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「大外のその先の設計図」~2022.4.10 プレミアリーグ 第32節 マンチェスター・シティ×リバプール レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■理想型から逆算した順足WG

 両チームの勝ち点差はわずかに1。クリスマスの時期には独走ムードだったシティだが、サラーとマネが不在のAFC期間を連戦連勝で乗り切ったリバプールが猛追で肉薄。32節にしてプレミアの覇権を大きく占う天下分け目のエティハド決戦となった。

 シティのルベン・ディアスを除けば、両軍に目立った負傷者はなし。スタメン、ベンチに名を連ねる顔ぶれは21-22シーズンのプレミアの頂上決戦を飾るのにふさわしいものだった。

 ともに哲学を貫けば勝手に勝ち点が積み重なっていく強靭な両チームではあるが、この試合ではホームのシティにリバプールを意識した工夫が見られた。この日のシティについて真っ先に違和感を持ったのはベルナルド・シウバの振る舞いである。いつもに比べてラインを下げてボールを受けるタイミングが非常に早いように思った。

 もっとも、ベルナルドがラインを降りてボールを引き出すというのは日常茶飯事である。シティ相手に練り上げたプレスを嵌めたと思ったら、2列目から降りてきてベルナルドがボールを受けて涼しい顔で持ち上がり、台無しにされてしまった!というのはシティと戦うプレミアリーグのチームにとっては日常的な光景だ。

 しかしながら、この試合のベルナルドはシティのビルドアップが詰まったりしているわけでもない段階から降りていたし、降りることで誰かを引き連れてどこかに穴を開けようとする素振りを見せることもなかった。

 では何のためにベルナルドは降りたのか。真っ先に思いつくのは後方の数的優位の確保である。リバプールの強力なプレスに対抗する手立てとしてシティはバックラインの人員を確保したという仮説だ。だけども、ベルナルドの落ちるタイミングは非常に早かった。相手がプレスをハメ切っているわけでもない段階で、シティのようなGKからのビルドアップがバリバリできるチームがわざわざ後ろを重くしてまでそんな保険をかけるとは思えない。

 個人的にしっくりくるのは、むしろリバプールのプレッシングを自陣側に引き込もうとしたのではないか?という線である。そう思ったきっかけはシティのこの試合の攻撃の出口である。

 シティのこの試合の攻撃はSBの裏をWGで強襲する形に特化していた。この試合のシティのように大外から裏をとり、リバプールのバックラインを置いてけぼりにして、エリア内にラストパスを送るにはリバプールがある程度自陣側にプレスをかけてくれないと成立しない。

 シティはバックラインでボールを回し、リバプールがボールに食い付いたら一気に大外から裏を取る形を狙っていた。素直にリバプールのSBを手前に引き出したところをWGが裏を取るパターンもあったし、右のWGで起用されたジェズスが絞って対面のロバートソンを引きつけ、ウォーカーが大外を駆け上がるなど意図的に大外を開ける動きを作り出したシーンもあった。

 リバプールがプレスを受ける前提での戦い方ならば、ベルナルドが下がったのは合点がいく。なお、この試合のシティは順足のWGを両サイドに起用していた。おそらくこれは抜け出したWGが切り返すことなくラストパスやシュートまで持っていくことができるためだろう。

 リバプールの守備の攻略を考えた場合、最終ラインの裏を取るのは簡単である。SBが攻撃に出てくることが常態化しているし、特にアレクサンダー=アーノルドは裏への対応が得意なわけではない。そういう意味ではそこの難易度は高くはない。

 それでも彼らの失点が少ないのは、ファン・ダイクやファビーニョがとんでもない速度でサイドのカバーに出てくることでSBが空けたスペースを埋めているからである。よって、逆足WGの切り返しの動きは彼らのカバーを誘発するリスクがある。なので、順足のWGでダイクやファビーニョのカバーがくる前に決着をつける。SBの裏のその先を見るフィニッシュの理想形から逆算した攻略方法だったように思える。

 後半の話ではあるが、スターリングの2つのシーンを見れば順足WG起用の意味はわかる。幻の3点目になった場面では右に抜け出してそのままシュートに持ち込むことができたが、その直後に左から抜け出した場面では切り返す選択肢を探っているうちにファン・ダイクにあっという間に潰されてしまった。

 よって、この試合のシティのフィニッシュパターンは2つ。WGが斜めに入り込むことでそのままフィニッシュまで持っていくか、完全にラインを抜け出したWGが並行でサポートランする他の前線の選手にラストパスを出すという2つである。どちらも順足アタッカーが抜け出すことを念頭に置いた攻略である。

 したがって、シティの攻撃パターンはいつもに比べて非常に直線的なものに見えた。ベルナルドが高い位置での働きが目立たなかったのは、彼がもたらす旋回や移動はこの試合のアタッキングサードでは不要だからである。

■日常の詰め合わせで追撃

 結果的にスリリングでレベルの高い応酬が繰り広げられる90分になったこの試合。だが、仮にリバプールがシティのバックラインのボール回しを放置した世界線があったとしたら、もっと試合全体が重たくなった可能性はある。そういう意味ではこの試合の引き金を引いたのは、バックラインで慎重にボール回しを行うシティにプレスで襲いかかる決断をしたリバプールと言えるだろう。

 リバプールのプレスが普段と違ったのは、WGが積極的にプレスに行くわけではなく、CFを助ける役目を担ったのは右のIHであるヘンダーソンだったこと。右のWGのサラーはカンセロを気にして大外レーンに止まることが多く、強度の高い試合ではお馴染みの外切りのプレッシングに向かうことはあまりなかった。

 いつもの話ではあるがヘンダーソンは気を使うことが多かった。前に出ていく役割とはいえ、背後を使われるわけにはいかない。バイタルに穴を開ける行為はシティ相手に最も避けなければいけないシチュエーションである。

 シティの先制点はクイックリスタートによって、リバプールがアンカー脇を空けてしまった場合にどうなるかをよく体現したものだった。好き放題できるデ・ブライネにこのエリアを明け渡してしまうと、当然失点のリスクは高まってしまう。ヘンダーソンは難しい舵取りを求められた。

 ただ、ヘンダーソンの気遣いでなんとかプロテクトしていた中央よりもリバプールにとって頭が痛かったのは、シティが狙い撃ちをしてきた大外である。先に述べたシティの狙い目は確かで、ライン裏を強襲されるリバプールはピンチになる機会がより多かった。

 それでも対応力はさすが。時間が経つにつれて、裏を取られ慣れると言ったら変だけど、裏を取られる前提で動くようになる。リバプールのCBはサイドの裏にボールが蹴られたらまずラインを下げる。これにより、裏を取られてもCBだけは跳ね返しが間に合うシーンが増えてくる。

 しかし、そんなリバプールでも改善できなかったのがセットプレーからの抜け出し。シティはセットプレーからもラインの抜け出しを生かしてGKとDFの間にボールを落としてくる。徹底的に裏狙いだった。

 その狙いが奏功したのがシティの2点目。ジェズスのゴールはセットプレーゆえにシティの右サイド側の攻撃だったにもかかわらず、対応したリバプールの選手はアレクサンダー=アーノルド。慣れないサイドで裏への対応の甘さを見せて、ジェズスに抜け出しを許してしまった。この試合ではそのようなディティールが決定機の創出の有無につながっていた。2点目の場面ではディティールがシティに転がったと言える場面だろう。

 非保持においてはシティに振り回された感があったリバプールだったが、保持においてはらしさを見せていた。こちらもIHのチアゴがラインを落として守るのは日常的な光景。チアゴにボールが入るとリバプールは大きな展開が可能になった。

 こうしたレベルの高い試合は現代において必要な技術を突きつけてくることが多い。この試合においては『フリーになった中盤は対角パスを精度高く蹴れないとダメでしょ!』ということを両チームが示していた。

 というわけでチアゴもシティに負けず劣らず精度の高い対角パスを飛ばしまくっていた。繰り返すけどリバプールにとっては日常であるのだけど。リバプールの1点目はまさに日常の詰め合わせという感じ。降りるチアゴから右サイドへの対角のパス。大外を駆け上がったアレクサンダー=アーノルドの折り返しをサラーがカットインして逆サイドに。そしてクロスオーバーしてPAに入り、シティのDF陣を惑わすマネとジョッタ。一度は跳ね返されたものの両SBのパス交換からジョッタが押し込んで1点目のゴールを奪った。

 いずれもリバプールの破壊力抜群の攻撃を支える材料。リバプール対策に軸足をおいてきたシティに対して、らしさの詰め合わせで対抗するリバプールは実に好対照だった。

 しかし、サイドの裏をつくパターンを見せたシティの方が前半は優勢。サラーを引きつけながらカンセロを解き放ったラポルテにより、左サイドを直線的に突破する以外の動きも見せたシティがリバプールのゴールに迫る方が多い序盤の45分となった。

■後半もきっかけは大外から

 後半、早速スコアを動かしたのは1点ビハインドだったリバプール。ファン・ダイクから右サイドのアレクサンダー=アーノルドへフィードを飛ばし、サラーにつなげるとそこからピッチを斜めに横断するラストパスをマネに通す。決して簡単なシュートではなかったが、マネは注文通りのタイミングでエデルソンを交わしてネットに突き刺してみせた。

 前半は幽閉されていたファビーニョと共に保持では存在感を見せられなかったファン・ダイクだったが同点ゴールでは起点に。ようやく保持でも輝きを放つことができた。

 ゴールシーンでもそうだったが、後半のリバプールは大外のSBを前半よりも早めに上げることでサイドに起点を作っていた。ちょっと前半のシティっぽいアプローチである。ただし、狙いはシティのような抜け出しよりもクロスやカットイン。インサイドにファン・ダイクがいないシティに対してはより正攻法でPAに向かっていける。大外に起点を作れさえすれば手段があるリバプールにとっては、シティほど形にこだわらなくても問題はない。

 リバプールのSBが高い位置をとることの副次的な効果はシティのWGを押し下げることができる点である。ジェズスやフォーデンなどサイドからの抜け出し役のポジションをSBのオーバーラップによって押し下げる。シティの抜け出しの機会を保持で封じるイメージである。

 シティは後半は前半ほど優勢に進めることはできなかった。WGは押し下げられてしまい負荷がかかるし、交代して入ってくるアタッカーはカットインがメイン手段のマフレズと緩急で勝負したいグリーリッシュ。いずれも縦への抜け出しがメインの設計図の今日のシティのコンセプトとは相性が悪い。

 それでも、デ・ブライネが本気モードのシティにはチャンスが十分。前がかりのリバプールに対して、ボールを運びながら推進したり、縦にいかないマフレズのサイドに顔をだし、縦へのフリーランを使って攻撃に変化を作り出していた。

 均衡した終盤においては直接FK、そして抜け出しての決定機と自身の存在価値を証明する機会はあったマフレズ。しかしながら、今シーズンのヒーローになることはできなかった。

 試合は2-2で終了。プレミアを引っ張る両雄の優勝をかけた一戦は今季1回目の対戦と全く同じスコアの痛み分けで終了した。

あとがき

■続きを見たくなる

 試合開始から試合終了まで非常にレベルの高い試合。情報量が非常に多く、レビューではなかなかキャッチアップできなかったというのが正直な感想だ。

 1年を通してみれば苦しい時期もあった両チームだし、不調期なら付け入る隙もあるか?と思う時もあるのだけど、こうしたチューニングされた激突を見ると他の18チームのファンは『ここまでの距離はまだまだ遠い』と言わざるを得ない。構図としてはリバプール対策をがっちり組んできたシティと、普段着に強度と対応力をつけてシティに食らいついていったリバプールは非常に好対照で面白かった。

 個人的に感銘を受けたのは大外をどう使うか?の緻密さ。リバプールはカットインやクロスなど豊富なバリエーションを馬鹿みたいな精度でやってのけるし、シティはリバプールのバックラインの特性を考慮した上でどう壊すかが設計されているのが興味深かった。

 両チームともまだCLも残っているし、リーグタイトルの行方も決着していない。タフなシーズン終盤になることは間違いないが、プレミアファンの1人としては決着の付かなかった2試合のリーグ戦のその先をCL決勝で見られることを願ってやまない。

試合結果
2022.4.10
プレミアリーグ 第32節
マンチェスター・シティ 2-2 リバプール
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:5‘ デ・ブライネ, 37’ ジェズス
LIV:13‘ ジョッタ, 46’ マネ
主審:アンソニー・テイラー

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