①ビジャレアル×リバプール
■2つ目の変身が試合を流れを変える
1st leg
アンフィールドではリバプールの圧力に屈し続け反撃の機会を与えてもらえなかったビジャレアル。2点のビハインドを持ち帰り、ホームでのリベンジに挑むことになる。
ここまでのCLノックアウトラウンドでのビジャレアルの戦い方は基本的に試合を静的に落ち着かせるものだった。プレッシャーを無理にかけずに相手にボールを持たせて試合の強度を下げつつ、得意のビルドアップの局面から相手のプレッシングをいなしながら前進する。それが今季のビジャレアルだった。
だが、2点のビハインドを背負ったビジャレアルはこの試合ではこれまでの姿を捨てた積極策でリバプールを迎え撃つ。キックオフと同時に高い位置からのプレッシングを開始。リバプールに安全なボール保持を許さない。
高い位置からボールを奪ったビジャレアルはそのまま素早く攻撃に移行する。試合開始早々の先制点になったのはライン間に顔を出したジェラール・モレノをリバプールが咎められなかったところから。右サイドからの侵入で逆サイドに大きく振ると、左サイドから再び上がったクロスに対して飛び込んだのはカプエ。抜け出したカプエの折り返しをディアが押し込み、3分でビジャレアルが先制される。
失点シーン、リバプールの左サイドはだいぶ振り回されてしまった印象。特にロバートソンはかなり混乱した印象だ。モレノにライン間で受けることを許し、抜け出すカプエに競り負けてしまいアシストをさせてしまう。ビジャレアルのゴール前の攻撃は前の4枚がポジションを入れ替えながら動くし、中盤から飛び込む選手もおり守る方からすると不確定要素も多い。ビジャレアルのそうした部分にリバプールはうまく対応できなかった。
勢いに乗るビジャレアルは以降もプレスでペースを握る。リバプールの保持は左で作り、右に大きく展開することでエリア内に迫っていく形がデフォルト。しかし、ビジャレアルの圧縮してくるプレッシャーにうまく対応できずに大きな展開を使えない。
いつもほど落ち着いて保持ができないリバプールは前半の途中から前線がダイレクトに裏を狙う形にシフトチェンジ。オープンな土俵に持ち込むことでビジャレアルを打ち合いに引き摺り込もうという算段である。火力であればリバプールが優位。このやり方は一見理にかなっている様に思える。
しかしながら思ったより試合はリバプールペースに流れず。彼らにとって誤算だったのはロングボールの後のボールを奪い返す局面で思ったほど優位を取れなかったことだろう。
裏へのロングボールは手軽にビジャレアルのバックラインに突っ掛けることができる一方、全体を押し上げての即時奪回に移行することができない。ビジャレアルはある程度の数的優位を担保できれば、リバプールだろうとプレッシングを回避できるポテンシャルがあることは1st legで示している。この日もパレホを中心にリバプールのハイプレスをいなし、安定したポゼッションを示していた。
ある程度の効果があるシフトチェンジで強度を上げて得点を奪いたいリバプール。だがその意図に反し、次のゴールを決めたのはビジャレアルの方だった。先制点と同じく右サイドに流れたカプエに対して、ロバートソンが再びクロスを許してしまう。すると逆サイドのアレクサンダー=アーノルドに突っ掛ける形で飛び込んだのはコクラン。前半のうちにトータルスコアが同点に追いつく。
勢いそのままに後半も襲いかかるビジャレアル。リバプールはジョッタに代わりディアスを投入する。攻撃の流れとしては再び幅を使うことを意識する形で保持を行うリバプール。ビジャレアルのハイプレスは逆サイドにボールがあるときに絞るSHが圧力の源になっていたので、サイドを絞らせないようにボールを動かすことにトライする。
そして左はディアス、右はアレクサンダー=アーノルドに大外を託して、それぞれの方法でエリア内に迫ってもらう。リバプールはこのボールの動かし方でまずは後半10分ほどでビジャレアルのプレッシングをトーンダウンさせる。
こうなれば試合はリバプールの土俵だ。右サイドのアレクサンダー=アーノルドが大外を取るのとセットでリバプールは右のハーフスペースからの裏抜けを積極的に狙う。試合の均衡を破った勝ち越しゴールのシーンでここに抜け出したのはファビーニョ。抜け出したファビーニョ自らシュートに向かい、ルジにボールをぶち当てながらゴールを破り、トータルスコアで前に出る。
さらにはその5分後に再びリバプールに得点が。またしても右サイドの仕掛けから逆サイドのディアスが抜け出してゴール。大外の攻め手として後半流れを一変させた功労者によって、リバプールは再び2点のアドバンテージを奪うことに成功する。
後半の修正と2点で一気に試合を飲み込んだリバプール。カウンターからマネの抜け出しでトドメを刺したリバプールには前半に勢いを見せていたビジャレアルも沈黙。後半に変身を残していたリバプールが、スタジアムに集ったビジャレアルファンの希望を後半の30分で握りつぶす圧巻のパフォーマンス。健闘したビジャレアルを乗り越えての決勝進出を決めた。
試合結果
2022.5.3
UEFAチャンピオンズリーグ
Semi-final 2nd leg
ビジャレアル 2-3 リバプール
エスタディオ・デ・ラ・セラミカ
【得点者】
VIL:3′ ディア, 41′ コクラン
LIV:62′ ファビーニョ, 67′ ディアス, 74′ マネ
主審:ダニー・マッケリー
②レアル・マドリー×マンチェスター・シティ
■わずかな難に漬け込んだ2分間による必然の結末
1st leg
マンチェスターでは圧倒的に決定機を浴びながらも終わってみれば1点差で90分をやり過ごすことができたマドリー。今季何回も奇跡を起こしてきたベルナベウの地に戻ってくることができたのは彼らにとっては何事にも代え難いアドバンテージになる。
立ち上がりは両チームとも慎重な立ち上がりに見えた。特にリードをしているシティはマドリーの力量をもう一度確かめている感じ。過度にプレスにいかない4-4-2気味の変形でマドリーの攻撃を受け止める。WGの優先度は前へのプレッシングよりもきっちりヴィニシウスを挟むことであった。
それでも保持で押し込んだ後の即時奪回には色気があったシティ。ロスト後にはマドリーのバックラインはプレスをかける。マドリーはモドリッチに無事に届けられるかどうかがクリーンにプレスを回避できるかどうかの分水嶺。彼にボールを届けられれば、片側サイドにプレスによるシティのプレスと逆側のベクトルでボールを動かすことができた。
保持においてはクロースとカゼミーロの前後関係を入れ替えている部分から見ても、ショートパスである程度シティのプレスに対抗しようという意識はマドリーの中にはあったように思う。後方からの大きな展開を受けるのは右サイド。右の大外に張るカルバハルをニアで動き回るバルベルデがサポートすることで早い展開を完結させることができていた。
本来であればモドリッチには左の大外にもヴィニシウスという選択肢がある。しかしながら、ここはウォーカーの復帰が大きく前半はそこまで明確な有効打にはならなかった。万全の状態ではない中でヴィニシウスを止め続けるウォーカーの対人守備はやはり圧巻と言わざるを得ない。
シティもマドリー同様に後方からのショートパスで繋ぎながら。マークがきついロドリとデ・ブライネを無理に経由せずに、動き回るベルナルドを軸にボールを動かすのもいつも通りである。
ただ、仕上げの部分に関してはどこまでいつも通りだったかは微妙なところ。なんとなく、リーグのリバプール戦あたりからアタッキングサードでのシティの攻め方には違和感がある。攻撃の出口がアバウトなボールになるケースが増えており、同サイドの旋回やハーフスペースの裏抜けなどスペースを作ってからそこに飛び込む形は減った。その不確実性がこの日のアタッキングサードでも見られたように思う。
もう一つ、シティの保持で勝手が違ったのはカゼミーロの存在だろう。中央の守備ブロックの強固さが段違いとなっており、降りて受けるCFを経由した攻撃が機能しなくなったのは1stレグとの大きな違いである。
スコアレスで迎えた後半。ハイプレスに出ていったのはマドリー。テンポを上げて攻守の切り替えを増やし、敵陣に迫る頻度も増やすようになっていく。前半の静的要素が強い中で時折スイッチが入る展開はリードしているという状況も含めてややシティ寄りかな?と思ったのだが、後半になり、展開は比較的両チームにフラットになったように思う。
1stレグと比べてパフォーマンスが上がったと感じたのはナチョ。途中交代でうまく試合に入れずに苦しんだマンチェスターとは明らかに別人で、不確実性を伴う直線的なシティの攻撃をほとんど封殺していた。
早い展開においてはどちらが優位に立てるマッチアップを作れるかが重要。その意味でウォーカーの負傷交代は展開に大きな影響を及ぼすものと思えた。マドリーに試合が優位に傾かないことの理由の一つは左サイドのヴィニシウスに突破の見込みが立たないからである。
厳しい戦いが予感されたシティだったが、直後に先制点をゲット。プレス回避からの攻撃の加速の仕方はこの試合で一番シティらしさが詰まった崩しと言っていいだろう。交代で入ったギュンドアンと右に移ったカンセロを軸にマドリーのプレスをいなすとそこからマフレズがゴール。これでリードを2点に広げる。
得点を決めた73分以降、88分近くまでは完全にシティのペースと言ってよかっただろう。相手のプレスをポゼッションでいなすのは得意分野であり、ベルナベウのマドリーもその沼に飲み込まれかけていた。グリーリッシュやカンセロのシュートが決まっていれば試合の流れは全く違うものになっていたはず。クルトワの奮闘はマドリーの戦いをギリギリで繋ぎ止めた。
しかし、カルバハルの右サイドの裏抜けを号砲に試合の流れは変わる。サイドの深い位置までの侵入がこの攻撃以降増えたマドリーは波状攻撃を仕掛ける。すると、ファーに待ち構えたベンゼマが長いパスを受けてエリア内にラストパス。これをロドリゴが決めて1点差に追い縋る。ベンゼマを見るべきだったのはカンセロ。だが、この場面ではカンセロは流れてきたベンゼマになんの対応もできず。試合終盤にようやくSBの守備の軽さというシティの懸念を突っつくことができたマドリーであった。
そして、その1分後。再びロドリゴがネットを揺らしてマドリーがトータルスコアでの同点弾を奪う。シティ側の目線で言えば、クロス対応のゆるさは気になってはいた。開始数分でカルバハルのクロスからベンゼマが頭で合わせた場面で感じたシティのDFラインへの違和感が後半追加タイムに失点につながってしまったということだろう。それにしてもニアでアセンシオが触ることを知っていたかのようなロドリゴのヘッドは恐ろしいものだった。
延長に突入した試合は明らかにマドリーペース。動きながらゲームメイクができるカマヴィンガ、強度面でチームを助けることができるバルベルデやヴィニシウスを残す采配などアンチェロッティにもまた延長戦になることを知っていたかのような用兵だった。
後ろに重たいフォーメーションに変更したシティに比べると、明らかに並びが延長戦向きだったマドリー。延長前半早々にPKを獲得する。カマヴィンガのパスの引き出し方とボールの運び方は天下一品。CLしかチェックしていないが、ラウンドを追うごとにプレーに凄みが増している。
そして、ベルナベウといえばこの男。PKを得たベンゼマは自ら沈めてマドリーはこの2試合の中で初めてリードを奪う。
ベルナベウという舞台装置があれば、ここから先はマドリーにとってはお手の物だ。グリーリッシュやスターリングは圧倒的なアウェイで主役にはなれないし、頼みのベルナルドも流石の延長戦では運ぶ動きや長いレンジのパスに乱れが生じている。
交代選手のクオリティの違い、そして主役になれる選手の有無が延長戦の優劣を大きく分けた印象。90分に差し掛かってからシティのわずかな難を立て続けに得点に結びつけるというウルトラCを達成したマドリーにとっては、ベルナベウの力を借りた延長戦での仕上げはもはや必然の結末と言ってもいいだろう。
試合結果
2022.5.4
UEFAチャンピオンズリーグ
Semi-final 2nd leg
レアル・マドリー 3-1 マンチェスター・シティ
エスタディオ・サンチャゴ・ベルナベウ
【得点者】
RMA:90′ 90+1′ ロドリゴ, 95′(PK) ベンゼマ
Man City:73′ マフレズ
主審:ダニエレ・オルサト