後半の攻め手の鋭さが勝利の決定打
ここまで全勝、無失点で大会を駆け抜けているなでしこJAPAN。ノックアウトラウンドの初戦の対戦相手はノルウェーである。
ロングキックが飛び交う序盤戦の流れはGSでも見られてはいたが、ノルウェーが空中戦においてこれまで当たってきた相手の比ではない強度ではないことは明らかだった。ただし、そのノルウェーも受ける方に回れば危うい部分も。特にボックス内での対応は不安定な部分も多く、日本にもチャンスがありそうな立ち上がりだった。
時間の経過とともに試合は日本がボールを持つ時間が長くなるように。ノルウェーはボール保持時においてはアンカーのエンゲンが最終ラインに組み込まれる5-4-1でブロック守備を組む。
日本はブロック守備攻略のフェーズに移行。まず存在感を出したのは左サイドの攻撃。ブロックの外目に宮澤がボールを持ちつつ、ハーフスペースの走り込みを囮にカットインからシュートまで持っていく。オフザボールの動きを生かしたところからカットインでブロックを切り崩しながらシュートの隙を窺う。
ライン間にスペースが出てきたら田中美南がポストから逆サイドへの展開というパターンも。日本は左サイドをベースとしたユニット攻撃とCFからの逆サイドへの揺さぶりという形でノルウェーの守備を揺さぶっていく。
ノルウェーはロングボールから陣地回復を狙って行きたいが、ロングボールはCHとCBに挟み込まれてしまいなかなか起点にできず。この辺りは前に出ていく仕事とプレスバックを高次元で両立している長谷川の働きが非常に光る部分でもある。
先制点を決めたのは押し込んでいた日本。攻撃の軸の1つである左サイドからの宮澤のカットインの形からシュートまで行った結果、オウンゴールを誘発することに成功。運もあるが、カットインしてシュートを打つスペースを作り続けた結果と言えるだろう。
しかし、ノルウェーはすぐに同点に。右サイドからのクロスをレイテンが叩き込んで振り出しに戻す。日本はハンセンのドリブルの加速を許したのが誤算。カットインの過程で遠藤→中盤へのマークの受け渡しがうまくいかなかったことで、サイドのケアが後手に回ってしまった。レイテンのフリーになる動きにも惑わされたと言えるだろう。
同点弾以降はペースはノルウェーに。CFのハウグを生かしたレイオフやそれを囮にしたライン間への楔から反転で前を向く動きを増やし、日本を押し込んでいく。日本は保持に回った局面での動きの積極性は変わっていないが、ノルウェーに攻め筋が見えるようになったのは0-0からの変化であった。
後半、ノルウェーは少しずつボール保持を増やしていくトライでスタート。アンカーのエンゲンやIHのリサが降りていく動きを見せつつ日本の保持の時間を削っていく。
しかしながらGSの日本を見るように持たれる局面からも得点を奪うことができる。宮澤がカウンターでの脅威を突きつけたのはその典型例だ。
両チームとも攻め筋が変わっていく中でゴールを決めたのは日本。押し込んだところからのカウンタープレスから清水がネットを揺らす。一見相手のエラーに漬け込んだ失点のように見える。だが、押し込む過程で左サイドでのハーフスペースへの抜け出し、田中美南のポスト、長谷川の攻め上がりと行った日本らしい攻め筋が多く詰まっているのは見逃せない。個人的には今大会の彼女たちのゴールはかなり再現性が高いものが多いと思っているが、この試合の2点目も例外ではないと言えるだろう。
攻めに転じたいノルウェーだが、ブレイクスルーがない状態が続き、試合はここから膠着状態に。CFとしてサビクを追加投入し、早い段階でボックスにボールを入れるタイミングを早くしていく。
日本もトップに植木を入れることで主導権を引き寄せにいく。プレスの旗頭と保持における裏抜け役として植木は十分なアクセントになった。
日本はカウンターから追加点。藤野のパスから宮澤がゴールを決めて試合を決定づける。このシーンも植木のニアへのフリーランが効いており、なでしこらしいフリーランでのスペースメイクが光ったゴールと言えるだろう。もちろん、決め切った宮澤の決定力はいうまでもない。
終盤はノルウェーのパワープレーに対して、苦しむ場面もあったが、山下のファインセーブを中心になんとか乗り切ることに成功。後半に攻めの鋭さで上回った日本がノルウェーを下し、ベスト8に駒を進めた。
ひとこと
強い日本のここまでの大会の出来にはケチのつけようはないが、ノルウェー戦は空中戦でアドバンテージが取れる相手への気になるところを見せた試合と言えるだろう。攻撃においても豊富なオフザボールの動きが大きな土台となっている節があり、大会が進んでいくダメージが出やすそうなスタイルであることは気になるところ。
試合結果
2023.8.5
FIFA Women’s World Cup Round 16
日本 3-1 ノルウェー
ウエストパック・スタジアム
【得点者】
JPN:15′ エンセン(OG), 50′ 清水理紗, 81′ 宮澤ひなた
NOR:20′ レイテン
主審:エディナ・アウベス・バチスタ