Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第27節
2022.8.27
川崎フロンターレ(4位/13勝4分6敗/勝ち点43/得点38/失点27)
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鹿島アントラーズ(3位/12勝8分6敗/勝ち点44/得点38/失点32)
@等々力陸上競技場
戦績
近年の対戦成績
過去5年の対戦で川崎の9勝、鹿島の1勝、引き分けが5つ。
川崎ホームでの戦績
直近10試合の対戦で川崎の6勝、鹿島の2勝、引き分けが2つ。
Head-to-head
近年の戦績は圧倒的に川崎が優位。公式戦において12試合無敗で、直近8戦で7勝。今季のカシスタでの試合に置いても川崎が勝利を飾っている。
鹿島が最後にリーグで川崎に勝利したのはちょうど7年前。得点者にはカイオ、金崎、赤﨑と懐かしい名前が並ぶ。ちなみに鹿島の3点目をアシストしたのは山村和也である。
ホーム、アウェイに関わらず川崎が優位なので、川崎ホームにおいてにおいても戦績は川崎が有利。ただ、それとは別方向で興味深いデータもいくつか。川崎がホームで鹿島に勝てなかったのは2019年が最後、それより前は2016年、2015年となる。つまり、2015年以降で川崎が等々力で鹿島に勝ったのは2017年、2018年、2020年、2021年。これは川崎がリーグで優勝した年と完全に一致する。
もう1つ。鹿島は等々力では9回連続1得点を取り続けているということ。クリーンシートでの負けは2009年のナビスコまで遡っており、少なくとも等々力においては黙ってやられるケースはないということである。
スカッド情報
【川崎フロンターレ】
・足首を負傷し、福岡戦で途中交代したレアンドロ・ダミアンは検査結果待ち。
・ふくらはぎの負傷で6週間の離脱した大島僚太は全体練習に復帰している。
・韓国メディアによるとチョン・ソンリョンは身内の不幸により今週韓国に一時帰国した。
【鹿島アントラーズ】
・常本佳吾は左膝内側側副靱帯損傷で8週間の離脱。
・林尚輝は右大腿二頭筋損傷で8週間の離脱。
・ディエゴ・ピトゥカは出場停止から復帰。
予想スタメン
Match facts
【川崎フロンターレ】
勝てば今季2回目のリーグ戦3連勝。1回目の3連勝は5月のもの。清水、福岡、柏をいずれもクリーンシートで下している。
前回の3連勝時と比べて今のチームは撃ち合い傾向が強い。クリーンシートは直近13試合の公式戦で2回だけ。天皇杯の札幌大学戦と試合の大半を10人で戦ったG大阪戦だけである。11人のプロカテゴリーのクラブ相手のクリーンシートは5月のアウェイ鳥栖戦まで遡ることになる。
一方で得点が増えているのは心強い。6月以降の公式戦11試合で26得点は明らかに増加傾向。5月以前の国内での公式戦が17試合で20得点だったことを踏まえれば明らかにペースは上がっているといえるだろう。
チームの得点力増加の象徴になっているのが福岡戦でハットトリックを達成したマルシーニョ。6試合で6得点を挙げており、得点頻度は大幅に上昇。これ以前の6得点には28試合を要しているので直近のペースはかなり急激な増加傾向である。鹿島戦にはめっぽう強い家長との両翼でACLでリーグ戦を消化できていない横浜FMとの差を少しでも詰めておきたいところだ。
【鹿島アントラーズ】
リーグ戦では直近7試合で1勝のみ。監督交代を挟んでいるとはいえ、エースの上田綺世の退団以降明確に勝ち点が伸び悩んでいるといっていいだろう。
直近のアウェイゲームは3戦未勝利。直近2試合は今節の川崎と同じく神奈川勢とのアウェイゲームで勝ち点3を取り逃がしている。
今季の鹿島が勝ち点で突き抜けられないのは同格以上との直接対決の戦績の悪さに尽きる。横浜FM、広島、川崎とのここまでのリーグ戦5試合は全敗。この5試合で鹿島は1得点すら挙げることができておらず、逆にすべての試合で複数失点を喫している。力の見せどころである直接対決でいいところを見せられていないのが苦戦の大きな要因だ。逆にボトムハーフ相手には14戦無敗(W9,D5)と圧倒的な成績を残している。
得点は大きく後半に偏っている傾向が。前半の21得点に比べて、後半は42得点と倍増。先制点を挙げた試合は無敗で湿りがちな前半をリードで迎えれば大幅に勝率は上がる。
ここにきて得点で存在感を出しつつあるのはエヴェラウド。好調だった2020年の後半戦に比肩する形で得点のペースを徐々に上げてきている。新監督ながらすでに川崎と対戦済みの岩政監督が等々力で勝利を挙げるには得点源であるエヴェラウドの奮起が不可欠になるだろう。
予習
第24節 広島戦
第25節 福岡戦
第26節 湘南戦
展望
■岩政監督が定めた方向性
岩政新監督に就任して今節の川崎戦が3試合目。だけども、川崎との対戦は2回目。シーズンのちょうど折り返しでレネ・ヴァイラーは解任となったが、川崎との2022年の対戦はどちらも岩政監督が指揮を執るという少し不思議なめぐり合わせとなった。
横浜FM、広島戦とヴァイラー時代の戦い方もチェックしてみたが、岩政監督の戦い方は基本的にはマイナーチェンジの範疇に収まっているといえるだろう。ヴァイラーどうこうというよりも、鹿島の夏以降の苦戦は当然得点王ペースでゴールを量産していた上田綺世の退団によるものが大きい。自由にチャンスメイクに奔走する鈴木と、ゴール前でスコアラーとして特化した仕事をするという今季の鹿島の連携が壊れてしまったことが一番のダメージである。
代わりのFWを入れる形が最もスムーズではあるのだろう。だが、エヴェラウドの不調や染野の退団で代わりに出番をもらえるFWもいなかったというのが鹿島の頭が痛いところであった。
ヴァイラーからバトンを引き継いだ岩政監督が取ることができる手段は大きく分けて2つである。分かれ目になるのは鈴木の取り扱いである。上田がいなくなり、鹿島でゴールを量産できる最右翼といえるのは鈴木一択。その彼にどのような役割を託すのかが重要なポイントになる。
1つは彼自身をゴール前に固定し、異なるチャンスメイクの手法を検討することである。そしてもう1つは鈴木の自由な動きを生かしながら周りがそれに合わせる形を取ることである。
ここまでの試合を見る限り、岩政監督が選んだのは後者の方針といえるだろう。全局面に関わろうとする鈴木を肯定し、周りがそれに合わせることでチームを構築する方向性である。グラウンダーでの縦パスが増えたなど、内容面でも変化がないわけではないが、最も大きな変化(というか整理?)はこの鈴木の王様システムの構築に舵を切ったことといえるだろう。ズレやタメなど、崩しのキーポイントが彼に集約されているのが今の鹿島である。
2列目は土居、仲間、カイキなどがここまでは多く起用されている。彼らに求められることはとにもかくにも前線への飛び出し。ピトゥカがいた福岡戦などは大きな展開を受けるためにサイドに張り出すこともあったが、基本的には鈴木が出かけてしまった前線の穴を埋めるのが優先。サイドでの連携よりもダイレクトにゴール前に出ていくことが多い。
それであれば、これまでのようにFWを鈴木と別に用意するほうがベターでは?となるのは普通の帰着点である。そういう意味でエヴェラウドの復調やエレケの加入がもたらす意味は大きい。
また2列目の人選に関しても連携からのスマートな抜け出しよりもゴリゴリとした粘りが求められることが多い。湘南戦では前半の土居よりも後半の和泉の方がしっくり来たのは求められるキャラクターの違いのように思う。
守備に関してはなかなか整備が進んでいるとは言えないように思う。前線からのプレス意識が弱いわけではないが、プレスに出た時に中盤が追随していけない場面が多くFW-MFの間のスペースが間延びしていることが多い。これが積極性ほど高い位置でのボール奪取の成果がついてこない要因といえるだろう。
特に5バックのチームに対してはWBへのアプローチへの拙さが目立つ。SHが内側に絞る影響があってか、大外のWBへのアプローチが遅れがちで大外からあっさりと運ばれてしまうことも少なくない。ちなみにこのアプローチが一番上手なのも和泉のように見えた。
中盤より後ろはサイドに流れてつぶし切る傾向が強いが、仮に逆サイドに揺さぶられてしまうとあっさりと穴が開いてしまうのも気になるところではある。左右に振られるとミンテや関川といったCB陣は後手に回りやすく、ドリブルで突破を許すことも珍しくはない。
湘南戦ではセットプレーでの競り負けも。もちろん、彼らだけの責任ではないがCBやCHにおける守備の安定性が上がってこないことは、今季の低調さと切っても切れない話であるように思える。
■2トップを中盤と切り離す
川崎はまず福岡戦のようにきっちり左右に相手を振り回す立ち上がりにしたい。それにはまずGK、CB、アンカーの4枚できっちりとフリーマンを作ることが重要。鹿島は前線のプレッシングに難があるので、2トップを置いてけぼりにしてフリーマンからボールを運ぶことをまずは徹底したい。谷口の対角フィードやシミッチが前を向ける機会を創出できればベストだ。もちろん、ついてきやすい相手であるならチャナティップがターンなどで打開に挑むというのもアリ。
逆にバックラインでオープンに持てる状況を作らずにアバウトな展開に傾倒すると鹿島としては得意分野に。サイドにきちんと展開するためにバックラインでフリーマンを作るボールの動かし方ができるかは最重要ポイントといってもいいだろう。
左右のWGを中心としたユニットにおいては川崎が優位とみる。右サイドの家長-安西と左サイドのマルシーニョ-広瀬の予想マッチアップはどちらも川崎の方が有利に見える。鹿島からするとまずはここをどれだけ食い止められるかが重要になる。
川崎ファンにとっては福岡戦での十分な実感はあると思うが、サイドへのスライドが大きい相手に対して大きな展開で逆サイドに付けることができれば、相手はサイド攻撃を同数で受けなければならない。川崎は優位が見込めるサイド攻撃を同数で繰り出せるシチュエーションを作ることがひとまずの目標といえそうである。
SBは早い段階で高い位置を取り、相手のSHを置きざりにすることができればさらにサイド攻撃はスムーズになる。山根にはぜひともカイキを出し抜いてほしい。サイドバックには高い位置での攻撃に専念してもらうためにも、バックラインとアンカーでボールを前進させるのは重要になる。
CFはダミアンが不在となる公算が強い。コンディション次第ではあるが、タイプでいえば動きながら相手を背負える知念が先発の方がベター。小林はスペースが出来てくるであろう終盤の方が攻撃における計算は立ってくるように思う。
守勢に回るとやはり怖いのは鈴木優磨。なんでもやりながらゴールへの脅威をチラつかせるのだから恐ろしいことこの上ない。ゴールから離れることが許されるのは離れてもゴールまで再びボールを運んでくる馬力があるからである。どこの選手にもデュエルを挑んでくるので対応の仕方は非常に厄介。ゾーンで受け渡すのか、それともだれか1人が徹底的に相手を潰すのかははっきりさせておきたい。
前を向かせる前に決着をつけるべく、最終ラインがマンマーク気味に振る舞った横浜FM戦のアイデアを採用してもいい。しかし、エヴェラウドやエレケが出てくるならば、鹿島にとっては鈴木にCBをマンマークでつけることへの牽制になる。このあたりのバランス感覚は難しい。ちなみにエヴェラウド自身もサイドに流れる頻度は高い。エレケはよくわかんね。
鹿島のCBにはどこまでプレスに行くかは悩ましい。バックラインはプレス耐性は怪しく、ハイプレスをすればミスが出る可能性はある。というかそれは今年のカシスタですでに実感している部分である。
だが、バックラインのCBは割と運べないので、川崎は割り切って撤退型に切り替えて強引なパスをひっかけてのカウンターに徹するのもアリである。いずれにしても中途半端なプレスはご法度である。
これまでつらつらと書いてはきたが鹿島はタクティカルにどうこうというよりもノッた時の一体感が怖いチーム。福岡戦の2点目のゴールの喜び方、めっちゃ笑ってしまったが、勝ち越しゴールでも何かのタイトルを取ったわけでもないゴールであれだけ大喜びできるのは選手たちがうまくチームに入り込んでる証拠でもある。いや、おもしろかったけどね。
それだけの没入感があるチームに川崎へのリベンジ要素が入り込む岩政監督がいるのである。彼らは燃えているはずだ。ならば、川崎がすべきことはそこに水を差すこと。タクティカルなチームの欠陥を冷静に一個一個鹿島に突き付けながら、リベンジに燃える彼らに冷や水をぶっかけることである。