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「Catch up Premier League」~Match week 35~ 2022.4.30-5.2

目次

①ニューカッスル【9位】×リバプール【2位】

■ターンオーバーでも高い再現性

 CLとプレミアの両睨みを続けるため、メンバーを入れ替えながらのターンオーバー・チキンレースを行っているリバプール。ミッドウィークのビジャレアル戦では2-0の勝利を収めて優位には立っているものの、中2日でやってくる2ndレグに備えて、今節もある程度メンバーを入れ替えてのリーグ戦となった。

 そんな彼らの相手は降格の心配がなくなったニューカッスル。しかしながら、トッテナムのように格上のチームに対してはなかなか結果を出せていない。リバプール相手に一旗あげることができれば、自分たちの野心を広く天下に知らしめることができる。勝ち点とは違う部分での目的もある試合である。

 立ち上がりのニューカッスルはカウンターからリバプールと撃ち合いを狙っていこうという胆力が見られた。しかしながら、時間の経過とともにリバプールは相手を押し込む時間帯が増加。リバプールが4-5-1のニューカッスルのブロックを攻略するフェーズに移行する。

 リバプールはメンバーこそ入れ替えていたものの、いつも通りのプレイヤーの配置のバランス。左の低い位置にはIHのミルナーではなく、アンカーのヘンダーソンが立つという違いはあったものの、左の低い位置に立つMFを軸として、ゲームメイクをするというスタンスは同じ。そこから右サイドに大きく振ることで攻撃を前に進める流れも同じである。

 こうしたいつも通りの流れを少しいつもと違うメンバーでできるというのがリバプールの強みのように思う。チアゴほどの展開力とかサラーほどの打開力はなかなか同じようにというわけいかないが、大枠のパッケージとして左で作って右で壊すという流れを異なるメンバーでそれなりに高い強度で再現できるというのは今のリバプールの強みである。

 リバプールの先制点も普段通りの設計から。右のハーフスペースに斜めに入り込んできたのはケイタ。マネと見紛うくらいの精度の高いアタッキングサードの攻略でニューカッスルを攻略してみせた。ケイタのような純正アタッカーではない選手でも走り込んでフィニッシュまで再現できるというのは同じ設計図をあらゆる選手で共有できているという何よりの証拠である。

 一方のニューカッスルはサン=マクシマンのロングカウンター以外の進み方ができず。サン=マクシマンのボール運びはプレミアでも通用するのはすでに明らかではあるが、ラインアップ、ボールホルダーへのチェックなどリバプールは総じて落ち着いてニューカッスルのカウンターを止めることができていた。

 ニューカッスルはクロスを上げる機会が前半途中から徐々に増えていた。だが、リバプールからゴールを奪うには『中盤を超えて、最終ラインを崩し、GKを破らなければいけないのだな』と改めてニューカッスルに突きつけてくる守り方をするチーム。ファビーニョを超えて、マティプとファン・ダイクを交わし、アリソンをなんとかしなければいけないのである。リバプールを相手にするとゴールを奪うことが非常に難しいことであると思わされる。

 後半頭からのニューカッスルのプレッシングも、当然ビハインドの状況下においては当たり前の選択肢ではある。それでもリバプールは難なくこれをいなしてくる。ターンオーバーしてもリバプールはいつも通りリバプール。先制点を得た場面でも、追いかけてくるニューカッスルを跳ね返す局面においてもきっちり彼らが彼らたる所以を見せられた試合と言っていいだろう。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
ニューカッスル 0-1 リバプール
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
LIV:19′ ケイタ
主審:アンドレ・マリナー

②ワトフォード【19位】×バーンリー【17位】

■終盤戦の彼らは一味違う

 残留争い中の両チームだが、直近の状況には明暗が分かれている。ワトフォードの状況は厳しい。残留には連戦連勝が必要。残り全ての試合で勝った上で他チームに祈りを捧げなければいけない状況だ。

 一方のバーンリーはここにきて例年通りの粘り腰を見せている。ダイチはチームを去っても、例年のように終盤戦のバーンリーは恐ろしい。哲学とともに監督があるチームだったと思っただけに、監督が不在になってなおこうした脅威を見せているのは少し意外なところである。

 しかし、試合はその直近の流れとは逆の展開に。先制したのは苦しんでいるワトフォードであった。得点に繋がったのはセットプレー。ファーに人を集めたやり方から折り返しを決めてオウンゴールを誘発してみせた。

 ワトフォードはこの先制ゴールから試合の流れを持ってくる。中盤でのバーンリーのボールをカットしてからのカウンター、そしてバックラインのフォースターからのフィードからの決定機など、バーンリー相手の攻撃を強めて追加点を奪いにいく。

 バーンリーはここ数試合の流れ通り、右サイドのマクニールを中心に攻撃を組み立てる。彼のドリブルに対してはワトフォードは様子見をしてしまう傾向が強く、バーンリーの突破口になっていた。あわやPKを取られそうになったファウルを犯したシーンもその一例と言えるだろう。

 FKを得たシーンのようにドリブルならば、この日のマクニールは好調だったが、クロスの精度がついてこない。右サイドのロバーツとともに上がるクロスの質はいつもよりも割引。決してクロス対応がいいとは言えないワトフォードを苦しめることができない。

 後半は両チームともにカウンターの撃ち合いに。前線の馬力を考えればワトフォードにやや分がある。どちらかといえばバーンリーが仕掛けたハイテンポな展開だったが、流れが変わったからといって主導権がバーンリーに移ったかというとそれはまた別の話である。

 終盤は両チームとも繋ぎの精度が落ちてしまい、攻撃に打って出れる状況ではない展開に。こうなればワトフォードの逃げ切りが濃厚になるのだが、この日の相手は終盤戦のバーンリー。まさしく何も匂いがしないところから同点弾が。左サイドのテイラーがスルスルと持ち上がったところからのクロスをコークが合わせて同点に。すると3分後には今度はCHの相方のウェストウッドが逆転ゴールを決める。

 正直、試合の展開的には得点の雰囲気は皆無だっただけにあっという間の逆転は非常に意外。流れは悪くとも、試合を握れなくともとにかく結果は出す。終盤戦のバーンリーの凄みが詰まった一戦だったと言えるだろう。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
ワトフォード 1-2 バーンリー
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
WAT:8′ ターコウスキ(OG)
BUR:83′ コーク, 86′ ブラウンヒル
主審:クレイグ・ポーソン

③サウサンプトン【13位】×クリスタル・パレス【14位】

■一進一退の綱引きを決着させたエース

 序盤から両チームともプレッシャーをかけながらの落ち着かない立ち上がり。試合の展開がはっきりする前にサウサンプトンが早々にセットプレーで先手を取ったという印象である。

 先手を奪われたクリスタル・パレスはビハインドを取り返そうと奮闘。ボールホルダーにプレッシャーをかけながら早めに取り返してカウンターに移行する。後方からのポゼッションも安定させながら、サウサンプトンのプレスを回避する。保持ではアンカーのメンディがあまり管理されない状態で前を向ける機会が多かったので、左右好きなサイドから攻めていくこともできていた。

 サウサンプトンのSBが高い位置までプレッシャーに出ていった際にはクリスタル・パレスのIHやWGが積極的にサイドに流れながら裏をとり前進する。サイドにボールを流した後は人数をかけてのコンビネーションで相手を外す動きも悪くない。

 サウサンプトンのプレスは勢いがあるが奪いきれず。ロングボールから反撃を狙っていくが、これもなかなかパレスの守備ブロックに穴を開けるための方策にならない。

 なんとかリードを守ったサウサンプトンだが、後半もクリスタル・パレスの主導権は変わらず。保持と即時奪回でペースを握っていく。サウサンプトンはパレスのプレッシングに屈してしまい、自陣から脱出することを失敗することも。

 そうした流れの中でクリスタル・パレスに同点弾が。PA付近を横切るパスがこの時間帯のクリスタル・パレスには増えてきたが、同点ゴールもその形。右サイドからの鋭いクロスが逆サイドに待ち受けるエゼまで流れて同点に。長期離脱に苦しんでいたエゼにとっては嬉しい今シーズン初ゴールとなった。

 その後は両チームとも見どころがある展開。同点に追いついたオリーズ、ギャラガーを軸にサイドで溜めを作りながら、同サイドのSBに裏抜けをしてもらったりなどの形を作ることができていた。

 一方のサウサンプトンもアダムスのポストなどサイドから中央を経由して逆サイドまで繋いでいく形を作ることができれば十分にチャンスを作れる。70分を過ぎるとだいぶボールを握れるようにはなってきたし、プレスの意欲も十分。パレス相手に主導権を取り戻していた。

 一進一退の展開の中で試合を決めたのは途中投入のザハ。交代直後はなかなか存在感を発揮できていなかったが、後半追加タイムに大仕事。縦パスを受けてから反転して一気にシュートまで持っていき強引に勝ち越し弾を奪い取る。

 千両役者の一振りで均衡した展開を引き寄せたパレス。格の違いを見せつけたザハが最後の最後に勝ち点3をもたらした。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
サウサンプトン 1-2 クリスタル・パレス
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:9′ ロメウ
CRY:60′ エゼ, 90+2′ ザハ
主審:ジャレット・ジレット

④アストンビラ【15位】×ノリッジ【20位】

■かつての仲間が立ちはだかり無念の降格決定

 他会場の結果次第で負ければ降格が決定してしまうノリッジ。就任以降、一瞬は浮上したディーン・スミスのノリッジだったが、再び失速しその後は巻き返すことができずにここまで来てしまった。今季の結末を決めるかもしれない一戦に対戦するのはスミスを今季途中で解任したアストンビラである。

 試合は順位が上のアストンビラが主導権を握る展開に。主に左サイドのゲームメイクから右サイドがフィニッシュのためにエリア内になだれ込むという形で、攻撃をなり立たせる。

 この日のパフォーマンスが良かったのはディーニュ。同サイドのCBであるミングスのフィードを高い位置で受けることもできていたし、機を見たオーバーラップもタイミングがバッチリ。左利きが多いこの日のビラの右サイドからのボールを引き受けることでアストンビラの攻撃を前に進めることができていた。

 押し下げた後のボールの動かし方も悪くない。サイドからノリッジのラインを上下させるような駆け引きもできていた。ノリッジのエリア内はぎりぎりの対応を強いられることになった。

 一方のノリッジは前進に苦しむことに。ショートパスを繋ごうとしては中央を固めるビラ相手に引っ掛けてしまい、プッキを目がけたロングボールに対してはミングスとチェンバースが食い止める。唯一の可能性があったのはWGが攻め上がったビラのSBの裏に入り込むパターン。ここにビラのCBを引っ張り出してくる形を作れれば前進することができた。

 30分過ぎから徐々にシュートまで行ける形が作れる様になったノリッジ。ビラはベイリーが負傷交代するなど、なんとなく流れが悪い時間帯になっていた。しかしながら、先制点を奪ったのはビラ。攻め気が強くなったノリッジをカウンターでひっくり返す形で先手を奪う。得点を決めたのはワトキンス。ノリッジは対応したウィリアムズが滑ってしまったのが痛恨であった。

 後半もペースはビラ。ベイリーに代わって入ったイングスを軸に中央のパス交換を駆使しながらの立ち上がり。左サイドのハーフスペースに切り込んでくるラムジーのドリブルなど、前半よりもさらに一歩ノリッジのゴールに迫る場面が多くなっている後半だった。

 ノリッジはビラの前線がややバテ気味になっていたことを踏まえ、SBからボールを丁寧に繋げれば前進できるチャンスは増えた。しかしながら、チャンスを作る頻度はアストンビラの方が上。ビラの方が得点が入るチャンスが多いまま推移する。

 試合を決定づけたのはイングス。昨季までノリッジにいたブエンディアのお膳立てからノリッジに引導を渡す一発をお見舞いする。他会場でバーンリーが逆転勝ちしたこともあり、この時点でノリッジの降格は決定。かつての仲間に敗れたノリッジ。プレミア挑戦はまたしても1年で終了してしまうこととなった。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
アストンビラ 2−0 ノリッジ
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:41′ ワトキンス, 90+3′ イングス
主審:ジョン・ブルックス

⑤ウォルバーハンプトン【8位】×ブライトン【11位】

■悪い時にはツキも回らない

 未勝利を脱出し、下位から徐々に順位を上げているブライトンと一時は欧州カップ戦争いを演じていたものの負けが混み出しているウルブスの一戦である。

 試合は両チームの直近の勢いの違いが出ている様に見えた。前進の手段が豊富だったのはアウェイのブライトンの方。後方の3バックを活かした数的優位のビルドアップで敵陣の深くまで侵入することができていた。3-2という中央を固める志向が強いブロックに対して、ボールを左右に動かしながら揺さぶることができている。

 ウルブスの保持はそれに比べるとやや前進の方策に困っていた様に見受けられた。いつもであればアンカーのネベスのところから大きな展開で左右に揺さぶりながら相手のブロックを攻略していきたいところであるが、このロングボールの精度がいつもよりも低い。そのため、大外にいい状況でボールを届けることができない。サイドからのアバウトなクロスに終始しては跳ね返されるという厳しい状況だった。

 ブライトンはむしろ、ウルブスに攻撃に出てきてもらってからのカウンターにも好機を見出していた。スピードでも勝負できるブライトンのアタッカー陣の方が、ウルブスに対して豊富な攻め手を見せることができていた。

 得点もその流れに沿って生まれる。ブライトンがサイスのハンドで得たPKはマック=アリスターが失敗したものの、直後にウェルベックの抜け出しからブライトンが再びPKを獲得。リベンジのPKを今度は決めたマック=アリスター。ブライトンがリードを奪いハーフタイムを迎える。

 ピリッとしないウルブスは後半頭に2枚を交代。ヒチャンとネトを投入し、3-4-3に移行する。しかしながら、直後にセメドが負傷交代。ウルブスは後半まもない段階で交代枠を使い切ることに。ツキも彼らに向いていない。

 流れが悪くなったウルブスは左サイドからネトが打開を図る。WGに過度に負荷がかかるのは昨シーズンのウルブスに回帰したかの様子。敵陣に迫ることはできてはいたが、そこからもう一歩踏み込むところのクオリティがどうしても出てこない。

 ウルブスが攻めあぐねている間に試合を決めたブライトン。トロサールがモウチーニョをスピードで完全に振り切ってフィニッシュまで持っていき追加点をゲットする。

 同じようにカウンターからスピードアップした3点目をビスマが決めると完全に試合は決着。ここからはウルブスは完全にトーンダウン。最後までゴールに迫る手立てを見出せなかったウルブスがブライトンに完敗を喫することとなった。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
ウォルバーハンプトン 0-3 ブライトン
モリニュー・スタジアム
【得点者】
BRI:42′(PK) マック=アリスター、70′ トロサール, 86′ ビスマ
主審:シモン・フーパー

⑥リーズ【16位】×マンチェスター・シティ【1位】

■ダラスの負傷で萎んだ反撃ムード

 バーンリーの猛追により、再び残留争いの雲行きが悪くなってきたリーズ。ここからマンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシーという非常に苦しい3連戦に挑むことになる。試練の連戦の初戦は優勝争い真っ只中だが、CLとの掛け持ちで難しいマネジメントになっているシティである。

 この日のリーズのフォーメーションは5-4-1。マーシュ就任以降で初めての布陣をシティ戦にぶつけてきた。シティ相手に5-4-1というと普通は撤退してバスを置くことを念頭においたプランであることが多いのだけども、この日のリーズはそういうわけでもない。高い位置から常にというわけではないけども、シティのパスワークを追い込める!という判断ならば、プレスをかけていく。ビルドアップにおけるカンセロの特大ミスがチャンスになったのもリーズのそういう姿勢ありきである。

 というわけでラインもペナ内ではなくミドルゾーン、球際もきつめというのがこの日のリーズの方針である。リーズはシティへのチェックは比較的できていたようには思うのだが、立ち上がりはかなり笛が軽かったこともあり、細かいコンタクトもシティのセットプレーになってしまったのはやや不運だったか。りー

 そして、リーズのセットプレーの守備力とシティのセットプレーの攻撃力を考えれば、セットプレーからのロドリの先制点は想像がつくものである。リーズはあっさりとロドリのマークを外してしまい、先手を打たれてしまう。

 だが、ここからリーズは奮闘。中盤のボール奪取からスムーズにカウンターに移行し、シティの守備を脅かす。特に効いていたのはWBの出足の良さ。ボール奪取からの攻め上がりで鋭さを見せ、カウンターに厚みを加える。特に右のWBのダラスの存在は効いていた。右のラフィーニャとダラスのコンビネーションはリーズの反撃の旗印だった。

 それだけにダラスの負傷交代は大きな打撃となった。ダメージもかなり大きそうで、どんなに楽観的に見積もっても今季の復帰は難しいのではないだろうか。

 攻撃の威力を失ったリーズに対して、シティは徐々に支配力を高めていく。キーになったのは左サイドに流れるギュンドアンの存在。リーズのCHの支配下から離れることでボールを受けることができており、ボールの落ち付け所になっていた。

 後半には再びセットプレーからアケが追加点。リーズはさらに苦しい試合運びになる。サイド攻撃に厚みが消えたリーズにとって、勝負したいのはトランジッション。だが、これもシティ相手に優位を取れる部分がなかなかない。両チームで最も存在感を放っていたのは早い展開が得意なスターリングだった。

 ゲルハルトなどシュートチャンスがないわけではなかったが、シュートまでの頻度と質はシティの方が上。ジェズス、フェルナンジーニョと続けて得点したシティがその後も順当に試合を支配。少しでも勝ち点を奪いたかったリーズの思惑を挫いたシティが首位をキープした。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
リーズ 0-4 マンチェスター・シティ
エランド・ロード
【得点者】
Man City:13′ ロドリ, 54′ アケ, 78′ ジェズス, 90+3′ フェルナンジーニョ
主審:ポール・ティアニー

⑦トッテナム【5位】×レスター【10位】

■ふわふわを終わらせた2点目の行方

 今節の日曜日を飾るのは『CL争いに真っ最中のノースロンドン勢』と『欧州カップ戦のタイトル争いでリーグ戦は二の次やで!勢』の2試合である。そのうち、先に開催されるのはCL出場権争いで一歩遅れをとったトッテナムとECLでのタイトルを目指しているレスターである。

 メンバーからして両チームのこの試合へのフォーカスには差が出ていると言わざるを得ないだろう。お決まりの主力を中心としていたトッテナムに対して、ターンオーバー組を多く起用したレスターの両チームの差は序盤の試合展開に現れていた。

 トッテナム対策だったのか5バックを敷いていたレスターだったが、このシステムでの連携には難がある。とりわけ右のユニットは怪しさが全開。オルブライトンとカスターニュが横並びという非常に珍しい右サイドには序盤は戸惑いがあった。加えて、3センターのスライドも不十分。アンカー脇を開けてしまうことでトッテナムの前線に起点を自由に与えていた。

 トッテナムのアタッカー陣はライン間で受けることが多いものの、そこから無理に反転をすることで相手にカットされることがしばしば。スピードアップが叶わない分、フィニッシュまでは向かえなかったという状況。裏に抜けるオフザボールが少なくなったことも停滞感の一因だった。

 そんな中でトッテナムはさらなるレスターの弱点を狙い撃ちする。セットプレーでの守備ではゆるさが目立つレスター。トッテナムが先制点をとった場面でも簡単にケインという最重要人物をフリーにしてしまい、あっさり失点してしまった感がある。

 しかし、レスターにも攻め手はあった。ダカのポストは収まるため、前がかりなトッテナムのバックラインの裏を狙ったカウンターは仕掛けることができる。ゆったりとボールを持てる場面に関しては、トッテナムはルーカスとエメルソンのサイドでの守り方が怪しく、このサイドは割と深くまで侵入されることがあった。レスターは5バックの守り方にだいぶ慣れてきたこともあり、1点差ながらペースを引き寄せることはできていた。

 試合はどちらにも点が入りうる展開だったのだが、次に点を決めたのも再びトッテナム。ボールを引っ掛けてカウンターから一気に攻め切る。ソンは慣れない左足での反転シュートとなったが、見事なシュート精度を発揮してみせた。

 これでレスターの攻撃は一気に沈黙。勢いに乗るソンは79分に再び左足でミドルを打ち抜き試合を完全に決める。レスターも終盤にイヘアナチョが意地を見せる一発を決めるがそれが精一杯。ふわふわした展開の中で決め手になる2点目を奪ったトッテナムが勝ち点3を手にした。

試合結果
2022.4.30
プレミアリーグ 第35節
トッテナム 3-1 レスター
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:22′ ケイン, 60′ 79′ ソン
LEI:90+1′ イヘアナチョ
主審:ジョナサン・モス

⑧エバートン【18位】×チェルシー【3位】

■後押しされたハイプレスと全てを防いだピックフォード

 バーンリーの土壇場の巻き返しを受けて残留争いで厳しい立場に追いやられているエバートン。消化試合数の差があるとはいえ、マージーサイドダービーに敗れたチームはついに降格圏に足を突っ込むことになってしまった。

 今節の対戦相手はチェルシー。十中八九安泰であろうCL出場権ではあるが、CL敗退からの燃え尽き症候群なのか直近のリーグ戦はピリッとしないところが目立っている。

 ともに好調とはいえない両チーム。試合前の予想通り、ボールを持つ意識が高いのはチェルシー。エバートンはプレッシングで前からこれを阻害する。どこまで準備していたプレスかはわからないが、この日のグディソン・パークの雰囲気を考えるともうエバートンには前に出ていかない選択肢はないように思えた。『走らない選手は許さない』という圧力が選手にかかっていたと言っていいだろう。

 エバートンは4-3-3ではなく、5-4-1でチェルシーを迎え撃つ。一番のこの日の特徴は左のWBのアロンソをイウォビが徹底監視していたこと。同サイドのワイドCBだったコールマンはヴェルナーを監視。マンマーク志向が強かった。

   一方で逆サイドの面々はレーンを入れ替えながら動き回るマウント、ハフェルツを相手に回すことが多かったので、比較的流動的に対応することが多かった。

 プレスをかけてミドルゾーンに留まることはエバートンのチームとしての狙いだったが、CBに無理にプレスに行くよりはライン間から縦パスを受けようとするマウントやハフェルツをDF-MFラインで挟みながら窒息させることがより優先事項。保持においては4-3-3気味に変形し、両サイドから攻めようとしていたチェルシーだったが、エバートンはサイドにボールが出たときも2人以上で挟むことでチェルシーの前進を阻害していた。

 エバートンの守備がタイトだったのもあるが、チェルシーの前線は少し重たかったように思う。いつもであればエバートンの中盤をタスクオーバーに追い込むことができてもおかしくはなかったように思うのだが、どこか気迫に飲まれていた印象。小競り合いを起こす場面も多く、集中力もやや散漫だったように見えた。

 そんなチェルシーの希望だったのはロフタス=チーク。相手の中盤を剥がしてのドリブルがこの試合のチェルシーの最も得点を感じさせる動きであった。

 試合が動いたのは後半早々。チェルシーにプレスをかけたリシャルリソンがハイプレスを成功させてシュートチャンスをゲット。値千金の先制点を奪い取る。アスピリクエタは右にボールを逃がそうとしたが、ジェームズがボールを受ける準備ができていなかったのが誤算。それにしてもエバートンのプレスの巻き直しは見事。HTから入ったコバチッチは投入直後は完全に試合について行けていなかった。

 以降は後ろに重心を傾けてカウンターというスタイルに徐々に移行していくエバートン。ローラインの時間帯が増えたエバートンで頼りになったのがピックフォード。ファインセーブを連発し、チェルシーのゴールチャンスをことごとくシャットアウトする。

 後半はチャンスが増えたチェルシーだが、単調なクロスをルカクなしで行うのはスカッドの相性からするとイマイチ。カウンターで襲い掛かられる危険性も含めて得点も失点も可能性がある状況が続く。

 しかしながら、ピックフォードが守るゴールマウスは鉄壁。絶体絶命の窮地からチームを救うのがよく似合う守護神の活躍でバーンリーに食らいつくための勝ち点3をなんとか死守した。

試合結果
2022.5.1
プレミアリーグ 第35節
エバートン 1-0 チェルシー
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:46′ リシャルリソン
主審:ケビン・フレンド

⑨ウェストハム【7位】×アーセナル【4位】

■ギリギリの防衛策

 レビューはこちら。

 チェルシー、ユナイテッドと上位勢を倒して結果は出ているが、どこか不安定な試合運びが目立っているアーセナル。特に気になるのはバックラインからの組み立てが非常に不安定であること。トーマス、ティアニーという2人の主力を欠いている影響は大きく、バックラインからのパスワークをやたら引っ掛けてしまうことが多い。

 この試合ではユナイテッド戦でふくらはぎを負傷していたホワイトが欠場という更なる窮地に。さらに主力を欠くことになったアーセナルは案の定、この試合でもビルドアップに難を抱えることになる。一番の要因は後方にやたら人数をかけすぎてしまうことだろう。サイドに流れるウーデゴール、最終ラインまで下がってしまうエルネニーなどボールを後ろから受けるルートを意識しすぎるあまり、前線に残る選手を作ることができなくなってしまう。

 そのため、ウェストハムの守備ブロックを攻略する人員が手薄になったアーセナル。ここ数試合と同じく、ウェストハムの守備ブロックはライン間の管理がルーズで隙があるものだったが、アーセナルにはその隙をつくことができず。数人をターンオーバーで入れ替えたウェストハムはカウンターからチャンスを作り出すことができており、アーセナルに対してやや優位に試合を運べていた。

 それだけにセットプレーからの先制点は大きかった。本職CBを2枚揃えることができなかったり、アントニオとソーチェクを温存した影響などで空中性は明らかにアーセナルが優位。ホールディングが空中戦での優位を生かして自身のプレミアリーグ初ゴールを決めて見せた。

 ウェストハムは前半のうちに反撃。左に流れてゲームメイクしたライスから逆サイドへの展開を使い、アーセナルのPA内の守備が緩くなったところをボーウェンが仕留める。

 後半、アーセナルは前プレを強化しつつ、ウェストハムの幅を使った攻撃に対応するため、マルティネッリの守備の負荷を引き上げることに。再び、セットプレーでガブリエウが勝ち越しゴールを早い時間に決めることができなかったら、アーセナルはなかなかハイプレスを止めることができず、マルティネッリの守備の負荷はエグいことになっていたはずである。

 以降のアーセナルは撤退守備に軸足をおきながら左サイドの裏に抜けるエンケティアを軸にカウンターから反撃に専念する。ウェストハムはアントニオ、ソーチェク、ヤルモレンコとサイド攻撃と最終局面に関われる人材を続々と投入する。

 アーセナルはなんとか対応していたが、サイド攻撃の防衛に奮闘していた冨安の負傷交代でさらに自陣の守りは危ういものに。いつもだったら守備固めで投入しているエルネニーやホールディングはすでにピッチに立っているため、守りを強固にする一手を打てずに不安になったアーセナルだったが、ウェストハムの攻撃をなんとか凌ぎ連勝をキープ。直前に勝利したトッテナムを再び交わして4位を取り戻した。

試合結果
2022.5.1
プレミアリーグ 第35節
ウェストハム 1-2 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:45′ ボーウェン
ARS:38′ ホールディング, 54′ ガブリエウ
主審:マイク・ディーン

⑩マンチェスター・ユナイテッド【6位】×ブレントフォード【12位】

■マタがユナイテッドにかけた魔法

 シーズンの目標がなくなりつつあるユナイテッドに、前節トッテナムと引き分けた勢いをそのままぶつけたブレントフォードという構図の立ち上がりだった。対角パスを使いながら、セットプレー上等!というスタンスで序盤からユナイテッド陣内でのプレータイムを増やす。

 ブレントフォードが得意とする落ち着かない展開をぐっと引き寄せたのは、いつもと違うユナイテッドのスタメンである。37節が先行開催された影響で今季のユナイテッドにとってはこの試合がラストのホームゲーム。主役となったのは今季ほとんど出番が与えられなかったマタだ。

 トップ下というポジションをベースにしながらあらゆる場所に自由に顔を出すフリーマン役でボールの落ちつけどころとして完全に試合を支配。低い位置に降りるだけでなく、ブレントフォードのブロックの間に入り込み、彼らのプレスの届かない位置でボールを受ける様子はまさに達人と言ってもよかった。

 これにより、ブレントフォードのプレッシングは完全に鎮圧。ミドルゾーンで我慢しながらユナイテッドの保持を受け止める流れに展開が変わった。

 一応、今季ここまで全試合リーグ戦のユナイテッドは見てきたが、この試合のように保持で相手を手懐けるユナイテッドは記憶にない。マタの存在1人でチームの色をガラッと変えてしまった。そんな印象を受けた。

 その良き相棒となったのはロナウド。保持型のゆったりしたチームにとっては崩しのトリガーが見えないというのが陥りやすい困難の代表例であるが、ロナウドがブレントフォードのバックラインに突っ掛けることで裏のボールから決定機を生み出していた。

 先制点も裏抜けから。エランガが大外から抜け出し、ブレントフォードのDFラインをおいていくと、ラストパスをブルーノ・フェルナンデスが沈めてみせる。

 ブレントフォードは早めに攻めることができればチャンスを得ることはできていた。人が揃わないうちのアーリークロス、ハイプレスからのショートカウンター(マタにボールが入る手前のユナイテッドの保持は怪しかった)などユナイテッドの守備の重心をひっくり返すことができれば、ブレントフォードには反撃の機会はあった。

 しかし、ブレントフォードの攻め手であるハイプレスを回避できるのもこの日のユナイテッド。前半終了間際にはマタとフェルナンデスが手を組み、ロナウドへのラストパスを送ってみせた。オフサイドではあったが、完全にブレントフォードのプレスを攻略しかけた場面だった。

 後半もペースを握ったのはユナイテッド。前半の最終ラインの駆け引きに加えて中央のコンビネーションからの崩しも加わったユナイテッドはさらに攻勢を強める。

 ブレントフォードは意識的に早い展開を増やしながら、試合全体のテンポアップを狙う。相手の最終ラインが揃う前の守備ブロック攻略を狙ったのだろう。しかし、早い展開を制したのはユナイテッド。ロナウドのPK獲得で試合は完全に決着することに。

 今季屈指の支配的な展開を演出した主役は紛れも無くマタである。スピードこそないが、安定感は今の中盤では屈指のマティッチと共に、この試合がオールド・トラフォードのラストダンスになってしまうのは非常に残念。チームに与える影響の大きさ、プレーの正確性、他にはない持ち味などこの日マタがユナイテッドにかけた魔法の偉大さを考えると、退団濃厚な現状は他サポながらとても寂しい思いになる。ライバルクラブのサポーターではあるが、大きな拍手で彼らを送りたい。

試合結果
2022.5.2
プレミアリーグ 第35節
マンチェスター・ユナイテッド 3-0 ブレントフォード
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:9′ フェルナンデス, 61′(PK) ロナウド, 72′ ヴァラン
主審:クリス・カバナフ

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