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【前半】
狙い通りのスールシャール
アーセナルは前節から3センター→2センターに変更。ユナイテッドはシステムはそのままにマルシャル、ラッシュフォードではなくルカクとサンチェスを起用。GKはともにベンチを温めてきたチェフとロメロだ。共に直近のリーグ戦からは数人の入れ替えをしたスターディングメンバーとなった。
ボールを握る展開になったのはアーセナル。ユナイテッドとしては4-3-1-2で迎え撃つ。ハイプレスが発動するタイミングは限定的で、前節のアーセナルがみせたようなSBへのインサイドハーフへのプレスはそこまで頻度は多くなく。ねらい目としては若干バタバタ感のあるソクラティスとナイルズのほう。
ナイルズサイドのサンチェスに比べれば、逆側のルカクのプレスは弱かった。それだけではなく、コラシナツがオーバーラップした際も放置。ハーフライン程度まではプレスバックするものの、それより先はセンターハーフのスライドに任せるといった形だった。
おそらくこれは直近のアーセナルの戦い方をみてのユナイテッドの作戦だろう。アーセナルの攻撃は左サイドへの依存度が高い。whoscoredによると年が明けてからのリーグ3試合は全て左サイドからの攻撃が40%を超えている。今季の右サイドの攻撃を一手に担っているベジェリンが離脱したことを踏まえれば、それに拍車がかかると考えるのは極めて自然なこと。実際にこの試合も40%超えを果たしている。
サイドチェンジされた際のスペースを許容しても、「セントラルがスライドで対応し、ルカク、サンチェス、リンガードの3枚でカウンターのために残された広いスペースでアーセナルのバックスと対峙とする。」というのがユナイテッドの取った作戦。そのためのリスクは許容するという判断だろう。
アーセナルはイウォビやコラシナツに加えて、ラカゼットの3人で左サイドを崩したいという意図。ユナイテッドのセンターハーフがスライドして数を合わせたのは、飛び出しやすいバイリーをしっかり自陣に釘付ける意味もありそう。ヤング、マティッチ、エレーラでサイド攻撃は対応し、バイリーは後方待機する場面が多かった。
ユナイテッドのボール保持の局面は裏への意識が強かった。後方から裏抜けの長いボール。ターゲットになるのはルカクがメイン。ルカクのポジションは2トップというには外寄り、ウイングというには中寄りでアーセナルは対応に苦慮していた。基本的にはコシエルニーが迎え撃っていたが、ソクラティスが下がった後は、全体的に最終ラインの危うさがワンランク増した印象だった。もしくはユナイテッドは外外の選択肢を取ることもある。基本的にはサイドを使った縦の前進が多く、中央で起点を作っての前進はポグバのドリブルを除けば、ほとんどなかったように見えた。
そんな中で先制するのはユナイテッド。ゴールシーンはプレビューで最近のアーセナルの弱点として指摘したセンターハーフがつり出される形から。ジャカがサイドに出ていったが、中央を使われてしまい、CBが出ていったスペースを最後は利用された。SBがラインのおし上げを怠ったことが直接原因だが、ルカクがパスを出したシーンを瞬間を見ると両SBは死角に選手を背負っているので、ライン上げを一瞬ためらうのはわからなくはない。中央センターで人数をかけたのに真ん中の裏を通されてしまった結果を考えると、あの位置でルカクをフリーにした時点で詰みかな。結果論から言えば、トレイラはルカクをマークできる位置にはいなかったものの、より遠いコシエルニーが最終ラインから穴をあけてまで出ていく場面ではなかったように見えた。ボール、チェックにいけないとしんどいよね。
追加点はロングカウンター。コラシナツのポジショニングミスが直接原因になるだろうが、ユナイテッドとしては試合開始時から狙っていた形だろう。ルカクはこれで2アシストになった。
【前半】-⑵
アーセナルの反撃プラン
先に試合の展開の話をすればユナイテッドが2点を取ってから、前半が終わるまではアーセナルのペースだった。
反撃のための道筋は2つ。
1 左サイドをラムジーを加えて攻略。
2. スペースの空いている右サイドを攻略
アーセナルの左サイドで有効だったのは、エリア手前でボールを持っているときに、大外の裏抜けと引いて中央でフリーでポストになる動きがセットになったとき。出し手はイウォビが担い、裏抜けはラムジーとコラシナツ、ポストはラカゼットが担うことが多かった。例えば得点シーンに代表されるような、裏抜けで最終ラインを押し下げる動き。このシーンは内側では、うまく相手を釣れるような動きはできていなかったが、ラムジーが外から2人を剥がし何とかしたシーン。
この時間帯より少し前だけど、中央のポストがうまくいったシーンも紹介。出し手はハーフスペースやや外寄りのジャカ。大外はコラシナツがヤングをピン止めしている。引いたラカゼットに入れる。ここからワンタッチへ裏へ。
イウォビがシュートで終わったが、バイタルは空いていた。飛び込めなかったけど。理想を言えば、ラムジーがマイナスで受けられるような動きをすればよかったかなと。
ゴールシーンや画像で紹介したシーンの動きがより有効なのは、出し手に複数の選択肢を与え続けられた場合。アーセナルはサイドでボールを持った時のオフザボールの動きが乏しく、出し手の選択肢はあまり豊富とは言えなかった。ハーフスペース付近を外に抜ける動きは、それだけでは攻略の決め手にならず、ゴールシーンのラムジーのように質的優位を見せる必要がある。中央のラカゼットのポストは、アーセナルの前線が持つ大きな武器だが、スライドしているマティッチなどで、あのゾーンに選手が密集していることが多かった。カウンターのリスクも裏よりは中の方が高いため、ややためらったのかもしれない。右サイドへの展開をもう少し効果的に使って、センターハーフがスライドする量を増やせれば、あるいはラカゼットの負荷はもう少し軽減していた可能性はある。右サイドへの展開が有効だったのは得点シーンから前半が終わるまでのわずかな時間に過ぎなかった。
【後半】
形はできたけど
再び左サイドからの攻撃に終始するアーセナル。数的同数や数的優位をサイドで作れるシーンはあった。
例えば左サイドで3対2ができていたり。オーバメヤンのゴール以降、左サイドでの数的同数は5回前後、数的優位は2~3回くらいはあったように思うのだが、1点差に迫った後、3枚目の交代を行うまでに左サイドの崩しからシュートに持ち込めたシーンは0。左サイドからの攻撃の機会は作れていたが、それを生かすことができなかったという形。画像のシーンも、ラカゼットのそばに寄っている2人の選手は有効なパスコースを作れず、ほとんど数的優位の意味はない。静止画だけど、このシーンはこのままパスコースに作れずにロストする。攻撃が完結できなければ、ユナイテッドはロングカウンターが炸裂することになる。
アーセナルが交代枠を使い切ることになるのは10分過ぎのコシエルニーの負傷がきっかけ。ゲンドゥージとエジルがコシエルニーとイウォビに代わって入る。エメリの左サイドの修正は、出し手として働いていたイウォビからだ。交代選手も引き続き左サイドを攻め続けるがチャンスまでには至らない。ユナイテッドも選手を交代。ラッシュフォードとマルシャルにカウンターを担わせる形に。システムとしてはラッシュフォードを頂点とした4-5-1にシフトして、サイドをケアできるように手を打った形。それでもリンガード前残りとかしてたけど。
ユナイテッドのカウンターの起点になっていたのはポグバ。やる気満々でゴリゴリのドリブルで持ち上がった姿を見て、「元気になってよかったね」ってちょっぴり投げやりに思ったぜ。そんな元気なポグバのドリブルが結果につながるのが83分のこと。ポグバのシュートの跳ね返りを押し込んだのは、投入後仕事できているか怪しかったマルシャル。アーセナルの心をへし折る3点目を決めて、試合は終了。スールシャール就任後の連勝を8に伸ばしたユナイテッドが5回戦進出を決めた。
まとめ
終わってみれば完勝だったユナイテッド。リスクを負いながらも、狙いを明確にしたスタメンで2点を先取。アーセナルに若干粘られはしたものの、負傷者もあって先に選手交代をせざるを得なかったアーセナルに対して、相手の動きを見て選手交代を実施できたのも大きかった。ラッシュフォードとマルシャルはアーセナルサポ目線でいえば、実質ズルといっても差し支えないレベル。チームの構成の話をすれば、中盤にハードワークを課しており、それを選手たちが受け入れている様子が大きな変化のように思えた。決して強力とは言えないバックラインを、中盤とGKでプロテクトできるようになったのは大きい。
そして前線で貴重な働きをしているのがリンガード。個性豊かなアタッカー陣をつなぎとめるつがいのような役割を果たしていた。ユナイテッドファンはこういう選手は大事にした方がいいですよ(アーセナルの8番を見ながら)
主力を動員して敗戦、そしてCB2人の負傷者のおまけつきというダメージの大きい敗戦になってしまったアーセナル。ちょっともうコシエルニーのケガの仕方とか神様もへったくれもなくないですかという気しかしないのだが。。この試合のアーセナルの評価はとても難しい。アーセナルの得点から3枚目の選手交代までの時間帯は、アーセナルは左サイドで数的優位や同数を作っていた。とはいえその時間帯の左サイドからのシュートはゼロ。エメリとしては前にいい形で運んだものの、スタメン選手は期待には応えられなかったといってもいいのかなと個人的には思う。左サイドを修正したいと考えるのは不思議ではない。機会は多かったが、崩しに結び付いていなかったから。そして交代で入ったエジルとゲンドゥージもスタメンと同様にサイドを繰り返し攻略するには至らなかった。これだけサイドでの形を作りながらも崩しに至らないっていうのは、もうボール持ったら負けなんじゃないの感は若干出てきたのが心配だ。ユナイテッドはジョーンズの投入まではサイドでの同数や優位は試合を通して受け入れていたのに。数的優位で勝ってきたんじゃないのかアーセナル。。そこにいるだけではなく、パスコースを作るために動く連携まで用意されていなければ、崩すのは難しいということか。
個人的にはやりたい形が見えて負けるというのは、何がなんだがわからないまま負けるよりはマシという位置づけではある。しかし、この試合でエメリがアーセナルが優位に立てると踏んだであろう左サイドから繰り返し崩しを見せることはなかった。そのうえ、この試合の敗戦がもたらしたのは国内無冠の確定と新たな怪我人2人である。狙いはあったが、そこに実りはなく、負傷者が増える。ブロックを崩すコンビネーションの精度とより薄くなった選手層に頭を抱えながら、次節はカーディフと戦うことになってしまった。
試合結果
FA杯 4回戦
アーセナル 1-3 マンチェスター・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 43′ オーバメヤン
Man Utd: 31′ サンチェス, 33′ リンガード, 82′ マルシャル
主審: クレイグ・ポーソン