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「ハッピーオーラのエミレーツ」~2023.10.28 プレミアリーグ 第10節 アーセナル×シェフィールド・ユナイテッド レビュー

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レビュー

IHが消された上での解決策

 セビージャ遠征後に迎える昇格組との一戦。後ろに控えているのはカラバオカップのウェストハムということもあり、アルテタからすればプレータイムのマネジメントの観点で非常にさじ加減の難しい試合だっただろう。

 アルテタの判断はウーデゴールとガブリエウ、そしてジョルジーニョをスタメンから外しハヴァーツ、スミス・ロウ、キヴィオルをスタメンに置くことだった。ジェズスが負傷のCFはエンケティアに強制ターンオーバー、LSBは冨安ではなくジンチェンコである。

 プレビューでポイントとして定義したIHにはスミス・ロウとハヴァーツが起用。利き足と逆側サイドにそれぞれ配置される形で起用されていた。右サイドでポジション旋回からサカをフリーにする役割を卒なくこなしていたハヴァーツに比べると、左サイドにおけるスミス・ロウのサポートはやや手探り感があったものに思えた。

 ブレイズのフォーメーションは4-4-2。能動的に選択したのか、あるいは怪我人の事情で仕方なくそうしたのかは区別がつかないので考えないこととする。

 ブレイズの狙いとしてはボールを持たせるフェーズをアーセナルに譲るのは仕方ないと考えていそうだが、ベタ引きをするのではなくてミドルゾーンで踏ん張りたいという思惑はあったはずである。ピッチ中央にコンパクトな4-4-2を敷くことが彼らの理想だ。

 しかしながら、アーセナルはWGからおしさげることに成功。アーセナルのWGにボールが入ると、ブレイズはSHとSBの2枚での対応を基本としていたので、こうなると中盤のラインは下がらざるを得ない。ライスがミドルを放つことができたシーンなどはラインが下がった中盤がバイタルを空けてしまったからといえるだろう。

 いいリズムで試合に入ったアーセナルだが、少しブレイズの守備を前に手を焼く時間に突入する。早い段階で前線に長めのボールを当てていく頻度が増えるが、ボールを収めることができず。ボールは早々に跳ね返ってきてしまう。カウンターというほどピンチに陥ったわけではないが、流れのいい攻撃を放つことができなかったのは事実だ。

 そうこうしているうちにブレイズは守備のメカニズムを整理していく。両IHにはCHがマンツーでカバーし、2トップはアーセナルのCBにはプレスに行かずに3-2の2であるジンチェンコとライスを消しに行く形である。

 この試合はブレイズのプレスがバックラインにプレスをかけてこなかったため、IHのビルドアップ関与のタスクが少なかったこともあり、ハヴァーツやスミス・ロウは相手の最終ラインにアタックをかけることが多かった。そういう状況であればソウザやノーウッドは対面の相手について最終ラインに入っていく。

 アーセナルからすればサイド攻撃のサポート役であるIHを厳しいマークで消されている状況。しかしながら、右サイドのポジションチェンジでこの状況を解決したアーセナル。サカとの関係性を作りながらサイドにノーウッドを引っ張ったハヴァーツにより、1列前にライスが攻めあがるスペースが登場する。

 完全にフリーなライスが自在なラストパスの選択肢の中から選んだのはエンケティア。間に人がいる以上、厳しい球筋のパスだったが対面のトラスティを完全に翻弄するボールコントロールで置き去りにして1on1を沈める。まさしく、プレビューで触れたブレイズの弱点である構造的には相手をマークできているが、おきざりにされてしまうという部分が出た失点シーンだった。

原則破壊のテストが始まる

 ゴールを決めたアーセナルはブレイズの守備の構造を破壊するトライを見せていく。基本的にはブレイズのこの日の原則である「ハヴァーツとスミス・ロウにCHがマンツーでついていく」ことをアーセナル側が逆に利用する攻略法が多かった。もっとも、先制ゴールのライスの攻め上がりのスペース創出にもこの原則破壊が用いられている感じはするが。

 一番カジュアルな手段として行っていたのはジンチェンコが列を上げることでフリーになることである。この日のブレイズの原則で言えば、CBを捨てて2トップが下がるジンチェンコを追いかけていくのが正しいのかもしれないが、目の前のCBがボールを持っている中で一目散に後方のケアに出ていくというのはためらいがあるのが自然なことだろう。

 お分かりの通り、IHは囮。彼らが前進に関与しないことによりジンチェンコが持ち運べるスペースが生まれるようになる。列を上げるジンチェンコを使った前進はバターに滑らかにナイフを入れるように相手のブロックの中に入り込んでいく感覚。ここは彼特有のスキルなのだろうなと思う。この発展形が35分に前線にジンチェンコがフリーで飛び出したシーンとなるのである。

 さらにはジンチェンコ、ライス、エンケティアなどがDF-MFの間に入りながら前後関係を崩すこともしばしば。ハヴァーツやスミス・ロウもこのパスワークに参加し、ノーウッドとソウザのマーカーを混乱させていた。

 アーセナルが仕掛けた移動の中で最も大胆だったのはハヴァーツを右のWGにして、左のIHにサカが入る形だろう。中盤はライスが右に出ていき、ジンチェンコがアンカーから左側をケア。3-1-6の応用系みたいな形だろうか。スミス・ロウが位置を下げつつ前方のサカとマルティネッリの2人の関係で崩すイメージ。コンセプトとしては逆サイドに登場したサカをどうするか?を相手に押し付ける格好。そこは一定の混乱をもたらすことができていたが、囮の上に後方支援役となったスミス・ロウはさらに持ち味が失われる格好となった。

 基本的に今季は昨季よりも自由度が高い配置なのは間違いないのだが、ここまで大きく配置を動かすことには驚いた。左サイドにマルティネッリとサカを置く形はストロングサイドを作るという意味では面白い試みではある。だが、囮となったスミス・ロウは完全に消えてしまったり、あるいは攻撃時の大きな移動のせいかプレッシングのラインが高く保てなかったりなど課題はあるが、テストをするタイミングとしては悪くなかったように思える。

原則破壊不要のボーナスタイム到来

 1点のリードで迎えたアーセナルの後半。サカとハヴァーツは元のレーンに戻り、アーセナルは普段着の範疇でポジションを入れ替えるスタンスに回帰した感がある。ブレイズは高い位置から積極的にプレスに行くが、アーセナルはスムーズに前進をしてこれをひっくり返していく。

 2点目は後半開始5分後のセットプレー。前半でも見られたようなGK側につっかけていくようなボールを狙い、クリアが十分距離が出なかったボールをエンケティアが打ち抜いて追加点を手にした。

 追い込まれたブレイズはさらに積極的にプレスに出てくる。だが、すでにプレビューで述べた通り、ブレイズのプレスは積極的であればあるほどDFの押し上げが効かずに中盤が間延びしてライン間が空くようになる。

 こうなれば、もう「原則壊し」のアプローチは不要。ブレイズのIHはドンドン前プレに参加するので、アーセナルのIHは通常立つべき位置に立ちさえすれば問題なく相手を壊せる情勢だった。アーセナルにとってのボーナスステージのスタートである。

 エンケティアの3得点目はもちろん見事なスキルの詰め合わせだったが、ブレイズはエンケティアに「パスを受けて」「反転を許し」「ミドルを打てる間合いを空ける」ことをしてしまったともとれる。アシストとなったスミス・ロウのドリブルは目くらましにはなっていたかもしれないが、それでもミドルまであっさりと行かれるのはなかなかに切ないものがある。

 こうなってしまうからこそひとえに「遅れるくらいならプレスに出ていくな」という話でしかないのだが、ブレイズからすれば2点ビハインドでプレスすらかけないのであればまさしく座して死を待つだけになってしまう。そのため、遅れても奪えなくても出ていかなきゃいけない時もあるのだなという感じ。これもまた切ない。

 エンケティアにとっては大きなきっかけになるハットトリック。昨季に続き、またしてもジェズス不在が懸念されるタイミングでの躍動となっている。もっとも、今回の場合は相手の話もあるので、推移を見守ることは必要ではあるだろう。いずれにしてもダメなときは相手のレベルに関係なく得点は入らないので、いい兆候であることは間違いがない。

 ここから先もボーナスステージは継続。圧巻だったのはトロサールだろう。相手をあざ笑うかのようなボディフェイントで1枚ずつ丁寧に剥がしながら、得点が欲しそうな選手にビシバシチャンスを供給していく様はまさしくボーナスステージの鬼といえそうな振る舞いだった。

 アーセナルはここから主力を続々と休養させる余裕を持ったマネジメントに移行。個人的にはアルテタがここまで極端にプレータイムが長い選手から下げていく振る舞いをするのは非常に珍しいと感じた。

 ファビオ・ヴィエイラが痛い思いをしてもぎ取ったPKは協議の末に自身がキッカーに。試合後に生まれることとなった子供に捧げるゴールを決めるなど、エミレーツは完全にセレモニーモードに。

 このセレモニーのトリを飾ったのは冨安。この日も流れの中から惜しいシュートを放ってはいたが、後半追加タイムにセットプレーから待ちに待った加入後初ゴールをゲット。ハッピーオーラに包まれたエミレーツで多くの人から祝福を受けた冨安の笑顔でアーセナルは圧勝劇を締めくくることとなった。

あとがき

 レビューを普段から書いている人間なので、盤面の駆け引きとか、そういった部分の工夫ももちろんサッカーの重要な一部であると思うのだけども、サッカーの醍醐味はそういう部分がどうでもいいなと思えるくらい感情が揺さぶられるところだと思っている。そういう意味でこのゲームは「こういう瞬間に巡り合いたくてサッカーファンをやっているのだな」と心から思える試合だった。

試合結果

2023.10.28
プレミアリーグ 第10節
アーセナル 5-0 シェフィールド・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:28‘ 50’ 58‘ エンケティア, 88’(PK) ヴィエイラ, 90+6‘ 冨安健洋
主審:ティム・ロビンソン

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