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「王者らしさの定義とは」~2022.6.22 天皇杯 3回戦 川崎フロンターレ×東京ヴェルディ レビュー

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目次

レビュー

■通用しなかった勝ちパターン

 監督交代直後ということで研究材料が少ない東京V。城福監督就任後、唯一の公式戦である前節のJ2は前半に山口が退場者を出すという特殊な条件下での試合。どこまで参考になるのかは未知数である。

 というわけで当てずっぽうながら考えてみる。川崎の攻略法と、城福監督が今まで率いてきたチームのキャラクターを考えれば、おそらく撤退ワンチャン狙いよりも、プレッシング主体で川崎からボールと時間を奪いに来るだろう!と予想をしてみた。

 答えとしては半分正解、半分は外れといったところだろうか。フォーメーションは4-4-2。保持における4-3-3からIHの森田を高い位置まで上げることで4-4-2に変形する形だった。

5分のシーンのように川崎相手にハイプレスを成功させてFKを奪うなど、ハイプレスで出ていく場面も全くないわけではないが、基本はミドルプレスが主体。4-4-2でラインを下げすぎずに我慢するというスタンスだった。

 一般的に4-4-2においてミドルゾーンのプレッシングでラインを下げないために重要なのはFWの守備における貢献である。まずは前線からのプレスで相手の攻撃の方向を決めて、中盤が追い込むべき方角を指南すること。そして、自分のラインを越された後は、マイナスのパスや、横のパスコースを消すことで、保持側にブロックをずらす余裕を与えないことである。

 仮にこの横のマークがルーズであれば、逆サイドへの展開やライン間への縦パスなどボール保持側には夢が広がる!という形になる。横を消すことさえできれば、保持側は強引に狭いスペースにボールを刺すか、CBを経由し時間をかけてサイドを変えるしか選択肢がなくなる。4-4-2をラインを下げずに我慢するためにはFWの守備のタスクが重要である。

 で東京Vの森田と佐藤はこのタスクをサボらない2トップであった。かつ、東京Vの4-4ブロックは明確に中央を縦横にコンパクトに維持。揺さぶる余裕もスペースもなかったこの日の川崎は中央からパスを縦に刺すフェーズで引っ掛けてしまうことが多かった。単純に技術の部分での物足りなさもあるが、東京Vが張った網の中に入り込んでしまったともとれるだろう。

 川崎のように4-4-2攻略の肝がアンカーの展開力!というチームであれば、FWのプレスバックは必須。まずは川崎に気持ちよくプレーを差せないことに成功した東京V。

    ボールを奪った後のカウンターで攻撃を牽引するのは両WGである。東京Vの攻撃はこの両WGにいかにボールを渡すかがキーになる。東京Vの新井とバイロンは対面の佐々木と松井にとって非常に厄介な存在。正対して1on1で向き合うところまで行けば高い確率で勝利することができる。川崎目線でいうと正直地上戦で負けてしまうのは仕方ない。特に佐々木はクロス対応でバイロンに後手を踏んだのは痛かった。

 加えて、この日はプレッシングでもハマらなかった川崎。マルシーニョの決定機の場面(この場面でのダミアンの距離の詰め方は抜群にうまい!)などCBが前を向けなくなる状態まで追い込むことができればボールを奪うことが出来ていたが、それが出来たのは限定された機会だけ。特に川崎の右サイドは難があり、プレスに出ていった宮城の背後を瀬古が埋め遅れる+山村と松井に新井がスピード優位を取れる!ということで、東京Vはこちらのサイドから攻め込むことができていた。

 プレスはひっかけられるし、攻め手もある東京Vに対して川崎はかなり手を焼いていた。ただ、川崎は何もできなかったわけではない。徐々に改善が見られたのは右サイドである。大外でボールを持つボールホルダーに対して、奥を取る選手を囮に利用し、マイナスのコースを空ける連携が見られるように。26分のシーンはその代表例である。この場面での宮城-ダミアン-松井の連携はとてもよかった。

 欲を言えば、奥を取る動きをする選手に実際にボールが入ればなおよかった。こっちの選手にボールが渡れば、バイタルを経由する上の図よりも、エリア内にスペースを作りやすいからである。

 それでも右サイドから攻勢に出ることが出来たことで、川崎はセカンドボールを拾うところからペースを握れるようになった。立ち上がりならば捕まっていたライン間のパスも徐々に通るように。受けた選手は余裕をもって前を向くことができる時間が得られるようになったことで、川崎は30分過ぎから相手陣に攻め入ることができるようになった。

 ミドルゾーンを維持したい相手に対して押し込むことができるようになった、そしてボールの回収から波状攻撃を仕掛けることができるようになった。これは川崎の勝ちパターンである。

 しかしながら、その勝ちパターンは邪魔されてしまう。勝ちパターンが通用しなかった要因の1つは東京Vのトップである佐藤凌我。東京Vは多少守る位置を下げられたとしても、彼が前線で踏ん張ることが出来たため陣地回復をすることができた。

    川崎目線でいうと彼とマッチアップした山村の不振は深刻。新井にスピードで振り切られてしまう!とかはもともと苦手なスピード面での問題が大きいのである程度割り切れるが、ロングボールを収める佐藤に対して連戦連敗というのはいただけない。保持面での働きも含めて復調しなければスターターとして起用するのは厳しいように思う。

 もう1つはバックラインの踏ん張りである。これまでであれば多少しょっぱい攻撃をしていたとしても、守備で我慢ができるから勝ち点を得ることが出来た。だけども、最近はその踏ん張りがきかなくなっている場面が目につく。

    この試合の失点シーンはまさにそれに該当する。この場面は明らかに瀬古の判断ミス。ボールを任せて次の保持に備えてしまったせいで佐藤にシュートを持ち込まれてしまった。松井のアクションに言いたくなる気持ちはわからなくもないが、何かを怠って失点につながってしまう!というのはそもそも高いリスクととなり合わせのプレーが多い川崎の守備においては最もやってはいけないこと。甘さが出た瀬古には猛省してほしいところである。

■主力投入で息を吹き返したが・・・

 30分かけて作ったいい流れはあっさりと自ら手放してしまった。その上得点まで献上するというお人好しぶりである。得点という極上のガソリンを手に入れた東京Vは再びコンパクトな陣形とホルダーへの強度の高いプレスを再開。よって、後半の川崎はすごろくでいえば『ふりだしに戻る』といった状態でスタートすることになる。

 というわけで再び押し込むための手法作りから始めなければいけない川崎。だが、その道のりは前半よりもスムーズではあった。理由は脇坂と橘田という2人の選手が後半頭からピッチにいたからだろう。この2人が入ることにより、サイドチェンジは滑らかに。大外にマルシーニョが1on1できる状況まで早く正確にボールを届けることができるようになった。

 深い位置でボールを持つ橘田はもう少しボールを運ぶアクションを増やしてもいいんじゃないかなと思ったけども、ライン間でボールを受けて前を向くことが出来た脇坂は別格であった。前を向く場面を作ることができればチャンスを作ることはできる。橘田が迎えた決定機はまさしく前を向いた脇坂の視野の広さと技術の高さを体現したもの。この日の前半の川崎には足りないものだった。

 その脇坂にケチをつけるのならば、セットプレーのキックの精度だろう。特に後半はニアや近くの選手に当ててしまうことで決定機をフイにしてしまう場面があまりにも多かった。それでも彼がこの日の川崎のベストプレイヤーであることに異論はない。というのはそのほかの選手のパフォーマンスがそれより下だったということの裏返しでもある。

ハーフタイムの主力投入で、ある程度押し込む状況を作ることが出来た川崎。ただ、前半に機能した右サイドは沈黙。エリア内に斜めに入っていく攻撃参加が持ち味の松井は幅を取ってくれる宮城が前にいなくなってからはオーバーラップのタイミングを完全に見失ってしまった。家長との息は合わず、終盤になるにつれて右サイドのワイドは使えなくなっていた。

 左サイドはマルシーニョがいた分まだ機能していたが、選手交代を受けて遠野が左サイドに入るようになると、こちらも幅を取ったスペースを生かせる選手がいなくなり厳しくなる。独力で突破できるWGがいるなら話は別だが、基本的にパスワーク主体で抜け出す選手を作ってのチャンスメイクだということが前提ならば、サイドに3人の選手が欲しい。

ただ、遠野が入ったタイミングで川崎が2トップに移行したこともあり、サイドのサポートは十分ではなかった。78分、見るに見かねた脇坂が左サイドに顏を出して3人目になっていたが、こういうアクションはもっと増やすべき。遠野と佐々木の2人でサイドをぶち破るのは厳しい。

 エリア内に人数を増やしたいのはわかるが、この日の川崎はクロスを上げる前のシチュエーションづくりをおろそかにしすぎだ。最終盤にLSBに入った車屋は2人を相手になんとかクロスを上げるコースを探そうとしていた。こんな状態では得点につながるわけがない。サポートは必須である。サイドで起点を作れない川崎は中央に突っ込んではボールをロストする悪循環にハマっていってしまった。

 というわけで終盤の川崎はゴールをこじ開けるどころか、ゴールエリアに近づくことすらできなかった。選手を入れ替えながらフレッシュな4-4-2を維持し続けた東京Vの完勝。ベスト16に駒を進めることに成功した。

あとがき

■完成度の高い4-4-2と完璧なゲームクローズ

 今日の試合の立ち位置や、今日出ているメンバーの位置づけが自分にはわからないが、少なくともこの日の東京Vは素晴らしいチームであり、ふがいない試合をしたホームチームよりも明らかに勝ち上がりに値するチームであった。

 城福さんはもっと破れかぶれ気味の特攻プレスで来ると思っていたが、こうした我慢と忍耐力が必要な4-4-2を短期間で体現したのは素晴らしい。特にゲームクローズは完璧。終盤のラインを上げる動きが出来て、かつダミアンにボニフェイスが完勝するとなれば、川崎にゴールを割らせなかった結果は必然である。

 スコアラーになった佐藤は得点以外の働きも抜群。攻守に秀でた存在だったことも最後に付記しておきたい。

■火力がないなら握力は妥協できない

 今更の話になってしまうが、今年の川崎はここ数年のような全知全能感があるチームではない。そういう中で今リーグ優勝が視野に入る順位に留まることが出来ているのは、苦しい流れの中でも踏ん張っていい流れになる時間帯まで均衡したスコアを保てるからである。

 この試合でいえば敗因は30分以降の前半の振る舞いである。それまでの時間帯も決して順調ではなかったが、時間をかけてようやく手にした流れである。王者らしさという言葉をあえて定義するとしたら『掴んだ流れを離さない握力』だと思う。それが出来ていたからリーグ戦でもFC東京や広島、浦和というような劣勢な相手でも勝ちきることが出来たのである。

 今、明らかにチームの基準は下がっている。以前はCBとアンカーに共にプレスをかけてくるような、相手からすれば賭けに出るようなやり方を採用しなければ勝てないチームだった。だが、湘南や京都、そして東京Vのようにバックラインに時間を与えてくれるチームに平気で無得点の試合をやっている。相手からするとこれまでよりも負荷をかけないでペースを握ることが出来てしまう。

    そういう現状だからこそ、せっかく掴んだ流れは手放してはいけないのだ。一度手放してしまえばレギュラー組を動員しようが、今の川崎にとっては取り返すのは容易ではない。今の川崎は多少スロースターターでも巻き返せるような火力を持っているチームではない。そのためには、どこでどのように優位を取るかを模索し続ける対応力と、掴んだ流れを離さない握力が必要。火力がないからこそ、リーグで勝つためにはここは絶対に妥協できない。

試合結果
2022.6.22
天皇杯 3回戦
川崎フロンターレ 0-1 東京ヴェルディ
等々力陸上競技場
【得点者】
東京V:39′ 佐藤凌我
主審:榎本一慶

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