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「あらゆる引き出しを開ける」~2022.8.31 プレミアリーグ 第5節 アーセナル×アストンビラ レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■ロコンガの課題は解決したのか?

 前節のフラム戦を欠場していたトーマス、ジンチェンコに加えて、フラム戦でトーマスに代わってスタメンを務めていたエルネニーも離脱。好調なチーム状況とは裏腹にチームに怪我人が増えて出しているのはやや気がかりなアーセナル。

 そんなチーム事情も相まって、先発には毎節今季初スタメンとなる選手が並んでいる状況である。今節で言えばロコンガ。昨シーズンは不安定な一年を過ごした彼がどのようにこの試合でスタメンを務めるかはアーセナルファンの多くが気になるところだろう。

 試合はアーセナルの保持が主体となる展開ではじまった。アストンビラは相手や前線のメンバーによって4-3-3の3トップ型と4-3-1-2という2トップ+トップ下型を使い分けるのだが、この試合では前者を選択。トップのワトキンスの脇にブエンディアとベイリーが並ぶような形になっている。

 ビラの前線は横にスライドするようなタスクをプレッシングにおいて託されていた。ボールサイドにボールがある時はSBにチェックをかけて、逆サイドにボールがある時は自分のサイド側のCHまで絞るという役割である。基本的にはインサイドを封じるのが優先で大外が間に合わなければIHがヘルプにいくというのが基本的なやり方である。

 WGがボールが逆サイドにある時に絞りながら内側を閉じるという事例はないわけではない。しかしながら、アーセナルの保持はよくご存知のように左右のCHがアシンメトリーな役割を担っている。左サイドのジャカは左に流れたり前線に飛び出したりなど多様な役割をこなしている一方で、右サイドのCHはピッチの中央に鎮座し、アンカーのような役割をこなしている。

 スタメンに名を連ねるのがトーマスであろうとエルネニーであろうとそのスタンスは同じ。ジャカがどれくらい相棒を手助けするかは誰がパートナーを務めるかによって変えている感じはするが、基本的にはアンカーのロールは右のCHに任せられていると考えていいだろう。そして、それはこの試合のロコンガがスタメンの場合でも同様である。

 ビラのプレスの話に戻る。要するにこの日のビラのシャドーに託されたタスクはSBとCHの両睨みである。右に入ったベイリーは左に流れることが多いジャカ(どこの深さまで追いかけるかという問題はあるが)とティアニーを見ればいいので比較的移動距離は短くて済むが、左に入ったブエンディアはこの限りではない。

 ピッチのほぼ中央にいるロコンガとピッチの端っこにいるホワイトを両方見るのは物理的に困難である。アーセナルのビルドアップをGK経由まで下げさせることができれば、ある程度サイドを変える速度を落とすことはできるだろう。それでも基本的にはボールの方が人より速いのだからブエンディアが両者を見るというのは無理筋。後方のマッギンやディニュのフォローの速度を見ても、基本的にはホワイトのチェックはブエンディアがやっているとするのが妥当である。

 アーセナルのCHがアシンメトリーなのは何もこの試合に向けた秘策ではない。どの試合でもやっている普遍的なことである。それだけに、ブエンディアのタスクに関してはジェラードの割り振りが正しかったか検証する必要があるだろう。

 プレビューでこの試合で先発が予想されていたロコンガについては立ち位置を守ることができる選手であり、下手にボールに寄らずに中央に止まることができると述べた。

 この試合に関してはまさにそれが重要。例えば、アーセナルのボールが右サイドに行った場合、ロコンガがボールに寄るようにポジションしてしまえば、ブエンディアが両者を共に管理する難易度が下がってしまう。

 ホワイトにボールが入り、ブエンディアがサイドに流れた際に特にロコンガのマークをワトキンスが担当する様子もない。よって、ロコンガは立っているだけでフリーになる状況だった。

 プレビューでロコンガの課題は「ボールを受けるために現れるようなポジションを取ることはできるか?」と提示したのだが、この試合においては持ち場を守るだけでその課題が自動で達成されてしまう状態。よって、この試合のロコンガの立ち位置を守る振る舞いは適切。目立ちはしなかったがいいパフォーマンスだったと言える。

 その一方で自らこまめに立ち位置を動かすことでボールを引き出していたわけではないということは留意すべき。手放しで課題を解決したと喜ぶのは早い。引き続き注視していく必要がある。

 まぁ、彼がボールを触れなくてもボールが前に進めばチームとしてはそれでOKである。だが、ネガトラにおける存在感が現状ではトーマスとエルネニーに劣ることを考えると、ロコンガには保持における特筆すべき部分は求めたいところである。

■変幻自在さを前線のプレスバックと鋭さで補う

 アストンビラの守備のメカニズムによって、右サイドのホワイトまでボールを回すことができればアンカーがフリーになるアーセナル。したがって、ホワイトまでボールを回し、そこからさらに逆サイドに展開しながら攻撃を加速させるパターンを見せることができていた。

 ある程度ボールの流れが読みやすい分、ジャカは攻撃参加のタイミングは今までより測りやすかったように思う。ジャカはロコンガのサポートを低い位置で気にしつつ、高い位置まで顔を出すという役割を並行しながらこなすことができていた。この辺りはすでに今季の新しいタスクが板についてきた感がある。トーマス、エルネニー、ロコンガの異なる3人のアンカーがすでに問題なくプレーできたのはジャカの貢献が大きいのは言うまでもない。

 右サイドから左にボールを流し、マルティネッリやジャカ、ティアニーが抜け出すことでエリア内に迫っていくアーセナル。右サイドでもサカがボールを大外で受けるところからチャンスメイクを行う。マッギンのカバーが間に合ってしまう場合はマークを2枚抜きしなければいけない状況になっていたが、ディニュ1枚の時はそうした部分の負荷は軽減。サイドから突破の起点になることができていた。

 これまでのアーセナルと比べると、ボールの流れが決まっていた感があった分、変幻自在な要素は減っていた。保持でメチャクチャに振り回す感は少なかったアーセナルだったが、その分他の要素が補うことが可能なのが今の彼ら。

 この日のアーセナルが意識していたのはミドルゾーンからの攻撃の加速。バックラインでは横にボールを揺さぶりながら、ビラの組織に怪しい部分を作り出し、そこを狙って一気に加速しシュートチャンスまで迫っていく。

 ネガトラの意識の高さもこの試合で押し出された要素の1つだ。とりわけ前線のメンバーのプレスバックは強烈。アストンビラは序盤は中央でCFにボールを当てながら時間を作り、全体を押し上げるトライをしたのだが、中盤付近でボールが止まるとすぐさまジェズスやウーデゴールが飛んでくるという状況になっていた。

 ネガトラ時の優位によって、これまでの試合のようにゴールに迫る機会を十分確保できたアーセナル。31分に左サイドから抜け出したジャカをきっかけとしたジェズスの先制点だけでは物足りないくらいのチャンスの量を作り出していた。

■怒りと呆れのTLを塗り替えたマルティネッリ

 迎えた後半も引き続きペースを握ったのはアーセナル。アストンビラはほとんどチャンスを迎えることができなかった前半を受けて、全体的にプレスの重心を上げて対抗する。シャドーの低い位置のタスクの色を減らしながら中盤を高い位置まで持っていき、アーセナルにプレッシャーをかける。

 バックラインからじっくりと左右に揺さぶる機会を減らしたアーセナル。だが、ロングボールの的があるのは彼らにとっては心強い。自陣からのビルドアップが制限されたとしてもマルティネッリやサカに長いボールをけることができれば問題なく前進は可能。アストンビラがプランを変えてきたとしても、柔軟に対応できるのが今のアーセナルの強みである。

 前半ほど試合は支配的にはならなかったが、それでもリードはしているし、追加点が入りそうな匂いを醸し出しているのもアーセナルの方。途中交代の冨安も問題なく試合に入り、オーバーラップでも存在感を見せるなどパフォーマンスは上々。あとは追加点を待つのみという形だったが、次のゴールが入ったのはアストンビラの方だった。同点ゴールはセットプレーから。ドウグラス・ルイスのCKは直接アーセナルのネットに吸い込まれた。

 CKが直接ゴールインするというレアさも相まって、カマラに抑え込まれたラムズデールが必死にボールを弾こうとしている様子はなんか別のスポーツを見ている気分だった。アーセナルファンからするとファウルをとってくれよ!と言いたくなるシーンなのは間違い無い。何かできるとすれば冨安かジャカがニアで弾き返すことくらいだろうか。軌道的にジャカはちょっと厳しいかもしれないけども。

 だが、今のアーセナルは殴られても殴り返せるのである。「なんでファウルとってくれないの?」「VARは何の仕事をしているんだ!」という呆れと怒りのTLをすぐさま歓喜に変えたのはマルティネッリ。長いボールを収めて逆サイドに展開すると、サカのクロスに飛び込んで勝ち越し。キャッシュはあまりにも簡単に彼のマークを空けてしまった。

 終盤はゲームクローズに向かうアーセナル。すでにお馴染みとなったホールディングと同じく前線に入ったエンケティアもすでに頼りになるクローザー。体を相手に当てることを厭わず、疲れ切ったDF陣を簡単に振り切ることができるスピードも有している。陣地回復役としては100点で完璧な仕事をしたと言っていいだろう。

 終盤は危なげない対応で逃げ切りに成功したアーセナル。これで18年ぶりの開幕5連勝を達成。全勝で次節はオールド・トラフォードに乗り込むことになる。

あとがき

■数試合はジェラードの正念場になる

 アストンビラは不可解な前線のプレスのタスクなど、ジェラードの監督責任は大きい試合のように思える。ジエゴ・カルロスの負傷など情状酌量の余地が全く無いわけではないが、現在の停滞感の理由の全てをそこに求めるのは少し無理がある。兆しが見えない戦いをこのまま続けていると、ジェラードの受ける圧力は強くなるばかりだろう。ここから数節は踏ん張りどころとなる。

■タフな状況に募る不安と期待感

 メンバー変更やプランを変えながら主導権を握ることができたアーセナル。決定力不足に対する解決策はより多くのチャンスを作るしかないと個人的には思っているので、あらゆる引き出しを開けながらチャンスを作る隙を探しまくる今のアーセナルのスタンスは好感が持てる。

 トーマス、ジンチェンコ、エルネニーに加えて、この試合ではラムズデールとウーデゴールの容態にも不安が残るが、今のチームにはこの苦境をどう乗り越えるのだろう?という期待も少しある。もちろん、みんなが健康にプレーしてくれることが一番なのだが、タフな状況を乗り越える強さは近年のアーセナルが求めてきたものでもある。その強さを手にできるかもしれない期待感が今のチームにはある。同じ気持ちのファンは自分だけでは無いはずだ。

試合結果
2022.8.31
プレミアリーグ 第5節
アーセナル 2-1 アストンビラ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:31′ ジェズス, 77′ マルティネッリ
AVL:74′ ルイス
主審:ロベルト・ジョーンズ

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