MENU
カテゴリー

「柏も真似できるかもしれない」~2023.12.3 J1 第34節 サガン鳥栖×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

あわせて読みたい
「攻撃の雛形の有用性」~2023.12.3 J1 第34節 サガン鳥栖×川崎フロンターレ プレビュー 【Fixture】 明治安田生命 J1リーグ 第34節2023.12.3サガン鳥栖(13位/9勝11分13敗/勝ち点38/得点43/失点46)×川崎フロンターレ(9位/13勝8分12敗/勝ち点47/得点50/失点45)...
目次

レビュー

追い込まれた右サイドのビルドアップ

 ミッドウィークに突破のかかったACLを戦い、1週間後には天皇杯のファイナルを控える川崎。リーグの最終節である今節は節目ではあるが、重要な試合に挟まれた谷間のような試合でもある。

 ACLのメンバーで押し切る算段も考えられた今節ではあったが、川崎はメンバーを大胆に入れ替える判断に踏み切る。ジェジエウ、遠野、そして前線の3人と5枚のメンバーを入れ替えてこの試合に臨むこととなった。

 鳥栖のメンバーを見てみると、堀米と森谷がベンチ外で中盤セントラルができる手塚と藤田は両方スタメン。樺山、横山、河田、西川などベンチにはアタッカー色が強い人間が揃っており、やや中盤が手薄な感じはした。

 試合はボールを持つ川崎に対して、鳥栖がプレスをかけるスタートとなった。トップ下の手塚は富樫との縦関係を崩さずにアンカーをマーク。中盤セントラルのかみ合わせを優先して戦っていく。

 こう書くと1トップの富樫のみが川崎のDFラインにプレスをかけているかのように思うかもしれないが、実際にはLWGの岩崎がジェジエウの右足側からプレッシャーをかけるのが鳥栖のプレスの特徴だった。

 というわけでフリーになるのは山根。岩崎のマークを受けない彼のところから川崎は前進したい。実際のところ山根はジェジエウに岩崎がついている状態であれば、確かにフリーでパスを受けられそうである。だが、実際のところはパスが出れば鳥栖の守備は左右にスライド。中盤がボールサイドにきっちり追い込むことで川崎の進行を縦方向に限定する。

 こうなると川崎のパスは岩崎のところをジェジエウが超えたとしても、その先が見えていることになる。山根のところにチェックをかけて、その先のパスコースを縦に限定し、宮代のところで奪いきるのが鳥栖の青写真だろう。

 これを裏切ることができたのはボールを受けに降りてきた宮代がインサイド側に旋回したケースくらいだろう。逆サイドという目線の変え方で鳥栖を裏切れなかった川崎は縦にパスワークを限定されてしまい、ボールを刈り取られつつあった。

 いつもの川崎と違ったのは山根の立ち位置がいつもよりも低く、インサイドとのレーン交換をほぼ行わなかったこと。元をただせば、ジェジエウがあまり幅をとれずに山根を押し上げられなかったことが大きな要因だと思う。

 山根はその位置に立っていればなんとなくフリーで受けられそうだし、気持ちはわからないでもない。宮代がそれに伴い縦に抜けるよりも低い位置で降りてくるのもわからなくはない。

 ただし、宮代は家長ではないので、ボールを預けても失わない保証はない。よって、宮代が降りてきても後方からのフリーランで支援するケースは非常に少なかった。

 解決策としてはソンリョン→山根のパスを通すか、ジェジエウがインサイド側にパスを差し込み、中盤を経由して山根へのスライドを抑制するかしかない。できるのであれば、後者の方がいいが、岩崎が外切りというよりはやや縦を切っていたことを踏まえると少し難しいかもしれない。となると鳥栖にとってはジェジエウ→山根へのパス自体はある程度織り込み済みだった感はある。

 ジェジエウだから仕方ないといえばその通りだし、宮代は家長ではないのも確かである。だが、まぁその状況に甘んじて何もできなかった感もあるし、山根はフリーでボールを持てても強引なパスやドリブルが多かったので、その日できることにもあまり手を付けてなかった感はある。トップが小林であり、ロングボールで逃げ場を作れなかったことは確かだが、来季以降にダミアンがいる保証がないのであれば、こうした状況への対応力の低さを露呈してしまったのは課題といえるだろう。

研究済みのビルドアップへの対策

 川崎に比べると鳥栖のビルドアップはかなり川崎のプレスを研究していたように見えた。WGをCBで前に引き出すという部分は川崎と同じ。異なっていたのはFWに対するフォローの仕方である。

 川崎のWG(宮代)が前に出ると鳥栖のボールサイドのMF(手塚)がサイドに流れて、SBを押し上げる。ポイントはこの手塚の動きと同時に鳥栖のWG(岩崎)が裏を狙うことである。

 川崎のプレスを考えると宮代の背後のケアはIH(脇坂)もしくはSB(山根)の仕事。だが、手塚のポジションの選手はほぼ決め打ちでサイドに流れているので、脇坂のフォローに対して先手を打てる。

 さらに山根は背後を狙う岩崎と手前にいる菊地の二択を迫られることになる。そもそもサイドに流れる手塚に対しても脇坂の対応が遅れているので、川崎は山根と脇坂がかぶる形で手塚にアプローチをかけるケースもあった。

 こうなると、だいたい後方の岩崎はフリーになる。序盤から左サイドで岩崎とジェジエウのマッチアップを作ることができたのは鳥栖の狙い通りだろう。ジェジエウをサイドに引っ張り出すことができれば、ボックス内の高さの脅威は減る。スムーズにクロスを合わせることができればチャンスにはなる。

 仮に縦に抜けきれなかったとしても、川崎のIHをサイドに引き出すことには成功しているので、鳥栖の中盤はフリーになっている可能性が高い。宮代が内と外のどちらを切るかをあまり整理できている感じはなかったので、鳥栖としては縦が無理ならば、中盤を経由して逆サイドという判断も十分に見える格好となった。

 動きの整理のされ方を見ると、川崎のビルドアップは鳥栖のプレスへの対症療法としてひねり出された感があったが、鳥栖のビルドアップは川崎のプレスの先を行っていたように思えた。この辺りはこの試合の準備の差を感じる部分だった。

 その一方でこのビルドアップの精度の差をそのままチャンスに結びつけられた感がなかったのは鳥栖にとっては残念だった部分。ハードなリハビリをこなすように精力的に動き回ったジェジエウを交わすのには苦戦していたし、浮かし気味のファーへのクロスは山村の壁に跳ね返された感がある。アタッキングサードにボールを運ぶところまではデザインが見えた一方で2人のCBを越えるという部分に関してはシンプルに挑んでうまくいかなかったのが目立ったように思えた。

 川崎の守備を見ていて少し意外だったのは先に挙げた鳥栖のビルドアップのメカニズムが、川崎の左サイド側ではあまり見られなかったこと。長沼は岩崎ほど爆発力があるわけではないが、裏への抜け出しがうまい選手だし、対面が登里であることを踏まえれば十分にミスマッチを作ることができる。さらには後方のCBのカバー役は山村なので、ジェジエウに比べれば可動範囲が狭く、よりクリーンなサイドの突破が期待できるはず。

 だが、実際には鳥栖の上記のメカニズムは川崎の右サイド側の方が頻度は高かった。考えられる理由は難しいが、1つはWGの瀬川がプレスを自重することでサイドのズレを発生させなかったことが挙げられるだろうか。もう1つはより推測の域を出ないが、鳥栖のこちら側の後方のユニットのプレス耐性に不安があるか。

 ちなみに瀬川と宮代のサイド交換の理由は鬼木監督のコメントから推測するに、保持の側面が大きいようだ。瀬川は宮代と比べると背負って落として、もう一度裏に動きなおすパターンを頻発していたので、手前から旋回を狙う宮代よりもDFラインを縦に揺さぶることを重視するという判断なのだろう。左に移ってからの宮代は右からのクロスに合わせるセカンドストライカー的なタスクと大外に開いての仕掛けを使い分けるなど、右よりもアタッカー的なタスクになっていたことも悪くはなかったように思う。

鎮静化の先に待ち受ける停滞感

 前半の終盤に橘田がボールを持った際にCBラインの間に落ちる動きを繰り返したことで、鳥栖のプレスは鎮静化。前半途中以降は橘田が立ち位置を守ったとしても、岩崎が前に出ていくアクションは格段に減った。

 一方の川崎も前半の流れを踏まえて、後半はWGがDFラインにプレスに行くことを自重。よって、後半は前半よりも攻守の切り替えが少なく、保持で何ができるかが問われる展開に振り切った感がある。

 というわけで落ち着いたDFラインからどのように状況を変化させるかが両軍にとっては重要なポイントになる。前半の形が少しずつ使いにくくなってきた鳥栖は縦関係形成からのレイオフなど中盤の選手の位置関係の工夫で解決する姿勢が見られるように。

 一方の川崎は前半に後方からの配球役に専念していた山村のサイドの後方支援や、左IHの遠野の逆サイド出張など、そこにいないはずの人がいる!的な発想でサイドに+1を加えていくという発想から攻勢に出ていく。

 ただし、アタッキングサードにおける物足りなさは両軍ともに健在。鳥栖は奥を取った後にペナ角付近からファーを狙うクロスを上げていくがややワンパターン。山村の高さがネックになり、解決策になり切ることができない。それであれば同サイドの裏を取ってマイナスのクロスを入れ込みたいところである。

 一方の川崎も撤退ベースの鳥栖の守備攻略に手ごたえがない状況。サイドで枚数を合わされた状態を打開する術は持ち合わせておらず、前線が個人で踏ん張るしか手がない状況が両チームとも続くように。西川や山田がそれぞれ裏抜けからチャンスを作ったのはある意味象徴的な流れといえるだろう。

 終盤に押し込むことに成功した川崎はゴミスをトップに置く4-4-2にシフト。鳥栖のバックラインに再びハイプレスをかけていく。鳥栖はサイドに振ってから河原をフリーにできれば成功だし、そのプロセスを踏まずに強引に縦にボールをつければロストという感じ。90分を通して展開は一進一退だったと。

 結果的に勝敗を分けたのはセットプレーだった。瀬古のCKはニアの山を越えなさそうなものではあったが、これが幸運にもオウンゴールを誘発。後半ATに入る直前に川崎が先制点を奪う。

 やや難しい内容ながらもなんとか先制点を手にした川崎。最後のゴミスのチャンスが得点に繋がればなんとなく大団円の雰囲気にもなったが、シュートはイルギュの正面に。

 3年間勝てていなかった駅前不動産スタジアムでようやく勝利を飾った川崎。シーズン最終節を勝利で飾り、3試合無失点で天皇杯に臨むことになる。

あとがき

 内容的には打開策のなさと出なかったダミアンやマルシーニョの偉大さを感じる試合となった。とはいえ、もうここまで来たらやるしかないのであと1週間いい準備ができることを願っている。ただ、鳥栖の前半に見せたビルドアップは人選的にもフォーメーション的にも柏はトレースできそうな予感はする。この日はほぼ見せられなかったショートパスからのビルドアップにおける逃げ道はもう少し模索しておきたい。

試合結果

2023.12.3
J1 第34節
サガン鳥栖 0-1 川崎フロンターレ
駅前不動産スタジアム
【得点者】
川崎:87‘ 日野翔太(OG)
主審:山下良美

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次