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レビュー
■問われなかった不安定な部分
長かった2021-21シーズンもついに最終節。プレミアリーグは最終節になっても1チームも順位が確定しない(得失点差の関係でチェルシーの3位は事実上確定)という大混戦でクライマックスを迎えることになった。
アーセナルにとっては最終節に自分自身でつかみ取れる権利はない。勝利した上でキャロウ・ロードに向けてノリッジが活躍することを祈り続けることしかできない。
もっとも最終節の段階でエバートンが残留を決めていたのは朗報である。残留を決めた後、中2日でロンドンにやってきたエバートンにとっては精神的にも体力的にも難しい日程の最終節となる。
立ち上がりはそうした両チームの事情を反映したような展開となった。ボール保持をしたのはアーセナル。エバートンは残留を決めたものの、引き続き残留争いの流れを汲んだ5-4-1を継続することとした。詳しい戦い方に関してはプレビューで。
というわけでアーセナルは5-4-1の守備ブロックを壊すトライを行うことになる。4月以降のアーセナルが不安定だったのは、ボール保持において相手に強いプレッシャーをかけてこられながら対応する必要があったから。
なのだが、この試合のエバートンのようにそもそもボール保持へのハイプレスを放棄してくるチームはそのアーセナルの弱みを突っついてきていないということになる。というわけでアーセナルは立ち上がりから落ち着いてボール保持で進めることができる試合となった。
CB、CHがいかにして前を向くかを問われないアーセナルは安定してサイドにボールを供給していた。特に崩しの部分で良かったのは左サイドである。大外を回ることが多かったタヴァレスは相変わらずオーバーラップのタイミングが絶品。低いラインで構えるエバートンの最終ラインを壊すような形で外をまわり、相手のDFラインを下げる役割をしていた。
タヴァレスは保持においては持ち味が出た試合だと思う。逆サイドのセドリックもそうだが、アタッカーではなく彼らが大外に張ってもこの試合ではある程度大外を起点にすることができた。特にイウォビとマッチアップしたタヴァレスは抜け出して受けるタイミングで保持面では優位をとったと言ってもいいだろう。
エバートンはこれに対してはキャルバート=ルーウィンへのロングボールを軸に対応。キャルバート=ルーウィン自体はロングボールをしっかり収められるし、左右に動きながら得意なマッチアップ相手に競りかけることもできる。起点作りとしては十分なのだが、ボールを拾う選手がいない。
この部分はやはりボールをアーセナルに持たれて押し下げられてしまうというのが大きいだろう。全体の陣形が下がってしまうと、ロングボールの落としを拾う難易度が上がるのは当然だ。中継の中で表示されたアーセナルのボール支配率が96%というスタッツを見れば、立ち上がりのエバートンがボール持って陣地回復ができなかったのも当然である。
というわけでエバートンにとっては苦しい立ち上がりに。ショートパスからの組み立てを狙っていきたいところ。だが、『困ったらとりあえず蹴っちまえばいいやん!』という割り切りができるピックフォードに代わってこの日のGKだったベゴビッチはビルドアップにおいて苦戦。逆にアーセナルは押し込むことができていたので、即時奪回のプレスにスムーズに移行しやすかった。
ツッコミどころはそこだけではないが、特に足元に自信がないベゴビッチのところは目についた。ピックフォードも安定しているわけではないけども。そもそもエバートンの5-4-1はバックラインからのビルドアップを整備するための形ではないので、無理にでも攻撃を牽引してくれるリシャルリソンやゴードンの不在は痛かったように思う。
■特性に対するミスの許容度
というわけでアーセナルは流れに乗って先制する。左サイドの攻撃の流れの中でイウォビが手でシュートブロック。VARはいくらでも止めるタイミングはあったように思うが、プレーで決めるまで主審へのサポートをしなかったので、個人的にはとてもヤキモキした。
これをマルティネッリが決めてアーセナルが先制する。イウォビはなかなかしんどい役回りだったように思う。この日のエバートンは基本的には守備におけるWBに対してのサポートがやや少なく孤立気味。逆サイドのケニーもこの日はベンチにいたマイコレンコもそうだが、単騎でストッパー役を務められるWBがいない分、サイド攻撃の防衛が脆いのは仕方がない。
さらにアーセナルはセットプレーから追加点。2点目はCKからニアでマルティネッリが決めたフリックをエンケティアが押し込んだ流れ。フリックもフィニッシュもエバートン側は咎めることができなかった。
試合展開としてはほとんど完璧(もちろん、キャロウ・ロードのスコアの推移に目を向けなければの話である)なのだが、ここから徐々にエバートンがボールを持つ時間が増えるように。
そして45分に1点を返したエバートン。アーセナルから見て左サイドからエバートンのクロスが上がり、これを途中交代で入ったファン・デ・ベークが押し込んだ。
アーセナルの守備で気になったのはクロスへの対応である。この場面ではホールディングがクリアできた場面のように思う。GKに任せたのかもしれないが、特にこの場面のようにクロスに対してファー側のCBの場合はなおさらである。自分がボールを通してしまったら、対応できるのはセドリックしかいないのだから。
実は37分にも似たような場面はあった。この場面でも同じようにサイドのクロスからエリア内にボールが上がり、ホールディングがスルーしたため、ファーでグレイがシュートを放つことを許してしまうことになった。
この場面に関しては得点の場面と異なり、そもそもファーはグレイしか選択肢がなかったので、結果論から言えばセドリックが絞るのを怠ったのが問題である。とはいえ、SBに任せる!という結果は同じなわけで、そういう意味では軽いプレーだと思う。
ホールディングの特性を考えればなおさらだ。彼のような強みを持つ選手がエリア内でのこうした対応が緩くなってしまっては話にならない。そこのタイトさで生きてきた選手だし、後半戦でパフォーマンスを賞賛されたのはその部分である。
この試合の失点に比べるとダメージは甚大ではあったのは間違いないが、ノースロンドンダービーでの退場は彼の特性を考えれば、受け入れられる部分であった。
もちろん、クロスを簡単に上げさせる対応をさせ続けているタヴァレスにも問題はある。とはいえ、彼は元来そうした課題を抱えている選手。同じポカでも選手には期待されている役割というものがある。その役割に背くような行為を見かけると、選手の特性を組み合わせて完成するチームにおける前提が崩れてしまうだろう。そういう意味ではこの試合のタヴァレスには保持で期待されている部分には応えられたと思うし、逆にエリア内のホールディングはそうではなかったと思ってしまうのである。
■共に穏やかな後半に
後半、エバートンは前半に比べてアーセナルに強くプレッシャーをかけてきた。しかしながら、プレスは単体でホルダーに順番に突撃する色が濃いものであり、アーセナルは冷静に対応できていた。
この部分でも負荷がかかるのはエバートンのWB。シャドーがやたら前がかりに深追いをするため、エバートンはやたらWBが網羅しなければいけない守備範囲が広かった。すでに述べたようにエバートンのWBは守備に特化したタイプではない。アーセナルはサイドにボールを安定してつけながらボールを前に進めることができていた。
この辺りはエバートンの積年の課題だろう。シーズン頭から採用している4-3-3におけるハイプレスでも似たような問題点がある。単体での突撃を繰り返すスタイルではドゥクレのように、広い範囲を多くの運動量でカバーできる選手がいなくなれば崩壊するのは当然である。
整っていないにせよハイプレスよりもローラインの方が傷口は浅くて済むし、エバートンには少ない枚数で攻撃を完結させることができる優秀なアタッカーがいる。この試合のメンバーでやるか?はともかく、終盤戦で大きくその形に舵を切ったのは個人的には納得感がある。
というわけで前半よりも速攻が増えたアーセナル。だが、後半も得点パターンに結びついたのはセットプレーである。3点目はサインプレーからセドリックのミドルが突き刺さって追加点。今季一番のミドルを突き刺したセドリックにとっては嬉しい得点となった。
そして4点目もCKから。CKから3点とった試合、レアですよね。一度跳ね返されたが、二次攻撃から左サイドを破りフィニッシュまで。得点を決めたガブリエウはストライカー顔負けの動き直し。相手の最終ラインと駆け引きしてオフサイドを回避し、ボックス内に入り込んでいった。
アーセナルは仕上げとして右サイドからウーデゴールがゲット。退団濃厚であるラカゼットのゴールがもう1回見たかったというのが個人的な願いではあるが、大量得点でのシーズンの幕引きにはスタジアムは大盛り上がり。
大敗となったエバートンファンもお隣さんが優勝を逸したことに大はしゃぎ。実際のところ、前節の残留でお腹がいっぱいという部分もあったのだろう。アーセナルも早々にノリッジが白旗を上げる展開だっただけに、終盤までハラハラする要素はなし。両チームとも穏やかな気持ちで結果を受けていれる平和なエミレーツ・スタジアムでの最終節となった。
あとがき
■今シーズンもお疲れ様でした
21-22お疲れ!5位で終わりですね。ひとまず、1年間戦った選手、スタッフ、サポーターの各位は体を休めて来季に備えましょう。本レビューを読んでくれた人も1年間のお付き合いありがとうございました。Jリーグが落ち着いたらまとめ記事とか総括キャスとかに取り掛かっていきますので、しばしお待ちください。それではまた来シーズン開幕でお会いしましょう。
試合結果
2022.5.22
プレミアリーグ 第38節
アーセナル 5-1 エバートン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:27′(PK) マルティネッリ, 31′ エンケティア, 56′ セドリック, 59′ マガリャンイス, 82′ ウーデゴール
EVE:45+3’ ファン・デ・ベーク
主審:アンドレ・マリナー