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「違う引き出しの3-5-2」~2023.9.24 J1 第28節 湘南ベルマーレ×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

似て非なる3-5-2のリトライ

 川崎にとっては今季最後となるローカルダービー。その舞台となるのは神奈川ではなく東京。湘南の本拠地ではなく国立競技場である。

 川崎はACLを火曜日に戦ったこともあり、前線を中心に数枚のスタメンの入れ替えを実施する。スタメンだけではわからなかったが、組まれたプランは3バック。並びとしてはC大阪戦に近い形でメンバーを組んだことになるだろう。

 この3バックの採用は対策的な側面があるのは否定できないだろう。湘南に対しては横断をあっさり許しては、逆サイドのWBからの攻撃に対するカバーが間に合わず、そこから致死性のクロスを入れられるという形がデフォルト。なので、初期配置で幅をカバーできる5バックにすればそうしたズレを未然に防げる部分は当然ある。

 ただ、今季の目標はある程度ACLや天皇杯にフォーカスされた感があるのが川崎の今の状況。形自体もC大阪戦と同じということを考えると、ジョホール戦とは異なるこの並びでできることを探るという自分たち主体の視点もあったはずである。

 留意しておきたいのは形こそC大阪戦と同じ3-5-2だったが、その中身はC大阪戦とは全く異なるものだったこと。C大阪戦の3バックの採用はワイドのCBとWBでC大阪のSHを挟み撃ちにして、プレスの基準点を鈍らせてショートパスからのビルドアップを円滑に行うという狙いがあった。

 しかしながら、この試合ではなにはともあれロングボール。捕まっていても全く躊躇なくダミアンと山田にビシバシハイボールを入れる手段から前進を狙っていた。

 同じ形ながらC大阪戦と内容が全く異なった理由に関してはいくつか仮説を与えることができる。1つ目はバックラインの人選。C大阪戦のスタメンを見ると上福元、山村、高井とショートパスとドリブルでのキャリーに特徴がある選手が多い。この試合ではGKはソンリョンだし、CBの一角にはショートパスでの配球にミスが多い大南もいる。

 もちろん、C大阪戦で露呈したように山村、高井、田邉の3バックは明らかにカウンター対応やボックス内での守備のクオリティが不足していた。大南、車屋、佐々木の3バックならば明らかにその部分に上積みは計算できるだろうが、その分足かせとしてショートパスでのスキルには制限がかかる。ソンリョンはショートパスでの繋ぎは苦手だが、ロングキックはそれなりにやれるというのも理由の1つかもしれない。GKを含めたバックスのメンバー構成の違いは留意しておきたい。

 もう1つの仮説はよりシンプルにCFが制空権を握れる相手だからというもの。特にこの試合の2トップは左に傾いてロングボールを受ける機会が多かったため、相手の右のCBである舘に対しては体格の差を利用してボールを収められると考えたのだろう。

 立ち上がりはこうした川崎の強引なロングボールに湘南はよく対応していた。湘南も奪ったら比較的に縦に急いでいたが、こちらにも川崎は問題なく対応。つまりは非保持側の守備が間に合っている時間が続く序盤戦となった。

 そういう意味では川崎の先制点はこの試合で始めてズレを作れたプレーといえるだろう。基本的に湘南はダミアンや山田へのロングボールの対応策として、バックラインとアンカーの奥野が挟み撃ちでロングボールの先をマークするという方策をとっていた。

 すなわち、湘南はアンカーがロングボールの先のFWに引き付けられる形となる。先制点の場面ではダミアンが奥野を含めた2人を引き付けながら、ボールをキープ。後方からIHが上がる時間を作ると、脇坂が山田にラストパス。やや角度のついたところから冷静に流し込み早い時間に均衡を破る。

 このゴールの直後にダミアンの決定機があった。山田がボールを背負いつつ奥野を引き付け、奥野がいなくなったスペースから前を向いた脇坂がダミアンにラストパスを出す形だった。要素を並べれば先制点の場面と2トップの出し手と受け手が入れ替わった格好だ。

 つまり、2トップの片方がボールを背負い(できれば奥野を引き付けながら)脇坂が攻めあがる時間を作る。そして前を向いてフリーでボールをうけた脇坂がもう片方のFWにラストパスを送るという構図が再現性をもって繰り返されたこととなる。ロングボールからの攻撃完結の狙い目はおそらくここになるだろう。

 ダミアンは2点目のPK獲得においても瀬川がPA内に侵入するエスコートを行っている。PKでの得点もそうだが、ダミアンらしい崩しが得点につながりだしたのはまちがいなくいい兆候といえるだろう。

 ちなみに、川崎は2トップが左に寄っていたため、右サイドには広大なスペースが終始空いていた。この試合のスターターの並びを踏まえると、落としを受けた脇坂から右サイドのWBの山根の攻め上がりを生かす形は使えそうである。しかしながら、こうした形を見る前に佐々木の負傷で山根のポジションが下がってしまったのは残念であった。

押し込まれるが揺さぶられない

 湘南のボール保持に対しては、おそらく川崎は2トップから誘導をかけながら片側サイドに追い込みたかったはず。ただ、ダミアンと山田のプレスを外してフリーで運ぶ形を作ることは湘南にとってそこまで難しくはなく、ボールを持った際に湘南のバックラインは安全に川崎の1stプレスラインを超えることができていた。

 しかしながら、そこから先の進むルートを示せていたかというとそこは難しいところ。縦パスを入れる意識の高さがあった湘南だが、ボールを受けた選手に対して周りが落としを拾うなどのフォローの関係性を作るのがあまりうまくはなかった。

 例えば、9分のシーン。瀬川の横パスをカットされてしまった川崎は非常にまずい形でボールを失ったといえるだろう。しかし、縦パスを受けた大橋は大南の激しいチェックに対して前を向けず。さらには後方とのパス交換で抜け出すところでも大南のマークを外せないまま、チャンスにつなげずにポゼッションが終了してしまう。

 試合後の瀬川のコメントにもあった通り、この試合の川崎の右サイドは特にこうした縦パスを受ける湘南の選手に対してのチェックをかなり高い精度でできていた。41分のようにボールを刈ってから速攻にそのままつなげるトライを見せるなど、カウンターの発動ポイントとしてむしろ奪いどころにしていたといってもいいくらいだろう。

 この辺りは後方の陣容の守備能力を強化した賜物といえそうだ。湘南の中で最も可能性を感じたのは平岡だろう。川崎の中で強度が随一である脇坂からあっさりFK奪取したあたりは怖さを感じた。

 5バックなので迎撃が間に合わない時は押し込まれることもしばしば。登里とソンリョンの不安定さから川崎の左サイド側からクロスを上げられる場面もあったが、川崎のバックスは縦にも横にも揺さぶられていないため、放り込みやセカンドボールを拾ってのミドルにも問題なくコースをふさいでのアプローチができていた。

 そういう意味では押し込まれてもサイドでロストをしても安心感が強かった展開。川崎は2点のリードを守ってハーフタイムを迎える。

裏腹な攻撃的陣容に収束するも逃げ切る

 最下位であり、2点のビハインドを背負った湘南が後半にやることは1つ。高い位置からのプレッシングでショートカウンターから反撃を狙うこと。敵陣から相手をハメる形を躊躇なく行うスタートとなった。

 なぜかはわからないが、川崎は割とこのプレスにショートパスをつなぐ形で真っ向勝負を挑んでいた。ロングボールはより効きやすい状況のようにも思えるが、この辺りもできること調査なのだろうか。

 ショートパスでの繋ぎは割と捕まってしまう!という後半立ち上がりの流れはこの試合の前半の川崎のプランをある意味補強する材料になったといえるだろう。湘南に押し込まれる流れはさもありなんである。というわけで55分にはロングボール主体に切り替えての川崎は湘南のプレスを回避していく。

 湘南はメンバー交代から再び活性化を図っていく。山田と福田の投入から右サイドを中心に少しずつ攻め手を作っていく。これに川崎もメンバー交代で応戦。前線には時間を作れる家長を入れて、後方には空中戦対策に効くシミッチを投入。前と後ろにそれぞれテコ入れを図る。

 しかしながら、その直後に車屋が負傷してしまった川崎。この時点でのベンチメンバーはゴミス、小林、マルシーニョという究極の選択になっていた。川崎はマルシーニョとゴミスを投入し、家長を1列後退。橘田をWBにおいて登里を中央にスライドさせることで陣形の維持を図る。ピッチにはいつの間にかこの試合で最も点が欲しそうな並びが完成することとなった。

 ダミアンに比べるとゴミスはプレスを我慢できる傾向があるので、狙い目としてはおそらく引き込んでのロングカウンター。そういう意味ではマルシーニョを一番前に置くのは嫌がらせとしてとても効果が高い方策といえるだろう。

 後方で効いていたのはMF陣の戻り。特に脇坂と瀬川のスペースを埋める運動量と嗅覚は見事だった。瀬川は出ていかない判断をするのがほかの前線のメンバーよりも数段優れているし、その分増える上下動を繰り返すことができる運動量がある。この3バックにおけるWBの最適解は左に瀬川、右に山根で決まりかなという感覚が個人的にはある。

 セットプレーから多少危うい場面を見せた川崎だが、何とかスペースを埋めての守備から湘南のシャットアウトに成功。2点差をつけてなおひやひやの逃げ切り勝利で久しぶりのリーグ戦の連勝と公式戦3試合連続のクリーンシートを記録した。

あとがき

 負傷者の続出のため、クロージングのプランの評価は据え置きになるだろうが、C大阪戦で不発だった守備強度や2トップの連携から得点を決めたこと、そしてまた新しい引き出しを上げるチャレンジにトライしたこともよかった。ただし、左サイドを中心にバックスに負傷者が出たことが暗い影を落としていることもまた否めないのが正直なところだ。

試合結果

2023.9.24
J1 第28節
湘南ベルマーレ 0-2 川崎フロンターレ
国立競技場
【得点者】
川崎:11‘ 山田新, 39’(PK) レアンドロ・ダミアン
主審:木村博之

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