保持での良さが出ず高さに屈する
今大会初めての失点を喫しながらもノルウェーを撃破したなでしこ。続くベスト8では引き続き北欧勢であるスウェーデンと相対することとなる。
立ち上がりこそショートコーナーからトリッキーなセットプレーを見せた日本だったが、基本的にはスウェーデンが押し込む立ち上がりだったと言えるだろう。左SBであるアンデションが高い位置に出ていく3-2-5への変形からポゼッションをしていく。
日本は高い位置からプレスの阻害をしにいく。長野のインターセプトからカウンターに出ていけば場面は非常に理想的な追い込み方。サイドにボールを置いたときに一気に圧縮をかけてボールを奪いにいく。しかしながら、こうした理想的なボールの奪い方ができた場面は少なかった。
その理由としてはスウェーデンの保持のスキームが確立していたことが大きい。CFのブラックステニウスにはそこまで積極的にボールを入れはしないが、立っているだけでDFラインの高さを決めることができるほどのハイタワー。彼女を基準にすると日本はどうしてもDF-MFの間が空いてしまう。
スウェーデンはここのスペースを狙い撃ち。ライン間のスペースに2列目が積極的に入り込みターンをするスペースを創出。最終局面は高さでアドバンテージが取れるのでシンプルなクロスでOKというところもあったし、間延びしたライン間で横パスを繋ぐことで揺さぶれる場面もあった。間だけでなく、裏を狙う駆け引きもできていた分、日本は狙いを絞りにくかった。
ゴールに迫る形を作れるスウェーデンに比べると日本は非常に苦労したと言えるだろう。男子顔負けの4-4-2での固さを見せるスウェーデン。高い位置からのプレスも忘れず、特にボールサイドに積極的に顔をだすアスラニの存在は厄介。
司令塔の長谷川もスウェーデンのCHコンビが積極的に封殺することで時間を与えない。いつもであれば通るはずのパスもスウェーデンの高さに阻まれることもあり、なかなか思うように日本はパスを繋ぐことができず。いつもであればフリーランからの選択肢の多さで相手を圧倒するのだが、この日の日本は確率が高いルートをなんとか捻り出すようなパスワークだった。
日本は高さでのアドバンテージがないので、ある程度クロスを上げる前にサイドのズレを作る必要がある。宮澤→清水のサイドチェンジや田中美南のサイドへの流れてのチャンスメイクなどの工夫はあったが、スウェーデンに比べるとチャンスの供給は苦労したと言えるだろう。
押し込むスウェーデンはセットプレーから先制。CBのイレステトが押し込んでハーフタイム前に先手を奪う。
それ以降もアスラニがミドルで脅かすなど、日本にとっては辛い展開。山下のビッグセーブがなければ前半で結果が決まってもおかしくはなかった。
後半も日本は苦戦。自分たちは前進のルートを掴めず、相手は前進をスイスイ行うという状況は変わらず。間延びしたライン間を使うことでスウェーデンは日本を脅かし続ける。
するとセットプレーからスウェーデンは長野のハンドでPKを獲得。大きな追加点を奪うことに成功する。
この2点目以降はスウェーデンはプレスラインが下がり、ボールを持つことができた日本。60分過ぎからは少しずつ押し返していく。やはりキーポイントになるのは清水。積極的なオーバーラップからエリアに迫り、スウェーデンにラインを下げながらの対応を強いる。
ただし、日本は全てがうまく行っていたわけではない。ボールが相手に渡れば奪い返すのにコストがかなりかかるのと、日本のロングパスによる大きな展開はことごとく長い方向でミスになっていたのがその要因。おそらく後者は相手の高さを考慮した分、奥に落とす工夫をした結果、シンプルに長くなってしまったということだろう。
それでもジリジリと押し込むことで少しずつペースを引き寄せる日本。70分手前にはようやく長谷川のらしいエリア内への侵入が見えたし、スウェーデンのラインも間延びするように。左サイドでは1on1ができる遠藤が入り、日本は総攻撃に仕掛けに行く。植木がPKを決めることができれば、さらに日本にペースは傾いたはずだ。
日本はATに入る前に林のゴールで1点差に迫るが、後半追加タイムはややガス欠感が否めなかったと言えるだろう。スウェーデンの固さの前に屈してゴールに近づくことができず。なでしこの旅は準々決勝で幕を閉じることとなった。
ひとこと
やはり、保持に回った時に日本の良さが出なかったのが大きかった。これまでどんな困難にもスタイルを変えることで対応していたが、スウェーデンの高さのあるインターセプトに対しては最後まで劣勢に追い込まれてしまった。それでもここまでの戦いは賞賛に値することはいうまでもない。代表としての次のビッグタイトル獲得の可能性に胸を膨らませることができる戦いだった。
試合結果
2023.8.11
FIFA Women’s World Cup
Quarter-final
日本 1-2 スウェーデン
イーデン・パーク
【得点者】
JPN:87′ 林穂之果
SWE:32′ イレステト, 51′(PK) アンイエルダール
主審:エスター・ストーブリ