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「与えてしまった燃料」~2022.5.8 プレミアリーグ 第36節 アーセナル×リーズ レビュー

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目次

レビュー

■再び狙いをつけたメリエの癖

 チェルシーはウルブスに終了間際に追いつかれ、トッテナムはリバプールとドロー。CL争いの直接のライバルとなる2チームはいずれも引き分けに終わり、アーセナルにとってはこれ以上ないチャンスが回ってきた格好になる。ロンドンの2チームを出し抜くためにもアーセナルにとっては非常に大事な試合だ。

 一方のリーズも残留争いに向けて正念場。三つ巴の競争相手であるバーンリー、エバートンと比べるとここにきてリーズが勝ち点を積み重ねるペースは少し落ちてきている。

 そんな両チームにとって序盤戦は意地と意地のぶつかり合いになった。立ち上がりから共に非保持側のチームは積極的にプレッシングをかけて、相手のバックラインを狙っていく。

 アーセナルはここ数試合、バックラインにおけるビルドアップの不安定さを露呈している。したがって、リーズにとってその部分を狙うのは至極当然である。リーズのアグレッシブなスタイルを考えても撃ち合いは臨むところであろう。

 対するアーセナルも高い位置からプレッシング。エンケティア、ウーデゴールに加えてサカも加えて3人で前線に圧力をかけてリーズのバックラインから時間を奪っていく。

 よって序盤戦はハイプレスに対する我慢比べの様相を呈していた。その我慢比べを制したのはアーセナル。ハイプレスをきっかけにミスを誘発して先手を奪う。メリエへのプレッシャーでボールを引っ掛けたエンケティアがそのままゴールにボールを押し込んで先制。5分でアーセナルに先制点が入る。

 アーセナルからするとメリエの癖をうまく利用した形だ。メリエはフィードは悪くはないGKではあるが、ボールを持ち直して左に体を開きながらのキックを好む傾向がある。よって、この場面のように右からボールを受ける場面においては、ダイレクトではなくボールをワンタッチでコントロールして左側に起きたがる可能性が高い。エンケティアはそこを狙ったのだろう。

 2回前の対戦ではアーセナルはサカがメリエの左足側からプレッシャーをかけることでフィードを封じた。アーセナルにはメリエの癖を利用して、リーズを攻略した経験がすでにある。

 前回対戦においては左に蹴る癖に逆に乗っかる形で、後方がプレスを高い位置にスタンバイ。左サイドにあえて蹴らせることでメリエのフィードを回収していた。

 よって、メリエのフィードを狙ったプレスはアーセナルの得意パターンである。ただ、この場面においてはリーズのDFラインの対応もまずかった。フィリップスにつけるという選択肢がありながら厳しいバックパスをメリエに送ってしまったエイリング、エイリングやメリエがボールを持っている際にポジションの取り直しができなかったコッホなどバックラインの個々人の対応もメリエを孤立させてしまうものになっていた。

 アーセナルはこの得点をきっかけに試合の主導権を握ったと言っていいだろう。リーズはこれ以降、中盤から押し上げてのプレッシングをかけることができず、アーセナルのビルドアップを阻害することができない。

 一方のアーセナルは高い位置からのプレスを継続。特に光ったのはバックラインの意欲的なハイライン維持。相手には前をむかせずにボールを奪う場面が多く、リーズのアタッカー陣に自由を与えない。ガブリエウが警告を受けたシーンを除けば、アーセナルはほとんど完璧に相手を封じたと言っていいだろう。

 冨安にとってはアーセナルに来てからは初めてのレフトバックでの出場、しかも対面はラフィーニャという難しい状況。だが冨安は体を張って突破を防いでいた。リーズの攻め方も冨安にとっては追い風だった。とりあえず長いボールをラフィーニャに預けるというやり方では、味方を押し上げることはできない。となると、ボールを受けるラフィーニャに残される選択肢は自分でカットインしてシュートを打つことくらいしかない。自分で前を向き、カットインしてシュートまでいく。しかも、対面の冨安にはその状況が全てバレている。

 1on1は個人戦のようでもあり、個人戦ではない。ラフィーニャがこの試合唯一演出したチャンスがエリア内の味方に合わせるクロスだったのは、周辺環境が1on1の優劣に大きな影響を与える証左のように思う。選択肢があれば、冨安だって迷う。サシの力関係以前にこの試合のラフィーニャにとっては苦しい状況だった。アーセナルにとってはサカ、マルティネッリに同じような負荷をかけたくないところだ。

■ラフィーニャと異なるマルティネッリの状況

 アーセナルはボール保持でも安定していた。バックラインのプレッシャーは先制点以降は落ち着いて対応することができていたし、いざとなったらボールを蹴って前線に預けることができる。特にこの日、効いていたのは左のマルティネッリだった。

 アーセナルはアンカーの位置に入ったエルネニーからの長い展開でマルティネッリに付ける形もあったし、左サイドでボールを引き取ったジャカや冨安が大外にいるマルティネッリにボールを預ける場面も目立つようになった。相手を左右に振りながら安定してマルティネッリにボールを付けることができたアーセナル。ボールを受ける時の状況が相手と正対していたり、あるいは抜け出したりなどラフィーニャとはボールを受ける状況は全然違っていた。その分、ボールを持った後に集中できる形が多かった。

 この試合における冨安は保持における活躍も目覚ましかった。非保持においては窮地に追い込まれているラフィーニャが相手だったこともあり、正直これくらいはできるかな感があった。だけど、保持においても逆サイドからスムーズにボールを引き取りながら、大外のマルティネッリをサポートする動きをあっさりとこなしてみせたのは流石であった。WGのサポートだけで言えばアーセナルのSB陣の中で1番のように思う。同サイドのジャカも含めて、右サイドや中央に展開してのお膳立てもあり、アーセナルは左サイドを起点にあらゆるフィニッシュのパターンを提供していた。

 そうしたサポートを受けたマルティネッリにより、アーセナルは10分に追加点。左サイドから突破を図り、ラストパスを受けたエンケティアがそのままシュートを叩き込んだ。

 リーズとしてはこの失点も右サイドの対応にケチがついた。ラフィーニャがせっかくプレスバックしてマルティネッリを潰しにかかっているのだから、エイリングは絶対に縦に行かせてはいけない場面だった。

 2点ともいずれも失点に絡んでしまったエイリングはその後も苦しい試合になった。マルティネッリへの危険なタックルは一発退場。3試合の出場停止が見込まれており、実質シーズンはこの試合で終了となってしまった。

 数的優位を得たアーセナルはさらにポゼッションを高めて安定させる。退場以降はリーズのプレスは中盤をプロテクトする方向にシフト。1トップのゲルハルトは11人いた時ですら孤立無援のプレスを行っていたので、10人になった際に自重するのはバランスの取れた判断のように思う。

■完璧なセットプレーと隙だらけの右サイドで巻き返し

 リーズにとっては難しい展開になった。ハーフタイムの時点で10人で2点のビハインド。さらには主力が警告を受けているという状況。次節はチェルシー。体力的にもそうだし、エイリング以上に出れない選手を作るわけにはいかない部分もあっただろう。

 クリヒをHTに下げて5-3-1にシフトチェンジしたのはそうした様々な状況を鑑みたゆえの決断だろう。なるべくこの試合は軟着陸を目指しての戦いにシフトしていった。

 バックラインは前半以上に時間を得ることができたアーセナル。低い位置からのボールの組み立ては前半よりもさらに安定。深い位置までボールを運びながら、敵陣に攻め込む場面はどんどんと増えていく。

 特に、前半からパフォーマンスが良好だった左サイドの関係性は後半も好調。マルティネッリ、ジャカ、冨安の連携は後半も素晴らしく、ここからハーフスペースの裏やバイタルへの横パスを送ることでアーセナルは決定機を生み出していた。キーマンのラフィーニャが低い位置まで押し下げられたこともあり、リーズは前半よりもさらに陣地回復の手段を見出せなくなってしまう。

 60分にはラフィーニャも交代で下がり、ほぼ完璧にアーセナルのワンサイドゲームといった展開。その流れに風穴を開けたのはセットプレー。この試合、リーズが初めてとったCKを起点に放たれた初めてのシュートがアーセナルのゴールに突き刺さる。ニアでボールをすらしたフィルポにファーでジョレンテが合わせる形で1点を返す。

 このCKからのニアでのフリック、決まってしまったらもう防ぎようがない。強いて言えば、ニアのフィルポにエルネニーが競りかけられればフリックはズレたかもしれない。が、基本的にはリーズのデザインを褒めるべき場面だろう。

 得点でリーズはエネルギーを取り戻す。アーセナルは依然として高い位置からのプレスと左サイドからのボール保持で押し込む状況を作って試合を制御してはいたが、右サイドのポゼッションと対人守備に脆さが出てしまい苦しい状況に。

 ペペはポゼッションのために大外を取るのをサボってしまったり、無人のゴールに押し込むチャンスをフイにしてしまったりなど、この試合のパフォーマンスは弁護の余地はない。コーチに即座に怒られたという報道も納得である。セドリックも対人守備やビルドアップサポートに関しては逆サイドの冨安に大きく遅れを取ったといっていいだろう。

 アーセナルが与えた失点と隙のある右サイドの存在により、リーズはあわよくば勝ち越しを狙うべくWBに配したジェームズを最前線に持っていく。89分にはすでにCKにメリエが。最も、89分で2回目のチャンスなのだから、ここにフルベットする姿勢は妥当な気がする。

 最終盤ではフィルポが再びエリア内で競り勝ち、ロドリゴがあわやというシーンを作り出すが、ヘディングはミートせず。ラストワンプレーもガブリエウがシャットアウトし、なんとかアーセナルが逃げ切りを果たした。

あとがき

■足りない支配力と縁の下の力持ちの上積み

 前節のウェストハム戦のプレビューで『無駄に相手に燃料を与えないように』というふうに述べたのだけど、この試合ではバッチリ相手に燃料を与えてしまった。3点目を取れなかったこと、たった一つのセットプレーが致命傷になりかけたこと、右サイドでは保持でボールを落ち着けられなかったこと。得点力、守備力、そして試合を支配する力。いずれもこの試合ではアーセナルは物足りないことを露呈してしまったといっていいだろう。

 保持における上積みは感じられる。冨安についてはすでに本文中で述べたとおりだが、エルネニー、ホールディングは試合を追うごとに保持での関与に落ち着きが出てきた。

 エルネニーは確かにこの試合ではプレスに晒される機会が限定的だったが、後半はだいぶ増えた時限爆弾的なパスにもうまく対応していた。ホールディングは右サイドで詰まりかけたタイミングで顔を出しサポートをこなしており、徐々にアーセナルの保持に慣れてきたように思う。終盤の連勝の原動力となっている2人はパフォーマンス面からも自信をつけていることを大いに感じられる内容であったのはノースロンドンダービーに向けた収穫である。

試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 2-1 リーズ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:5‘ 10′ エンケティア
LIV:66’ ジョレンテ
主審:クリス・カバナフ

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