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レビュー
■許容部分が得点機械に直結
直近の試合である湘南戦の前と後でそれぞれ2人のコロナウイルス陽性者を出した鹿島。試合当日のスクリーニング検査でも新たに陽性判定が出た選手が1人いたことを日曜日に発表しており、少なくない数の欠場選手を抱えることになった。この日出されたメンバー表を見ても数名は主力がベンチ外となっており、岩政監督は思った通りのメンバーを組めない部分があったはず。
そんな中で岩政監督が準備してきたのは中盤をダイヤモンドにする4-3-1-2。あまり今季の鹿島では見慣れないプランである。このやり方でリーグを席巻するという旨のことをチラッと聞いたのでもしかするとベースとして据えるのかもしれない。
このプランがどこまで川崎を意識したものかはこの先の鹿島を見てみないといけない部分はある。鹿島ファンの方に対して前提として話しておきたいのは、このレビューにおいてはそうしたプランの将来性については度外視した論評に徹するということ。あくまでこのプランが川崎に対してどうだったかを軸に話を進めていくことをお断りしておきたい。
さて、この岩政監督が用意した4-3-1-2と川崎のプランの相性からまずは話をしていきたい。川崎は特に今季の前半戦、高い位置からのプレッシングをしてくるチームに対して苦しんだ。C大阪、G大阪、浦和などそうしたチームの特徴はCBとアンカーを同時に消してくることである。
前節の対戦相手である福岡の長谷部監督は4バックには4バックという法則を覆して3バックを採用した理由を「相手のCBとアンカーに自由にボールを持たせないため」と説明していた。やはり、危険な箇所として認識しているということだろう。この日の鹿島の4-3-1-2も2トップ+トップ下で川崎の2CB+アンカーを抑えることができるという点では、そうしたチームと同じ狙いを持っていると言える。
川崎のCBやアンカーに注意が集まる分、時間を得ることができるのはSBである。中央を同数で受ける分、サイドから自由に持ち運ぶことができるという状況が川崎に生まれることになる。実際岩政監督もサイドに時間が生まれることについて「そこは私が許容した」とコメントを述べている。
川崎のバックラインの中で、ズレを作り出して時間を前に送るボールの動かし方やポジションの取り方が最も上手いのは登里である。よって、川崎からすると鹿島のプランはむしろ歓迎。川崎にとっては最も安心できるところにボールを動かす余裕を与えてくれたのである。
先に例に挙げた高い位置から潰してきたチームは川崎のボール回しをSBのところに誘導し追い込んで取り所にしていた。その点がこの日の鹿島と決定的に違ったところであり、鹿島の高い位置からのプレッシングに川崎が窒息感を感じなかった理由である。
橘田と登里を1人で監視しなくてはいけなかった樋口は明らかにオーバータスク。このサイドから運ばれてしまうのは当然である。
サイドが手薄になりやすい鹿島のこのフォーメーションの難点はもう一つ。川崎の高い位置でのサイド攻撃に対して同数で受けることを許容しなければいけないことである。
プレビューでも述べたのだが、川崎のWGと鹿島のSBのマッチアップに関しては川崎は優位であり、同数でサイド攻撃ができる機会ができれば得点のチャンスは得られる公算が強い。よって、サイドを圧縮せずに同数に守ってきた鹿島のプランも川崎の嫌がる方針とは言えなかった。
1得点目のPKのシーンも前節の福岡戦で結果を出した家長、脇坂、山根のトライアングルの連携からである。確かにこのプレーは川崎にとっては1stチャンスであり、僅かな好機を得点に結び付けたとも取れる。
だが、撤退守備に押し込まれた際にはそもそも鹿島がサイドで同数で守る状況を許容していた節がある。この1stチャンスをあっさり川崎にモノにされたというのはある意味必然のようにもに思える。
2得点目のFKのきっかけとなったマルシーニョのファウルの一連もトリガーになったのは登里を潰しきれなかったところからである。この場面では登里がボールの受け方で樋口を出し抜いたのが前進を許す決定的なファクターであったが、元々はこの日の鹿島がある程度自由にするのを許容にしていた選手が作り出した好機である。
2つの決定機で2得点を得ることができた川崎がしたたかという側面は確かにある。しかし、その2つの決定機に至るまでにおいては鹿島がこの試合において許容していた場所がきっかけになっている。そういう意味では鹿島の前半のプランは川崎の強みに対して適切な内容だったかというのは疑問が残る。
■プレスの粗はあったが手当が間に合う
鹿島の保持はバックラインからのゆったりしたもの。立ち上がりはショートパスでボールを動かすことを狙う場面が多かった。
いわゆる可変のような初期配置からの大きな移動は少なかった鹿島のポゼッション。川崎はトップの小林がプレスの手綱を握る。川崎のプレスの基本形としては小林に誰か1人が並ぶようにしながら全体の陣形を保つように守りを組むことが多かった。
小林はCBへのプレッシャーは怠りはしないが、一番警戒している対象はピトゥカ。IHの脇坂、橘田と連携しながらマークを受け渡し自由にしない意識が高かった。
WGの家長とマルシーニョはここ数試合と比べると積極的に外切りのプレスをやっていた。マルシーニョがあわや3点目のプレゼントパスをもらったように、前からのプレスを行う意義は川崎には十分にあった。だが、川崎のプレス隊は深追いをしすぎてしまう場面もしばしばみられている。
例えば、32分のシーン。この場面は小林のヘルプにきたのは橘田だった。しかし、プレスが遅れてしまったために鈴木のポストからピトゥカが前を向くことを許容している。
だが、この日の鹿島はこうした川崎のプレスのズレを享受した際に得ることができた時間を有効に使うことができなかった。上の場面で言えば、ピトゥカがボールを持った後の選択肢を提示することができなかったのである。
この場面で川崎的には最も怖いのは鈴木に引っ張られる形で距離が空いた登里と谷口の間を使われることである。特に、谷口が外に引っ張り出されながらラインを下げなければいけない形が最も不安定な対応を強いられることになることが予見される。
だが、このシーンでスペースに走り込む鹿島の選手はいなかった。トップ下に入った仲間は前後左右に自由に動く鈴木ができたギャップを突く役割を任されていた。よって、CB間の走り込みの方が役割的には適切なのかもしれないけども、この場面では彼が登里と谷口の間に走り込んで欲しかったところである。
ピトゥカに前を向かせるところは鹿島的にはいいシチュエーション。だが、鹿島はこの先を用意することができない。これは低い位置からのビルドアップも同じで、川崎に対して横に揺さぶること自体はできてはいたが、サイドチェンジの速度と精度が不十分。川崎はIHの左右のスライドでWGの頭の裏を通されるパスは対応ができてしまっていた。確かにこの日の川崎は橘田、脇坂のIHが強度が高い並びではあったが、鈴木、ピトゥカ、樋口など一部の選手を除くと鹿島の足元のスキルはもう少し欲しいところである。
飲水タイム後、鹿島は鈴木を右に流しながら登里のマッチアップを積極的に作ることでミスマッチを作り出す。これが後半からの攻撃の布石になった。保持においてはピトゥカのそばに樋口がサポートに入ることでポゼッションの安定を図っていた。
これにより前半の終盤は鹿島がボールを握ることに。押し込まれる川崎はなんとか長いボールを跳ね返しながら耐える時間帯となった。シミッチ、ジェジエウ、谷口を中心にロングボールを跳ね返しながら鹿島の攻撃を0に抑えてハーフタイムを迎えた。
■腑に落ちた大島投入のプラン
後半、立ち上がりからペースを握ったのは鹿島。前半の途中からの鈴木-登里のマッチアップに加えて、左サイドのカイキ-山根のマッチアップを活かしたロングボールを攻撃色が強い形で応用する。
左サイドはカイキがロングボールの的になり、ボールが放たれると同時にその裏に和泉が走り込む。大外から深さをとったところでマイナスで待ち受けるのは広瀬。広瀬から逆サイドへのクロスでゴールに迫っていく。
右サイドは当然鈴木がターゲットになる。こちらはキープ力があることもあり、左サイドよりもサポートは手薄。安西を相棒として、クロスを上げていく。
クロスの鉄則はファーサイドに。そしてできればゴール側に巻くような方向で。対応が難しい裏をつくようなクロスをミスマッチになりやすいファーを守るSBに当てるような形で作り上げるのが理想である。
鹿島の反撃は後半早々に実ることになる。決めたのは仲間。ファーではなくCBの間を狙い続けていた男がジェジエウと競り合わずにスラす形でゴールをゲット。反撃の狼煙を上げる。
川崎は交代で苦しい状況に対応。2枚の交代カードはいずれも適切な対応と言えるだろう。高いラインを敷く鹿島のDFに対して明確な起点になれなかった小林は動きながら相手を背負うことができる知念と交代。長いボールを収めつつ、サイドに流れながらのポストで陣地回復を行う。
ロングボールの狙い目になっていた登里を車屋と入れ替えたのも妥当だろう。これにより、鈴木は明確なミスマッチを作ることができなくなった。
守備においては4-2-3-1を採用した川崎。CHがサイドにヘルプに出て行きやすい形とサイドの選手の重心を下げる形で対応、クロスを未然に防ぐ方策も並行して行っていた。
川崎の巻き返しのシナリオは鹿島のロングボールをどう跳ね返すかだけではなく、鹿島のロングボールを受ける機会を減らすところにもあった。敵陣にボールを運ぶことができるようになったら、とにかくサイドを繰り返しながら変える。
サイドは同数ならば安定してボールを逆サイドに運ぶことができていたし、ボールの保持で時間を使うことができていた。鬼木監督も「敵陣まで運べればボールを回せることはわかっていた」と述べていたため、これはチームとしての共通の狙いだったと言えるだろう。前半にも述べたように押し込んでのサイドの攻撃を鹿島が同数で受けたおかげで川崎はポゼッションに余裕がある。
このプランであれば大島僚太の投入も腑に落ちる。ボールを横に揺さぶり、時間を使っているかと思いきや縦に一気にボールを刺す。大島はそれができる選手である。
この試合ではなかなか大島の冴えたパスが光る場面は見られなかったが、逃げ切りのプランとしてこういう形を守ることができているのであれば、大島のチームの組み込みにも光が刺すと言えるだろう。できれば、得点の機会を作ることでさらにその存在意義を高めたいところ。そこは大島のパフォーマンスがどこまで上がるか次第でもある。
鹿島は時間が経過するにつれパワープレーに舵をきる。エレケ、そしてブエノの前線起用で放り込みに注力する形を行う。川崎はこれに対して5バックにシフト。キープ力に関しては定評のある知念と家長を前に残す形で山村を最終ラインに投入する。
おそらく、今の川崎で言えば前も後ろもありったけの戦力をつぎ込んでのゲームクローズ。苦杯を飲んだC大阪戦の反省を活かした川崎が逃げ切りに成功。鹿島の追撃を振り切りリーグ3連勝を達成した。
あとがき
■許容箇所の目測を誤った感は否めない
この試合の鹿島に関して言えば明らかに前半の作戦ミスであるように思う。鹿島のやり方で許容する部分と川崎の持ち味がミスマッチを起こしており、その部分が明らかに得点機会につながっている。現象を許容するボーダーのずれがこの試合の勝敗を分けたように感じる。
保持においても川崎に対しての粗を最大限に活かして攻め込むことができず、FWとSBのミスマッチ以外に活路を見つけることができなかった。この部分はシンプルにスキルアップの必要性を感じる。
これから先を見据える中でこの戦いがどういう意味づけになるのかはわからないが、川崎を倒すプランとしては適切じゃなかったということである。岩政監督は手応えを感じているようだが、この敗戦を糧にできるかどうかは彼ら次第というところだろうか。
■2人の古参を組み込めるか
パワープレーには苦戦したが、全体的な試合運びとしては基本的には上々のように思う。鹿島にああいう形で暴れ回られたらどのチームも苦しいとは思うので、改善をするとしたら後半のボール保持の局面。マルシーニョの決定機も確かに決めるところで決めておけば案件ではあるが、チームとしての幅の話で言えばボールを持って時間を使いながら得点を取るところまで持っていきたい。
当然、キーになるのは大島。ボールを動かしながら敵陣で時間を消費させることと、得点の脅威を両立するには唯一無二の彼のスキルが大きな後押しになる。ボックス内の仕事に専念できればこの試合では出来が悪かった小林も輝くことはできるはず。今季苦しんでいる2人の古株を活かす保持型のプランのブラッシュアップが終盤戦の川崎の切り札になる可能性は十分にある。
試合結果
2022.8.27
J1 第27節
川崎フロンターレ 2-1 鹿島アントラーズ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:8′(PK) 家長昭博, 14′ 脇坂泰斗
鹿島:51′ 仲間隼斗
主審:佐藤隆治