■そこで勝負するチームではない
蔚山に敗れた第5節の結果を受けて、川崎のACLのグループステージ突破は他力本願なものになることが確定。川崎は広州に勝利するという最低要件を満たしつつ、他会場の結果に身を委ねることになった。
前回対戦では8-0という大勝を飾った川崎。しかしながら、結論から述べると、この試合ではそうした大量のゴールが見られる内容にはならなかった。僅差のスコアになった要因は広州側の奮闘というよりも、川崎側の不出来によるところが大きいように思う。
CB、アンカーにプレッシャーをかけにくる素振りはほとんど見せなかった広州。川崎はここの3人では安定したボールを持つことができた。この試合は1-0という最小得点差ではあるが、広州にはボールを奪ってカウンターに出ていく術もなかったし、押し下げられた後の川崎のハイラインを打ち砕けるような陣地回復の策も持っていなかった。そのため、1-0だったから危うかったというわけではなく、広州に勝利の目はほとんどないと言って差し支えない内容だったことは先に述べておきたい。1と0は全然違うのである。
川崎のボール回しは前半から良くなかった。配置のバランスは悪くなかったように思う。両サイドにはWG、IH、SBのトライアングルを形成。アンカーの小塚はマーカーが寄ってこないので、中央に鎮座してロングボールでゲームメイク。プレッシャーがなければ問題なくロングレンジのキックを蹴れる彼にピッタリの役目と言えるだろう。
しかしながら、川崎はプレーの選択肢が軒並みアバウトであり、正確性に欠ける展開に。特に目立ったのは工夫のない裏へのロングボール。裏へのパスは横パスやドリブルなどを織り交ぜながら相手のラインを止めて、抜け出す選手の動き出しを際立たせる形にしなければいけない!というのはACLのレビューで繰り返してきた部分である。
広州は特にプレッシャーの激しいチームではないにも関わらず、簡単に蹴り出してしまうというのははっきり言って問題だ。この日の序盤は宮城のサイド攻撃を軸に進んでいたが、彼に関しても抜き切らないであげてしまうクロスがあまりにも多い。そんなに焦ってエリア内に運ばなければ崩せない相手だろうか。連携面では不十分な並びであることは確かではあるが、だからと言ってトライしないでいいわけではない。
本来であれば、そうしたアバウトな裏へのパスはハイプレスに苦しんだ時や自陣に押し込まれた時の一種の回復手段である。だけども、最近の川崎はそうしたアバウトな長いボールをメインの攻略にしている節がある。前田、古橋、浅野など前線が相手のバックラインに対して純粋にスピードで上回れるタレントで溢れているのならばそれでも構わないが、川崎にはマルシーニョ以外にはそうしたタレントはいない。ましてや、広州のようにプレッシャーの緩い相手にはそうした手段を取る必然性は低い。
ならば、相手をまず足止めする前フリとなるプレーが必要である。22分の塚川→遠野へのパスが通ったカウンターのシーンももったいない。せっかく相手の最終ラインを揺さぶりながらエリア内に迫れるチャンスなのに、大外に開いた小林が選択したのは単調なクロス。ラインを整えるのにバタバタしていた広州のDF陣はさぞ楽な対応になったことだろう。
そうしたプレーのように下ごしらえなしにただただゴールに向かうボールを蹴っていれば、求められるのはスピードやパワーといったアスリート能力になる。確かに近年の川崎はそうしたアスリート寄りの能力を求めるようにはなってきている。ここ数年の成功の礎とも言える方向転換だろう。
だが、それはあくまで最低限の水準。本来はそこから保持で相手を動かしたり、止めたりしながら攻略することに軸足を置くべきチームである。純粋なアスリート能力だけで勝負するチームではない。この試合の唯一の得点が知念の収まりの良さを活用した中央攻略だったことは重く受け止めるべきだ。前半において、相手を動かしながらスペースを正確に突くことができていたプレーは知念への縦パスくらいだったからである。
川崎は後半のようにもっと相手を止めて抜け出すまでの動きをお膳立てするプレーを増やさなくてはいけない。後半も連携がうまくいかなかったり、相手のGKの活躍に防がれたりはしていたが、斜めの入り込みやフリーランを生かすための横パスが前半よりも遥かによくなっていた。
アンカーが小塚から橘田に代わったとか、トップに小林が入るようになったとかそうした細かい部分が活性化につながった要素はあるかもしれないけども、結局は1人1人がどういう意識を持って崩すかのところが大きいように思える。
大会総括
川崎は今大会なぜ敗退したのか?についての議論はきっとファンの中でもサッカーメディアの中でもいろんな話が巻き起こるだろう。自分の意見をはっきりさせておくと『川崎の目指している方向性がACL向きではないから負けた』というのは完全に的外れだと思っている。
川崎が昨今掲げている方向性自体はむしろACLに迎合したものだ。ダミアンの補強と共に進んだ中盤のアスリート性の高まりはACL制覇を本気で見据えた方向性であることは間違いない。小林や大島(負傷の問題もあるが)など従来の主力がスタイル的にフィットしにくい問題を抱えるようになったことは、川崎の求める理想のプレイヤー像が細かく変化している副作用のように思える。
ではなぜ負けたのか。単純に自分達が掲げるスタイルにプレーの水準が達していないからだと考える。むしろ、ACLに意識を傾けすぎていると言ってもいいくらいだ。身体能力を重視するスカッドになったからと言って、そこで勝負するチームになってはいけない。
最低限相手とコンタクトで渡り合える手段を持ちつつ、ボールを動かして相手をその場に止めたり、動かしたりする。そこで勝負をしないといけない。蔚山の方がボールを動かすのはうまかったし、ジョホールも自分達の望むテンポで試合をするための保持のスキルは有していた。
この試合の前半でできなかったことはACLのグループステージを通してできなかったことであると思っている。この大会で唯一の成功が動き出しの前フリの下ごしらえを大事にしてきたジョホールとの2戦目であることはどこか示唆的である。
ジョホール戦のように相手をどう動かすかの部分で出し抜くことができれば、ACLだろうとJリーグだろうと結果は出るはずだ。なぜならば、それができた鹿島戦や柏戦はジョホール戦と同じように目に見える結果が出ているからである。逆にそれができてない試合はJリーグだろうと苦しんでいる。
求められるものは大会によって異なるのは事実ではある。が、この大会の川崎の敗退は方向性云々ではなく、シンプルに求めるスタイルへの完成度が足りていないのだろう。突破を満たす強度も精度もなかった。いわば足切りを食らったようなものだと思っている。本当に川崎のスタイルがアジアに迎合しないのならば、川崎勢が日本代表を救ったことも谷口や山根が日本代表に定着したこともどう説明すればいいのか見当がつかない。
ということで、この課題は引き続きJリーグでも苦しめられるものと考えるのが自然である。大島、ジェジエウ、登里と近年の功労者は不在のまま、川崎は5月の連戦に挑むことになる。今季の頭から課題は明確である。が、修正するのは簡単ではない。時間も当然ない。でも、そもそももっとできる部分ではあるように思う。リバウンドメンタリティも含めてチームの底力が試される1ヶ月になるだろう。
ひとこと
選手、スタッフの皆さん。過酷な環境、日程での2週間本当にお疲れ様でした。僕たちは国内でサポートを続けます。こうした課題を克服し、今年もタイトルを手にできますように。
試合結果
2022.4.30
AFC Champions League グループステージ
第6節
川崎フロンターレ 1-0 広州FC
タン・スリ・ダト・ハジ・ハッサン・ユーヌス・スタジアム
【得点者】
川崎:14′ 知念慶
主審:ムハンマド・タキ