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「5日ぶりのミッションコンプレート」~2023.10.8 天皇杯 準決勝 川崎フロンターレ×アビスパ福岡 レビュー

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レビュー

早々の先制点と変わる流れ

 コロナ禍でスーパーシードだった2020年以来、3年ぶりの天皇杯ファイナル進出をかけた準決勝。川崎の対戦相手はルヴァンカップと天皇杯をともに残している福岡である。

 前からの積極的なプレスでスタートした福岡に対して川崎はロングボールで対抗。ダミアンが競りかけたり、マルシーニョが背後を狙ったりなど、序盤はグローリを集中的に攻略に挑んでいた印象である。

 バックラインからの繋ぎでも2分には橘田が違いを見せる。縦に抜ける瀬古が作り出したスペースからターンで相手を外して前進。ワンタッチのフィーリングも良好で、川崎の序盤は福岡のハイプレスに対して優位をとっていた。押し込む機会を得た川崎はセットプレーから先制点をゲット。脇坂がニアに蹴ったCKを山村が合わせて先行する。

 先行した川崎はそれ以降も好調。高い位置からのプレッシャーに後方のラインアップも相まって福岡に時間を作らせない。4-3-3の守備は蔚山戦に引き続き、WGにも自陣に戻ることを要求する短期決戦仕様のハードワークモードである。

 福岡は少ない手数では川崎の陣内を攻略することは難しいと思ったのだろう。福岡はショートパスから少しずつ相手を動かしていく。ポイントになっているのはCHが縦関係を構築することと、シャドーの片方の選手が降りてくること。中盤は3センター気味になり、川崎と枚数が合う。重要なのはシャドーが降りてきながらボールを受けること。前への意識が強い川崎の3CHに対して背後から登場し、ボールを受けて逆サイドに逃す。

 福岡の中盤のパスワークの狙いは川崎の3センターを片側に寄せつつ、逆サイドに展開することで川崎の中盤を突破すること。特に右サイドの紺野にボールをスムーズに届けることができればチャンスが出てくる。マルシーニョのプレスバックよりも早く前嶋がサポートに入ることができれば、川崎のサイドの守備は後手に回る。

 山村が自軍の左のサイドに引っ張られることで川崎のバックラインは全体的に左偏重に。エリア内ではファーの小田を捨てて絞った山根がクリアする場面が増えていく。こうした場面の読みの鋭さを見ると、山根は徐々にいい時の状態が戻っているように思える。

 しかしながら、パスワークによって川崎の中盤の突破ルートを見つけて、勝負ができるサイドにボールを届けることができるようになった福岡。先制点以降、序盤の川崎優勢のモードは徐々に変化しつつある展開となった。

脇坂が抵抗を見せるが福岡の流れに飲まれる

 ビルドアップで手応えを見つけた福岡は同時にプレッシングでも川崎の優勢を封じていく。福岡の3トップはだんだんと川崎のCBに対する適切なプレッシングの方法を見つけられるようになった。

 蔚山戦で川崎のビルドアップが円滑に進んだ要因の一つは左CBの山村からの対角パス。福岡は山岸が山村の右足側からプレッシャーをかけることにより、この対角のパスを封鎖。山村に左足から縦に進むような配球を促していく。これにより、外のラインに立つ登里とマルシーニョも合わせて圧力をかけることに成功した福岡。瀬古や橘田がインサイドでサポートできればよかったが、こうした連携を組むことができず、縦のマルシーニョに向けてボールを捨てる機会が増えてくる。

 右のCBの大南がボールを持つときには金森が左足側からプレス。大南からすれば利き足側は生きてはいるが、サイドライン側に追い込んでいることを踏まえればそこまで選択肢は多くない。こうしたプレッシャーのかかった状態では大南はまずはCFを見る癖がある。よって、ダミアンへのロングボールが増えてくるが、ボール精度と競り合いの両面で十分とはいえず、陣地回復の特効薬とはならなかった。

 このように福岡のプレッシングは川崎のCBに対して次の一手を制限するようなものになっており、福岡は攻守に主導権を取り返すように。右サイドの家長はなかなかボールに関われない状況が続く。本来、こうした状況であれば(チームの構造としていい悪いは別として)家長は低い位置に下がりながらボールを受けにくるケースが多い。しかしながら、この日はそうした挙動はなし。この辺りはややコンディションの悪さが懸念される傾向だった。

 苦しい状況に抵抗していたのは脇坂。次の一手がバレているということは受け手が相手に捕まりながらボールを受けるということだが、その状況でも跳ね返すことができるのが今の脇坂のクオリティ。相手を外してわずかな隙をついてフリーでボールを運ぶことができる。

 その脇坂のキックから川崎は決定機。裏パスがグローリをすり抜けてマルシーニョに。村上のファウルを受けたマルシーニョがPK獲得し、前半終了間際に決定的なチャンスを迎える。しかし、このPKはダミアンが失敗。湘南戦と同じく正面に蹴ったPKは村上によって弾かれてしまった。

 勢いに乗る福岡は攻撃の中心だった右サイドから反撃。山村の逆を取った紺野によって福岡がエリア内に侵入すると、最後は金森がゲット。このような場面はこれまでは山根が絞ってきてなんとかしていたが、この場面ではファーで待ち構えることが多かった小田もPA内に雪崩れ込んでいたため、山根の絞る決断をやや鈍らせたように思う。

 PKの失敗をきっかけに流れを取り返した福岡。序盤の出遅れを内容でひっくり返し、スコアを振り出しに戻してハーフタイムを迎える。

同サイド偏重での打開とダミアンと家長の復調

 後半の頭も前半の流れをそのままに引き継いだ内容だった。福岡がポゼッションで押し込みマルシーニョの戻りが遅れやすい右サイドからのクロスからチャンスメイク。エリア内のマークが甘いファーへのクロスを福岡が積極的に使っていたこともあり、川崎はいつ失点してもおかしくない状況が続く。

 こうした状況に動き出すようになったのは家長。左サイドに顔を出すようになった家長に積極的に預けることで福岡のプレッシングを押し返していく。福岡の5-4-1ブロックに対して、川崎は大きく広げながら隙を作っていくアクションではなく、同サイドを集中して崩していく選択を行う。家長が出張した左サイドにフォーカスして川崎は攻撃を仕掛けていく。

 この同サイドの攻撃が奏功した川崎。登里からの左サイドのクロスの対応がはっきりしなかった福岡。PA内から跳ね返ったボールは橘田の目の前に。彼のミドルから川崎は2試合連続で試合を動かすことに成功。押し込み返した時間帯にリズムに乗り、川崎は再びリードを奪う。

 このゴールの直後に山根と金森の衝突があり、試合はヒートアップ。ビハインドの福岡は高い位置からプレスを仕掛けるようになったが、川崎は中盤がマークを外しながら推進力を持って前に進んでいく。右に張る家長からのカウンター、そしてダミアンへのロングボールなど、ダイレクトな川崎の攻撃が前進を助け、福岡のプレッシングを阻んでいく。福岡は徐々に中盤が空洞化する形になっており、全体の陣形が間延び。この辺りはプレスで勝負に出た代償だろう。

 そうした中でベテランの抜け目のないワンプレーがスコアを動かす。セットプレーからの福岡の波状攻撃を処理すると、ソンリョンはすぐさま裏へのパントキックでリスタート。背後を強襲したマルシーニョが飛び出してきた村上の頭を抜くチップシュートを決めて川崎が追加点を決める。

 2点のビハインドとなった福岡は紺野に代えてウェリントンを投入。ゲームを作りながら進んでいくよりも、ロングボールからフィジカル勝負に打って出ることに。あとから出てきた三國も前線へのパワープレーに加勢し、縦に速い攻撃を仕掛けていく。

 しかしながら、ロングボール攻勢は大南と山村のコンビの得意分野。福岡の前線が高さを増してもなかなか制空権を握れず。結局、長いボールを前に送ってもすぐにボールは帰ってきてしまう状況に。

 押し込み続ける川崎は81分に追加点をゲット。ファーに待ち構えていたダミアンから直接ゴールにボールが突き刺さる。ダミアンはPKの失敗を払拭する大きなゴールを決めてみせた。

 3点のリードという安全圏に突入した川崎。最終盤には鶴野に追撃弾を決められてしまうが、福岡の反撃もそこまで。後半に一気に突き放した川崎が福岡を沈め、3年ぶりの天皇杯決勝進出を決めた。

あとがき

 中4日での重要な2連戦を乗り切ることに成功した川崎。全員が攻守に全力を振り絞るリーグ戦とは異なる短期決戦仕様を見ると、ここにコンディションを高めることはかなり意識されていたように思う。まずは2試合連続で負荷の高いパフォーマンスを行った選手たちを褒め称えたい。

 大きかったのは先制点だろう。前半の終盤は福岡が内容的にも優勢だったし、ダミアンのPK失敗から失点までのところは完全に福岡のペース。それでも同点までで食い止められたのはこの立ち上がりの先制点のおかげと言えるだろう。

 蔚山戦ほど盤石な内容ではなかったが、この試合ではきっちりとミッションコンプリートすることが大事。カップ戦の航海は順調。国立でカップを掲げ、2023年の川崎の勝負強さをタイトルとして刻み込みたい。

試合結果

2023.10.8
天皇杯 準決勝
川崎フロンターレ 4-2 アビスパ福岡
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:5′ 山村和也, 53′ 橘田健人, 70′ マルシーニョ, 81′ レアンドロ・ダミアン
福岡:42′ 金森健志, 90+6′ 鶴野怜樹
主審:中村太

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