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「積極策を裏返す」~2022.8.13 プレミアリーグ 第2節 アーセナル×レスター レビュー

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目次

レビュー

■広げられないけどもそれなりに

 開幕戦はクリスタル・パレスの抵抗に遭いながら、なんとか2点のリードを守り切ることができたアーセナル。今節の対戦相手は同じくブレントフォード相手に2点のリードを得ながらも溶かしてしまったレスターである。

 レスターのフォーメーションは3-5-2。開幕戦と全く同じフォーメーションである。プレビューでも述べたようにこのフォーメーションはアーセナルの4-2-3-1の形とは噛み合わせがいいとは言えない。

 具体的にはSBのスペースが空くという問題がある。ブレントフォード戦ではこのポジションの選手にボールを持たせることでミドルゾーンより後ろで踏ん張りながら守る形を採用していた。

 この試合でも基本は同じ。トップ下ロールであるマディソンはアンカーのトーマスをきっちり監視する。開幕戦と今節でレスターの違いがあるとすれば、レスターのWBが高い位置からプレッシングをかけにきたことである。

 特に左サイドに入ったジャスティンはこの傾向が強かった。ホワイトまで出ていく機会が多く、高い位置から潰しに行く意識がとても強い。一方の逆サイドのカスターニュはジャスティンほどは強いプレスに行かなかった。

 プレビューでは相手が出てこないのであれば、低い大外の位置でボールを持ちながら相手の中盤を広げたい!という旨を述べた。

 しかし、立ち上がりからジンチェンコはトーマスの隣である内側のレーンを取ることが多く、相手のレーンを広げるためのアプローチを取るのが難しかった。ジンチェンコに限らずアーセナルの左サイドの選手たちはやや窮屈になっている。序盤のアーセナルの左サイドのパス回しがやや窮屈そうだったのはそのためだろう。広げるアプローチがないまま人数をかけて密集しながら打開を狙うという非常に難易度の高い形だった。

 それでもある程度パスが回るのだから、今のアーセナルはとても調子がいいのだろう。ジャカが前線に顔を出したり、ウーデゴールやジェズスが左サイドに出てきながらパスワークに参加したりなど、ナロースペースを壊す引き出し自体は大いに広がっているように感じる。

 だが、レスターの対応の変化で徐々に状況は変わっていく。何がトリガーになったのかわからないのだが、カスターニュがジンチェンコについていく意識が徐々に強くなっていったのである。そのため、インサイドについていくカスターニュとその煽りを受けて大外を埋めるティーレマンスやマディソン!という状況が段々と生まれていく。

 立ち上がりはジンチェンコの移動に大きく陣形を変えることなく対応することができていたレスターであったが、徐々に選手が大きく移動する機会が大きくなる。その理由の1つはカスターニュがジンチェンコについていく意識が立ち上がりに比べて強くなったことが挙げられるだろう。

■押し込まれる方向性を回避したい理由

 というわけで両サイドが高い位置からWBが相手を捕まえにいくレスター。だがこの日採用した積極策には当然リスクがある。それはWBの裏のスペース。アーセナルは両WGのマルティネッリとサカに独力で勝負できる力がある。この裏のスペースの対応を3バックで賄い切らないといけない。この状況はレスターにとってありがたくはない。単純に同数で後方で受けるというのはとても危なっかしいし、フォファナがマルティネッリとのタイマンで警告を受けたことを踏まえても、分がいいマッチアップではないからだ。

 WBが積極的にプレスに来るということを利用しながら、アーセナルは前進。徐々にレスターは最終ラインのカバー範囲が広がっていくことになる。 正直、この部分はアーセナルが何か策を施したというよりはレスターが勝手に変化したところをアーセナルがうまく利用したという感じ。アーセナルにとっては状況の変化をうまく自分たちに有利に活用した印象だ。

 先制点はこのWB裏を壊す仕組みと狭いスペースでのパスワークの掛け合わせ。左サイド大外へのパスでアーセナルはレスターのバックラインを同サイドに引き寄せると、そのサイドから細かいパスワークで打開。マルティネッリとジャカの細かいタッチから、エバンスが後ろ重心になった途端にわずかなスペースで前を向いたジェズスが技ありのゴールで先制。エミレーツのファンに華麗なゴールでご挨拶に成功する。

 レスターの視点でいくとおそらくアーセナルは押し込まれると難しい相手という認識なんだろう。ブレントフォードであれば持たせてもOKではあるが、アーセナルに関しては押し込まれると困るということなのかもしれない。

 自分たちが攻撃することだけを考えれば、レスターは問題なくロングカウンターを刺すことはできるだろう。開幕戦のように相手次第では躊躇なく持たせるアプローチを行うことを実践していると考えれば、アーセナルには単純にボールを持たせる状況を作らせたくなかったのだと思う。積極策の理由は守備から逆算した色が強いと考えるべきだ。

 引いたら壊される!という意識が高い位置からのプレスを産んだのだとしたら、アーセナルからしたらしめたものである。今の好調さがもたらしたプレゼントのようなものだろう。ただ、レスターが自陣に引きこもる形が正しかったかというとそれはまた別の話。この日のアーセナルを見れば、できるだけ前で潰したい気持ちは理解できる。

 結局、レスターのプレスに明確に引っかかったと言えるのは開始直後のピンチくらいのもの。フォファナの決定機につながる流れを除けば、アーセナルはプレスを回避しながら敵陣に進み続けることができていた。相手がついてくることさえわかれば、ジンチェンコの動きは相手の基準点を見出す不確定要素になる。

 押し込む機会を引き続き掴み続けたアーセナルはセットプレーから追加点。ニアのストーン役であるヴァーディがスラしたボールをファーでジェズスが押し込んでこの日2点目を奪う。

 ヴァーディは直前に同じくCKでニアで先に触られてピンチになる場面を迎えていた。なんとか弾き返したかったはずだが、触りに切れずにフリックというアーセナルを助ける形に。幸運だったが、抜け目なくファーに顔を出したジェズスが流石であった。

■サイドに3人目が登場

 非保持ではなかなかうまく行かなかったレスターだったが、保持においては見どころは十分にあったと言えるだろう。アーセナルのプレス隊はジェズスがCBにプレッシャーをかけて、トップ下のウーデゴールはアンカーのンディディを見る形である。サイドではマルティネッリとサカが前に出ていく形で前へのプレスをサポートする。

 立ち上がりはンディディがウーデゴールの監視を離れて、時折フリーになる場面もあった。フリーになれば縦にパスは付けられるンディディ。マディソンの縦パスを引き出すスキルが高いことも手伝い。縦へのパスは通ることが多かった。ヴァーディに対してもアーセナルは序盤は腰が引ける場面もあり、中央で起点を作られていた。

 よって、ウーデゴールが中央でンディディをより監視するように。そうなってからは比較的中央を破られるシーンは抑制することができていたと言っていいだろう。

 それでもレスターはサイドから前進の手段を用意する。比較的監視の強度が緩いワイドのCBから外循環しながらのボール回しである。狙いとしていたのはアーセナルのSBの裏である。WBがアーセナルのSBを手前に引き出す役割を担い、その裏にIHが突撃する形である。

 レスターの左サイドは比較的この動きがスムーズだった。逆にデューズバリー=ホールがホワイトを惑わすようなポジションを取ることがある。その場合は裏を取る役割はジャスティンである。

 今のアーセナルにとってはあまり得意ではないシチュエーション。どのように対応したらいいかは難しいところだが、今のアーセナルの陣容で言えばCBで潰し切るのが正解だろう。それに合わせて最終ラインがスライドができるので、全体をサイドに寄せながらボールを脱出させない形を狙いたい。

 よって、今のアーセナルの最終ラインの適性として重要なのはこの横移動をサボらずにできる選手、そしてエリア内のクロス対応ができる選手という2点になるだろうなと思っている。

 話が逸れた。レスターが最終ラインの切れ目の部分を狙っていたのは間違いない。IHの裏抜け突撃はその一環であろう。前半終了間際に迎えたヴァーディのPK奪取シーンはOFRの末に取り消しという裁定になったが、アーセナルの守備陣形に対して、有効なアプローチを行うことができているという証拠である。

■解き放たれたマディソンに中央からのカウンターで対抗

 後半の立ち上がりもペースはアーセナル。ピッチを広く使いながらのパスワークでレスターの中盤を広げている。左サイドはガブリエウ、右サイドはホワイトが舵取り役となり、トーマスの横に顔を出して安全地帯を作っていく。押し込みながらのプレーの時間を伸ばしていきながら順調という形であった。

 しかしながら試合は突然動く。レスターはホワイトへのロングボールきっかけで得点のチャンスを迎える。アーセナルからするとやや慌てた対応になってしまった。ラムズデールの飛び出しは中途半端だったと言わざるを得ない。おそらく、前半のヴァーディの「あわやPK」のシーンの分、躊躇いがあったのだろう。サリバに関しては繋ごうとする意識が裏目に出た格好。連携ミスではあり、大いに反省してほしいところではあるが、試合中はその後もパフォーマンスを落とさなかったサリバのメンタリティは流石である。

 追い上げるレスターだが、直後にアーセナルが得点をゲット。守備の連携ミスはレスター側でも。右サイド、ホワイトのクロスをウォードがキャッチにいったのだが、これをファンブル。ウォードにとってはフォファナが動きの邪魔にはなったが、視野確保できている分、パンチングに判断を切り替えてでも悪くはなかったはずだ。

 再び2点差を付けられたレスターは再度反撃に出る。メンバーを入れ替え、フォーメーションも入れ替え。4-3-1-2の形で勝負に出る。トップ下に入ったマディソンは実質フリーマンだ。彼がサイドに出ることでレスターは盛り返す。

 前半の項でも振り返ったが、アーセナルのピンチとなるシーンはSB、SHで塞ぎ切れずに裏を取られてしまうこと。そのためには3人目の登場が重要であることをすでにこの記事では述べている。

 4-3-1-2においてその3人目の役となったのはマディソンである。サイドに流れたマディソンに対して、アーセナルは後手に。サイドからでも決定的なプレーができるマディソンがサイドに解き放たれたことでアタッキングサードでの精度が増すレスターであった。

 2点目はそのマディソンがニアを撃ち抜いてのゴール。解き放たれたことできっちりスコアに絡むあたり、今年のレスターはマディソンのチームになる予感がする。

 ただし、この日のアーセナルはやられたら即やり返しが基本。中盤でプラートからボールを奪ったマルティネッリによりカウンターが発動。最後は上がる時間をもらったマルティネッリが左足を振り抜いて技ありのシュート。決定的な4点目を奪って見せる。

 やり返そうと意気込むたびにアーセナルに頭を叩かれる。レスターが追うことになった2点差は最後の最後まで縮まることはなし。アーセナルが開幕2連勝を達成し、暫定2位に浮上した。

あとがき

■刺された分、刺し返す手段を携えている

 アーセナルはいい試合ができたと言っていいだろう。ナロースペースでの崩しがキレキレで相手からすると厄介である。この好調が続く限りはどこのチームにとっても簡単ではない。

 もちろん、無失点が理想ではある。攻撃は水物。このキレキレのタームが1年間続くとはとてもではないけど思えない。だが、すぐに反撃できたのは好材料。4得点目などは中央を閉じてからのショートカウンターがきっかけ。得点したこと自体も大きいが、サイドが後手に回っている分、閉じた中央から攻撃的に出たレスターをひっくり返すことができたということが大きい。

 守備陣の活躍も大きい。本文中にも述べたが、バックラインの広い守備範囲は今のアーセナルを支える大きなスキルの1つ。ラインの押し上げだけでなく、スライドも非常に重要。冨安はこの部分でのスキルが頭1つ抜けていることを踏まえれば、今のアーセナルのバックラインのカラーにとてもよくフィットしていると言っていいだろう。

 安定感という意味では難があるものの、きっちり殴り返すという部分は達成。相手の積極性を裏返し、アーセナル相手に前を出る怖さを突きつけることができたのは大きな前進と言えるだろう。

試合結果
2022.8.13
プレミアリーグ 第2節
アーセナル 4-2 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:23′ 35′ ジェズス,55’ ジャカ, 75′ マルティネッリ
LEI:53′ サリバ(OG), 74′ マディソン
主審:ダレン・イングランド

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