MENU
カテゴリー

「大島アンカーから推察する後半戦の方向性」〜川崎フロンターレ 中間報告 2022

 ここ2年と比べて、川崎は苦しんでいるといえるだろう。ACL、天皇杯ではすでに敗退しており、リーグ戦でも3位。消化試合の差こそあるが、内容も含めて納得のいっていないファンは多いはず。ちょうどシーズンも折り返しで日程も空いているので、この機会に2022年の川崎を振り返りながら、大島をアンカーとする新システムの位置づけを主軸とした後半戦の展望をしたい。

目次

【Part1】川崎が抱えている問題点とは?

■支配力低下の要因①:相次ぐ主力の海外移籍

 近年の川崎の中で低迷しているシーズンといえばということで2019年を挙げるファンは多いだろう。しかしながら、このシーズンと2022年の川崎をよく比べてみると、明らかに異なる傾向がある。

 2022年の川崎の一番の特徴はシュート数の少なさである。2019年の試合はいずれもシュート数が非常に多い。相手をシュート数で下回ったのは国内においてはたったの3試合だけ。よって、支配はしているが決めれば勝てる試合をことごとく落としたり、攻めきれずに引き分けの試合が多かった。

 2022年は勝敗に関わらず、対戦相手に比べて少ないシュート数で終わることが多い。よって、そもそも試合の流れを自分たち主導にもって切れていない節がある。定性的に見ても、自分たちが徹底的に攻め込んでも崩し切れずに勝ち点奪えなかった試合は少なく、どちらかといえば引き分けや負けに終わりそうな試合を強引にラストプレーに近い時間帯にもぎ取るような展開が増えた。

 志向するサッカー自体は昨シーズンと大きく変わっていないように見える。要は攻守のサイクルを早く回し、強度で押し切るようなスタイルだ。そのスタイルで苦しんだ理由についてまずは考えたい。

 シュートの機会が少ない一因はやはり主力の海外移籍だろう。三笘薫、旗手玲央、田中碧の3人が抜けた穴は当たり前だが大きい。高いインテンシティの試合を支配的に進められてきたのは彼らの寄与が非常に大きいことは言うまでもない。特に三笘薫は独力で陣地を回復できるドリブルを持っている。そして、あわよくば得点まで奪って帰ってきてしまうという頼もしい存在である。インテンシティの面で即座に海外組に負けない存在感を代表でも放っている3人が抜ければ困るのは当たり前である。

■支配力低下の要因②:マルシーニョへの依存

 もう1つ、試合の支配力が落ちた要因として挙げておきたいのはマルシーニョの存在である。昨年の夏に加入したマルシーニョは部分的に三笘の不在を補える存在である。裏抜けをサボらず、実直に繰り返す姿勢は陣地回復にうってつけであり、相手チームが前がかりになった状況をひっくり返せる貴重なカードである。

 個人としてもシュートスキルや、正対した相手を抜くスキルなどできることの幅が広がっている印象。三笘ほどとは言わないが、彼なりの形で川崎の新しい左WG像を作り上げているといえるだろう。

 ここで指摘したいのは彼自身の能力についてではない。むしろ、それを使うチーム側の問題である。チームが安易に彼にボールを蹴っ飛ばすことで陣地回復を狙う場面が増えたのが問題だ。

 これまでの川崎は成功率が高いプレーを積み重ねながらゴールに迫っていく形を作ることが出来ていた。長いボールを使う時も、相手の陣形が大幅にボール側に寄っていた時のサイドチェンジなど、より開けた場面にボールを展開できる算段が立っていることが多かった。それが今では五分五分か、あるいはほとんどマルシーニョがデュエルに勝利する見込みがない状況においてまで安易に長いボールを蹴るようになった。

 もちろん、マルシーニョの走力は大きな武器であり、これにより多くの勝利を手にしてきたことは間違いない。それでも、そもそもチャンスメイクを五分五分程度のメソッドにかけるようなチームではなかったはずである。彼が裏抜けできる下地を整えて、ゴールから逆算した手段として使うべきだ。

 バックラインに相手からプレッシャーもかかっていないのにポンポン前に蹴りだせば、仮にマルシーニョがデュエルを制したとしても、全体の押し上げが図れず攻撃に厚みを出せなくなってしまうのは自明だ。安易に裏に蹴ることで相手陣地に味方を送り込むチャンスをみすみすフイにしているのである。全体を押し上げずにボールだけ前に進めても、相手からすればボールを捨てているようなものである。こうした使い方ではマルシーニョのせっかくの裏抜けも有効な手段とは言えなくなる。

■支配力低下の要因③:スカッドの方向性と戦い方のギャップ

 ある意味一番気になる点はここである。鬼木監督は早い攻守の切り替えの中で持ち味を出せる人材たちが海外に行ってなお、速いサイクルで攻守を回して相手を圧倒するスタイルを目指しているように見える。

 そうする動機自体はわからなくもない。なぜならば、そうした強度を重視した方向性自体が今の川崎や海外にはばたく選手たちを生み出すことが出来たともいえるからだ。三笘、旗手、田中などはもともと質の高い選手であったが、速い攻守の切り替えを主体とするサイクルへのフィットという点では明らかに川崎に入ってから向上した部分はある。とりわけ中盤を務める機会があった田中と旗手はその色が強い。

 要は上質な選手に、負荷をかけるやり方をかけ合わせることでより高いクオリティに押し上げているともいえる。川崎はより保持で休むやり方を嗜好した方がいいのでは?と個人的に思う部分もあるが、そうした強度へのこだわりが選手の海外移籍や日本代表への多くの選手への派遣などこれまでの川崎にはなしえなかった成果につながっている側面はあるだろう。

 だが、川崎というクラブの現在地を見ると、そうしたスタイルの維持とスカッドの乖離はより大きくなっているといえる。例えば、この冬獲得したチャナティップは今までの川崎のカラーとはやや離れた選手だ。IHがどれだけ無理をできるかが強度を決める川崎のサッカーに置いて、速いサイクルを支える役割を担えるタイプではない。同じく冬に獲得候補に挙がった宇佐美も同じ。ポジションは違えど、どちらかといえば彼らは特殊能力者の部類である。

 新戦力ではないが、昨季から起用法を模索している大島も同じである。強度を決めるIHをこなすにはスプリントの回数が少なすぎるし、増やせば増やしたで負傷のリスクは高まるだろう。従来のスタイルの中でのIHは難しくなっている。

 そもそも、移籍選手以外にも今季の川崎には大きなマイナスがある。それはジェジエウの存在だ。速いサイクルを実現するには前がかりなチームのストッパーになれるジェジエウの存在が大きかった。前半戦は彼が離脱したことによって、失点の面においてもそうした速いサイクルを維持するメリットがなくなってしまったのだ。

【Part 2】6月の中断明けのサッカーの狙いは?

 そうした流れを受けて6月の札幌戦以降、川崎の戦い方は非常にドラスティックに変わった。最も大きな変化はこれまでシミッチと橘田を併用してきたアンカーのポジションに大島僚太が入ったことである。これまで模索し続けていた4-3-3の中での大島僚太の起用法の提案ということだろう。

 ではこの大島のアンカーシステムによって変わったことは何か。それを見ていきたい。

■変更点①:ショートパスの増加

 まずは単純に攻守の切り替えを誘発するようなパスが増加したことである。序列の変化からもその意識をくみ取ることが出来る。マルシーニョ、ダミアンというダイレクトな展開に強い2人の選手はベンチになり、代わりに動きながら縦パスを引き出せる知念と、大外に張る首輪をつけられたチャナティップが入った。

 マルシーニョへの裏への大きなボールやダミアンへのロングボールが減ったことによって、相対的にショートパスが増加。一度の崩しにかけるパスの数もグッと増えた印象である。

■変更点②:中央の使い方

 IHの2人はサイドの低い位置に流れながらビルドアップに参加することが多かった。ピッチの中央は空洞化し、CFを除けば特定の選手が立つ場所ではなくなったように見えた。

 その代わり、入れ替わり立ち替わりで多くの選手が入ってくる。SBの橘田や山根、IHの脇坂や遠野、そして右のWGの家長である。彼らは縦パスを受けることができる時間とスペースがあると判断した時にのみ、中央に顏を出す。時には大島自身がレシーバーとして中央の高い位置まで走り込むことがあるほど。中央を流動的に、かつ能動的に活用する意識はこれまで以上に高まったといえるだろう。

 試合を制御しながら中央に入れ代わり立ち代わり選手が入ってくるシステムは大島の鋭い縦パスを生かすという意味では十分なもののように見える。大島の良さを生かせる形にワクワクを取り戻したと試合を見た感想を述べるファンも増えたように見える。その一方でこのシステムはそうした評判ほどの結果を出せなかった。その理由は以下に述べるような問題点を解決できなかったからである。

■課題①:仕上げとなるパスの成功率

 このシステムの攻撃における最大の特徴は大島を起点とする楔を軸として中央の細かいコンビネーションを活用しながら相手の狭いスペースを引き裂いていくことである。よってこれまで以上に阿吽の呼吸や、わずかな範囲でのパスやボールタッチが重要になってくる。

 風間時代を経験したファンならわかると思うが、細かいところを崩すために難易度の高いショートパスをつないでいくスタイルは成功した時の高揚感が大きい反面、その日の選手の調子やピッチコンディション、天候に左右されることが多く、リーグ戦を戦い抜くような安定感は薄かった。縦パスをキーにした中央のショートパス打開主体のスタイルはそうした風間スタイルのエッセンスを踏襲したものになる。

■課題②:陣形の偏在化と守備強度の担保

 成功へのハードルが高いスタイルならば、避けては通れないことは何か。それは被カウンターのリスクである。中央を打開するスタイルは成功率が低いだけでなく、そのための陣形の偏在化や自由度の増加が発生する分、ロスト時の陣形がアンバランスであることが多い。

 ただでさえ不利な状況の中で、ロングスプリントに難のある大島をアンカーに抱える形では1回のロストが命取りになりえるというアンバランスさも抱えることになる。今季の課題のところで述べたように、大島が復帰した時点ではジェジエウも戦列を離れており、こうしたアンバランスさを解消できる人材がいないことで致死性のカウンターを受ける頻度は確実に上がってしまった。

■課題③:ハイプレスの持続性と陣地回復

 このスタイルはあくまで敵陣に押し込むことで成立するスタイルである。押し込まれてしまえば、撤退守備に弱い上に上背もない戦力ではただただサンドバックになるだけである。

 そうしたことを避けるために何よりも重要なのはハイプレスだ。高い位置からボールを回収し続けて、非保持でも敵陣でのプレータイムを増やすこと。それが肝要だ。しかしながら、今の川崎のスカッドにはそうした前線のプレス強度を担保できる選手が多くない。

 家長、小林は30代だし、チャナティップもそうした強度で勝負するタイプではない。質量ともに申し分ないのは知念くらいのものだろう。しかしながら、ハイプレスが効かなくなってしまうのはこのスタイルにとっては致命的。押し込まれてしまうと、マルシーニョとダミアンがいない分、自陣からの脱出すらままならなくなる。

 以上の問題から、このスタイルを90分持続する上では課題がある。1つは中央攻撃に代表される攻撃の成功率の低さ。いわば、押し込んでいる時間の「質」。そしてもう1つはハイプレスを維持できないことに代表されるように押し込んでいる時間の物理的な限界。いわば自分たちの主導権を握り続けるという意味での「持久力」である。

【Part3】今後どうするか?

 非常に残念なことであるのだが、この原稿のたたき台を作りこうして書いている最中に大島僚太の離脱が決まってしまった。この原稿は本来であれば何も書く記事がなかったPSG戦の読み物として出そうとしていたのだけど、こうしてダラダラと後ろ倒しになってしまった。

 それでもこの記事を出そうと思った理由は1つだけある。それは鬼木さんが大島を主体に据えて行ったモデルチェンジの目的が横浜FM戦の勝利に向けたものではないか?という仮説が自分の中であるからである。

 すでに述べたように大島をスカッドに組み込むことが難しいのは、川崎がこれまで強度に傾倒してきたスタイルを貫いてきたからである。大島を中心とした6月のモデルチェンジはその傾向を変更するものではないか?ということである。

 今季の上位勢は強度に傾倒しているチームが多い。横浜FM、鹿島、柏、広島。いずれもトランジッションに強みを持っているチームである。川崎が早いサイクルで殴り合いを挑んだところで勝てる公算はこれまでのシーズンに比べて高くない。

 その中でも横浜FMは特に勝算が低い相手だろう。すでに日産で経験しているように高いラインの裏を切り崩す選手はベンチも含めて複数人有している。今の彼らの得点数を見ても破壊力では川崎が歯が立たない相手とするべきである。

 であれば、横浜FMに勝つための条件は自分たちの手中で試合を進めることだ。相手の攻撃の機会を減らし、自分たちの攻撃の手段を増やす。マルシーニョ、ダミアンのようなダイレクト志向の選手を外しながら、保持率を高める試みはそうした横浜FMに対抗する手立てではないかということだ。そして、その状況は大島が離脱した今でも変わらないのではないだろうか。

 無論、上記の大島アンカー時の問題点をそのまま持ち込みながら横浜FMと対峙すれば、コロナによるスカッド事情がなくてもコテンパンにされるだろう。背後のスペースを空けながら、中央に突っ込んできてくれる状況は横浜FMからしたらボーナス以外の何物でもない。

 そんな状況を避けるための課題潰しはリーグ戦ですでに垣間見えている。例えば、C大阪戦のチャナティップの動きはその1つである。この試合IHで起用されたチャナティップは対面のC大阪のCHの選手を引き付けながら中央のパスコースを空けつつ、アンカーにポストで縦パスの機会を供給していた。

 こうした能動的に相手を動かすプレーは敵陣における攻略の難易度を下げるものになるだろう。

 相手が早々に10人になったG大阪戦では中央を固める相手にサイドからの攻撃から支配を高めた。サイドから奥行きを作り、相手を押し下げてマイナスのパスや早いクロスで攻略することは無理に中央で短いパスをつなぎながらゴールを陥れるよりも難易度は低い。

 相手が10人とは言え、無理に中央から攻め込まなくても支配しながら実効的な攻撃を打ち続けることが出来た成功体験は大きい。付け足すとこの試合はそうした無理に急がないスタイルの中でダミアンとマルシーニョを組み込めたという点でも収穫は大きい。

 正直、状況は苦しい。大島の離脱に加えて、相次ぐ関係者のコロナウイルスの罹患によって火の車となったスカッド事情。それがなくても、クオリティ向上は道半ばであるのに、週末はもう横浜FM戦である。それでも、少しずつ前を進みながら6月から歩を進めているのは確か。あらゆるものに阻まれながら進んできた足跡を、首位相手にぶつけることで後半戦の川崎の道しるべにする。自分が後半戦の川崎と8.7決戦に期待するのはそうしたことである。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次