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「骨折り損プレス」~2023.9.29 J1 第29節 川崎フロンターレ×アルビレックス新潟 レビュー

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レビュー

理念への忠実さが陣形の持ち味を消す

 メンバーを入れ替えてのターンオーバーといえば松橋監督のメンバー選考のトレードマーク。しかしながら今節メンバーを大幅に入れ替えてきたのは鬼木監督。蔚山との大一番を前に大南と家長を完全休養をはじめとする大胆なターンオーバーを実施する。

 川崎がこの試合で基本の形としたのはプレビューで触れたいわゆるゴミス型である4-3-2-1である。結果的にこのシステムは全くと言っていいほど機能しなかった。機能しなかった理由はこの形の理念を忠実に守り過ぎてしまったからだろう。中央を固めるという点では悪くない形であるが、その利点を活かせなかった。

 機能しなかったのはプレッシングである。まず、前提として押さえておきたいのは前線と中盤の役割である。ゴミス型の基本的な形と狙いを復習しよう。特徴的なのはWGが相手のCHをマンツーで抑えるナローなポジションを取ること。SBへのケアはIHがスライドする。CFが同サイドに追いやるようにプレスをかけて、片方のサイドから脱出させないというのがこの形の狙いだ。

 ではこの形はどのように外されたのか。よくわかるのは5:20からのシーンだ。まず、初手としてゴミスのプレッシャーを外すことが重要。川崎のプレスはゴミスが同サイドに誘導することを前提としているが、新潟はGKを経由して、逆サイドのCBにボールを届けることができる。

 これでデンはフリーでボールを持つことができる。小島が直接デンではなく、一度CHに当てるパスをつけたのはマルシーニョがデンに向かう素振りを見せたから。高と秋山を経由することできっちりとマルシーニョを中央に縛り付ける。

 デンがボールを持った時のポイントは新潟のCHがボールサイドに寄らないこと。これにより、マンツーが基本の川崎のWGはボールサイドに出ていくことができない。小林とマルシーニョは基本的にどこに動こうと対面のCHにはマンツーでついていったので、この辺りは新潟が川崎の守備の原則を利用した格好になっていると言えるだろう。

 こうしてFWのプレスラインを突破した新潟。遠野は原則通りの動きをするのであれば、SBの新井を捕まえるのが約束事。しかしながら、遠野の右側に降りる選手(この場面では鈴木)を作ることで、新潟は遠野に迷いを与える。あとはデンが好きな方にパスを出すだけ。実際には新井にパスを出したが、少なくともどちらかはフリーで前を向いて次の選択肢を探すことができる。そうなれば、新潟は自在にPA内に踏み込んでの攻略を行うことができる。直後のシーンで決定機を生み出した通り。

 属人的な話をするのであれば、川崎はアンカーがシミッチではなく橘田であれば鈴木へのチェックに出ていける機動力を有していたかもしれない。ゴミス型を採用する際に橘田とシミッチのアンカーの序列が入れ替わったのはこの機動力の観点からだろう。しかしながら、そもそもこれだけ前線の守備が思い通りに動かされてしまっては、それも手当て程度にしかならないだろう。

 新潟サイドにも属人的な話をするのであれば、上のシーンと左右対称に前が空いた状態で千葉がボールを運んだ時はクオリティが上乗せ。これだけ余裕があればまず選択肢はミスらないし、21分手前のシーンのように、小林とゴミスを裏切るように縦パスを通すこともできる。

 千葉に関していえばインサイドにパスを刺されるイメージが多いのか、脇坂の左側に降りてくる選手に川崎の視点が集中することが多かった。ゴミスも含めれば千葉のキャリーだけで3つの視点がこのコースに集中していることになる。そうなれば、それ以外の位置にはパスは差しやすくなる。

 このように川崎の前線からのプレスはまるで機能しなかった。WGがCHに忠実についていくことで、守備から締め出されてしまい、中盤は常に晒される状態になったことが大きな要因。ある程度持ち場から離れれば捨てるという選択をしなかったために、4-3-2-1の特徴である中央を固めて守るという特徴は消えて無くなってしまった。

迷える右サイドからスーパープレーが生まれる

 新潟にボールを持たれながら苦しむ状況ではあったが、川崎は自陣から脱出することができれば光がある状況だった。特にトランジッション局面においては高い位置をとる新潟のSBの裏から盤面をひっくり返すことが可能。さらには裏へのケアが不安定なGKの小島のプレーもこの狙いを助長。

 川崎はマルシーニョに加えて、遠野に推進力があったことが縦に早い動きが正当化できるように。遠野→小林の裏へのパスからCKを獲得すると、セカンドボールから遠野のミドルからのこぼれ球をシミッチが押し込んで先制点を奪う。

 先制点の時間帯の前後から、小林のプレスの基準にはばらつきが見られるようになった。基本的には秋山を見るべきだが、このプレスは明らかに機能しないという感触があったのだろう。リードしたことも相まって、SBの堀米をケアするようなポジションを取るようになる。

 こうなると脇坂のポジションにも迷いが出るようになる。小林が原則を守らなくなったことで右サイドは守備の受け渡しが曖昧に。難しいのは小林のプレスがかからない感覚は間違いではないこと。だが、前の基準の変化で誰が誰を捕まえるかが整理されなくなったのもまた確か。

 同点ゴールのシーンにおいては三戸を誰が捕まえるのかが曖昧になっていたのもその一因かもしれない。ミドルを打たれてバーに当てられるというのは予想外だったとしても、三戸は新潟の中で最も警戒すべき選手。これだけ離してしまっては、ドリブルからDFラインの裏の取るような展開から危ない展開を許す可能性は十分にある。そういう意味では川崎の守備は後手に回っていた。

 同点にされてなおWGの守備基準がCHに戻らない川崎。むしろ、小林と同様にマルシーニョも自陣側に守備の基準を移すようになった。どうせWGがポジションを下げるのであれば、そもそも前に3人のFWを残せる4-3-2-1の旨みはない。それならばより噛み合わせつつ守ることができる4-4-2に移行する川崎の手当ては自然な流れのように思う。

新潟は三戸がレーンを斜めに横断するような大胆なポジション移動で川崎の守備の隙を作りだしにいく。だが、それ以外の撤退守備の攻略の手段としては破壊力があるものがある感じもしなかったため、ひとまずラインを下げつつマイルドに噛み合わせる川崎の修正策は効いていたと言えるだろう。

押し上げ前提の設計でリスクを請け負う

 後半、川崎は山田と瀬川を投入。4-4-2の形をそのままにプレッシングからボールを奪い切れる機動力を持つ選手を優先して起用。前からボールを奪うことで主導権を取り直そうというのが川崎の狙いだろう。

 川崎のバックラインはこの動きに連動するようにラインを上げることができていたので、ボールを奪う位置は上がり、前半ほど新潟のペースには流れなくなった印象である。田邉と山村のCBコンビでDFラインを上げるのはかなりリスクではあるが、少なくとも敵陣でボールを奪える可能性は復活した修正と言えるだろう。

 しかしながら、新潟はスムーズに攻略法を提示。デンが幅をとればマーカーがマルシーニョではなく遠野に受け渡されることを利用し、遠野を前に引き寄せつつ、新井を安全地帯として活用するようになる。WGで登里をピン留めすれば、遠野の背後をケアできる選手はいない。

 遠野はデンのプレスに出ていく時に後方を確認しているので、おそらく新井をマークする選手がいないことには気づいているはず。だけども、特にプレスをやめる気配はないので、状況を確認した結果、どうしてこういう判断になっているかはわからない。遠野に限らず、こういう首振りをして後方が連動をしていないことを確認して前に突っ込むプレスをする選手は結構多いので、シンプルにどういう状況を狙ってプレスをかけているのかが気になる。

 というわけで押し込むルートを後半も確立できた新潟。セットプレーから新井のゴールで勝ち越しに成功する。川崎からすると長身FWがいないCKの守備は最近の泣きどころ。特に山田が悪目立ちすることが多い。誰にも向かわないボールがストーン役を務めることが多い山田を通過して、ファーサイドに流れた結果、失点につながるケースはよく見る。

 このシーンで新井にボールが渡る直前にボールを処理できなかったのも山田。なお、山田が触らなければ山村が普通に処理できてそうな位置関係だったのは切ない。触りにいくトライは否定できない。

 そんな山田は強引なPK奪取からの同点ゴールで起爆剤としての存在感もみせる。ジョーカーとしての有用性と守備での課題、今季の山田を良くも悪くも示しているという感じの後半のパフォーマンスだった。

 ちなみに山田のPK奪取のシーンでは田邉が相手を引きつけつつ、左の登里へ展開するという素晴らしい保持局面でのプレーも披露した。しかし、その田邉も波があるパフォーマンス。PAを横切るような相手へのプレゼントパスをやってしまうあたり、今日はよくやったで片付けるのは難しい。

 一般的にはパフォーマンスのムラがある選手は前より後ろの方が計算が立ちにくい。山田に比べれば、田邉の方がこうした良し悪しは出場機会とシビアにリンクすることになるだろう。

 山田がDFを背負う形でPKを獲得し、マルシーニョに代わってダミアンが入ると川崎はロングキックからのゴリ押しでの解決にフォーカスしていくように。後半の入りはシミッチが左サイドに落ちるなど新潟と噛み合う4-4-2からズレを作る工夫を見せたり、終盤は3バックでサイドからズレを作れる形をベースにしたりなど構造的なミスマッチを作ろうとするベンチワークはありはした。だが、結局は前線への放り込みに収束した感がある。

 ランアンドガン気味に前に出てくる川崎に対して、新潟はカウンターから決勝点をゲット。太田のミドルは手放しで素晴らしいものだった。瀬川のプレスバックにより、だいぶシュートは難しい方向にコントロールが流れる形に追い込めたと思ったが、強引に打ち切った。瀬古の無謀なプレスなど川崎の守備の難点はなくはなかったが、素直に新潟の攻撃が上回った部分だろう。

 長期離脱で苦しんだ太田が決勝ゴールを決めて新潟は川崎にシーズンダブルを達成。川崎はACL前に連勝がストップすることとなった。

あとがき

 川崎が原則に忠実に頑張ってプレスを行うほど、新潟が攻めやすくなるという骨折り損のような前半だった。鬼木監督からすればおそらく前から奪う手段がなくなることを嫌がったのだと思うが、そこにこだわって修正がだいぶ遅れたのはカップ戦を見据えると悪い意味で気になるところである。それなりにシステムを組んでいる守備を遂行するときは、小林のように1人がその原則を放棄すると(例えそれが理に適った判断だったとしても)後方に迷いを生むという事例もなかなかにサッカーが複雑であることを思い知らされたなと感じた。

試合結果

2023.9.29
J1 第29節
川崎フロンターレ 2-3 アルビレックス新潟
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:23′ ジョアン・シミッチ, 76′(PK) 山田新
新潟:30′ 鈴木孝司, 59′ 新井直人, 80′ 太田修介
主審:岡部拓人

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