Fixture
プレミアリーグ 第22節
2022.5.12
トッテナム(5位/19勝5分11敗/勝ち点62/得点60 失点40)
×
アーセナル(4位/21勝3分11敗/勝ち点66/得点56 失点42)
@トッテナム・ホットスパー・スタジアム
戦績
過去の対戦成績
過去5年の対戦でトッテナムの5勝、アーセナルの4勝、引き分けが2つ。
トッテナム・ホットスパー・スタジアムでの対戦成績
過去10戦でトッテナムの6勝、アーセナルの2勝、引き分けが2つ。
Head-to-head from BBC sport
スカッド情報
【Tottenham】
・マット・ドハーティ、セルヒオ・レギロン、オリバー・スキップ、ジャフェット・タンガンガは欠場。
【Arsenal】
・トーマス・パーティ、キーラン・ティアニーは欠場。
・ベン・ホワイト、ブカヨ・サカの出場は不透明。
Match facts from BBC sport
【Tottenham】
【Arsenal】
予想スタメン
展望
■紆余曲折だったトッテナムのシーズン
アーセナルにも敗れたヌーノは年明けを待たずに解任。コンテが就任後、リーグ戦ではV字回復を見せ、CL出場権争いに復帰して見せたのが今のトッテナムである。3位のチェルシーのCL出場権はまだ確定こそしていないが、残り3試合の時点で4位と5位の直接対決が残っていることとチェルシーの残りの対戦相手(降格が決定しているワトフォードを残している)を加味すれば、5位まで落ちる可能性は低い。実質、残り1枠をノースロンドン勢が一騎打ちで争う構図といっていいだろう。
コンテ就任以降のトッテナムには内容的な上積みや変化などはみられている。システムは似ていてもヌーノとコンテのサッカーはかなりアプローチが異なっている。撤退守備をベースに素早く縦に進撃するのが特徴であるのがヌーノのサッカーである一方、コンテのサッカーはそこまで極端に縦に急進的ではない。
コンテのサッカーにおいて最も特徴的なのは積極的に両WBが攻撃に参加することである。ピッチを横に大きく使いながら、両WBが高い位置をとり、相手を横に揺さぶりながら大外の相手がカバーできない位置からラインを下げて仕留めるというパターンはヌーノ時代に明らかになかったものである。レギロン、エメルソン、ドハーティ、セセニョンなどのWB陣は5バックの一角というよりは攻撃の局面において輝けるタレント。途中就任の割にはWBはコンテのやり方に割と合っている陣容なのではないのかなと思っている。
もう1つ監督がコンテになって変わったのは前線のプレッシング。ヌーノ時代は内を固めて、楔を呼び込んだところを潰してショートカウンターに移行する形。シティにバリバリ効いていた形である。開幕戦でうまくいってそのやり方をなぜか他のチームに転用したことでヌーノはうまくいかなくなったけど。前回のノーロンとかはそんな感じだった。
コンテになってからは3トップが同じサイドに流れながらボールを外に追い込んで選択肢を限定することが多くなった。素早く仕留めてカウンターを狙っていくプレッシングのスタイルは共通するが、方法論は異なっている。
だが、シーズン終盤になって守備の傾向にはやや変化が見られる。目立って来ているのはローラインの撤退守備である。特徴なのは縦にコンパクトなブロックで、シャドーが低い位置まで下がって守備を行うことである。
おそらくこれはWBが単体で晒された時の守備の強度が怪しいからだろう。ワイドのCB、シャドーがWBのそばに寄る形が多く、相手はWB1枚を剥がすことではサイドから崩せる機会を作ることはできない。
これを実現できるのは低い位置からでもカウンターを完結できるアタッカー陣がいてこそ。ロングカウンターはお手の物であるソンとケインのコンビはもちろん、ロングスプリントで使い減りしないクルゼフスキの存在もありがたい。この3枚にWB+ホイビュアの6枚で縦に速い攻撃を仕掛けてくるのがここ数試合のトッテナムである。
本来であればコンテのスタイルはよりボールを保持した支配的なものではあるだろう。就任当初の方がむしろ彼が指揮するチームのイメージに近い。だが、本人が繰り返し会見で指摘しているリソース不足やCL出場というターゲットが現実的になっていることを踏まえたのだろう。今の戦い方は現状のスカッドでもっとも勝ち点が取れる形を狙ったもの。その結果としてここ数試合のサイドの手当て優先+縦に速いカウンター型に落ち着いたように思える。
■リスクにどこまで目を向けるか
コンテ就任以降のトッテナムの弱みは先に提示したような自分たちの形に対策を練られたり、自分たちの形が出しにくい展開になると一気に旗色が悪くなることである。
わかりやすくパフォーマンスが下がる時の特徴として挙げられるのは2つ。1つ目はボールを持たされてベタ引きをされた時。トッテナムはあくまで動きがある状態での攻撃の方が得意。相手を動かしながら穴を開けて壊すのは得意ではなく、そこにある穴を素早く使うことで良さが出るチームである。なのでトランジッションの局面は生命線になる。
もう1つ苦手な状態は幅を埋めてくる守備をする相手である。ボールを持たされる局面においては余っている大外を使えてナンボの攻撃をするチームなので、大外がそもそも余らない陣形を敷かれてしまうとかなり厳しい。ワトフォードや10人のサウサンプトンなど、撤退守備に強度がない相手に対してもこじ開けるのに苦労している。
こうした幅を埋めてくる相手に対しての対策として王道なのは縦の奥行きを使いながら面ごと壊すというやり方なのだが、そこの引き出しはまだトッテナムはチームとしては未完成。そうした時はケイン、ソン、クルゼフスキの3人のアタッカーがなんとかするのがお決まりである。
逆にスペースを空けてでも攻め込んでくるようなシティやリバプールのようなチームには勝ち点を獲れているし、ビハインドを取り返そうと殴り合いに向かったニューカッスルは叩き潰されている。力関係以上に相性がモノをいうチームという印象だ。その分類で考えればトッテナムにとってはハイラインで向かってくるアーセナルは比較的相性がいい方に分類されるように思う。
アーセナルとしてはまずはきっちり相手が得意な状況を潰すことが求められるだろう。5レーンをきっちり埋めること。単純に5枚を埋められるような形で受けるのか、それとも4バックのままで中盤にハーフスペースを埋めることを求めるのかは非常に微妙なところである。
アルテタが5バックを採用するのは極端に持たれる局面が想定できる相手であることが多い。チェルシー戦のようにチームが勝てずに守備崩壊で苦しんでいる場合もそうした防衛策に出ることもあるが、チームは連勝中だしトッテナムは保持に寄ったチームではない。でも、勝ち点でのアドバンテージはアーセナルにあるし、正面衝突すればシティやリバプールでさえ勝ち点を落としている。この選択は非常にシビアだ。
トッテナムの出方はある程度想定できる。基本的にはミドルゾーンにブロックを敷いて、サイドでボールを刈り取り一気にカウンター。どちらかといえばボールを捨てる側のやり方だろう。ということはアーセナルがボールを捨てる方向に舵を切ったとて、臨んだ展開になるようとは限らない。
なにより、5バックは苦境の一手というニュアンスが強い。今のアーセナルの流れを考えると4バックで前からプレスに行くスタイルでノースロンドンダービーに向かう姿の方が想像しやすい。理屈に合うのは5枚でバックラインを埋める方策だけど、アルテタが選びそうなのは4バックというイメージである。
前線はリーズ戦の流れを汲んでのびのびとやってもらうとして問題は最終ラインの人選である。単なる守備力に関して言えば冨安とホワイトをサイドに置く形がベストではあるが、保持におけるタヴァレスの神出鬼没な攻め上がりはスペースの管理が甘いエメルソン相手には効く可能性はある。
もちろん、タヴァレスは非保持ではリスクにはなりえる。だが、クルゼフスキがカットイン型であり、ジャカでのカバーリングが効くことや、同サイドからのクロスに対して逆サイドにはクロスに強い冨安を置けることを踏まえれば、そのリスクを許容して保持面でのメリットを出すことに目を向けてもおかしくはない。
トッテナムのエリア内のハイクロスへの対応は徐々に安定してきている。ロメロのフィットもあり、以前よりはクロスへの脆さはない。となると、タヴァレスの有無にかかわらず、押し込んだ際に外からWBを揺さぶる形は不可欠。サイドにCBやCHの意識を向けたところでウーデゴールやジャカがバイタルで前を向く形を作れればアーセナルとしては理想的だ。手厚めに対応しているにせよ、まずはサイドから崩す意識は誰が出場するにせよ持っておきたい。
思えば、3節を終えた時点で両チームの明暗はくっきり分かれていた。トッテナムは全勝で首位、アーセナルは全敗で最下位だった。ところが残り3試合の時点で両チームは近い順位でCL出場権を争っている。監督の座を追われたのは最下位に沈む経験をしたアルテタではなく、首位に立つ経験をしたヌーノの方だった。本当にプレミアリーグは何でも起こりうると心の底から思う。
だが、この試合に勝つことができれば何が起きるかわからない状況もひとまず終わり、CL出場権はアーセナルの手中に帰ってくることになる。今節での4位以内確定のためには難しい敵、難しいスタジアムでの勝利が求められることになる。だが、21/22シーズンがアーセナルが欧州列強に舞い戻るための再興の足掛けになるのであれば、トッテナムに勝ち名乗りを挙げてのCL復帰は最高のプロローグになるはずだ。