのパスミスからの90分のチャンスも淡白なフィニッシュに終始してしまった。

 終盤はダンジュマ、キャルバート=ルーウィン、シェルミティと身体能力自慢の前線を置きながらセットプレーでの勝負に出たエバートン。しかしながら、こちらも高さのあるアーセナルに跳ね返されて決定的なチャンスにはならず。アーセナルは何度かあったカウンターからの決定機で攻撃陣が仕上げの2点目を奪うことができれば完璧であったが、失点の可能性にフォーカスすれば十分に盤石な逃げ切りで鬼門の克服に成功したと言えるだろう。

あとがき

 最小スコアでの逃げ切りが多い割には胃が痛くなるような終盤戦が多いのが今季のアーセナルのやり方の特徴。最大出力には現段階では物足りなさはあるかもしれないが、着実に自分たちの持って行きたい方向に試合を持っていく力はあるし、ヴィエイラの裏抜け連打やジンチェンコのオーバーラップなどちょっとした動きで修正バッチを当てる対応力もある。その上、ライスとバックラインのフィルターは強力で、簡単に貫ける代物では無いことは間違いない。あとはビッグマッチでどれだけ天井を上げることができるか、それが問われるのはもちろん次節のノースロンドンダービーになるだろう。

試合結果

2023.9.17
プレミアリーグ 第5節
エバートン 0-1 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
ARS:69′ トロサール
主審:サイモン・フーパー

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