レビュー
マンツー合戦の均衡を浅野が打ち破る
10月シリーズは二次予選前の最後の親善試合フォーカス月間。これ以降はしばらくはアジアの相手と集中して戦うことになる。今回の対戦相手はW杯前の親善試合でも対戦したカナダである。
先制ゴールは試合開始直後に。南野がデイビスの裏をとったプレーをきっかけに日本は即時奪回から波状攻撃を発動。最後は田中碧がミドルシュートを叩き込み、日本は2分で先制する。
先制点の場面は何も仕掛けがなかったため、裏を取られたデイビスの対応はあまりにもお粗末だったが、これ以降も日本はデイビス(もしくは逆サイドのWBのラリア)の背後をとるアクションは約束事になっていた。日本のビルドアップはカナダの2トップの脇に立つ選手(IHもしくはSB)が出口になることが多かった。このポジションの選手にカナダのWBがプレスにくると、カナダは前方が4-2のような形になる。
ただし、カナダはWBの出ていったスペースは埋めない。もしくは埋めるのが遅れる。なので日本はこのスペースに走り込む。毎熊がデイビスを釣り出すことができれば裏に抜ける役は伊東。伊東が降りるアクションでデイビスを釣り出すなら裏に走るのは南野といった具合に、引き寄せる役と抜ける役を作りながら日本は攻勢に出る。
逆サイドでは中村の1on1での揺さぶりや中山のオーバーラップなど、同サイドに流れる田中のサポートを借りつつ大外からラインを揺さぶる動きを作っていく。デイビスの裏を狙う作戦もそうだが、日本は開始直後から定常的に大外から揺さぶりをかけてカナダの最終ラインに後退しながら対応することを強いていた。
そんなカナダは保持から巻き返す。カナダのビルドアップはやや形が不定形。一応2-3の形が基本なのだろうが、オソリオが一列前に入る形の2-2型になったり、ジョンストンがコネを押し上げる形で中盤の一角に加わったりなど、非常に動きが多い。カナダの前線の選手はこれによって空いたレーンに入る選手が多いのだが、例えばデイビッドが左右のどちらにも顔を出していたように誰がどこを使うかはかなりランダム性が強い。中央では冨安がラリンをマンツーで抑えていたが、ここをマンツー気味にできたのはラリンがカナダの中では比較的レーンの移動が少ない選手だったからだろう。
それでも日本は撤退守備においてCHが最終ラインに入るか、もしくはSHがカナダのWBの上がりに間に合うように戻ることができれば問題はなさそう。逆に最もまずいのはカナダの右サイドに日本の中盤が引き寄せられて、逆サイドにボールを逃がされて、デイビスとマッチアップする毎熊にサポートがいない状況を作られることである。
要はデイビスに縦にも横にも行ける形を許すのはまずいということ。まさしくPKのシーンもこの構図だった(上の図ではやや単純化してるが)。
実際のシーンでは伊東が右から左に展開するパスを遮ることで相手のサイドチェンジを遅らせていたが、その後CBに追い直しをしてしまったため、結果的には上図のように毎熊が晒されることとなった。伊東は横断を遅らせるまではいい判断だったが、CBに二度追いする判断よりもデイビスのマークのために下がって一度盤面を整えた方が良かったと思う。自由をもらったデイビスはデイビッドとの連携から遠藤と冨安をニアサイドに吊り出し、大迫の飛び出しを誘発してPKを獲得。このPKは大迫自身が止めて見せたが、日本にとってはまずい進撃のされ方をされたというシーンだった。
保持からいい形を作ったカナダは非保持でもテンポを取り戻す。カナダの2トップの脇に立たれる選手から日本の保持にリズムが出ているのであれば、マンツー気味にプレスに行けばいいという判断で圧力を高める。日本はカナダのWBやIHがプレスを強めたことで徐々にクリーンな前進ができなくなっていく。
面白かったのは日本がハイプレスに苦しんだ直後に、日本もまたハイプレスからカナダを苦しめにいったこと。同じようにビルドアップの枚数で悩むくらいであれば前から捕まえてしまえということだろう。後方のDF陣がハイラインでも耐えられるという信頼があればこうした決断もできるのだろう。カナダ相手にそれをあっさりできるのはチームとしてはいい傾向のように思う。
マンツーしたもん勝ちになりつつある展開のなかで違いを見せたのは浅野。中央の起点役でハイプレスを逃す的になると、そこからの動き直しでサイドに流れてDFラインを押し下げる1人2役の動きでカナダを翻弄していく。2点目のシーンは田中碧のサポートを借りながら、左サイドでカナダの守備を破壊しデイビスにオウンゴール致し方なしの無理筋の対応を迫ってみせた。
さらには浅野はハイプレスからも追加点。カナダのDFラインからあっさりとボールを奪い切ると、中村へのラストパスを決めて3点目をアシスト。ポスト、裏抜け、そしてハイプレスとまさに前半の終盤は浅野の持ち味が全面にでた展開となった。
前線と中盤の連動の有無が試合展開に直結
後半、日本はサイドに追い込むプレッシングからリズムを作っていく。マンツー気味の前半終盤とは異なるのだが、日本の前線がカナダのサイドに追い込むアクションを皮切りに中盤の同サイドへのスライドと縦のカットで一気に選択肢を削っていくイメージ。この形から日本は中盤でボールを回収してカウンターを発動していた。
ボール保持の局面では後方から中山→浅野で左サイドの裏を取る形など、中山が後半は存在感を発揮。後半唯一の日本の得点も中山の左足から裏に放たれたパスを南野→伊東→田中と繋いだものだった。
このように日本は攻守ともにカナダを圧倒することができた後半の入りだった。時間帯ごとの出来の良さで言えば、カナダのポゼッションを袋小路に閉じ込めてからミドルゾーンで回収からカウンターに向かうことができたこの時間が個人的には一番良かったようにも思う。
日本は中村の負傷から割と長い時間10人で戦うことになったが、11人になったら優勢を回復。両軍合わせて5人が入れ替わるタイミングだったが、特に試合の流れは変わらず。日本は落ち着いたポゼッションからカナダを押し下げ、サイドの守備を間に合わせながら時計の針を進めていく。南野、伊東、毎熊でデイビスの左サイドを封じる連携も見事だった。
少し気になったのは72分の交代以降の守備だろうか。古橋と旗手の2トップはいずれも懸命にボールサイドに寄るような守備をするのだが、どうも脱出させてしまうことが多い。おそらく脱出ルートを許容したままで同サイドに追い込む動きをしているからなのだろう。プレスの矢印の背後のスペースを使われることがグッと増えるように。そして、この光景は割とセルティックのCLでも見られたりする。
最終ラインで横の移動を許しているだけなので、横断のされ方としては最悪ではないのだけど2トップのいなくなった逆サイドでは中盤が無理なチェイシングで中央に穴を開けるケースもしばしば。この辺りは2トップだけではなく、入れ替わったCHの判断も含めてバランスの見直しが必要なように思えた。日本はプレスの矢印の逆を取られながら望まない後退での対応を強いられるシーンがじんわりと増えていく。
押し下げられた日本はカナダの左サイド側からのクロスで失点。飛び出した大迫のクロス対応が中途半端になり、こぼれ球を押し込まれることとなった。
試合は4-1。またしても大量得点でW杯出場国を下した日本。終盤はやや課題を残したが、総じて上々の結果だったと言えるだろう。
ひとこと
南野、中山のカムバック組がいい意味で普通にプレーしていた辺りは日本代表の基準が引き上がってる感じがした。毎熊も前回出場時からもう一回り逞しくなっている印象で、アジアカップでのメンバー入りに一歩近づいたように思える。
試合結果
2023.10.13
国際親善試合
日本 4-1 カナダ
デンカビッグスワンスタジアム
【得点者】
JPN:2′ 49′ 田中碧, 39′ デイビス(OG), 42′ 中村敬斗
CAN:89′ ホイレット
主審:アレクサンダー・キング